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DSM-5 診断面接ポケットマニュアル

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精神疾患の世界的な診断基準DSM-5の米国精神医学会オフィシャルシリーズの1冊。DSM-5に即した精神科診断面接の進め方を平易に解説し、30分間での面接の進め方や各疾患での患者への具体的な質問例など実践的なノウハウを豊富に掲載。マニュアル、手引ともにDSM-5日本語版への参照ページを各所に掲載し、本体とセットで使いやすい。DSM-5診断を明日から実践したい人のためのコンパクトガイド。
※「DSM-5」は American Psychiatric Publishing により米国で商標登録されています。
シリーズ DSM-5
原著 Abraham M. Nussbaum
監訳 髙橋 三郎
染矢 俊幸 / 北村 秀明
発行 2015年01月判型:B6変頁:304
ISBN 978-4-260-02049-7
定価 4,400円 (本体4,000円+税)
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訳者序

訳者序
 本書は“The Pocket Guide to the DSM-5 Diagnostic Exam”(2013)の全訳である.原著の著者はコロラド大学精神科助教授Abraham M. Nussbaum である.米国精神医学会は2013年のDSM-5(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, Fifth Edition)の刊行に伴い,学会の出版部であるAmerican Psychiatric Publishing 社からDSM-5の解説書をいくつか出版している.J. W. Barnhill: DSM-5 Clinical Cases, 2014; M. B. First: DSM-5 Handbook of Differential Diagnosis, 2014; P. R. Muskin: DSM-5 Self-Exam Questions, 2014; D. W. Black: DSM-5 Guide Book, 2014;L. W. Roberts: Study Guide to DSM-5, 2015などで,これらはいずれも日本語訳が進行または計画中である.このうち本書はDSM-5による診断面接をどのように実践するかを解説したもので,原著はポケットサイズ(20.5cm×11.5cm)となっている.しかし,273頁に小さい字でぎっしり書かれておりその内容はたっぷりある.原著者は,精神科研修医から経験豊かな専門医までがDSM-5に基づいて診断面接しながら,すぐに参照できること,具体的な質問を示して実際の診察にすぐに役立つこと,を意図している.
 原著者自身の序にあるように,DSM-IV-TRからの大幅な改訂に伴い,DSM-5に基づく診断にはかなりの混乱が予想されるが,本書はそれを先導するカーナビのような書籍であり,また面接の実践的なコンパニオンである.本書の全訳を終えた訳者としての印象でも,第1に,DSM-5各疾患群の診断基準を能率的かつ効果的に使用するために,著者は日常の診療に合うよう,診断基準のさらに操作的な編集を行い,また,各疾患についての具体的な質問のサンプル,例えば,面接の導入部では,どのように聞けばよいか,さらに問診を進めるときは何と聞くかなどを示している(第6章).第2に,米国の専門医試験(American Board of Psychiatry and Neurology Clinical Skills Evaluation; ABPN)の臨床技能評価試験の概略が紹介されて,それを受験する準備はどうしたらよいかが,著者の実際の経験をもとに解説されている(第10章).そのために,「30分間診断面接」と題して,具体的な質問のサンプルとともに初回の面接の心得と技能を詳しく述べており,それを15分の症例提示にまとめる仕方を述べている(第3章).同じ精神科診察といっても,それぞれの国で事情は異なるだろうが,わが国で研修医教育を受け研修医を教育してきた訳者としては,米国の精神科診断面接が,いかに総合的,かつ系統的であるか,それに比べてわが国では,よくいえば自由度が高いといえるかもしれないが,いまだに直観的すぎる印象診断に頼って,1つ見つけた入口から穴を掘り進めるようなやり方が残っているところがあると反省させられる.
 1982年に初めて『DSM-III 精神障害の分類と診断の手引』の訳著を出版してから,DSMシリーズの関連訳書では,ケースブック,つまり症例集が中心であった.確かにこの種の症例集は,DSMを具体的に理解し,よりうまく使用するうえで大変有用なものである.一方,WHOのICD-11(2015予定)が精神疾患の分類をかなり変更するに伴い,それに準拠するDSM-5でもかなりの変更があり,これらを十分に理解するためには,こうした解説書が必要になってくる.こうした状況のもと,DSM-5に関しては新しく出版された関連書数冊のすべてを翻訳出版することになった.
 この本の翻訳作業は,新潟大学医歯学総合研究科精神医学分野の33名の方々の手によるものであり,染矢俊幸教授と北村秀明准教授が見直したものを,最終的に監訳者が手を入れたものである.なお,訳著には,読者が臨床場面において素早く参照できるよう,DSM-5マニュアルとDSM-5手引の対応ページを疾患ごとに示しておいた.確かに,本書は,親本『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』のキーポイントを要領よくまとめて,まさに第一線の精神科医の診療に役立つように工夫されており,読者諸兄姉の日常の診療のコンパニオンとしてお役に立てば幸いである.

 2014年12月 埼玉江南病院にて
 訳者を代表して 高橋 三郎



 『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』(DSM-5;米国精神医学会, 2013)は精神疾患全般にわたるマニュアルである.それぞれの疾患ごとに診断基準を規定し,発達,遺伝,気質など多様な観点からその障害を検討している.拙著『DSM-5診断面接ポケットマニュアル』(“The Pocket Guide to the DSM-5 Diagnostic Exam”)は,診断面接においてDSM-5を利用するための案内図として,また実用的な手引として役立てることを目的としている.本書はDSM-5自体や精神科面接のテキスト(例:MacKinnonら, 2006;Shea, 1998;Sullivan, 1954を参照)のどちらの代用品でもないが,包括的な診断面接の一部として,DSM-5の基準を効率的かつ効果的に使用する方法を説明している.
 筆者は毎日,学生,研修医,そして同僚の医師とともに患者を面接しており,異なる経験をもつあらゆるレベルの面接者に向けて本書を執筆した.本書はDSM-5の構成に従っている.したがって第I部では診断面接を紹介する.第1章と第2章は診断面接の目標を扱い,第3章では診断面接を学ぶための効率的な構成の仕方を取り上げる.第4章と第5章でDSM-5が診断面接をどのように変えるかを説明する.第II部では,DSM-5の診断基準を臨床診療のために運用できるようにした.第III部には,診断の手段と付加的情報を含めた.
 全体として,本書は治療同盟を確立していく過程で,精神的苦痛をもつ人に対して,正確な診断を下す手助けとなるだろう.それは診断面接という短時間のものであっても,精神科医療がいかなる出会いにおいても常に目標としていることである.
 前おきとして,医療的ケアの対象は,医療専門家に治療されている病気の患者なのか,あるいは専門家のサービスを受ける自発的な消費者という姿で解釈されるのかについて,根強い議論が存在することを述べておきたい(EmanuelとEmanuel, 1992).この議論は根本的ではあるが,本書が扱う範囲を超えている.本書では,人間そのものが病気や消費よりも優先されるので,最初の診断面接の対象を表すために,「人」(person)という用語を使用する.可能であれば,人や面接者に対して性的に中立な用語を用いるが,そうすると文法上ぎこちない場合は,1つの章では一般女性語を,次の章では一般男性語を代わる代わる使う.初回面接の後に精神科治療を受けることになった人について話す場合は,治療中のその人の脆弱性と,患者を治療する際の精神保健専門家がとる責任の両方を表す言葉として,「患者」という用語を使用している(RaddenとSadler, 2010).この用語を使用するのは,医療恩情主義を是認するためではなく,臨床における出会いの中で発展する特別で守られた関係というのは,治療契約としてよりも治療関係としてよりうまく説明されるということを強調するためである.

謝辞
 本書は精神的苦痛にある人々と話したいという筆者の手探りの試みから始まって,その対話を続ける(そしてよいものにする)ために作られている.ここに至るまでの道で筆者が学んだすべての患者,生徒,先生に感謝したい.患者の名前をあげるのは慎まなければならない.長い時間が経ってしまったので,すべての生徒の名前を思い出すこともできない.
 そこで筆者がその習慣を見習いたいと思っている先生方に謝辞を述べる.Lossie Ortiz,Betsy Bolton,Andrew Ciferni,Stanley Hauerwas,Don Spencer,Sue Estroff,Amy Ursano,Gary Gala,David Moore,Julia Knerr,Karon Dawkins,Joel Yager,Eva Aagaard,Robert House.
 最後に,本書の原稿を読み,手を入れてくれたMelissa MusickとMelanie Rylanderに感謝する.
*筆者に公表すべき利益相反はない.
文献
 Emanuel EJ, Emanuel LL: Four models of the physician-patient relationship. JAMA 267:2221-2226, 1992
 MacKinnon RA, Michels R, Buckley PJ: The Psychiatric Interview in Clinical Practice, 2nd Edition. Washington, DC, American Psychiatric Publishing, 2006
 Radden J, Sadler JZ: The Virtuous Psychiatrist: Character Ethics in Psychiatric Practice.
New York, Oxford University Press, 2010
 Shea SC: Psychiatric Interviewing: The Art of Understanding, 2nd Edition. Philadelphia, PA, WB Saunders, 1998
 Sullivan HS: The Collected Works of Harry Stack Sullivan, Vol 1: The Psychiatric Interview. Edited by Perry HS, Gawel ML. New York, WW Norton, 1954

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第I部
 1 診断面接総論
 2 診断面接における治療同盟構築
 3 30分間診断面接
 4 次元への冒険
 5 DSM-5の鍵となる改訂点

第II部
 6 DSM-5診断面接
  神経発達症群/神経発達障害群
   1 知的能力障害(知的発達症/知的発達障害)
   2 自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害
   3 注意欠如・多動症/注意欠如・多動性障害
  統合失調症スペクトラム障害および他の精神病性障害群
   1 統合失調症
  双極性障害および関連障害群
   1 双極I型障害
   2 双極II型障害
  抑うつ障害群
   1 うつ病(DSM-5)/大うつ病性障害,単一および反復エピソード
   2 重篤気分調節症
  不安症群/不安障害群
   1 限局性恐怖症
   2 パニック症/パニック障害
   3 全般不安症/全般性不安障害
  強迫症および関連症群/強迫性障害および関連障害群
   1 強迫症/強迫性障害
   2 身体集中反復行動症/身体集中反復行動障害
  心的外傷およびストレス因関連障害群
   1 心的外傷後ストレス障害
   2 反応性アタッチメント障害/反応性愛着障害
  解離症群/解離性障害群
   1 解離性健忘
   2 離人感・現実感消失症/離人感・現実感消失障害
  身体症状症および関連症群
   1 身体症状症
   2 病気不安症
  食行動障害および摂食障害群
   1 神経性やせ症/神経性無食欲症
   2 回避・制限性食物摂取症/回避・制限性食物摂取障害
  排泄症群
   1 遺尿症
   2 遺糞症
  睡眠-覚醒障害群
   1 不眠障害
   2 過眠障害
   3 ナルコレプシー
   4 閉塞性睡眠時無呼吸低呼吸
   5 レストレスレッグス症候群(むずむず脚症候群)
  性機能不全群
   1 勃起障害
   2 女性オルガズム障害
   3 女性の性的関心・興奮障害
   4 男性の性欲低下障害
  性別違和
   1 子どもの性別違和
   2 青年および成人の性別違和
  秩序破壊的・衝動制御・素行症群
   1 間欠爆発症/間欠性爆発性障害
   2 素行症/素行障害
  物質関連障害および嗜癖性障害群
   1 アルコール使用障害
   2 アルコール中毒
   3 アルコール離脱
   4 カフェイン中毒
   5 カフェイン離脱
   6 大麻使用障害
   7 大麻中毒
   8 大麻離脱
   9 フェンシクリジンまたは他の幻覚薬使用障害
   10 フェンシクリジンまたは他の幻覚薬中毒
   11 吸入剤使用障害
   12 吸入剤中毒
   13 オピオイド使用障害
   14 オピオイド中毒
   15 オピオイド離脱
   16 鎮静薬,睡眠薬,または抗不安薬使用障害
   17 鎮静薬,睡眠薬,または抗不安薬中毒
   18 鎮静薬,睡眠薬,または抗不安薬離脱
   19 精神刺激薬使用障害
   20 精神刺激薬中毒
   21 精神刺激薬離脱
   22 タバコ使用障害
   23 タバコ離脱
   24 他の(または不明の)物質使用障害
   25 他の(または不明の)物質中毒
   26 他の(または不明の)物質離脱
   27 ギャンブル障害
  神経認知障害群
   1 せん妄
   2 認知症(DSM-5)
   3 軽度認知障害(DSM-5)
  パーソナリティ障害群
   1 猜疑性パーソナリティ障害/妄想性パーソナリティ障害
   2 シゾイドパーソナリティ障害/スキゾイドパーソナリティ障害
   3 統合失調型パーソナリティ障害
   4 反社会性パーソナリティ障害
   5 境界性パーソナリティ障害
   6 演技性パーソナリティ障害
   7 自己愛性パーソナリティ障害
   8 回避性パーソナリティ障害
   9 依存性パーソナリティ障害
   10 強迫性パーソナリティ障害
   11 選択事項
  パラフィリア障害群
   1 パラフィリア障害群
  医薬品誘発性運動症群および他の医薬品有害作用
  臨床的関与の対象となることのある他の状態

第III部
 7 DSM-5診断早見表
 8 鑑別診断のための段階的解決法
 9 精神状態検査:精神医学用語集
 10 米国精神医学・神経学認定委員会の臨床技能評価
 11 DSM-5評価尺度の抜粋
 12 パーソナリティ障害群の次元診断
   1 境界性パーソナリティ障害
   2 強迫性パーソナリティ障害
   3 回避性パーソナリティ障害
   4 統合失調型パーソナリティ障害
   5 反社会性(非社会性)パーソナリティ障害
   6 自己愛性パーソナリティ障害
 13 代替診断システムと評価尺度

文献
索引

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最終診断へと近づくナビゲーションを示した実践の書
書評者: 久住 一郎 (北大大学院教授・精神医学)
 本書は,19年ぶりに改訂されたDSM-5に基づく精神科診断面接の進め方を平易に解説した,米国精神医学会(APA)によるポケットマニュアルの日本語版であり,既に訳書が出版されている『DSM-5 精神疾患の分類と診断の手引』や『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』の姉妹書である。DSM-5ではDSM-IVとは異なるいくつかの新たな試みが取り入れられており,それらの変更点や今後の精神科診断の方向性の理解を補足する上でも大変有用な一冊である。

 三部構成の第Ⅰ部は,「診断面接総論」「診断面接における治療同盟構築」「30分間診断面接」「次元への冒険」「DSM-5の鍵となる改訂点」からなる。学生・研修医から専門医をめざす医師,さらには,DSM-IVまでのカテゴリー診断に慣れ親しんできた医師まで,かなり幅広い読者を意識して書かれていることがわかる。どのレベルの医師が読んでも,得ることが多い内容がコンパクトにまとめられている。

 第Ⅱ部は,本書の中核部分であり,DSM-5診断面接の進め方が診断分類ごとに整理されている。どの項においても同じ構成になっており,初めにスクリーニングのための質問,それを補足する追加質問,診断基準に関連する「包含事項」,除外診断に関連する「除外事項」,特定用語や重症度に関連する「修飾事項」,おおまかな鑑別診断に関連する「選択事項」の順に配置されている。本書では診断基準は網羅的に記載されているわけではないが,前出の「手引」や「マニュアル」がすぐに参照できるように,項目ごとに参照頁が付されているのは非常にありがたい。すなわち,本書は正確な最終診断を導くための解説書ではなく,臨床において患者と「治療同盟」を構築しながら,いかに最終診断へと近づいていくかのナビゲーションを示した実践の書とも言える。

 第Ⅲ部は,「DSM-5 診断早見表」「鑑別診断のための段階的解決法」「精神状態検査:精神医学用語集」「米国精神医学・神経学認定委員会の臨床技能評価」「DSM-5評価尺度の抜粋」「パーソナリティ障害群の次元診断」「代替診断システムと評価尺度」と興味深い内容が並んでいる。特に後半は,カテゴリー診断から次元診断への移行の試みについてパーソナリティ障害を題材に詳しく解説されており,DSM-5が何を目指そうとしていたのか,今後精神科診断がどのような方向に進んでいくのかがよく理解できる内容となっている。

 DSMの導入によって精神科診断が浅薄になったと批判されがちであるが,従来のように「手引」や「マニュアル」だけでなく,本書のようなDSM関連書が訳出され,その背景の理念や問題点までが一般に熟知されるようになることは非常に意義深いと考える。DSMが単にチェックリスト的に使用されるのではなく,本書が多くの臨床医に読まれることで,精神科診断について深く再考する機会が得られることを期待している。今回の改訂に伴いAPAから出版されるDSM関連書数冊全てを翻訳する方針と聞くが,精力的かつ迅速に対応されている訳者の方々に改めて敬意を表したい。
DSM-5を多面的に理解するための有用な書
書評者: 大森 哲郎 (徳島大大学院教授・精神医学)
 「私と同じような人っているのでしょうか」と心配そうに質問されることがよくある。患者からみれば,自分一人の固有の体験に苦しんでいるのだ。「同じようなことで困っている人はいますよ」と答えると,ほっとしたような表情を浮かべられることが多い。そして「そういう人たちはどうしているのでしょうか」という問いに,「はい,それはですね」と,やりとりが続いていく。こうして得体のしれない体験に症状ないし病名という既知の名称が与えられ,そこから診療が進んでゆく。

 このとき私たちの念頭にある症状や病名の基準を提供しているのがDSMである。私たちは2013年に改訂されたその最新版になじんでおく必要がある。DSM-5に新たに導入ないし改訂された疾患概念のいくつかは,導入当初は知る人も少なかったパニック障害(DSM-III,1980年)や双極II型障害(DSM-IV,1994年)が今では臨床家の常識となったように,今後の臨床に不可欠となっていくだろう。

 本書『DSM-5診断面接ポケットマニュアル』は,その書名からDSM-5を安直に使用するための手引きと誤解される恐れがあるが,実際はそうではなくて,DSM-5を本格的に理解し活用するための内容の濃い書物である。巻頭の第1章には,精神疾患を診る者は,「固有の視点をもたねばならないが,それが必須であるにもかかわらず,その視点は必然的に不完全となることを理解すべきである」とある。なかなか深淵な名言である。もちろんDSMとて例外ではない。

 第2章では,「人々は,自分の精神的苦痛が診断基準に該当するか否かを確認するために,あなたの援助を求めているのではない。診断面接の核となるものは,精神症状の評価ではなく治療同盟の形成であり,それはあなたの患者をよりよく知ることと関係する」と述べられている。適切な指摘だ。続く第3章で,治療同盟形成とDSM診断を両立させるための原著者創出のユニークな30分診断面接を紹介したあと,第4章ではDSM-5が一歩足を踏み入れた次元(ディメンション)的見方を紹介し,第5章ではDSM-5の重要改訂項目を,うつ病,統合失調症,アルコール使用障害,自己愛性パーソナリティ障害について症例を示しながらわかりやすく解説している。

 第6章は本書の中核部分であり,問診の質問例を具体的に示しながら主要疾患について診断面接の実際を提示している。第7章から第13章までは順に,「診断早見表」「鑑別診断のための段階的解決法」「用語集」「米国精神医学・神経学認定委員会の臨床技能評価」「評価尺度の抜粋」「パーソナリティ障害群の次元的診断」「代替診断システムと評価尺度」に関する簡潔な紹介である。代替診断システムとしては,精神分析団体連合の精神力動的診断マニュアル,精神科医Paul McHughの群分類,米国国立精神衛生研究所の調査領域基準などの存在が目配りよく手短に紹介されている。

 診断面接のあり方に関する鋭い考察,DSM-5の改訂点や特徴や位置付けの平易な解説,診察場面での実用的手引き,といった異なった視点からの論述が各章に按配されて,DSM-5を多面的に理解するための有用な一書となっている。

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