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内視鏡下鼻副鼻腔・頭蓋底手術 [3DCT画像データDVD-ROM付]
CT読影と基本手技

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3DCT画像と内視鏡画像をリンクさせた、CT読影のポイントと手術手技を解説した書。京都大学耳鼻咽喉科で行われている手術解剖実習の取り組みを詳述した内容。付録のDVD-ROMにはCT画像および読影のためのソフトを収載しており、読者自身が三次元的にCT画像を読影できる。内視鏡下鼻副鼻腔手術を志す耳鼻咽喉科医のみならず、脳神経外科医にも必携の書。ナビゲーション時代の鼻科手術書の決定版、ここに堂々の刊行。
監修 伊藤 壽一
編集 中川 隆之
発行 2014年05月判型:A4頁:236
ISBN 978-4-260-01972-9
定価 13,200円 (本体12,000円+税)
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監修の序(伊藤壽一)/はじめに(中川隆之)

監修の序
 本書は「内視鏡下鼻副鼻腔・頭蓋底手術」の基本手術手技とその応用を,数多くのCT画像とともに解説したものです.本書は5章で構成されており,1,2,3章では主に基本的な内容として,これから内視鏡下鼻内副鼻腔手術を始めようとする医師,また既に本領域の手術を行っている医師がさらにその手技などを確認するために使用するよう作成されています.また4,5章では主に応用的な内容として,わが国では比較的限られた施設のみで行われている内視鏡下頭蓋底手術も含め,さらに複雑な手技を要する手術をマスターするための解説が述べてあります.
 内視鏡下鼻内副鼻腔手術は耳鼻咽喉科・頭頸部外科領域の手術の中では,若い医師が早い時期に主術者として手術に取り組む手術であり,比較的短期間に手術手技を獲得できると思われがちの手術です.実際,耳鼻咽喉科専門医を取得する時期の医師が最も多く手掛けている手術の1つです.しかしその反面,毎年この領域ではいわゆる医療事故も報告されているのも事実です.これは内視鏡を用いる手術全般に言えることですが,内視鏡下の手術は基本的には主術者単独で行う手術であり,周囲に手術指導者や助手が複数いても大部分は主術者1人で行う必要があります.特に経験の浅い術者が手術を行い,仮にトラブルが発生しても,指導者や助手が同時に同手術視野でそのトラブルを解決することが困難となります.一方,内視鏡を用いての手術は複雑な手術野に対して,例外を除いては,平面(2次元)のモニターでしか観察できないという問題点もあります.
 手術の基本はまず,「局所解剖の熟知」の上で「正しい基本の習得」があり,その後「基本技術から上級技術への地道な習得」となります.入り口を間違うとせっかくの鍛錬があらぬ方向に向かってしまうことにもなります.また実際の手術に当たっては,初心者であれ熟練者であれ,綿密な手術プランニングと術後の反省が必須です.
 内視鏡下鼻内副鼻腔手術書はいくつか刊行されていますが,本書は以下の重要な特徴を有します.まず「正しい基本の習得」のため基本編では手術ポジションから始まり,最も基本の部分から懇切に説明を加えてあります.また,応用編も含め,世界の先進国で行われている手術のゴールドスタンダードというべき手術手技の全てを網羅しています.最も重要な「局所解剖の熟知」に関しては,京都大学大学院医学研究科耳鼻咽喉科・頭頸部外科で公開でも行っている手術解剖実習を元にした解説を加えています.さらに,本書の大きな特徴に,ほとんどの症例にCT画像を添付したことがあげられます.このCT画像は3次元方向に移動することができ,本画像を用いると局所解剖が熟知できるだけでなく,手術前の「手術プランニング」を立てる際に,3次元に画像を構築しながら実際の手術野を立体的にイメージすることができます.本書を利用して手術のシミュレーションを行う場合,まず添付のCT画像の2次元画像である程度の手術プランニングを立て,その後CTを3次元方向に移動させ,実際の手術をしているような感覚で進んでいくと非常に効果的です.卓越した術者であれば2次元画像のみで手術プランニングすることは可能でしょうが,初心者を含む一般の術者では,特にこの3次元方向に移動しうるCT画像は大いに役立つと思われます.加えて,個々の手術手技の習得に最も効果的な方法はcadaverを用いての手術解剖実習ですが,実習をする際にも本書は大きな助けとなると思われます.
 本書により多くの医師が「内視鏡下鼻副鼻腔・頭蓋底手術」の領域に興味を持ち,技術を積まれ,それにより安全,確実に手術ができる一助になることを願っています.

 2014年4月
 伊藤壽一


はじめに
 内視鏡下鼻内副鼻腔手術は,最も広く行われている耳鼻咽喉科領域の手術の1つであり,ほとんどの耳鼻咽喉科医が経験する基本的な手術です.鼻副鼻腔炎は,症例が多いだけでなく,手術治療に対する社会的なニーズも高く,耳鼻咽喉科・頭頸部外科領域の重要な手術治療といえます.しかし,一方で,副損傷が問題となる危険な手術であることも事実です.これは,日本だけでなく,世界中で共通の問題で,内視鏡下鼻内副鼻腔手術に関する医師教育の重要性が耳鼻咽喉科領域で課題となっています.
 鼻・副鼻腔には眼窩や頭蓋底が隣接し,重要な脳神経も存在します.さらに個体差が大きく,その手術解剖は複雑に感じられます.しかし,適切に術前CT読影を行い,しっかりとしたプランニング(手術計画)を立てれば,目的とする手術に必要な道筋が見えてきます.そして,できる限り副損傷が起こりにくい,合理的な手術アプローチおよび手技を用いることにより,適切かつ安全な手術を行うことができます.本書では,「初心者でも行えるわかりやすいプランニングと安全かつシンプルな手術テクニック」をコンセプトとして作成しました.そして,基本的な内視鏡下鼻内副鼻腔手術に必要なCT読影のポイント,手術プランの立て方,実際の手術テクニックをわかりやすく解説することを目標としました.また,応用編として,通常の内視鏡下鼻内副鼻腔手術から一歩進んだ手術として頭蓋底手術などについても同様のコンセプトでの解説を加え,脳神経外科医にとって経鼻手術の基本解剖のガイドとなるように留意しました.もちろん,副鼻腔手術が中心となる耳鼻咽喉科医にとっても,「一歩外側」の解剖を知ることは,重篤な副損傷の回避,起こった場合の対応に役に立つと思います.
 本書のベースは,京都大学大学院医学研究科耳鼻咽喉科・頭頸部外科で行ってきた手術解剖実習にあります.分担している著者もこの手術解剖実習で講師を務めているメンバーです.したがって,あくまで正常解剖を中心としてCT読影や手術手技を述べています.実際の症例とはやや異なる部分もあると思いますが,基本の正常解剖を理解することが手術解剖を学ぶ基本となります.是非,本書を基本として,独自の手術手技やコツを開発してください.

 2014年4月
 中川隆之

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監修の序
はじめに
本書の使い方

1 セットアップ
  (1)手術ポジション
  (2)手術器機
     a 手術器具標準セット
     b デブリッダー,止血器機
     c 内視鏡
     d 麻酔

2 基本操作(手術器機の基本的使用方法)
  (1)シェーバー(デブリッダー),キュレットの使い方
  (2)止血操作
  (3)ガーゼパッキングについて

3 鼻副鼻腔炎に対する手術 基本編
 A ポリープ切除
  (1)鼻腔内と副鼻腔内で分けて考える
  (2)鼻腔内ポリープはトリミングする
  (3)鼻腔内のコンパートメントごとに切除していく
  (4)中鼻甲介,鈎状突起,篩骨胞,上鼻甲介をきちんと残す
  (5)嗅裂のポリープには注意する
 B 鈎状突起切除
  (1)CT読影のポイント
     a 上顎洞自然口,鼻涙管をきっかけに鈎状突起を見つける
     b 鈎状突起上端とagger nasi cell
     c 鈎状突起の基部
  (2)手術手技
     a 鈎状突起の観察
     b 鈎状突起切開
     c 鈎状突起下半分切除
     d 上顎洞自然口拡大
     e 鈎状突起上半分切除
 C 前頭洞とagger nasi cell
  (1)CT読影のポイント
     a agger nasi cellと鈎状突起上方付着部
     b 前頭洞ドレナージルート
  (2)手術手技
     a 鈎状突起上部付着部の処理
     b agger nasi cell内側壁,後壁の切除と前頭洞開放
     c 前頭洞口の拡大
     d building block concept
     e axillary flap technique
 D 篩骨胞とsuprabullar cell
  (1)CT読影のポイント
     a 篩骨胞(ethmoid bulla)とbulla recessの同定
     b suprabullar cell, frontal bulla cellの同定
     c 前篩骨動脈の同定
  (2)手術手技
     a 篩骨胞の処理と中鼻甲介基板の露出
     b 眼窩,前頭蓋底,前篩骨動脈の確認
     c suprabullar cellと前篩骨動脈の確認(補足)
 E 中鼻甲介基板と上鼻道
  (1)CT読影のポイント
     a 中鼻甲介基板の同定
     b 上鼻甲介,上鼻道の同定
     c 中鼻甲介開窓部位の同定
  (2)手術手技
     a 嗅裂からの上鼻道観察
     b bulla recess開窓
 F 後部篩骨蜂巣と蝶形骨洞
  (1)CT読影のポイント
     a 上鼻甲介と後部篩骨蜂巣
     b 後部篩骨蜂巣と蝶形骨洞
     c 蝶形骨洞の危険部位の把握
  (2)手術手技
     a 後部篩骨蜂巣の開放
     b 蝶篩陥凹の観察
     c 蝶形骨洞の開放
 G 下鼻道から上顎洞へのアプローチ
  (1)CT読影のポイント
     a 鼻涙管
     b 下鼻道側壁
  (2)手術手技
     a 鼻涙管の同定
     b 下鼻道側壁粘膜弁の挙上
     c 上顎洞の開放
     d 鼻涙管前からのアプローチ
 H 鼻中隔矯正術
  (1)CT読影のポイント
  (2)手術手技
     a 粘膜切開と粘膜剥離
     b 軟骨・骨境界部の同定と骨切除
     c 前方の弯曲の取り扱い
 I 粘膜下下鼻甲介骨切除術
  (1)CT読影のポイント
     a 下鼻甲介の形態
     b 中鼻道との関係
  (2)手術手技
     a 粘膜切開と止血
     b 骨粘膜の剥離
     c 下鼻甲介骨の摘除
     d 下鼻甲介形成
 J 後鼻神経切断術
  (1)CT読影のポイント
     a 蝶口蓋孔の同定
     b 中鼻甲介,篩骨胞下端との関係
  (2)手術手技
     a 中鼻道からアプローチする方法
     b 下鼻道からアプローチする方法
     c 後鼻神経の末梢枝の同定方法
 K 嗅覚温存のための工夫
  (1)CT読影のポイント
     a 嗅裂の位置と篩板,嗅糸
     b 嗅粘膜と中鼻甲介,上鼻甲介との位置関係
     c 共通甲介板
  (2)手術手技
     a 嗅裂構造物(中鼻甲介,上鼻甲介,鼻中隔)の温存
     b 嗅裂ポリープの切除
     c 上鼻道の開放
     d 嗅裂の癒着予防処置

4 鼻副鼻腔炎に対する手術 応用編
 A 拡大前頭洞手術
  (1)CT読影のポイント
     a 鼻涙管,涙嚢,鼻堤
     b 前頭洞底削除の予定部位
  (2)手術手技
     a agger nasi cellの前壁削除
     b 前頭洞自然口の確認
     c 中鼻甲介の部分切除
     d 鼻堤の骨削除
     e 前頭洞frontal beakの削除
     f 前頭洞底の骨削除,嗅糸の確認
     g 前頭洞の単洞化(Draf type III)
 B endoscopic medial maxillectomy(EMM)
  (1)CT読影のポイント
     a 切除範囲
     b 手術アプローチの選択
  (2)手術手技
     a 鼻涙管と下鼻甲介を切除する方法
     b EMMの変法
 C 涙嚢鼻腔吻合術
  (1)CT読影のポイント
     a 涙嚢と鼻涙管の同定
     b 周囲の骨の厚みの評価
  (2)手術手技
     a 粘膜弁
     b 骨削開
     c 涙嚢開放
     d ステントについて
 D 拡大蝶形骨洞手術
  (1)CT読影のポイント
     a 蝶形骨洞の拡がりと蝶形骨洞前壁切除範囲の決定
     b 蝶形骨洞内の隆起(内頸動脈,視神経,正円孔,翼突管)の確認
  (2)手術手技
     a 鼻中隔,蝶篩陥凹粘膜の処理
     b 蝶形骨洞自然口の拡大,鋤骨の切除
     c 上鼻甲介の処理
     d 蝶口蓋動脈,翼突管神経の同定
     e 眼窩下神経の同定
     f 中鼻甲介,上顎洞後壁,翼口蓋窩の処理
     g 蝶形骨洞内病変に対する操作
 E 髄液漏閉鎖術
  (1)CT読影のポイント
     a 篩板
     b 蝶形骨洞側窩
  (2)手術手技
     a 瘻孔部位の確認と周辺鼻粘膜の郭清
     b 穿孔閉鎖法

5 頭蓋底手術における鼻副鼻腔操作
 A 副鼻腔炎手術と頭蓋底腫瘍手術の違い
 B 有茎鼻中隔粘膜弁と頭蓋底再建
  (1)CT読影のポイント
     a 気脳症の経時的観察
  (2)手術手技
     a 鼻中隔粘膜弁のデザイン
     b 筋膜2層+有茎鼻中隔粘膜弁による閉鎖
     c 脂肪片,骨,軟骨の使用について
     d 閉鎖素材の固定としての鼻内パッキング
 C 経蝶形骨洞アプローチ
  (1)CT読影のポイント
     a 経蝶形骨洞アプローチの選択
     b 蝶形骨洞内外の目印と危険部位
  (2)手術手技
     a 経蝶篩陥凹アプローチ
     b 経篩骨洞アプローチ
     c 経上顎洞アプローチ
 D 翼口蓋窩・側頭下窩へのアプローチ
  (1)CT読影のポイント
     a 翼口蓋窩の同定
     b 骨孔・管腔構造の確認
  (2)手術手技
     a 鼻涙管の後ろからアプローチする方法
     b 鼻涙管の前からアプローチする方法
 E 前頭蓋底へのアプローチ
  (1)CT読影のポイント
     a 前後篩骨動脈の同定
     b 嗅裂(嗅溝部)および篩板形態の観察
     c 篩骨垂直板と鶏冠
  (2)手術手技
     a 前頭蓋底へのアプローチ
     b 前篩骨動脈の処理
     c 篩骨洞天蓋の骨削除
     d 篩板の剥離,嗅糸の切断
     e 鶏冠の切除,硬膜の切除
 F 眼窩へのアプローチ
  (1)CT読影のポイント
     a 眼窩の基本構造
     b 眼窩手術における目印の同定
     c 内直筋,下直筋,上斜筋の同定
  (2)手術手技
     a 眼窩下壁,内側壁の同定
     b 眼窩減圧術
     c 眼窩尖端と海綿静脈洞の解剖
     d 眼窩内への手術アプローチ

付録3DCT画像データDVD-ROMについて
索引

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3DCTデータを操作しながら読み進められる画期的な書
書評者: 岡野 光博 (岡山大准教授・耳鼻咽喉・頭頸部外科学)
 待ち望まれていた内視鏡下鼻副鼻腔・頭蓋底手術の新刊書である。本書は京大耳鼻咽喉科・頭頸部外科教授の伊藤壽一氏によるご監修の下,中川隆之氏が編集を務められ,同大学で行われている手術解剖実習の講師陣が執筆されている。手術解剖実習で得られた知見などを基に,内視鏡手術を行う上で知っておきたい新しい知識やテクニックを余すところなく伝えている。

 本書の最大の特徴は,付録のDVD-ROMに収められている5例のcadaverのCT画像データを閲覧・操作しながら読み進めることができる点であろう。言うまでもなく手術を行う上での基本は局所解剖の理解であり,内視鏡下鼻副鼻腔・頭蓋底手術においては術前CTの適切な読影が大切である。本書の構成はDVD-ROMに収められている5例のCT読影および解剖が中心となっており,本書に掲載されている図の多くはDVD-ROMに収められている5例を用いている。5例のファイルを開き,「i-VIEWワンデータビューワ」で画像を「クルクル」回して,図と同じスライスがヒットしたときは楽しく,前後左右上下に「クルクル」することで解剖の理解が進む。手術書のみならず数多ある耳鼻咽喉科学関連の教科書の中でも,ここまでCT画像データを読者自身が詳細に操作できる書物はあまりないように思う。「面白くて,ためになる」企画がなされている。

 本書は5章から成っている。前半の3章(①セットアップ,②基本操作,③鼻副鼻腔炎に対する手術-基本編)がベーシックコースで,後半の2章(④鼻副鼻腔炎に対する手術-応用編,⑤頭蓋底手術における鼻副鼻腔操作)がアドバンスドコースと捉えることができる。200ページを超える手術書であるが,これから内視鏡下副鼻腔手術(Endoscopic Sinus Surgery ; ESS)を始めようとする若手の医師にはまず前半の3章(約100ページ)を通読されることをお薦めする。特に構造が複雑な前頭洞周囲の解剖・CT読影・手術手技には詳しい解説がなされており,ドレナージルート開放による前頭洞手術について理解を深めることができる。

 経験で得られた知識や知恵を言葉,特に文字に残すことは案外難しい。本書は執筆者の豊富な手術経験を惜しみなく伝えており,内視鏡下鼻副鼻腔・頭蓋底手術の初心者のみならず,経験者にとっても有益な情報が多く記されている。「蝶形骨洞粘膜は易出血性である」や「鼻中隔での嗅糸確認を行う(前頭蓋底手術)」など,特に各セクションの冒頭に箇条書きで記されている“Point”には膝を打つ知識や知恵が記されている。また,本文中の「悩まされることがある」との表現は,「悩まされた」と同義であろう。苦い経験とその対処を若い世代に伝承しようとする編者らの強い意志を感じる。

 本書で編者は「本書を基本として,独自の手術手技やコツを開発してください」と述べている。副鼻腔炎に対する内視鏡下鼻内副鼻腔手術のプリンシパルは副鼻腔の換気と排せつ路(ドレナージルート)の作製および粘膜保存であり,世界共通である。一方,そのための術式には本書で紹介された手技以外にもarea managementなど多くの優れたテクニックが考案されている。本書は,術者自身のテクニックを確立するための教科書の一つとして,あるいは体得したテクニックをブラッシュアップするためのテキストとしても座右の書となろう。
経鼻内視鏡手術を行う脳神経外科医にとり有用な書
書評者: 佐伯 直勝 (千葉大教授・脳神経外科学)
 脳神経外科手術領域における内視鏡下経鼻手術は,従来の顕微鏡下経鼻下垂体手術をさらに発展させた洗練された方法として認められつつあり,従来拡大経蝶形骨洞手術として行われていた傍鞍部腫瘍への到達法から,さらに広がりを持った手術法も可能となった。そして内視鏡下経鼻手術は,正中病変では前頭蓋底から頭蓋・頸椎移行部,側方病変では海綿静脈洞,翼口蓋窩,側頭窩下,眼窩内病変に至るまで,頭蓋底疾患を広く扱える手術法として発展しつつある。欧米諸国では,耳鼻咽喉科,頭頸部外科,脳神経外科をバックグラウンドとしたチーム医療が花開きつつあり,日本においてもこの領域に特化した専門医グループの出現が待たれる。

 一方で,髄液漏れ,血管損傷,脳神経麻痺などの内視鏡下経鼻手術に特有な合併症を起こさない工夫や,起こした際の対処法などを習熟しておかなければならず,習熟法の一つとしてキャダバートレーニングが有用であることは論をまたない。本書の編集者・執筆者である中川隆之氏は,京大の耳鼻咽喉科・頭頸部外科医の立場からキャダバートレーニングコースを開催し,内視鏡下経鼻手術の安全な手技の普及に貢献してきた。本書で特徴的なのは,個々のキャダバーの3DCTを術前に評価し,個別に手術手技,解剖をイメージしながら,段階を踏んで手術を行っていく方法で,実際の手術法に即した教科書としてまとめ上げられている点である。また本書は,初心者でも行えるわかりやすいプランニングと,安全かつシンプルな手術テクニックをコンセプトとしているとともに,基本的手技から一歩進んで,頭蓋底手術についても同様のコンセプトで解説している。

 本書は耳鼻咽喉科の医師により書かれているが,内視鏡下経鼻手術を行う脳神経外科医にとって参考となる基本手技と,より難度の高い領域への手術法を提供している。

 今日の実臨床例においては,手間暇をかければかけるだけ,術前に質・量ともに豊富な画像情報を得ることができる。手術法に関する情報も,エキスパート手術の見学の機会,ビデオ,そして本書を含めた手術書など入手しやすい環境が整ってきた。それをいかに情報収集・整理して個々の症例に生かしていくかは,主治医である外科医の心構えいかんである。
内視鏡下鼻副鼻腔手術の優れた実用的学習書
書評者: 吉崎 智一 (金沢大教授・耳鼻咽喉科学・頭頸部外科学)
 内視鏡下鼻副鼻腔手術が鼻科手術のスタンダードとなって久しい。内視鏡の登場で見えなかった部位が見えるようになり指導もしやすくなった反面,立体解剖の把握が困難となった。鼻副鼻腔手術はポピュラーな手術であるが,入りやすい一方で非常に多くの術式があり,個々の症例ごとの解剖学的バリエーションも多い奥行きの深い手術である。今日の鼻科手術では多くの手術装置や道具を使用するが,本書ではそのことを前提として,まず術者が座位で手術することのメリットを第1章の「セットアップ」で論理的に述べている。そして,内視鏡を把持する腕の安定のための手台をきちんとセットすること,モニターとナビゲーションの位置,さらには各種フットスイッチの配置などが詳細に解説されている。

 第2章の「基本操作」でも初心者にわかりやすくシェーバー使用法のコツが解説されている。第3章の「鼻副鼻腔炎に対する手術 基本編」では,ポリープ切除や鈎状突起切除手技に始まり後鼻神経切断術や嗅覚温存の工夫まで11項目についてしっかりとポイントが解説されている。鈎状突起切除の項では「最も重要なことはしっかりと観察すること」で,具体的には「内視鏡所見と術前CT所見を整合させること」が手術上達のカギであると述べられている。多くの画像を用いて解説されており,具体的なポイントがつかみやすい。

 第4章の「鼻副鼻腔炎に対する手術 応用編」では拡大前頭洞手術から髄液漏閉鎖術まで5項目について,まずたくさんのCT画像を使ってCT読影のポイントを解説し,プランニングの仕方,手術手技へと解説が続く。手術手技のパートでは,実際にサクションキュレットやシェーバーなどの操作の実際が内視鏡写真で示されている。これらの豊富な画像と解説により,難易度が上がった手術についても無理なくポイントが頭の中に入ってくる。

 さらに,第5章の「頭蓋底手術における鼻副鼻腔操作」では,最初に副鼻腔炎手術と頭蓋底腫瘍手術の基本コンセプトの違いについて概説されている。手技で最初に紹介されているのは有茎鼻中隔粘膜弁による頭蓋底再建法で,続いて各種頭蓋底へのアプローチ,そして最後に眼窩へのアプローチについて解説されている。これらの厳選された内視鏡および3次元CT画像とそれらに対する解説では,複雑でバリエーションが多い顎顔面骨に対して手術操作を行っていく際に必要なメルクマールの認識法ついても適切・明瞭な解説がされている。

 本書は,ナビゲーションサージャリー時代における手術書というだけでなく,解剖把握法の指南書としても優れている。これから内視鏡下鼻副鼻腔手術を習得しようとする研修医,実際に基本手技を一応習得してこれからステップアップを図ろうとする専門医取得後数年の耳鼻咽喉科・頭頸部外科医はもちろん,医学生にも理解しやすい。そしてベテランの域に達した指導医にとっても今後指導する際のポイントが整理でき,また,新たな手術コンセプトの学習書としても非常に優れた奥の深い実用的手術書である。
安全・確実な内視鏡下鼻内手術のために
書評者: 花澤 豊行 (千葉大大学院准教授・耳鼻咽喉科学・頭頸部腫瘍学)
 日々の忙しさから逃れての旅は,格別である。さてどこに行こうかと考え探索し,目的地が定まったときには,そのワクワクした気持ちを言葉で表現することはとてつもなく難しい。まずは目的地の地図を取り寄せ,さらにその地の見所や美味しいお店を詳細に書き記した旅本を手元に置きたくなるのは,時間にゆとりのないわれわれ医師には必然の行為ではないだろうか。旅本選びにも大切なポイントがある。旅慣れない者にもわかりやすく,持参品には何が必要か,地図上での見所やおいしいお店はどこか,そして旅程でのトラブルの回避と遭遇した際の対応などが十分に掲載されていることが,必須の記載項目である。

 本書はまさに,内視鏡下鼻副鼻腔手術という旅に出る前に必ず用意しておきたいクオリティの高い旅本と言ってよいであろう。内視鏡下鼻副鼻腔手術の保険算定が改正され,鼻科治療における内視鏡手術の位置付けは一層確立された。より多くの耳鼻咽喉科医が安全で確実な内視鏡下の鼻内手術ができることを,京都大学を中心とした執筆者たちが心から願った一冊である。

 本書の前半には,内視鏡下鼻副鼻腔手術の基本となる,セットアップ,手術器械および副鼻腔炎手術の基本手技が,クリアな鼻内写真と適切なCT所見を利用して,わかりやすく解説されている。また,それぞれに掲載されているCT所見が3次元的に見られるよう取り込まれたDVD-ROMが添付されている点は極めて斬新であり,目的地の地図をタブレット端末にダウンロードして旅先のナビゲーション代わりにすることと同様で,とても便利で有用である。後半は,応用編として今後拡大されていくであろう内視鏡下鼻内手術における腫瘍切除,眼窩内や頭蓋底へのアプローチを念頭に入れた先見的な内容となっている。これらの手術においては,十分に基本手技が習熟されていることと,術前のプランニング能力の習得が絶対条件である。腫瘍切除においては,術者の技量に応じた妥協点は存在しない。完全切除,根治切除をめざした十分なプランニングと合併症の回避が必要であり,これらの習得には確実に術野の全行程をイメージできる能力の養成やキャダバーを用いた日頃のトレーニングによるところが大きく,それにおいても本書の活用が有効であろう。

 表紙の帯に書かれているとおり,本書の発行はナビゲーション時代の鼻科手術書の堂々の刊行といえる。日々の内視鏡下鼻内手術に臨む前に本書をしっかり読み込むことで,言葉にできないワクワク感をぜひ一緒に感じていただきたい。

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