マタニティ診断にもとづく
母性看護過程の授業設計

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看護診断だけでなくマタニティ診断を用いて母性看護過程をどのように学生に教えるのか、授業設計と授業の展開を解説した書。母性看護学概論の講義から始まり、演習・実習の指導まで網羅。授業案や指導案、授業で使用できる資料もあり、母性看護過程の授業を組み立てるうえで参考になる。母性看護学を担当する教員の必携書。
監修 青木 康子
執筆 相沢 澄子 / 篠原 千鶴子 / 主濱 治子 / 友部 貞子 / 長島 貴久代 / 平原 春美
発行 2014年04月判型:B5頁:116
ISBN 978-4-260-01934-7
定価 3,520円 (本体3,200円+税)

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まえがき

 看護過程(Nursing Process)は,専門職としての看護を実践するための一連のプロセスである.すなわち,対象者の健康や健康上の問題に対する認識や反応を看護の立場から系統的に判断することに始まり,看護の必要性に応じて目標を設定し,その目標達成のために具体的な計画を立てて実践し,評価する一連の過程である.現在の看護教育の中では不可欠となっており,基礎看護学をはじめ各看護学においてその対象に応じた看護過程を教授している.しかしながら,その教授内容や指導方法はまちまちであり,同じ学校でも一貫性に乏しく,学生の思考に混乱が生じているともいわれている.特に母性看護学では対象者が健常者であることから,基礎看護学や成人看護学などでの既習(問題解決的アプローチでの学習)の知識をいかしながら,ウエルネス型の看護診断を用いた看護過程をどのように教えたらよいかが課題となっている.
 2008年4月1日に改正された保健師助産師看護師学校養成所指定規則の新カリキュラムでは,(1)教育内容の充実を図る,(2)学生の看護実践能力を強化する,の2点が改正の主旨となっており,国家試験出題基準に看護診断が明示された.そこで,新カリキュラムに沿った母性看護学の授業を考えるため,都立看護専門学校で母性看護学を担当する教員の有志による月1回の学習会を発足した.学習会には『マタニティ診断ガイドブック』の著者のお一人である青木康子氏をスーパーバイザーにお迎えし,3年の経過を経て,「授業設計 母性看護学における看護過程」を考案した.その内容は,2011年8月から4回にわたり雑誌『看護教育』に連載された.その後も,学習会を継続し,母性看護学における看護過程について,講義・演習・実習の一連の流れに沿った授業設計をまとめたのが本書である.
 まだまだ不十分ではあるが,5年もの歩みを1冊の書物にまとめられたことはとても意義あることと感慨深い思いである.これもひとえに,メンバー一人一人の労があってのことであるとともに,刊行にあたって5年もの長い間メンバー一人一人が岐路に立ち戸惑うごとに,辛抱強くアドバイスくださった青木康子先生に心から感謝申し上げる次第である.
 母性看護学担当の教員,実習指導者の方々に活用していただき,さらに忌憚のないご意見を承れば幸いである.

 2014年3月吉日
 学習会メンバー代表 友部貞子

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序章 教育課程における位置づけ
 カリキュラムの構成と看護過程
 母性看護学の科目構成と看護過程
 母性看護学における看護過程の授業の目的・目標・考察

1章 「母性看護学概論」における看護過程の授業設計
 目的・目標・考察
 授業案・成績評価
 資料
  1 母性看護学概論 看護過程の講義資料

2章 「妊婦・産婦の看護」における看護過程の授業設計
 目的・目標・考察
 講義の授業案・成績評価
 演習の授業案・成績評価
 資料
  2-1 情報 妊婦(妊娠36週0日)1
  2-2 情報 妊婦(妊娠36週0日)2
  3 妊娠期の経過診断用紙1
  4 妊娠期の経過診断用紙2
  5 模範解答(妊娠期の経過診断)

3章 「褥婦・新生児の看護」における看護過程の授業設計
 目的・目標・考察
 講義の授業案・成績評価
 演習の授業案・成績評価
 資料
  6 産褥期・新生児期の診断過程の演習の進め方(学生用)
  7-1 追加情報 褥婦(産褥1日目)1
  7-2 追加情報 褥婦(産褥1日目)2
  8 追加情報 新生児(出生1日目)
  9 産褥期の経過診断用紙
  10 新生児期の経過診断用紙
  11 産褥期の経過診断模範解答
  12 新生児期の経過診断模範解答
  13 指導基準1(産褥期の経過診断とケア計画)
  14 指導基準2(産褥期の健康生活診断とケア計画)
  15 指導基準3(産褥期の健康生活診断とケア計画)
  16 指導基準4(新生児期の経過診断とケア計画)
  17 指導基準5(新生児期の健康生活診断とケア計画)
  18 追加情報 褥婦(産褥2日目・3日目)
  19 追加情報 新生児(日齢2日目・3日目)
  20 産褥期の経過診断とケア計画
  21 産褥期の健康生活診断とケア計画(育児技術)
  22 産褥期の健康生活診断とケア計画(授乳行動)
  23 新生児期の経過診断とケア計画
  24 新生児期の健康生活診断とケア計画
  25 模擬保健指導実施要領

4章 「周産期にある人のハイリスク時の看護」における看護過程の授業設計
 目的・目標・考察
 授業案・成績評価
 資料
  26 切迫早産妊婦の事例
  27 切迫早産への対処行動

5章 臨地実習における看護過程の授業設計
 目的・目標・考察
 実習場所別の実習指導案

6章 授業の評価
 成績評価
 授業評価
 資料
  28 講義の自己評価表
  29 講義の同僚評価表
  30 講義の評価表(学生用)
  31 演習の自己評価表(教員用)
  32 演習の同僚評価表
  33 演習の評価表(学生用)
  34 臨地実習の自己評価(教員用)
  35 臨地実習の評価(学生用)

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母性看護の思考過程の強化と実践力の向上をめざした書
書評者: 竹内 美恵子 (徳島大名誉教授・助産学・母子保健学)
 本書の主題である看護過程は,あらゆる看護場面で活用され,看護を支える重要な要素である。看護過程は,情報収集から計画・実践まで一貫した方向性を与える理論の活用が重要視されるとともに,看護診断分類の導入がされている現在,学生にとって理解は難しいといわれている。

 本書は,それらの課題に挑戦したものである。母性看護を担当する教員が,母性看護の方法論として,同時に母性看護観そのものを教授する工夫として,母性看護過程の授業設計を立案したものである。内容は,母性看護を提供する看護者としての思考過程の強化と併せて,実践力を高めることを意図して,全部で6章から構成されている。

 授業設計は,看護の教育課程における母性看護の位置付けを概観した後,母性看護の対象者を妊婦と産婦,褥婦と新生児,周産期のハイリスク時にある人々に分けて看護過程を編成している。さらに臨床実習の場面における看護過程の授業設計を計画し,最後に,学生の達成度を成績評価として示すと同時に,教員自らの授業の成果を確認できる編成となっている。

 具体的な看護過程の授業設計は,診断過程と実践過程に分けて解説されている。まず,「診断過程」は,情報収集や診断名を付けることを目的とする部分である。学生たちにどのような情報が必要であり,対象者に有用な情報を分析・統合して何が看護問題なのかを教えるに当たり,日本で使いやすい形に開発されたウエルネス型看護診断(疾患を持つ場合は実在型)を用いて,学生たちになじみやすい授業内容が具体的に詳細に解説されている(マタニティ診断ガイドブック第4版,編著:日本助産診断・実践研究会,医学書院,2013年参照)。

 「実践過程」は,(妊娠,分娩,産褥,新生児期の)母性看護実践に求められる技術的側面と実施するための基本姿勢や態度などを,1年時から2年時の教科目の中に組み込み,母性看護を実施する上で求められる対象者の情報収集から計画・実践まで一貫した方向性を与える理論の授業が展開されている。看護診断については,診断名だけでなく,マタニティ診断に必要なデータも収載され,診断の根拠が示され,実践への活用を容易にしている。

 現在の医療機関では電子カルテシステムが普及し,看護診断は,わが国の看護のスタンダードになっている。本授業設計は,学生がマタニティ診断を実践に応用できるように具体的な例が示されている。よりよい看護計画と実践に応用され,妊産婦の持つ看護上の問題や課題を解決・達成することを可能とする良書である。

 なお,本書の背景には,日頃の周産期の看護―助産ケアのさまざまな事柄を日々の実践に活用し,自らの業務を常に切り拓いていく姿勢を持つ助産師や母性看護者たちが,17年間,「マタニティ診断」として築き上げたものが基盤となり導かれていることを追記し,著者たちの地道な活動に敬意を表したい。
5年という歳月をかけて築き上げた授業設計 (雑誌『看護教育』より)
書評者: 鈴木 享子 (鉄蕉館亀田医療技術専門学校助産学科教育主任)
 看護関係資料集によると,全国の大学,大学院以外の基礎看護教育機関養成所数は,平成25年度で773校あり,2008(平成20)年の707校から66校増加している。そのうち3年課程養成所は565校で73.1%を占め,臨床現場の看護マンパワー育成としては現在も存在感が高い。

 本書は,このような3年課程の基礎看護教育現場で,「母性看護学論」「妊婦・産婦の看護」「褥婦・新生児の看護」「周産期にあるハイリスク時の看護」および「母性看護実習」を学科目とした授業設計を,実にコンパクトに精選された構成でまとめられている。

 母性看護学は,ほかの教科のような問題解決志向とは異なり,ウェルネス志向であるという特殊性がある。本書はそのことを何度も強調しつつ,母性看護学教員に必要な授業設計の基礎理論と,授業設計を学習する新人教員や臨床実習指導者,そして,立場をかえた教育実習担当教員が共有できる実用書として大いに活用できる内容となっている。

 とりわけ,「母性看護学論」「妊婦・産婦の看護」「褥婦・新生児の看護」「周産期にあるハイリスク時の看護」の授業案から,母性看護の基礎知識を統合するための「母性看護実習」のレディネスを高め,臨床実習への適応を助長するための学内演習の授業案および成績評価の実施方法までが組み込まれ,母性看護教育の現場でただちに用いることができる。

 注目すべきは,ウェルネス診断を用いた看護過程を実にわかりやすく記述し,看護過程で必要な母性看護各期の対象の診断過程の記録用紙から,ケア計画のための記録用紙に至るまで,第1章から第6章までに,説得力ある資料が惜しげなく組み込まれていることである(35種)。

 学習者である看護学生の効力感や到達感の高い学習過程を担保する母性看護学を担当する教員にとって,価値ある参考書である。特に,教員養成課程の学習を経ないまま4年生大学看護教育課程の助手・助教として入職した新人教員にとっては,得がたい参考書である。

 本書は,1971(昭和46)年度から,歴史的に長きにわたり貢献してきた東京都看護教員養成講座の流れを受け継ぐ東京都立看護専門学校幹部母性看護学教員である執筆者グループが,5年という長い期間,忍耐強く積み上げ学習された専門分野の授業設計に関する検討結果であり,指導者である青木康子先生がスーパーバイザーとして監修された珠玉の一冊である。

(『看護教育』2014年9月号掲載)

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