公衆衛生実践キーワード
地域保健活動の今がわかる明日がみえる

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公衆衛生活動の実践場面では、さまざまなキーワードがあふれている。厚生労働省の通知・指針に登場する新語・カタカナ語、近年語義が変化している用語など、公衆衛生活動を実践するうえで知っておくべき用語は少なくない。公衆衛生活動の実践者が、こうした用語の意味を十分に理解して共通認識し活動できるよう、公衆衛生・地域保健の“旬なキーワード”をわかりやすく解説する。
編集 鳩野 洋子 / 島田 美喜
発行 2014年10月判型:A5頁:208
ISBN 978-4-260-02044-2
定価 3,080円 (本体2,800円+税)

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はしがき

 本書の発端は,編者らの会話の中で,「最近,『ソーシャルキャピタル』が保健医療福祉従事者の間でよく使われているが,人によってその意味することがかなり違う」という話が出たことであった。数え始めるとそのような言葉がたくさんあることに改めて気がついた。
 実のところ,この問題意識は10年以上前にも持ったことがあり,それは2002年に医学書院から発刊された『いまを読み解く保健活動のキーワード』として形になった。この本は意図したとおり実践者が主要な読者であったが,それ以外に当該領域の教育者が,実践に即したことを教えるうえで,または学生が学ぶうえでの手引きとして活用されたようである。
 それから10年以上が経過し,さまざまな新しい言葉が公衆衛生領域で用いられるようになった。新しい言葉の広がりは,言葉にしづらかった実践現場で生じている事象に関して,その言葉を使うことによって事象に輪郭が与えられ,他者とも事象を共有できやすくなることを背景にしているように思われる。別の角度からみれば,広く使われている言葉を知ることは,実践現場での焦点を知ることにつながるともいえるだろう。そう考えると,時代にあった内容の書籍が必要という考えにいたった。
 用語の選定にあたっては,まず編者2名で用語の抽出を行った。この段階では編者の感覚に頼った部分があったが,次の段階において各領域のまとめをしていただいた先生方から,当該領域において不足していると考えられる用語を提示いただき,最終的に編者が決定した。この際,すでに用語にかかわる確立した成書等が多数あるものに関しては含めなかった。たとえば研究の項において疫学研究に関する用語が入っていないのはそのためである。「実践キーワード」というタイトルに即した用語を選定することに努めたつもりではあるが,十分でない部分があればそれは編者の責任である。
 各領域のまとめ役の先生方のお力もあり,最終的には当該用語にかかわる研究に今まさに取り組んでおられる先生方に執筆していただくことができた。この本が,公衆衛生活動にかかわる実践者や教育・研究者,公衆衛生を志す学生に,公衆衛生活動を理解したりコミュニケーションを促進したりするツールとして活用されることが編者の願いである。

 鳩野洋子

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A 公衆衛生活動の基本となる考え方・理念
 ヘルスプロモーション
 プライマリヘルスケア
 社会的公正
 QOL
 エンパワメント

B 施策・しくみ
 健康日本21
 健やか親子21
 食育
 食環境整備
 食品分野におけるリスクアナリシス
 健康づくりのためのガイドライン
 地域包括ケアシステム
 地域連携クリティカルパス
 地域職域連携推進
 統括保健師

C 活動のサイクル
 地域診断(地区診断)
 行動変容ステージモデル
 アドボカシー
 保健事業の業務委託
 行政評価・政策評価
 保健サービスの質の評価
 医療費分析
 へルスインパクトアセスメント

D コミュニティづくり
 ソーシャルキャピタル
 自助・共助・公助
 日常生活圏域
 ソーシャルサポート
 健康の社会的決定要因
 地域組織・住民組織
 レジリアンス

E 親子保健
 ライフスキル
 子供のアレルギー
 発達障害
 特別支援教育
 児童虐待
 社会的ひきこもり

F 成人・高齢者保健
 メタボリックシンドローム対策
 生活機能
 認知症ケア
 高齢者虐待
 セルフ・ネグレクト
 社会的孤立
 老年症候群
 MCI(Mild Cognitive Impairment)
 ロコモティブシンドローム

G 精神保健
 自殺対策
 新型うつ病
 トラウマとメンタルヘルス
 睡眠障害
 アルコール・薬物問題

H 健康危機管理
 健康危機管理
 災害対策
 自然災害および大規模人為災害
 原子力災害
 迅速評価(ラピッド・アセスメント)
 サイコロジカル・ファーストエイド
 リスクコミュニケーション
 事業継続計画
 テロリズム対策(生物・化学)

I 感染症対策
 感染症のアウトブレイク
 予防接種とVPD
 結核対策:DOTS戦略
 新型インフルエンザ対策
 ウイルス性肝炎対策

J 環境
 粒子状物質/PM2.5
 DOHaD
 タバコ対策
 水中の健康影響因子
 放射線の健康影響
 環境リスク評価
 地球温暖化

K 倫理
 インフォームド・コンセント,インフォームド・チョイス,
  インフォームド・ディシジョン
 遺伝カウンセリング
 個人情報保護と研究倫理指針
 先端医療と倫理
 生殖技術と倫理

L 研究
 EBMとEBPH
 質的研究
 エスノグラフィー
 グラウンデッドセオリー
 CBPR
 概念分析

 索引

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公衆衛生実践者にとっての必読の参考書
書評者: 柳川 洋 (自治医大名誉教授/埼玉県立大名誉教授)
 最近,公衆衛生分野でも,さまざまな新しい言葉が使われるようになった。特にカタカナ言葉,例えば,ソーシャルキャピタル,ヘルスプロモーション,アドボカシー,エンパワメント,クリティカルパス,リスクコミュニケーション……など,枚挙にいとまがない。

 中でも,このところよく話題になる「ソーシャルキャピタル」。これは古くから使われている言葉であるが,わが国の公衆衛生分野の人たちが使うようになったのは,つい最近のことである。ソーシャルキャピタルのような言葉は,一種の流行語的な特徴を持ち,多くの人が使ってはいるが,必ずしもその内容を正しく理解しているわけではない。カタカナ言葉は,適切な日本語訳が見つからないために,そのまま原文の発音をカタカナにしていることもあって,人によって少しずつ異なった意味で使われているようである。

 鳩野洋子・島田美喜編集『公衆衛生実践キーワード-地域保健活動の今がわかる明日がみえる』は,この点をすっきりと解決する作品であると言っても過言ではない。全体を12領域に分けて,それぞれの領域の第一人者が,よく使われてはいるが正しく理解されていない言葉を精選し,それら各キーワードについて「定義・語義」「歴史・背景」「解説」をわかりやすく執筆し,その上,もっと知りたい人のための関連文献・資料のリストまで掲げている。

 一つの言葉を,人によって異なった意味で理解していると,それが原因で誤解が生じたり,議論がかみ合わなくなったりする。この際,公衆衛生のキーワードをきちんと定義し,共通の認識に立って使ってもらう必要があると思う。その意味で,本書は,この問題を解決する画期的な好著であり,まさに公衆衛生実践者にとって,必読の参考書ということができる。

 医学系,保健医療福祉系の大学,専門学校の教科書としても,ぜひお薦めしたい。学生はもとより,教師にとっても一度はきちんと,本書に取り上げられている言葉の正しい意味を理解してほしい。私自身も本書を読ませていただき,多くのことを学ぶことができた。特に一つひとつの言葉についての歴史・背景は大変参考になった。

 編者らは,このような参考書の必要性をすでに10年以上も前に感じられ,前著『いまを読み解く保健活動のキーワード』として発刊していた。このたび,それをさらに発展させる形で本書を刊行されたことは,まさに時宜を得た貴重な企画である。本書を企画し生み出した,センスと努力に対して,公衆衛生を学んできた先輩の一人として,心から敬意を表したい。

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