作業療法がわかる
COPM・AMPS実践ガイド

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作業療法の現場における評価ツールとして、今や完全に定着したCOPMおよびAMPS、またESIを臨床で実践するためのガイドブック。編者の前著 『作業療法がわかる COPM・AMPSスターティングガイド』 (医学書院、2008年)でCOPMやAMPSの概要はわかったけれども上手く使いこなせていない作業療法士に向けて、様々なクライエント/疾患/場面による事例を織り交ぜながらわかりやすく「作業」についてガイドする。
編集 吉川 ひろみ / 齋藤 さわ子
発行 2014年06月判型:B5頁:216
ISBN 978-4-260-02013-8
定価 4,180円 (本体3,800円+税)

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 2008年に出版された『作業療法がわかる COPM・AMPSスターティングガイド』(医学書院)でCOPMとAMPSという評価法を知った皆さんに,その使い方を学んでほしいと考えて本書をまとめました。第1章では,COPMをうまく使えるように,作業に関連する事柄について説明しました。第2章では,AMPSに代表される遂行分析の特性を述べています。第3章から第5章は,作業療法で使われる3種の介入方針を示し,事例を掲載しています。作業をできるようにするという作業療法の目標を達成する方法には,環境を変えてできるようにする「代償モデル」(第3章),できるようになりたい作業を練習する「習得モデル」(第4章),作業を通して心身機能が回復するようにする「回復モデル」(第5章)があります。第6章は,作業療法の進め方とモデルの選択方法について書きました。第7章は事例で,経験1年目から約30年目までの幅広い年代の作業療法士が書きました。クライエントは子どもから高齢者まで,疾患や障害も様々で,作業療法が行われた場所も,家,学校,病院,施設と多様です。家族や学校の教員を対象とした事例も掲載されています。
 前著スターティングガイドの出版から6年。この間に「意味のある作業」,「作業に焦点を当てる」,「作業で元気になる」といったフレーズを聞くようになりました。作業療法士が使う言葉が「作業活動」から「作業」へ変化しつつあります。日本作業療法士協会による作業療法の定義の改定も始まりました。日本に作業療法が輸入されてから約50年。歴史を振り返り未来を展望することができるようになったのでしょう。2013年の米国作業療法協会の講演で,グレン・ギレン氏は七つのタイプの物語を紹介しました。それは,怪物退治(ジャックと豆の木など),貧乏から金持ちへ(シンデレラなど),冒険(ドン・キホーテなど),喜劇(コメディー),悲劇(リア王など),生まれ変わり(クリスマス・キャロルなど),航海と帰還(ガリバー旅行記など)です。彼は米国の100年にわたる作業療法の歴史を,航海と帰還の物語に例えました。1920年代の片麻痺の作業療法の事例報告には,患側を使って財布を三つ作り,日常生活でも患側の手を繰り返し使うよう指導したという記載があるそうです。その後,正常運動の促進や異常運動の抑制といった作業療法とは別の世界へ旅に出ます。別世界で行われている治療法を科学的で洗練されているように感じたのです。そして現在,片麻痺の治療は,課題を使って(task-oriented),繰り返し使う(CI療法)ことが効果的だというエビデンスがあります。片麻痺の運動障害が回復するだけでなく,脳も回復するというのです。
 物語のタイプでいうと,私の作業療法の物語は「冒険」です。どこが治療なのかわからない変なもの,何で給料をもらっているのかわからない仕事,けれどもどこか魅力的な作業療法の正体を探し求めているのです。25歳で前職を辞めた時,同僚に理由を聞かれて「宝探し」と答えたのを覚えています。COPMに出会った時は,これが宝に近づく道になるとは思いもしませんでした。COPMを使い続けると,霧が晴れたり曇ったりしながら,細く長い道が見えてきました。AMPSを知った時は,これで金脈をつかめるかもしれないと思いました。使えるようになるまでは大変でしたが,景色がはっきりしてきました。COPMとAMPSは作業療法という宝を掘り当てる旅を助けてくれる道具なのです。途中で作業科学にも出会いました。宝探しが私の仕事だとすれば,作業科学はレジャーです。仕事だけをしているよりも,レジャーの時間を持つことで,仕事に余裕と幅が生まれます。レジャーだけを一生懸命頑張っても,仕事が上手にできるようになることはありません。
 齋藤さわ子さんの作業療法の物語は「怪物退治」でしょうか。彼女も作業療法の本質を探ろうとしていましたが,様々な怪物(壁)が立ちはだかります。最初は英語でしたが,彼女は語学留学で壁を打ち破ります。次は日本にAMPSを紹介した時の抵抗です。名称や技能項目名の訳出,講習会開催や研究会発足には苦労が伴いましたが,強力な援軍を得て頑張りました。AMPS講習会を受講して認定評価者になっても,日常の実践でAMPSを使おうとしない作業療法士がいます。セラピスト主導の疾患中心の実践を迫る“怪物”に押し潰されそうになっているのです。COPMやAMPS,クライエント中心に対する誤解もあります。この物語には私も登場して一緒に戦っています。怪物がいたら,遠回りだけど邪魔をされない道を探したり,食べたら作業の力がわかるようになる種をまいたりしながら,一緒に旅をしているのです。自分の中にいる怪物に出くわすこともあります。本書を読んで,作業の力を信じ,作業中心の実践をするかどうかを決めてください。私たちの武器は,COPMとAMPSです。新開発のESIも使えます。OTIPMは道を作る戦車です。COPMもAMPSも道具なので,使い方に慣れると上手に使えます。
 人が作業を行うこと,作業をどのように行うかということ,自分で行わなくても作業に結び付くことに正面から取り組める作業療法という仕事を心底素晴らしいと思っています。人は作業を経験することで,その作業ができるようになります。作業には力があります。作業をすることを通して,人は気付き,考え,学び,成長することができます。できないのは慣れていないだけ。案ずるより産むがやすし。とにかく実践してみてください。そして続けましょう。私たちの旅はこれからも続きます。

 2014年5月
 吉川ひろみ

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第1章 作業的存在としての理解-みんな違う
 1 自分の作業
 2 多様性を基盤とする作業療法
 3 自分らしい作業の見つけ方
 4 作業遂行と作業との結び付き
 5 作業の意味
 6 COPM Q&A

第2章 作業遂行分析-やってみないとわからない
 1 クライエント中心の遂行文脈を理解する重要性
 2 作業遂行と心身機能障害との関係
 3 目的指向的行為と遂行技能
 4 遂行技能習得は課題特異的
 5 作業遂行能力向上への効果的な分析・評価と介入
 6 作業を用いた観察評価を実施する作業療法士と環境的制約
 7 簡単すぎる課題を用いた評価の問題
 8 AMPS,スクールAMPSおよびESI Q&A

第3章 代償モデル-環境を変える
 1 治療優先という考え
 2 代償のほうが効率的
 3 適応ストラテジー
 4 事例:保育園での作業

第4章 習得モデル-練習する
 1 教育と学習
 2 作業技能の習得
 3 運動技能の習得と認知的アプローチ
 4 事例:一人暮らしのための掃除と料理

第5章 回復モデル-人を変える
 1 治療手段としての作業
 2 目的としての作業
 3 回復を促進する作業の力
 4 事例:手をよくするための彫刻と背中洗い

第6章 モデルの選択-考えながら行動する
 1 作業療法の専門性
 2 作業療法のプロセスを導くモデル
 3 介入モデルの選択
 4 作業療法士が使う技能

第7章 作業療法プロセス-評価も介入も記録も作業で
 ○ 急性期から自分らしく:発症5日目から散歩の練習
 ○ 家事と書道:もっとできるようになるまで諦めない
 ○ 回復期リハビリテーション病棟での就労支援
 ○ 昼食準備と野球が楽にできるように
 ○ 転倒せずに畑仕事をする
 ○ プラモデル製作からの挑戦
 ○ リカバリーを促進した母への面会
 ○ 幼い2人の子どもを抱えた夫婦への支援
 ○ 地域でいきいき過ごすための介護予防
 ○ 食事の自立とシール遊び
 ○ 先生にとっての児童との交流
 ○ 最後の作品展への参加

付録
 1 COPMであがる作業の例
 2 AMPS(運動,プロセス)とESI(社会交流)の遂行技能項目
 3 事例報告を読む・書くポイント
 4 関連文献
 5 用語解説

 あとがきに代えて
 索引

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事例が魅力的な作業療法らしい作業療法の実践書
書評者: 村田 和香 (北大大学院保健科学研究院教授・作業療法学)
 作業療法の学びは,クライエントの作業に焦点を置き,作業を基盤とした実践に基づくものにある。そのため,実際の作業療法で展開されている「人間の作業」を理論化,体系化し,それを教育すべきと信じている。作業療法の質を高めることをめざす実践家が,理論を具現化して作業療法実践ができるように教育したい。しかし,本当にクライエント中心で,作業に焦点を当てた実践がなされているのだろうかと不安を覚えるときがある。そんなときに,私は原点に戻るため,自らの実践理論を確認する。

 本書は2008年に出版された『作業療法がわかる COPM・AMPSスターティングガイド』の発展版である。発展版といっても,本書から先に読んでも何ら問題はない。というより,先に読むと良い。作業を可能にする目標を達成するために,どのように進めモデルを選択するかが示されている事例が魅力的だ。また,平易な言葉が選ばれているが,中身は決して簡単ではない。手軽に学ぶのではなく,しっかり学ぶ必要性を感じさせてくれる。見よう見まねでできることでも,いいとこ取りでもない。真面目に取り組むことによって,いっそう良い結果が待っているところが痛快である。作業について聴くこと,作業遂行を観察することが作業療法らしい作業療法実践につながる。そんな信念が伝わる書である。

 作業療法は実学である。実学とは,単に日常に役立つ学問ということではないと思う。事象の真の姿を理解し,それに基づいて自ら判断することが必要だ。経済や社会の構造が大きな変貌を遂げようとしている現在,作業療法の世界もまた,大きな変化の中にある。専門家による介入が成功したかどうかを決めるのは,その介入を必要としたクライエントであるという認識に変わってきている。クライエント中心,作業の概念が変化している。これまでの構造の下で支配的であった概念や思想などは,時に通用しなくなる。基本概念が変わることを受け入れるために,情報の知り方にはいくつか種類があることを知っておくことも必要である。

 つまり,このような大変化の時代には,実学の精神に立ち返り,自分の頭で考えることが求められる。新しい状況を正しく判断し,自らのなすべきことを的確に選択していくことが大切である。言い換えると,自ら問題を見つけ,その問題を説明し得る仮説を作り,その仮説をきちんと検証し,結論に導く。そして,その実証された結論に基づいて問題を解決していく。そんな挑戦のひとつと感じる。

 編集の吉川ひろみ,齋藤さわ子両人は「案ずるより産むがやすし」,「やってみないとわからない」という。確かにそうであるが,クライエントとのコラボレーションがなければ成立しない。そして,そこには作業を信ずる信念がある。

 本書は先の本よりも装丁がシンプルなのがまた良い。中身が気になる。見返しの鮮やかな緑と潔いほどのシンプルさが作業をイメージするのにマッチしている。
理念と手段を明示した,意味ある作業療法の実践書
書評者: 大橋 秀行 (埼玉県立大教授・作業療法学)
 本書は,COPM(カナダ作業遂行測定)とAMPS(運動とプロセス技能評価)という評価法をどう使って作業療法を実践するかについて書かれた本である。COPMは,患者が生活の中の作業について,自身の価値観に基づいて患者自身が評価する方法である。AMPSは,患者が一人一人の異なった生活の中で作業がうまくできるかどうかを認定された作業療法士が評価する方法である。

 COPMやAMPSは評価法であるから,実際にどのように介入して,作業療法としてどのような結果を出したかがわからないと,なぜCOPMやAMPSが良いのかがわからない。そういう意味では,本書全体の約4割のページ数を割いたさまざまな分野の多数の事例から読み始めることも良いと思う。

 現在,日本作業療法士協会は,作業療法の定義を約50年ぶりに新たにしようと検討中である。新しい定義を検討するうえで,インパクトを与えているのは,本書が取り上げているCOPMやAMPSに寄って立つ考え,つまり,当事者にとって意味のある作業が生活の中で継続してできることに焦点を当てる作業療法の考え方であり実践である。医学的な意味の機能改善の手段として作業を使用するというこれまでの作業療法の定義とは異なる考え方である。私事だが,2011年の第45回日本作業療法学会の学会長をさせていただいた際に,テーマを「意味のある作業の実現」としたが,開催の準備期間中や開催後も,このテーマの主旨を重要視する人たちや社会的な動きが,一見無関係にいくつも存在することを知って驚いた経験がある。これは何か大きな必然性があるのではないかと思わざるを得なかった。もっといえば,COPMやAMPSを開発した作業療法士たちの思いや考えの底にも流れている時代の潮流が存在するような感慨を持った。それは,作業療法の世界にとどまらないもので,還元主義批判や客観的真理と価値観との関係性をめぐるような哲学的な認識の変化であるような気がする。

 個々の作業療法士は,明確な作業療法の定義を自覚して日々の業務を行っているわけではない。新たな定義が権威ある組織から提出されても,個々の作業療法士が劇的に考え方や行動を変えるような事態は実際には起こらないだろう。むしろ,すでに行っている臨床的な活動の土台にある自身の考えを意識的に考えてみると,そこに,自覚していなかった新しいパラダイムがあったと気付き,他者と共有できる言葉を自分のものにすることができたり,意識的に実践を変化させたりすることが現実であろう。

 読書も本質的には他人との議論である。本書を読みながら,あらためて作業療法とは何かを問い,またその実践の基礎にある考え方についての重要な議論に参加できる。多彩な事例報告を読むことで直感的に,それは良いと感じて後で自覚的な考えが生まれることもあるだろう。

 理念と手段は車の両輪となって,現状を変えていく。単にCOPMやAMPSを実施さえすればいいわけでもないし,理念だけ唱えても具体的な手法を展開しないままでは進まない。本書は,理念を意識しつつ,それに基づく実践を可能にするために開発された二つの道具をどう生かして介入を行ったかを示している。患者や利用者にとって自分の実践がどう役立つかを真摯〈しんし〉に考えている作業療法士に大いに役に立つだろう。

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