黄斑疾患診療AtoZ
黄斑疾患診療を「アップデート」するためのコンプリートテキスト
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眼科診療のエキスパートを目指すための好評シリーズの1冊。病態理解、診断、治療のいずれにおいても近年著しい進歩が認められる黄斑疾患について、最新型OCTや広角眼底カメラなどの画像をふんだんに用いながら、現時点での最新の知見・診療スタイルを網羅。疾患各論の随所に豊富な症例を盛り込み、実臨床に直結した情報を提示した。日進月歩の黄斑疾患学をアップデートするために、すべての眼科医必読の最新スタンダード。
シリーズ | 眼科臨床エキスパート |
---|---|
シリーズ編集 | 𠮷村 長久 / 後藤 浩 / 谷原 秀信 / 天野 史郎 |
編集 | 岸 章治 / 𠮷村 長久 |
発行 | 2014年04月判型:B5頁:444 |
ISBN | 978-4-260-01940-8 |
定価 | 18,700円 (本体17,000円+税) |
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- 序文
- 目次
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序文
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眼科臨床エキスパートシリーズ 刊行にあたって/序
眼科臨床エキスパートシリーズ 刊行にあたって
近年,眼科学の進歩には瞠目すべきものがあり,医用工学や基礎研究の発展に伴って,新しい検査機器や手術器具,薬剤が日進月歩の勢いで開発されている.眼科医は元来それぞれの専門領域を深く究める傾向にあるが,昨今の専門分化・多様化傾向は著しく,専門外の最新知識をアップデートするのは容易なことではない.一方で,quality of vision(QOV)の観点から眼科医療に寄せられる市民の期待や要望はかつてないほどの高まりをみせており,眼科医の総合的な臨床技能には高い水準が求められている.最善の診療を行うためには常に知識や技能をブラッシュアップし続けることが必要であり,巷間に溢れる情報の中から信頼に足る知識を効率的に得るツールが常に求められている.
このような現状を踏まえ,我々は≪眼科臨床エキスパート≫という新シリーズを企画・刊行することになった.このシリーズの編集方針は,現在眼科診療の現場で知識・情報の更新が必要とされているテーマについて,その道のエキスパートが自らの経験・哲学とエビデンスに基づいた「新しいスタンダード」をわかりやすく解説し,明日からすぐに臨床の役に立つ書籍を目指すというものである.もちろんエビデンスは重要であるが,本シリーズで目指すのは,エビデンスを踏まえたエキスパートならではの臨床の知恵である.臨床家の多くが感じる日常診療の悩み・疑問へのヒントや,教科書やガイドラインには書ききれない現場でのノウハウがわかりやすく解説され,明日からすぐに臨床の役に立つ書籍シリーズを目指したい.
各巻では,その道で超一流の診療・研究をされている先生をゲストエディターとしてお招きし,我々シリーズ編集者とともに企画編集にあたっていただいた.各巻冒頭に掲載するゲストエディターの総説は,当該テーマの「骨太な診療概論」として,エビデンスを踏まえた診療哲学を惜しみなく披露していただいている.また,企画趣旨からすると当然のことではあるが,本シリーズの執筆を担うのは第一線で活躍する“エキスパート”の先生方である.日々ご多忙ななか,快くご編集,ご執筆を引き受けていただいた先生方に御礼申し上げる次第である.
本シリーズがエキスパートを目指す眼科医,眼科医療従事者にとって何らかの指針となり,目の前の患者さんのために役立てていただければ,シリーズ編者一同,これに勝る喜びはない.
2013年2月
シリーズ編集 吉村長久,後藤 浩,谷原秀信,天野史郎
序
≪眼科臨床エキスパート≫の後眼部シリーズとして,『糖尿病網膜症診療のすべて』に続いて『黄斑疾患診療 A to Z』をお届けします.黄斑疾患は,過去10年間に病態理解,診断,治療のすべての面で大きな進歩があり,今もその進歩が継続している,まさに現代眼科学の華といっても差し支えない領域です.現在進行形で進歩が見られる領域を文章にまとめることは容易ではありません.また,「黄斑疾患」に含まれる疾患は,頻度の高いものから,極めて稀なものまで多種多様であり,そのすべてを一冊の本にまとめることはほぼ不可能です.しかし,日本語で初学者から網膜硝子体疾患専門医まで広く利用できるような成書を世に問うことには大きな意義があると考え,本書を編集・執筆しました.
黄斑疾患の代表的な教科書にGassの “Stereoscopic Atlas of Macular Disease” があります.この素晴らしい教科書は,黄斑疾患を専門とする眼科医は常に座右に置くべきスタンダードです.しかし,日常的にこの教科書を紐解いて精読することができる先生は多くはないと思います.また,日本人の黄斑疾患には欧米の白人とは異なった疾患頻度があり,疾患の重要度は自ずと白人とは異なります.本書では執筆者の先生にいろいろとご無理をお願いして,進歩著しい黄斑疾患の最新の診断,治療について,画像をふんだんに使用しながらわかりやすく提示することを試みました.
≪眼科臨床エキスパート≫シリーズでは,眼科診療の現場で知識・情報の更新が必要とされるテーマについて,その道のエキスパートが自らの経験・哲学とエビデンスに基づいた「新しいスタンダード」をわかりやすく解説して,明日からの臨床の役に立つ書籍を目指しています.この『黄斑疾患診療 A to Z』も≪眼科臨床エキスパート≫シリーズの趣旨にのっとり,明日からの黄斑疾患診療に役立つことはもちろん,黄斑疾患診療のエキスパートのフィロソフィーが随所にちりばめられています.各項目を拾い読みしていただくことはもちろん嬉しいのですが,通読していただければ,編者の幸いこれに勝るものはありません.
最後になりましたが,いつものように医学書院の関係者の皆様には大変お世話になりました.
2014年2月
編集 岸 章治,吉村長久
眼科臨床エキスパートシリーズ 刊行にあたって
近年,眼科学の進歩には瞠目すべきものがあり,医用工学や基礎研究の発展に伴って,新しい検査機器や手術器具,薬剤が日進月歩の勢いで開発されている.眼科医は元来それぞれの専門領域を深く究める傾向にあるが,昨今の専門分化・多様化傾向は著しく,専門外の最新知識をアップデートするのは容易なことではない.一方で,quality of vision(QOV)の観点から眼科医療に寄せられる市民の期待や要望はかつてないほどの高まりをみせており,眼科医の総合的な臨床技能には高い水準が求められている.最善の診療を行うためには常に知識や技能をブラッシュアップし続けることが必要であり,巷間に溢れる情報の中から信頼に足る知識を効率的に得るツールが常に求められている.
このような現状を踏まえ,我々は≪眼科臨床エキスパート≫という新シリーズを企画・刊行することになった.このシリーズの編集方針は,現在眼科診療の現場で知識・情報の更新が必要とされているテーマについて,その道のエキスパートが自らの経験・哲学とエビデンスに基づいた「新しいスタンダード」をわかりやすく解説し,明日からすぐに臨床の役に立つ書籍を目指すというものである.もちろんエビデンスは重要であるが,本シリーズで目指すのは,エビデンスを踏まえたエキスパートならではの臨床の知恵である.臨床家の多くが感じる日常診療の悩み・疑問へのヒントや,教科書やガイドラインには書ききれない現場でのノウハウがわかりやすく解説され,明日からすぐに臨床の役に立つ書籍シリーズを目指したい.
各巻では,その道で超一流の診療・研究をされている先生をゲストエディターとしてお招きし,我々シリーズ編集者とともに企画編集にあたっていただいた.各巻冒頭に掲載するゲストエディターの総説は,当該テーマの「骨太な診療概論」として,エビデンスを踏まえた診療哲学を惜しみなく披露していただいている.また,企画趣旨からすると当然のことではあるが,本シリーズの執筆を担うのは第一線で活躍する“エキスパート”の先生方である.日々ご多忙ななか,快くご編集,ご執筆を引き受けていただいた先生方に御礼申し上げる次第である.
本シリーズがエキスパートを目指す眼科医,眼科医療従事者にとって何らかの指針となり,目の前の患者さんのために役立てていただければ,シリーズ編者一同,これに勝る喜びはない.
2013年2月
シリーズ編集 吉村長久,後藤 浩,谷原秀信,天野史郎
序
≪眼科臨床エキスパート≫の後眼部シリーズとして,『糖尿病網膜症診療のすべて』に続いて『黄斑疾患診療 A to Z』をお届けします.黄斑疾患は,過去10年間に病態理解,診断,治療のすべての面で大きな進歩があり,今もその進歩が継続している,まさに現代眼科学の華といっても差し支えない領域です.現在進行形で進歩が見られる領域を文章にまとめることは容易ではありません.また,「黄斑疾患」に含まれる疾患は,頻度の高いものから,極めて稀なものまで多種多様であり,そのすべてを一冊の本にまとめることはほぼ不可能です.しかし,日本語で初学者から網膜硝子体疾患専門医まで広く利用できるような成書を世に問うことには大きな意義があると考え,本書を編集・執筆しました.
黄斑疾患の代表的な教科書にGassの “Stereoscopic Atlas of Macular Disease” があります.この素晴らしい教科書は,黄斑疾患を専門とする眼科医は常に座右に置くべきスタンダードです.しかし,日常的にこの教科書を紐解いて精読することができる先生は多くはないと思います.また,日本人の黄斑疾患には欧米の白人とは異なった疾患頻度があり,疾患の重要度は自ずと白人とは異なります.本書では執筆者の先生にいろいろとご無理をお願いして,進歩著しい黄斑疾患の最新の診断,治療について,画像をふんだんに使用しながらわかりやすく提示することを試みました.
≪眼科臨床エキスパート≫シリーズでは,眼科診療の現場で知識・情報の更新が必要とされるテーマについて,その道のエキスパートが自らの経験・哲学とエビデンスに基づいた「新しいスタンダード」をわかりやすく解説して,明日からの臨床の役に立つ書籍を目指しています.この『黄斑疾患診療 A to Z』も≪眼科臨床エキスパート≫シリーズの趣旨にのっとり,明日からの黄斑疾患診療に役立つことはもちろん,黄斑疾患診療のエキスパートのフィロソフィーが随所にちりばめられています.各項目を拾い読みしていただくことはもちろん嬉しいのですが,通読していただければ,編者の幸いこれに勝るものはありません.
最後になりましたが,いつものように医学書院の関係者の皆様には大変お世話になりました.
2014年2月
編集 岸 章治,吉村長久
目次
開く
第1章 総説
黄斑疾患の診療概論
第2章 総論
I 黄斑の解剖学
II 網膜硝子体界面の解剖学
III 診断手技
A 検眼鏡検査
B 細隙灯顕微鏡検査
C 眼底自発蛍光検査
D 蛍光眼底造影検査
E 光干渉断層計
第3章 各論
I 網膜硝子体界面病変
A 黄斑円孔
B 黄斑前膜
C 黄斑パッカー
D ピット黄斑症候群
II 中心性漿液性脈絡網膜症
A 中心性漿液性脈絡網膜症
B 多発性後極部色素上皮症
III 加齢黄斑変性
A 疫学
B 病態生理
C 遺伝子多型
D ドルーゼン
E 網膜色素上皮色素異常
F 網膜色素上皮剥離
G 網膜色素上皮裂孔
H 萎縮型加齢黄斑変性
I 典型加齢黄斑変性
J ポリープ状脈絡膜血管症
K 網膜内血管腫状増殖
L 加齢黄斑変性の治療
1 手術
2 光凝固術
3 光線力学療法
4 ベバシズマブ
5 ペガプタニブ
6 ラニビズマブ
7 アフリベルセプト
8 光線力学療法とVEGF阻害薬の併用
9 萎縮型加齢黄斑変性の治療
M Malattia Leventinese(常染色体優性放射状ドルーゼン)
N 多発性一過性白点症候群
IV 特発性傍中心窩毛細血管拡張症
V 近視とその類縁疾患
A 近視
B Dome-Shaped MaculaとInferior Staphyloma
C 傾斜乳頭症候群
VI 特発性脈絡膜新生血管
VII 網膜色素線条
VIII 炎症性黄斑疾患
A 点状脈絡膜内層症
B 地図状脈絡膜炎
IX 網膜変性症
A Best病と成人発症卵黄様黄斑ジストロフィ
B Stargardt病
C 錐体ジストロフィ
D 網膜色素変性
E 白点状眼底
F クリスタリン網膜症
G 若年性網膜分離症
H 腫瘍関連網膜症
I 小口病
J Occult Macular Dystrophy
和文索引
欧文・数字索引
黄斑疾患の診療概論
第2章 総論
I 黄斑の解剖学
II 網膜硝子体界面の解剖学
III 診断手技
A 検眼鏡検査
B 細隙灯顕微鏡検査
C 眼底自発蛍光検査
D 蛍光眼底造影検査
E 光干渉断層計
第3章 各論
I 網膜硝子体界面病変
A 黄斑円孔
B 黄斑前膜
C 黄斑パッカー
D ピット黄斑症候群
II 中心性漿液性脈絡網膜症
A 中心性漿液性脈絡網膜症
B 多発性後極部色素上皮症
III 加齢黄斑変性
A 疫学
B 病態生理
C 遺伝子多型
D ドルーゼン
E 網膜色素上皮色素異常
F 網膜色素上皮剥離
G 網膜色素上皮裂孔
H 萎縮型加齢黄斑変性
I 典型加齢黄斑変性
J ポリープ状脈絡膜血管症
K 網膜内血管腫状増殖
L 加齢黄斑変性の治療
1 手術
2 光凝固術
3 光線力学療法
4 ベバシズマブ
5 ペガプタニブ
6 ラニビズマブ
7 アフリベルセプト
8 光線力学療法とVEGF阻害薬の併用
9 萎縮型加齢黄斑変性の治療
M Malattia Leventinese(常染色体優性放射状ドルーゼン)
N 多発性一過性白点症候群
IV 特発性傍中心窩毛細血管拡張症
V 近視とその類縁疾患
A 近視
B Dome-Shaped MaculaとInferior Staphyloma
C 傾斜乳頭症候群
VI 特発性脈絡膜新生血管
VII 網膜色素線条
VIII 炎症性黄斑疾患
A 点状脈絡膜内層症
B 地図状脈絡膜炎
IX 網膜変性症
A Best病と成人発症卵黄様黄斑ジストロフィ
B Stargardt病
C 錐体ジストロフィ
D 網膜色素変性
E 白点状眼底
F クリスタリン網膜症
G 若年性網膜分離症
H 腫瘍関連網膜症
I 小口病
J Occult Macular Dystrophy
和文索引
欧文・数字索引
書評
開く
新しい知見が余すところなく解説された眼科医必携の書
書評者: 石田 晋 (北大大学院教授・眼科学)
『黄斑疾患診療AtoZ』は,網膜のメッカである群馬大と京大のスタッフによる意欲的な作品です。まず,編集者のお一人である岸章治教授の総説で始まりますが,最初から吸い込まれるように一気に読んでしまいました(とはいえ足掛け3日かかる長編です)。私が網膜疾患を専門に志した20年くらい前は,黄斑円孔の成因や黄斑前膜の実体,糖尿病網膜症におけるけん引のパターンなど数多くの謎がありました。それらの疑問を一網打尽に氷解させたのが,岸ポケット(後部硝子体皮質前ポケット)でした。しかし当時の日常診療における検査法ではなかなか可視化することができず,網膜硝子体の専門家でないとその存在を実感できない状況でした。現在はOCTの進歩によって(SS-OCTの開発により),岸ポケットをバッチリ可視化して形状解析できるまでになったわけで,隔世の感があります。
このようにOCTや眼底自発蛍光に代表される診断機器の進歩によって,新しい知見が猛烈な勢いで生まれ,新しい病態概念の確立さえ可能となりました。もうお一人の編集者である吉村長久教授が解説するMacTel type 2もその好例で,Müller組織欠損(空洞あれど浮腫なし)と考えられる層状嚢胞様変性をOCTで確認することが診断の決め手です。また,黄斑偽円孔・分層黄斑円孔や中心性漿液性脈絡網膜症など古典的によく知られている黄斑疾患に対しても,新進気鋭の板谷正紀教授,辻川明孝教授らにより,新しく捉えられた疾患機序が余すところなく解説され,「古くて新しい」疾患として見直されています。
本書にはこのほかにも,RPEの上に存在する特殊なドルーゼンであるreticular pseudodrusen,Bruch膜~脈絡膜レベルに局所的な陥没所見を示すfocal choroidal excavation,強度近視眼における黄斑部直下の強膜が突出したdome(band)-shaped maculaなど,診断技術の進歩にともなって注目されるようになった所見が目白押しで,これらを知らずにはもはや生きた化石となってしまうこと間違いありません。さらに,典型加齢黄斑変性やポリープ状脈絡膜血管症をはじめとするさまざまな脈絡膜新生血管疾患についても,抗VEGF療法の登場によってもたらされた診療の革命的な変化と今後の課題なども的確に提示されています。そして,数々の炎症性網膜疾患,網膜変性疾患についても,どの教科書にもまだ書かれていない新しい知見が逐一補充されており,「古くて新しい」疾患として楽しめます。最後に特筆すべきは,一冊を通して眼が奪われるようなきれいな写真が満載で,解説だらけの眠くなる教科書とは違い,ワクワクしながら読める渾身の大作でした。
明日からの黄斑疾患の診療に直結する座右の書
書評者: 高橋 寛二 (関西医大主任教授・眼科学)
わが国の黄斑疾患学の二大碩学,岸章治教授,吉村長久教授の手による『黄斑疾患診療AtoZ』が上梓された。本書は眼科臨床エキスパートシリーズの1冊として編集されたものである。
近年,黄斑疾患学はすさまじい勢いで進歩を遂げ,また診療に携わる眼科医の数も広がりを見せている。評者が黄斑疾患の診療に携わるようになったのは1980年代後半であったが,当時,加齢黄斑変性の治療はレーザー光凝固しかなく,中心窩下新生血管を中心窩ごと凝固していた。その頃,黄斑外来は,視力がほとんど改善しない患者ばかりを診療していたため,密かに「ため息外来」と呼ばれていたものである。当時,日大の松井瑞夫・湯澤美都子両先生による『図説 黄斑部疾患』がすでに出版されてはいたが,黄斑疾患の専門書はまだ少なく,加齢黄斑変性はわが国ではマイナーな疾患であった。その後,わが国でも加齢黄斑変性が増加し,疾患に注目が集まるに従って黄斑疾患に興味を持つ眼科医が増加し始めた。さらにOCT,抗VEGF療法をはじめとする診断・治療の急速な進歩も相まって,若い有望な眼科医たちもこぞって黄斑疾患の診療に携わるようになり,加齢黄斑変性は学会でも「華」の疾患の一つとなった。本書はこのような黄斑疾患学の進歩をひしひしと実感させてくれる新しいスタンダードテキストといえる。
編者の岸教授は言うまでもなく,世界に名だたる硝子体「岸ポケット」の提唱者であり,他にも黄斑円孔の形成過程,光干渉断層計(OCT)による黄斑疾患の解明で世界中に名を馳せておられる。一方,吉村教授は前任の信州大に教授として赴任されたころから黄斑疾患の重要性に着目され,京大に帰還された後は,わが国で唯一無比の黄斑疾患治療センターを見事に立ち上げられ,新しいOCTやAO-SLOの開発,黄斑疾患のゲノム解析など,莫大な数の新知見を次々と世に送り出してこられた。本書は,この二大碩学が,進歩の速い黄斑疾患学の最新の知識を整理するために力を込めて編集され,優秀な弟子たちとともに全編を執筆されたものである。本書を通読するとわかるが,全編にただの教科書にはない,ある種のフィロソフィーが貫かれており,非常に読みごたえのある一冊となっている。本書の特徴として,(1)黄斑疾患の疾患概念と病態,診断,治療について最新の知見と診療スタイルが網羅されており,読者にわかりやすい記述が徹底されている,(2)SS-OCT,超広角レーザー検眼鏡,眼底自発蛍光など,最新の診断機器による画像によって症例ベースでの解説がふんだんに提示されており,疾患の深い理解と実臨床での診断に大いに助けとなる,(3)筆者がすべて群馬大,京大の先生方で統一されているため,両編者の目が届く状態で,統一がとれた形式で一歩踏み込んだ執筆がなされている,ことが挙げられる。
網膜や黄斑の専門家はもちろん,これから黄斑疾患の勉強を始める若い学徒や一般眼科医にとっても,明日からの黄斑疾患の診療に直結する座右の書として,広く薦めたい名著である。
書評者: 石田 晋 (北大大学院教授・眼科学)
『黄斑疾患診療AtoZ』は,網膜のメッカである群馬大と京大のスタッフによる意欲的な作品です。まず,編集者のお一人である岸章治教授の総説で始まりますが,最初から吸い込まれるように一気に読んでしまいました(とはいえ足掛け3日かかる長編です)。私が網膜疾患を専門に志した20年くらい前は,黄斑円孔の成因や黄斑前膜の実体,糖尿病網膜症におけるけん引のパターンなど数多くの謎がありました。それらの疑問を一網打尽に氷解させたのが,岸ポケット(後部硝子体皮質前ポケット)でした。しかし当時の日常診療における検査法ではなかなか可視化することができず,網膜硝子体の専門家でないとその存在を実感できない状況でした。現在はOCTの進歩によって(SS-OCTの開発により),岸ポケットをバッチリ可視化して形状解析できるまでになったわけで,隔世の感があります。
このようにOCTや眼底自発蛍光に代表される診断機器の進歩によって,新しい知見が猛烈な勢いで生まれ,新しい病態概念の確立さえ可能となりました。もうお一人の編集者である吉村長久教授が解説するMacTel type 2もその好例で,Müller組織欠損(空洞あれど浮腫なし)と考えられる層状嚢胞様変性をOCTで確認することが診断の決め手です。また,黄斑偽円孔・分層黄斑円孔や中心性漿液性脈絡網膜症など古典的によく知られている黄斑疾患に対しても,新進気鋭の板谷正紀教授,辻川明孝教授らにより,新しく捉えられた疾患機序が余すところなく解説され,「古くて新しい」疾患として見直されています。
本書にはこのほかにも,RPEの上に存在する特殊なドルーゼンであるreticular pseudodrusen,Bruch膜~脈絡膜レベルに局所的な陥没所見を示すfocal choroidal excavation,強度近視眼における黄斑部直下の強膜が突出したdome(band)-shaped maculaなど,診断技術の進歩にともなって注目されるようになった所見が目白押しで,これらを知らずにはもはや生きた化石となってしまうこと間違いありません。さらに,典型加齢黄斑変性やポリープ状脈絡膜血管症をはじめとするさまざまな脈絡膜新生血管疾患についても,抗VEGF療法の登場によってもたらされた診療の革命的な変化と今後の課題なども的確に提示されています。そして,数々の炎症性網膜疾患,網膜変性疾患についても,どの教科書にもまだ書かれていない新しい知見が逐一補充されており,「古くて新しい」疾患として楽しめます。最後に特筆すべきは,一冊を通して眼が奪われるようなきれいな写真が満載で,解説だらけの眠くなる教科書とは違い,ワクワクしながら読める渾身の大作でした。
明日からの黄斑疾患の診療に直結する座右の書
書評者: 高橋 寛二 (関西医大主任教授・眼科学)
わが国の黄斑疾患学の二大碩学,岸章治教授,吉村長久教授の手による『黄斑疾患診療AtoZ』が上梓された。本書は眼科臨床エキスパートシリーズの1冊として編集されたものである。
近年,黄斑疾患学はすさまじい勢いで進歩を遂げ,また診療に携わる眼科医の数も広がりを見せている。評者が黄斑疾患の診療に携わるようになったのは1980年代後半であったが,当時,加齢黄斑変性の治療はレーザー光凝固しかなく,中心窩下新生血管を中心窩ごと凝固していた。その頃,黄斑外来は,視力がほとんど改善しない患者ばかりを診療していたため,密かに「ため息外来」と呼ばれていたものである。当時,日大の松井瑞夫・湯澤美都子両先生による『図説 黄斑部疾患』がすでに出版されてはいたが,黄斑疾患の専門書はまだ少なく,加齢黄斑変性はわが国ではマイナーな疾患であった。その後,わが国でも加齢黄斑変性が増加し,疾患に注目が集まるに従って黄斑疾患に興味を持つ眼科医が増加し始めた。さらにOCT,抗VEGF療法をはじめとする診断・治療の急速な進歩も相まって,若い有望な眼科医たちもこぞって黄斑疾患の診療に携わるようになり,加齢黄斑変性は学会でも「華」の疾患の一つとなった。本書はこのような黄斑疾患学の進歩をひしひしと実感させてくれる新しいスタンダードテキストといえる。
編者の岸教授は言うまでもなく,世界に名だたる硝子体「岸ポケット」の提唱者であり,他にも黄斑円孔の形成過程,光干渉断層計(OCT)による黄斑疾患の解明で世界中に名を馳せておられる。一方,吉村教授は前任の信州大に教授として赴任されたころから黄斑疾患の重要性に着目され,京大に帰還された後は,わが国で唯一無比の黄斑疾患治療センターを見事に立ち上げられ,新しいOCTやAO-SLOの開発,黄斑疾患のゲノム解析など,莫大な数の新知見を次々と世に送り出してこられた。本書は,この二大碩学が,進歩の速い黄斑疾患学の最新の知識を整理するために力を込めて編集され,優秀な弟子たちとともに全編を執筆されたものである。本書を通読するとわかるが,全編にただの教科書にはない,ある種のフィロソフィーが貫かれており,非常に読みごたえのある一冊となっている。本書の特徴として,(1)黄斑疾患の疾患概念と病態,診断,治療について最新の知見と診療スタイルが網羅されており,読者にわかりやすい記述が徹底されている,(2)SS-OCT,超広角レーザー検眼鏡,眼底自発蛍光など,最新の診断機器による画像によって症例ベースでの解説がふんだんに提示されており,疾患の深い理解と実臨床での診断に大いに助けとなる,(3)筆者がすべて群馬大,京大の先生方で統一されているため,両編者の目が届く状態で,統一がとれた形式で一歩踏み込んだ執筆がなされている,ことが挙げられる。
網膜や黄斑の専門家はもちろん,これから黄斑疾患の勉強を始める若い学徒や一般眼科医にとっても,明日からの黄斑疾患の診療に直結する座右の書として,広く薦めたい名著である。
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本書の記述の正確性につきましては最善の努力を払っておりますが、この度弊社の責任におきまして、下記のような誤りがございました。お詫び申し上げますとともに訂正させていただきます。
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