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誰も教えてくれなかった 乳腺エコー

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これまでの『経験で上達する』『数をこなせば見えるようになる』という主に経験則に基づく超音波の見方でなく、乳腺の正常構造に着目し、その正常構造からの逸脱部に病変の検出のヒントがあるという著者が提唱する読影法を、症例を通して解説している。またその解説を助ける動画もQRコードを読み込めば、視聴可能である。読了後には、今までの乳腺エコーに対する見方・考え方が変わり、もっと身近に捉えられるだろう。
何森 亜由美
発行 2014年05月判型:B5頁:168
ISBN 978-4-260-01938-5
定価 6,050円 (本体5,500円+税)

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推薦の序(岩瀬 拓士)/はじめに(何森 亜由美)

推薦の序
 本書を手に取って中をパラパラとご覧になった方は,本書がこれまでの乳房超音波検査のテキストとは全く異なった構成になっていることに気づくであろう。通常なら目次にも列挙されるはずの乳房の疾患名がほとんど出てこないのである。当然その疾患に特徴的な超音波画像も出てこない。よくよく内容をのぞいてみると,超音波で見える乳房の正常構造の理解とその観察法に終始していることがわかる。まさにこの内容こそが,本書の著者が超音波の駆け出しのころに疑問に思い,探し求め,知りたかったことに違いない。
 これまで,乳房の超音波検査では典型的な悪性像のパターンをなるべくたくさん覚えて,その画像を見つけ出す作業を行ってきた。本書ではそうした方法を勧めていない。乳房の正常の構造と,それが超音波画像としてどのように見えるかをまず理解し,正常からの逸脱部分をチェックする技術の習得を目指して,その方法を詳しく解説している。そうすることによって,低エコー部分を探すこれまでのスクリーニング法では気づくことが難しかった等エコーの異常にも気づくことが可能となる。病変に特徴的な画像がどこに隠れているのかを探し出す,これまでのスクリーニング法ではなく,正常構造の流れを追いかけ,異常がないことを確認するスクリーニング法を行うべきと強調している。まだ超音波アトラスにも登場していない小さな等エコーの乳癌の初期像もこの方法を用いればチェックが可能かも知れない。
 本書では,マンモグラフィやMRI検査後に行われるセカンドルック超音波検査についても実践編として詳しく解説している。正常構造を理解して行えば,超音波での病変の同定はほぼ可能と著者は言う。近年MRIだけでチェックされるような病変が増えてきたが,こうした病変が悪性かどうかを簡便に調べるには,超音波検査での病変の確実な同定と,より低侵襲の穿刺検査が必要である。超音波検査による確実な同定については,本書に書かれているような正常解剖の理解と応用の考えがない限り,セカンドルックを行っても半分ほどしか同定はできない。超音波で同定できなければMRIガイドの針生検に頼るしかないが,検査可能な施設が限られていることや,造影される多くの病変で良性の可能性が高いことを考えると,現実にはその多くが経過観察とならざるを得ない。本書ではこうした状況での簡便で優れた方法として超音波ガイド下穿刺吸引細胞診の有用性を再認識し,その手技を詳細に解説して推奨している。

 ここで著者の人間的な魅力にも触れておきたい。本書の中程に,正常構造からの途絶を示したものとして,彼女自身が撮影した雲の写真が登場する。実にきれいで,画像に対する執着と好奇心の高さを感じさせる写真である。乳腺の超音波画像をほんわかとした雲の模様にだぶらせる繊細な目とやさしい感性も伝わってくる。一方で,彼女は強さも持ち合わせている。2人の女の子を育てながらの診療や研究は決して平坦なものではなく,そのような中でこつこつと知識や経験を積み重ねてきた努力は評価に値する。こうした環境の厳しさが彼女を強くしたのか,もともと備えていた芯の強さがこの環境を乗り越えさせたのかはわからないが,経験豊富ながん研の超音波技師からの信頼を一気に得ることができたのも,この経験に裏打ちされた自信と技術の確かさがあってのことと思われる。赴任当時,古くなった超音波機器が更新されないでそのままになっている現状を見て,「あきらかに患者に対して不利益であり,がん専門病院のすることではない」と病院を説得し,すべての機器を最新のものに更新させたエネルギーも,持ち前の正義感とこうした環境で培われた強さによるのであろう。文字通り,母親の強さとやさしさを持った彼女の行動力を垣間見た瞬間である。
 今回,本書の中にはこれから乳房超音波検査に臨む若い人たちや,これまでも悩みながら検査を行ってきた技師や医師に向けて,著者自身の経験から得た知識と技術が多くの写真やシェーマを用いて余すところなく描かれている。内容によっては現在の彼女の頭の中のアイデアとして描かれ,まだ検証が不十分なものも含まれているが,この技術を多くの人がマスターし,さらに改良・発展させることで,新しい乳房超音波検査の時代が拓け,乳癌で苦しむ患者が確実に減っていくものと確信する。

 2014年4月
 がん研有明病院乳腺センター
 岩瀬 拓士


はじめに
 乳房超音波は,「難解」で「習得が難しい」ものと言われてきました。しかし,本当にそうなのでしょうか? なぜ,そう思われているのでしょうか?

 私たちが遭遇する乳癌は,そのほとんどが乳管-小葉から発生する癌と思ってよいでしょう。発生の仕方は,①最初から乳管壁を破り浸潤して腫瘤を作るもの,②乳管壁をどこまでも破らずに進展するもの,③それらが混在するもの,があります。また,腫瘤でもその構成について見ると,がん細胞が充密しているもの,乳管構造を形成するもの,線維が多く混在するもの,とあり,多くはこれらが立体的に混在しています。

図

 そのために発生の部位と発育の仕方によって様々な形態を示します。
 当然,超音波画像もバリエーションに富み,典型的な乳癌の所見を思い描きながら病変を探そうとすると,これまで出会ったことのない病変に遭遇したときに,見過ごしてしまうかもしれません。
 また,最近の乳房超音波診断は,触知するものやマンモグラフィで映っているものを評価していた時代よりも,より小さな病変の検出や鑑別困難な病変も評価を求められます。高分解能超音波で検出された部位には,これまで経験したことがない様々な像が見えるかもしれません。

 言うまでもなく,典型的な組織型の超音波画像をしっかり身につけることはとても重要です。これまで多くの先輩方が収集してきた貴重な症例画像から,多くのことを学ぶことができ,たくさんの優れたアトラスがこれまで刊行されてきました。
 しかし,それでもなお「乳腺超音波の技術習得は難しい」という考え方は変わっていません。どうしてでしょうか?

 なぜ,上級者とされる術者の皆さんは感度が高いのでしょうか? なぜ,特異度が高いのでしょうか? また,高い診断能力の理由とその技術の普及には何が障害となっているのでしょうか?
 これまで「数をこなせば見えるようになる」と言われる場面が多かった超音波技術の習得法に,何か裏付けや理論的な背景があるのではないか? もし,そうしたものがあれば,きっと乳房超音波検査の技術習得がうまくいき,レベルも向上し,普及していくはずと考えました。

 本書では,「なぜこのように見えるのか」「どこをどのように探せば見つけることができるのか」といった,乳房超音波検査の病理学的な背景と技術習得に必要な考え方について,現時点での筆者の解釈を中心にまとめたものです。

 1)乳腺の正常構造を学び,その超音波画像を理解できるようになること
 2)正常構造とは異なる部位を見つけ,これを異常の発見につなげること
 3)そのための観察は,動画で行うことが欠かせないこと
 以上が,エッセンスです。

 本書を読み進め,新たに明らかとなった乳房超音波の理解に必要となる解剖の知識と,それに基づく超音波画像の解釈を知っていただければ,これまでは“何となく……”という感じで見ていたものを根拠を持って,「これは異常だ。精査しなければ!」「これは正常だから心配ない」と判断できるようになるのではないか,と思います。
 誰でも,どんな病変でも検出できること。これを多くの乳房超音波検査に携わる方に自信を持ってチャレンジしていただき,そして,より多くの方の技術習得の助けにしていただければと思います。

 2014年4月
 高松平和病院外科/がん研有明病院乳腺センター
 何森 亜由美

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 推薦の序
 はじめに
 QRコードによる動画配信について

第1章 乳房超音波検査を始めるにあたって
 1-1 超音波画像は,病理組織像のグレースケールではない!
 1-2 これまでの乳房超音波の考え方
 1-3 画像診断の進歩の中で,乳房超音波に求められているもの
    1-3-1 スクリーニング
    1-3-2 セカンドルック(2nd Look)
 1-4 技術習得のための新しい知識
    1-4-1 乳房の正常構造とその超音波画像を理解すること
    1-4-2 正常構造をメルクマールにして検出する観察法
    1-4-3 検出部位の評価方法
 1-5 乳房超音波観察の実践を支える2×3のポイント

第2章 正常乳房の超音波画像
 2-1 これまでの超音波画像はどう理解されていたか
 2-2 乳房の2つの小葉外間質と新しい解剖の考え方
    2-2-1 乳腺の「実質」と「間質」について
    2-2-2 2つの小葉外間質とは?
    2-2-3 2つの間質の組織学的な違い
    2-2-4 間質の脂肪化
    2-2-5 2つの間質の年齢・BMI変化と役割
    2-2-6 それぞれの間質の超音波での見え方
    2-2-7 病理組織像と超音波画像の対比
 2-3 様々な正常乳管の見え方

第3章 腺葉について
 3-1 乳腺の腺葉の広がりと重なり
 3-2 腺葉境界面の面状高エコー構造

第4章 乳管の走行を反映した等エコー構造を観察する
 4-1 乳管と間質の「連続性」について
 4-2 乳腺の構造が持つ「規則性」について
    4-2-1 等エコー構造の「規則性」:2つの方向性
 4-3 正常構造を観察してみよう!

第5章 「正常構造からの逸脱部」を捉える
 5-1 「途絶え」による腫瘤の検出
 5-2 「乱れ,広狭不整」による非腫瘤性病変などの検出
 5-3 「動画による観察」の重要性

第6章 乳房内の2種類の脂肪性変化に対応した観察の注意点
 6-1 乳房の脂肪化と脂肪組織の形態
    6-1-1 「浮腫状間質」が脂肪に置き換わっていく変化
    6-1-2 乳腺の萎縮と脂肪小葉の増大
 6-2 2つの乳房脂肪性変化-画像対比
    6-2-1 脂肪性変化のMMGと超音波の対比
 6-3 脂肪性乳房の超音波画像での観察指標
    6-3-1 脂肪性乳房の正常構造
    6-3-2 脂肪性乳房の病変の検出

第7章 MMGと超音波を用いたバリエーションの理解
 7-1 乳腺濃度と,エコーレベルの違い
 7-2 組織標本撮影との対比を使用した理解
 7-3 MMGと超音波によるバリエーションの評価
    7-3-1 太い周囲間質:MMG高濃度,超音波区域性低エコー域
    7-3-2 太い周囲間質:MMG不均一高濃度~脂肪性乳房,
         超音波区域性低エコー域
    7-3-3 太い周囲・浮腫状間質:MMG残存乳腺
    7-3-4 太い周囲・浮腫状間質:MMG FAD

第8章 プローブ走査
 8-1 プローブの構え
 8-2 基本のプローブの持ち方
 8-3 プローブの回転法
 8-4 プローブ回転の軸
 8-5 スクリーニング時の走査法
    8-5-1 基本走査法
    8-5-2 追加走査法
 8-6 観察範囲
    8-6-1 外側 広背筋の確認(左) 平均的な大きさの乳房の場合
    8-6-2 広背筋の確認 大きな乳房の場合
    8-6-3 下側 乳房下溝尾側
    8-6-4 内側 胸骨確認
    8-6-5 乳房の変形と移動
 8-7 プローブ角度や押す力
    8-7-1 胸部に合わせたプローブの角度
    8-7-2 スクリーニング時のプローブの適切な圧迫
    8-7-3 詳細な観察時の圧迫
    8-7-4 等エコー構造に変化が見られるときの観察法

第9章 画質の設定
 9-1 画質設定の目的
 9-2 画質設定の目安
    9-2-1 階調性の目安①
         静止画「拡張していない乳管壁・線状の高エコーが認識できる」
    9-2-2 階調性の目安②
         動画「腺葉が上下に重なっている境界面が認識できる」
    9-2-3 視認性の目安
         「等エコー構造の境界(2つの間質の移行部)を明瞭にしすぎない」

第10章 腺葉構造読影による乳房観察の実践例
 10-1 乳管-周囲間質の走行から読影する腺葉分布と境界面の推測
 10-2 腺葉境界部が作り出すdistortion様像
    10-2-1 distortion様像が見える理由と詳しい観察法
    10-2-2 乳頭下の腺葉境界面
 10-3 境界病変の立体所見による鑑別
    10-3-1 立体判定基準を用いて判定したdistortionの症例
 10-4 石灰化病変の評価
    10-4-1 背景が乳腺の石灰化病変
    10-4-2 背景が脂肪性の石灰化病変
 10-5 石灰化ではない高エコー像
    10-5-1 周囲間質に取り囲まれた浮腫状間質
    10-5-2 周囲間質内の構造物が反射して,点状高エコーに

第11章 2nd Lookのための乳腺超音波-解剖学的な立体読影法を活かす-
 11-1 2nd Look USとMMG・MRI
 11-2 MMG 2nd Look USにおけるターゲットの同定方法
    11-2-1 指標
    11-2-2 対象病変と検出ポイント
 11-3 MRI 2nd Look USの同定方法
    11-3-1 指標
    11-3-2 対象病変
    11-3-3 MRI 2nd Look USでの「MRI読み解き」
 11-4 MRI 2nd Look USの実際
    11-4-1 血管の位置から病変を同定した症例
    11-4-2 Cooper靭帯の形状から病変を同定した症例(1)
    11-4-3 Cooper靭帯の形状から病変を同定した症例(2)
    11-4-4 Cooper靭帯の形状から病変を同定した症例(3)
    11-4-5 血管の走行から病変が一致すると確認した症例
    11-4-6 乳腺の分布形状の特徴から病変を同定した症例

第12章 エコー下穿刺吸引細胞診
 12-1 穿刺対象は,主腫瘤か,進展部位か,良性か?
 12-2 適切な穿刺部位は?
 12-3 左手のプローブ・病変・乳房の固定法
 12-4 穿刺針をどう進めるか?
 12-5 採取時の穿刺針の動かし方と観察ポイント
 12-6 採取物の観察

 おわりに
 索引

コラム
・バリエーションとは?
・これまで正常構造はなぜ謎だったか?
・浮腫状間質(edematous stroma)には「浮腫」があるのか?
・超音波の分解能とスペックルパターン
・腺葉境界面の組織像の詳細
・構造の流れから見抜け!
・乳房内の2つの脂肪の組織像
・乳腺超音波画像と病理組織像対比に挑戦してみよう
・「小葉-乳管」の分布と「周囲間質」の量の違いと,超音波画像
・「シャッターはこころで切れ」
・立体判定基準はみんなが使える? どれくらい正確に判定できる?
・穿刺吸引細胞診のとき,部屋の照明は消す? つける?
・ファントムやフルーツゼリーと実際の乳腺の違い
・穿刺針の角度 修正法:別法
・穿刺吸引細胞診の精度と乳がん検診成績

QR動画一覧
VTR 1 癌と超音波画像の対比モデル(20秒)
VTR 2 腺葉境界面:太い周囲間質の乳腺(26秒)
VTR 3 腺葉境界面:中等度の周囲間質の乳腺(19秒)
VTR 4 腺葉境界面;細い周囲間質の乳腺(17秒)
VTR 5 中心乳管と周囲間質(14秒)
VTR 6 正常乳腺:周囲間質が均等で,等エコー構造の連続性が
     わかりやすい乳腺(16秒)
VTR 7 等エコー腫瘤:粘液癌の症例(9秒)
VTR 8 等エコー腫瘤:線維腺腫の症例(10秒)
VTR 9 Cooper靱帯の引き込み像-わかりやすい癌の症例(20秒)
VTR 10 左乳腺末梢:圧迫不足による低エコー出現画像(20秒)
VTR 11 右外側末梢:構造のたわみによるアーチファクトの出現(7秒)
VTR 12 右外側末梢:正しい圧迫による病変の検出(12秒)
VTR 13 右外上末梢:圧迫の違いによる微小病変の見え方(18秒)
VTR 14 腺葉境界面へ向かう方向性:distortionとの鑑別(22秒)
VTR 15 血管が作るdistortion像(13秒)
VTR 16 血管が作るdistortion像:カラードプラ(11秒)
VTR 17 乳頭直下の領域の移動(31秒)
VTR 18 立体判定基準:腫瘤 経過観察の例(19秒)
VTR 19 立体判定基準:腫瘤 要精査の例(13秒)
VTR 20 立体判定基準:非腫瘤性病変 経過観察(19秒)
VTR 21 立体判定基準:非腫瘤性病変 要精査(19秒)
VTR 22 立体判定基準:distortion 経過観察(18秒)
VTR 23 立体判定基準:distortion 要精査(20秒)
VTR 24 指標「分枝する血管」とターゲット病変(19秒)
VTR 25 ターゲットに対する細胞診(20秒)
VTR 26 指標「乳腺の形状」とターゲット病変(12秒)
VTR 27 穿刺吸引細胞診の工夫:乳管に沿う病変からの採取(19秒)
VTR 28 穿刺吸引細胞診の工夫:微小病変からの採取(19秒)
VTR 29 細胞診:良性腫瘤の特徴(1分)
VTR 30 細胞診:悪性腫瘤の特徴(50秒)
VTR 31 細胞診:MLT粘液の牽糸性(11秒)

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正常像を理解することで癌を早期に的確に発見できる
書評者: 植野 映 (筑波メディカルセンター病院ブレストセンター長/専門副院長・乳腺科)
 本書の題目は『誰も教えてくれなかった 乳腺エコー』となっているが,この題目をそのまままともに受け取ってはいけない。これは著者の謙虚な姿勢から付けられた題目である。本来であれば『誰も知らなかった乳腺 エコー』が本書の題目に付けられるべきかもしれない。今まで著者の発表を拝読・拝聴し,意図するところはおおむね理解はしていたが,本著を通読することにより,さらにその理解が深まった。ここに収められた内容は単に独学で学んだ診断学ではなく,新しく切り開いた乳房超音波診断学の話である。

 腫瘤像を形成しない乳癌の存在は,1980年代より報告されてきた。それを診断するに当たり日本超音波医学会とJABTS(日本乳腺甲状腺超音波医学会)では,腫瘤性病変と非腫瘤性病変とに分類して,多くの研究者がその読影能力の向上に努力をしてきた。著者はその中の一人である。

 非腫瘤性病変はいくつかに亜分類され,その中の斑状等エコーは若年者の正常乳腺と非浸潤性乳管癌をはじめとする乳管内増殖性病変のときに認められる。しかしながら,この斑状等エコーが何を意味しているのかについては,いまだに解明されていなかった。そこに着目し,著者は超音波画像と組織とを対比し,それが何であるかを新しく発見したのである。方法は,乳癌の乳管内成分を世界で初めて超音波で検出した角田博子先生(聖路加国際病院放射線科)と同じ手法を採用している。標的部位の超音波画像を少しずつ角度変化させて断層像を複数枚にわたり撮影し,組織標本と合致する画像を見つけてその組織がどのように超音波で描出されるかを探ったのである。本著にはその結果が詳細に記された。

 著者は,小葉,乳管のサイズから見て等エコー域が大きいことに疑問を抱き,組織像を前述した方法で綿密に観察した。その結果,小葉外間質には浮腫状のものと線維組織の多い周囲間質があることを発見し,管状等エコーは乳管と周囲間質,斑状等エコーは小葉と周囲間質からなるといくつかの論文で報告してきた。その結果は私も含めて誰しもが想像だにしなかった。みんなが知らないから“誰も教えられなかった”のである。そして,浮腫状の間質が加齢とともに脂肪に置換されても後方散乱が起こり,乳腺のエコーレベルが保たれることをも音響学的に理論付けたのである。

 これらの理解をもとに,正常構造からの逸脱を捉えて癌を早期に的確に発見することができると本書では解説されている。

 乳管の所見は,Teboulらにより「Atlas of Ultrasound and Ductal Echography of the Breast」に詳細に記述されている。著者の解説はそれよりもさらに踏み込んだものだ。Teboulの書と合わせて読むと面白いであろう。
参考文献:Michel Teboul & Michael Halliwell : Atlas of Ultrasound and Ductal Echography of the Breast. Blackwell Science Ltd, 1995.

乳房の超音波解剖を超音波特性と組織解剖の対比で解明した書
書評者: 遠藤 登喜子 (国立病院機構東名古屋病院乳腺科・名古屋医療センター放射線科)
 乳腺超音波検査は近年,マンモグラフィ検診の普及により発見される異常の精密検査の必要性から,また,マンモグラフィ検診の精度補完のための手法として注目すべき変化を示してきた。しかし,本書にも書かれているが,超音波検査では視触診で検出された所見の裏付け検査法として,病変のみが検討されることがほとんどであった。それは,超音波検査が断層像として得られる画像情報であり,3次元的情報を記録・提供しがたい検査法であったことにもよっている。

 近年,腫瘤像を形成しない病変-非腫瘤性病変の診断の重要性が認識されることにより,正常乳腺から非腫瘤性病変を検出すること,病変と正常乳腺の鑑別など,正常乳腺像を意識することの重要性が脚光を浴びるようになってきた。従来も,正常乳腺の超音波画像を前に,“いったいこの画像は何を見ているのだろう”とつぶやくことはあったが,超音波画像が組織の何を反映しているか,明快なコンセンサスは得られないままであった。そして,超音波の屈折・反射・散乱(後方散乱)による画像特性と組織を対応させたとき,われわれの目は乳腺上皮のみならず,間質にも拡大された。組織学的構造という大きな枠組みの中,細胞と間質,両者の密度と配置が超音波画像を成り立たせている。これに気が付いたとき,超音波による乳房構造の解像は「目からうろこ」であった。

 本書は,まさにこうした「誰も教えてくれなかった」乳房の超音波解剖を超音波特性と組織解剖を綿密に対比することにより解明し,単純明快に示したものである。それは,日々の疑問に対し真摯に向き合ってきた著者の成果であり,それを支えた研究協力者との共同作業が生んだ宝といえよう。本書は,個々の病理病態に関する知識の集成ではなく,実践における今後の発展をさせる方法論の提案として重みがあると思われる。

 著者が言いたいことは,“乳腺の超音波診断は乳腺の正常構造を把握することから始まり,正常構造からの逸脱が良性・悪性病変を示すものである”ということに集約されている。正常構造を把握するための,超音波検査の実践法-「プローブ走査」は超音波検査を実施するものには基本であり,「画質の設定」は何を見るために何が必要か,を提案するものである。そして,正常乳腺組織,腺葉構造と分布,脂肪化による変化を端的に表現し,“さあ,これだけ理解できたら乳腺の超音波検査をしてごらんなさい”と後押ししてくれる。迷ったらもう一度読み返してその意味するところを読み解く。そうした中から,著者の貴重な経験と洞察が伝わってくるであろう。本書の記述は簡潔であるが,深い。“実践から学ぶとき,私たちに無駄な検査は1例もありません”というメッセージや,“超音波検査を行ううえで,押さえるべきことは,1)等エコー構造を追えるようになること 2)立体的腺葉構造読影法 2×3のポイント の2点”に集約された著者の乳房超音波検査者へのメッセージは心から共鳴するところである。

 乳房超音波検査に長年従事してこられた方には乳房超音波の原点に立ち返るために,これから始められる方には超音波検査マスターの基本として本書を一読されることをお薦めしたい。
「何となくおかしい」が理論的に裏付けられる書
書評者: 尾羽根 範員 (住友病院診療技術部超音波技術科)
 何ともインパクトのあるタイトルの書である。乳房超音波を解説しようとすると,どうしても疾患を列記してその画像所見の特徴は……となる。いきおい検査もその所見に適合する画像を見つけようとする。検査の導入や総合的な解説としてはそれで間違いではないのだが,本書はそれと全く違う方向から切り込んでおり,まさに『誰も教えてくれなかった乳腺エコー』である。

 高分解能の装置を駆使して,普段最も多く見ているであろう正常乳腺の構造を,その画像の成り立ちから徹底的に解説を加えている。正常構造を知ってこその異常所見であるということを痛感させられ,それが小さな病変や鑑別困難な症例を見分ける道だと著者は説いている。

 プローブ走査には著者独特といってもよい方法が解説されている。一般的な走査法とは異なる部分があるのだが,正常構造からの逸脱部を探すという信念に基づいての走査であり,よくありがちな「こうしなければならない」という考えはひとまずおいて走査の意味を考えてみることをお勧めする。また,これまで意外と触れられていなかった,どの範囲を走査すればいいのかという疑問にもページを割いて解説が加えられている。乳房をくまなく走査するという第一義に基づき,自身の走査を振り返ってみるよい機会だろう。

 画質設定については,昨今の画像処理全盛の画調に対して,階調度を重視して質的診断を意識した条件が呈示されている。不自然なまでに構造物を連続させることなく,構造の詳細を読み取ることができる画質からは,“病変は構造の変化から読み取るものだ”という著者の声が聞こえてくるようで大いに共感する。

 そしていよいよ腺葉構造読影による乳房観察の実践例へと章が進む。画像とシェーマで詳しい解説が加えられているが,慣れないうちは,どこに差があるのか理解が難しいかもしれない。本書にはQRコードによる動画配信が付録として用意されている。動画像を見ることで大いに構造を読み解く助けになるだろう。われわれも日頃の検査で小さな病変を発見したり,良悪性を見分けたりしている,何となくおかしいという雰囲気が,本書によって理論的に裏付けられていることに感嘆を覚えたのは事実である。

 最近,マンモグラフィやMRIなどで指摘された病変を超音波で検索する2nd look USをよく耳にするが,その際の位置合わせについても,構造をもとにして詳細に解説されており,助かる検者は非常に多いのではないかと思う。

 著者の考えを,経験を,とことん解説している本書を読み込んで検査に活用してほしい。最後に蛇足ながら実際の検査について述べておきたい。画面に食い入るように一点に集中して観察するのではなく,全体を眺めるような気持ちで走査し,ここぞとなれば集中する。そういう緩急の使い分けが正常構造からの逸脱部を探すコツではないかと愚考する。

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