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IPMN/MCN 国際診療ガイドライン・2012年版 〈日本語版・解説〉

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膵疾患の診療において熱い議論が展開されているIPMN(膵管内乳頭粘液性腫瘍)とMCN(粘液性嚢胞腫瘍)の診療ガイドラインを全面改訂。国際膵臓学会ワーキンググループによる世界的なコンセンサスの結実を、いち早く日本語版として刊行。新知見を加味した新しい診断・治療指針を呈示して,広く臨床の現場で活用できるようアップデート。
国際膵臓学会ワーキンググループ [代表:田中雅夫]
訳・解説 田中 雅夫
発行 2012年10月判型:B5頁:96
ISBN 978-4-260-01671-1
定価 4,400円 (本体4,000円+税)
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要旨;著者からのメッセージAbstract

要旨;著者からのメッセージ
 2006年に国際膵臓学会から刊行された膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)と粘液嚢胞性腫瘍(MCN)に関する国際診療ガイドラインは,これらの疾患に対する認識を高めその診療の改善に役立った。その後5年が経過して,特にIPMNについてかなりの新知見が報告されてきた。2010年に福岡で開催された第14回国際膵臓学会の際に行われたコンセンサスシンポジウムに基づいて,ワーキンググループは新しいガイドラインを作成した。これらの疾患に関する報告が増加したとはいえエビデンスレベルは高くはなく,科学的根拠に基づいたものというよりは,まだコンセンサスガイドラインとするのが適当と考えられた。2006年刊行の初版と同様に,分類,診断検査,切除適応と切除ならびにその他の治療法,組織学的側面,経過観察法といった項目立てにしたが,clinical questionに対するanswerの形を今回はとらず,より単純化し,項目ごとに記述形式をとることによって長文化を避けた。これは,これらの疾患に関する最近の情報と,現在の理解に基づくワーキンググループによる推奨,および未解決の問題と今後の研究課題をわかりやすく提示することを目的としたガイドラインである。

 2012年9月
 田中雅夫


Abstract
   The international consensus guidelines for management of intraductal papillary mucinous neoplasm and mucinous cystic neoplasm of the pancreas established in 2006 have increased awareness and improved the management of these entities. During the subsequent 5 years, a considerable amount of information has been added to the literature. Based on a consensus symposium held during the 14th meeting of the International Association of Pancreatology in Fukuoka, Japan, in 2010, the working group has generated new guidelines. Since the levels of evidence for all items addressed in these guidelines are low, being 4 or 5, we still have to designate them “consensus”, rather than “evidence-based”, guidelines. To simplify the entire guidelines, we have adopted a statement format that differs from the 2006 guidelines, although the headings are similar to the previous guidelines, i.e., classification, investigation, indications for and methods of resection and other treatments, histological aspects, and methods of follow-up. The present guidelines include recent information and recommendations based on our current understanding, and highlight issues that remain controversial and areas where further research is required.

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要旨 著者からのメッセージ
1 はじめに
2 分類
 2-1 分枝型IPMN(BD-IPMN)と主膵管型IPMN(MD-IPMN)の鑑別
 2-2 IPMNとMCNの悪性の定義
3 診断結果
 3-1 嚢胞性膵腫瘍の検査計画
 3-2 MCNその他の膵嚢胞とBD-IPMNの鑑別診断
 3-3 嚢胞性膵疾患の診断におけるEUS-FNAで得られた嚢胞液の役割
 3-4 BD-IPMNの悪性診断における膵液の細胞診と分析の役割
 3-5 BD-IPMNと漿液性嚢胞腺腫(SCN)の鑑別
4 切除の適応
 4-1 MD-IPMNの切除適応
 4-2 BD-IPMNの切除適応
 4-3 MCNの切除適応
5 切除の方法とその他の治療法
 5-1 MCNとIPMNの浸潤癌とそれ以前の病変の切除の方法
 5-2 MCN,IPMNの治療におけるEUSガイド下のエタノール注入による粘膜除去術の役割
 5-3 多発性BD-IPMNの管理
6 組織学的側面
 6-1 IPMN由来浸潤癌の組織型
 6-2 IPMN/MCN由来微小浸潤癌の病理組織学的定義
 6-3 IPMNの胃型,腸型,胆膵型,好酸性顆粒細胞型の分類と臨床への関連性
 6-4 IPMNの切除術における術中迅速組織診の役割
 6-5 BD-IPMNとMD-IPMNの鑑別のための切除標本の取り扱いに関する特別な注意
 6-6 IPMN由来膵癌と併存膵癌の鑑別
7 経過観察法
 7-1 非切除IPMNの経過観察
 7-2 IPMNとMCNの切除後の経過観察
 7-3 IPMN経過観察例における通常型膵癌の発生と膵癌家族歴の影響
 7-4 IPMN経過観察例における他臓器腫瘍発生の可能性
8 結論

参考文献


Abstract
1 Introduction
2 Classification
 2-1 Criteria for distinction of branch duct IPMN(BD-IPMN)
    and main duct IPMN(MD-IPMN)
 2-2 Definition of malignant IPMN and MCN
3 Investigation
 3-1 Work-up for cystic lesions of the pancreas
 3-2 Distinction of BD-IPMN from MCN and other pancreatic cysts
 3-3 Roles of cyst fluid analysis and cytology obtained by EUS-FNA
    in the diagnosis of cystic lesions of the pancreas
 3-4 Role of cytology and/or analysis of the pancreatic juice
    in the diagnosis of malignant BD-IPMN
 3-5 Distinction of BD-IPMN from serous cystic neoplasm(SCN)
4 Indications for resection
 4-1 Indications for resection of MD-IPMN
 4-2 Indications for resection of BD-IPMN
 4-3 Indications for resection of MCN
5 Methods of resection and other treatments
 5-1 Methods of pancreatectomy for invasive and non-invasive MCNs and IPMNs
 5-2 Role of mucosal ablation by ethanol injection under EUS guidance
    in the management of MCN or IPMN
 5-3 Approach to multifocal BD-IPMN
6 Histological aspects
 6-1 Types of invasive carcinoma of malignant IPMN
 6-2 Pathologic definition of minimally invasive carcinoma derived
    from IPMN or MCN
 6-3 Distinction and clinical relevance of gastric, intestinal, pancreatobiliary,
    and oncocytic forms of IPMNs
 6-4 Role of intraoperative frozen section evaluation
    in the surgical management of IPMNs
 6-5 Special instructions for specimen processing to differentiate BD-IPMN
    from MD-IPMN
 6-6 Distinction of carcinoma derived from and concomitant with an IPMN
7 Methods of follow-up
 7-1 Follow-up of non-resected IPMN
 7-2 Follow-up of surgically resected IPMN and MCN
 7-3 Possible occurrence of pancreatic ductal adenocarcinoma(PDAC) in patients
    with IPMN on follow-up and impact of family history of PDAC
 7-4 Possible occurrence of malignant neoplasms in other organs in patients
    with IPMN on follow-up
8 Conclusions

References

索引

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さまざまな工夫で診療指針としての解像度が格段に改善された新版
書評者: 下瀬川 徹 (日本膵臓学会理事長/東北大病院長)
 膵腫瘍診療の難しさは,手術難度が高いこと以外に,外科切除の侵襲が大きく,術後合併症がしばしば致命的となるため,良悪性の見極め,術式の選択,年齢や合併症を考慮した手術適応が正確でなければならない点にある。IPMNやMCNはこのような点において,以前より多くの議論が展開されてきた代表的な膵腫瘍であり,診療指針の策定は世界中の膵疾患診療の臨床現場から強く求められていた。

 このような背景から2006年に当時の世界的コンセンサスとして「IPMN/MCN国際診療ガイドライン」が公表されたが,多くの課題を残した内容であった。日本膵臓学会前理事長の田中雅夫氏を座長とする国際膵臓学会ワーキンググループは,その後集積された多数の知見に基づいて改訂作業を進め,2011年末に改訂2012年版が公表された。本書はその日本語訳と解説書であるが,原著とほぼ同時に翻訳版が出版されたことは,わが国におけるIPMN/MCN診療に大きく貢献するものと期待される。

 2006年のガイドラインでは,分枝型IPMNの良悪性の診断フローの上位に嚢胞径が置かれたが,特異度が低かった。悪性の危険因子として主膵管拡張や結節が記載されたが,サイズは具体的に触れられていなかった。また,組織学的悪性度に関しても世界的に統一されておらず,微小浸潤の定義も明らかでなかった。今回の2012年改訂では,これら課題に大きなメスが入れられることになった。まず,IPMNの悪性度の臨床指標として“high-risk stigmata ”と“worrisome feature ”が設けられて具体的所見が示され,これらの所見が治療方針に大きな影響を与える診療体系となっている。悪性所見が明らかでないIPMNについては嚢胞径による経過観察が提案された。病理学的には,上皮内癌の代わりに新WHO分類に従って,高度異型が推奨され,悪性の定義を浸潤癌に限ることに統一された。粘液形質による予後の推定,“微小浸潤癌”の代わりに深達度によってT1を亜分類するなどの工夫が見られる。家族性膵癌を念頭に置き,膵癌の家族歴の有無によって経過観察法に重み付けを行ったことも新たな試みである。さまざまな工夫によって改訂版のIPMN/MCNへの診療指針としての解像度は格段に改善されたように感じられる。エキスパートのコンセンサスを含むこの指針が本疾患の診療に真に有益であり,患者の生命予後やQOLを改善するか,ガイドライン2012年版に基づいた世界規模の臨床研究が展開されることが望まれる。

 周知のとおり,IPMNは1982年に大橋計彦氏らによって「(予後の良い)粘液産生膵癌」としてわが国で初めて報告され,世界に拡がった疾患概念である。2006年の「IPMN/MCN国際診療ガイドライン」の作成,そして2012年の改訂が,わが国から発信された多くのデータに基づいて,日本膵臓学会を中心とするわが国の膵疾患専門医の主導によって成し遂げられたことを心より祝福したい。
「現状での世界的な考え方」を整理し共通の討論の場を呈示した新版
書評者: 真口 宏介 (手稲渓仁会病院消化器病センター長)
 “International Consensus Guidelines 2012 for the Management of IPMN and MCN of the Pancreas. Pancreatology. 2012; 12(3): 183-197.”の日本語翻訳版が出版された。2006年の最初の国際診療ガイドラインの発行から6年での改訂である。

 医学の進歩は目覚ましく,数年の間にいくつもの新知見が報告され,理解が進むにつれてガイドラインの改訂が繰り返し必要であることは言うまでもない。しかしながら,国内だけでも意見を集約することが難しい中,診療状況や意見の異なる海外の医師たちと英語で討論し,まとめあげる作業は容易ではない。その作業を短い期間で完成させた著者の田中雅夫教授には心から敬意を表する。さらに,英文論文化されてからすぐに日本語翻訳版を出版された素早さには,ただただ驚くばかりである。

 今回の改訂ポイントについては,本書の「表1 推奨の一覧」にまとめられている。

 注目点は,主膵管型(MD)IPMNを広く拾い上げるために主膵管拡張を5mmまで下げ,5~9mmを“worrisome feature ”,10 mm以上を“high-risk stigmata ”に分けたこと,分枝型(BD)IPMNにも“worrisome feature ”と“high-risk stigmata ”の2段階を推奨し,従来の切除適応であった3cmを超えても“high-risk stigmata ”が見られない場合には経過観察してよいとしたこと,などが挙がる。悪性度の高いMD-IPMNを切除適応とし,悪性度の低いBD-IPMNの切除適応を控えめとしたものである。

 一方,病理学的な“悪性”の定義を世界的に統一するために上皮内癌を高度異型とし浸潤癌に限るとしたため,わが国での非浸潤癌を“悪性”に分類できなくなる可能性が出てきた。さらに,欧米で積極的に施行されているEUS-FNAについても言及したため,FNA後の播種の危険性の増加も懸念される。やはり,わが国での考え方と世界的な考え方には「まだ幾分の距離がある」と言わざるを得ない。

 また,「要旨;著者からのメッセージ」の中で,IPMNに関する報告は増加したとはいえエビデンスレベルは高くなく,科学的根拠に基づいたものというよりは,まだコンセンサスガイドラインとするのが適当と述べられている。

 今回の改訂は,定義,分類,切除適応など「現状での世界的な考え方」を整理した内容と受け取ることができるが,本ガイドラインを一つの基準として共通の用語,定義にて討論できることになる意義は極めて大きい。さらにわれわれに対し,エビデンスレベルの高い研究の実施,特に前向きでの多数例の検討の必要性も伝えている。

 IPMNを発信し,世界で最も症例数の多いわが国にて共通の認識を持つことは重要であり,多くの医師に熟読いただきたく,ここに推薦する。

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