医療ソーシャルワーカーの力
患者と歩む専門職

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医療ソーシャルワーカー(MSW)が医療の現場(主に病院など)でどのような働きをしているのか、現場からの実践報告書。医療関係者だけでなく、行政や地域の人々とも連携して患者・家族を支えるMSWの力が臨場感溢れるタッチで表されている。患者が自分らしい生活を取り戻すためには、治療だけでなく、生活を支援するMSWの力が必要であることが分かる本。月刊誌『病院』に6年間以上にわたって好評連載中の「医療ソーシャルワーカーの働きを検証する」の単行本化。
編集 村上 須賀子 / 竹内 一夫
販売 医学書院
発行 2012年07月判型:B5頁:232
ISBN 978-4-260-70086-3
定価 2,750円 (本体2,500円+税)

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 本書は月刊誌『病院』(医学書院発行)で,2006年6月号より「医療ソーシャルワーカーの働きを検証する」というタイトルで連載されている記事を再録・編集したものである。
 医療ソーシャルワーカー(MSW)の存在を知る人は少ない。
 医療分野で働く社会福祉専門職であるが,この通称「ソーシャルワーカー」たちは,働きぶりが「黒子」であるためか,自己アピールをしたがらない人が多い。
 患者や家族から「あなたが病院に居てくれて助かった」,「あなたに出会えて乗り越えられた」と感謝の言葉を受けても,「いいえ,それは,ご自分の力ですよ」と彼らの底力に感服している。周りのスタッフに自分の働きの効果を吹聴することもない。「利用者中心の原則」から利用者の自己決定を尊重し,一歩控えた,まさに「黒子」のような働きぶりが身についているからだ。
 筆者は1969年より30年近く,広島市立病院の医療ソーシャルワーカーとして働いた。来談者は年々増え続けたが増員はままならず,周りのスタッフや人事権を持つ人々に「働きを知ってもらう」働きかけが必須であることに思い至った。足りない人員では足りないサービスしか提供できない。それは,結局は患者や家族に辛い思いをさせてしまうだけであるとの認識である。
 昨今,医療ソーシャルワーカーへの役割に対する期待は全国に広がっている。わが国の医療は急性期医療・慢性期医療の機能分化が進み,すさまじい勢いで在院日数の短縮化が図られ,さらには在宅医療移行時代を迎えている。しかし,このように機能特化した医療を適切に選択できる人がどれだけいるだろうか。ことに在宅医療への移行には,住宅環境の整備・訪問看護・訪問介護の導入など,複雑なケアプランを要する。一般国民にとって,こうした「移動を伴った医療」を適切に受けることが困難な時代になっている。転院・退院という環境の変化は「放り出される」という心理的危機をはじめ,経済的危機・家族関係の危機をも伴う。
 医療ソーシャルワーカーは,この「移動を伴った医療」を人々が適切に選択することを支援できる最適の職種である。人々は患者となった途端,心理・社会的に数々の危機に見舞われる。ことにこの「移動を伴った医療」における危機は,あらゆる階層の人々に共通し,しかも直近の課題といえる。危機の回避には,医療サービスと福祉サービスをコーディネイトして患者・家族に届ける必要がある。その専門職として,医療ソーシャルワーカーを大いに活用してほしい。
 筆者はことあるごとに医療ソーシャルワーカーの働きをアピールし,未設置病院にも医療ソーシャルワーカーを売り込む,「MSWセールスウーマン」を自認していた。教育職に身を移して,さらに,その意を強くした。社会福祉教育の中でも,医療分野はやはりマイナー職種であった。社会福祉士や精神保健福祉士のカリキュラムは,学生が医療ソーシャルワーカー職を志すに至る教育ではないからである。
 筆者のこの愛してやまない医療ソーシャルワーカー職を何とか世に広める手立てはないものかと考えあぐねていたところに,医学書院の月刊誌『病院』に2006年6月号より連載枠をいただいた。その趣旨は,「医療ソーシャルワーカーの働きを検証する」というタイトルで,医師を始め,病院関係者に向けて医療ソーシャルワーカーの活用とその拡充を願ったものである。当初,連載は1年間くらいを想定していた。しかし,幸いにも好評を得て,現在も継続中である。
 実際,キラ星の如く,輝く実践を続けている医療ソーシャルワーカーたちは全国に数多い。各地の学会や研究会などでの実践報告や,交流会での議論などでその輝きに触れる。現場を離れた身としては,その格闘ぶりに共感し,「素晴らしい実践をしているな」と羨望と妬み心で聴き入ることがしばしばである。執筆を依頼し,内容をやり取りする過程で,さらに筆者の医療ソーシャルワーカーへの愛と誇りは探まる。
 連載では医療ソーシャルワーカーの活用は,患者・家族・利用者にとって意味あるもので,同時に病院にとっても社会的・経済的に有益であることを証左するために2類型で編集した。1つは医療ソーシャルワーカーの実践事例を彼ら自身の報告のみにとどまらず,関わった他職種・他機関の執筆者から,活用・連携の有益性を「MSWと協働して」というコラムを設け,コメントを寄せてもらった。それらは,病院長をはじめ,看護部長・病院事務長・作業療法士など,院内関係者のみならず,弁護士・司法書士・地域の診療所所長・訪問看護師・保健師・地域の支援団体など,幅広く,多種多様である。
 もう1類型は,医療ソーシャルワーカーの医療経済上の貢献を数量的データで示すことである。この中心は東北大学大学院経済学研究科の関田康慶教授を始め,数々の研究者の調査研究が担っている。しかし,本書ではページ数の関係でコメントも一部のみ再録し,貴重な調査研究は割愛した。より広いー般読者に医療ソーシャルワーカーの存在を知って,活用してもらいたいという意図で,現場の実践報告を優先させた。読者が手に取って読みやすい量を考慮すれば取捨選択をせざるを得なかった。
 この度,医学書院の『医療福祉総合ガイドブック 年度版』で長年お付き合いのある元制作担当者の武田誠・看護編集部の北原拓也・連載担当の松永彩子の三氏の熱意とご尽力,それに共同編集者の竹内一夫氏を得ることにより,単行本として刊行できた。コメントにもあるように医療ソーシャルワーカーの働きを見守り,志を寄せてくださる数々の「つながり」のありがたさを実感する。
 最も重要な患者の立場から見た医療ソーシャルワークの働きについて,事故で受傷直後に筆者と出会った久留井真理さんにも執筆いただいた。連載のキーワードである「連携の輪」を真理さんの絵「サンキライのリース」で表し,連載タイトルの挿画としている。本書の表紙絵にもこの「サンキライの連携の輪」を掲げさせていただいた。
 なお,本書は日本医療ソーシャルワーク学会の初の刊行物である。

 2012年6月
 村上須賀子

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第I部 医療ソーシャルワーク 総論
 総論1 MSWの活用を願って
 総論2 わが国におけるMSWの現状と課題
 総論3 患者と医療機関の期待に応えるMSW

第II部 医療ソーシャルワーク 支援論
 医療ソーシャルワーク支援論 概説
 1章 支援方法論
  1 個人の働きかけ・ケースワーク
  2 退院援助
  3 地域連携ネットワークシステムの構築
  4 MSWのソーシャルアクション
 2章 利用者の状態別支援方法
  1 がん患者と家族への支援
  2 リハビリテーションをめぐるMSWの働き
  3 難病・障害者への支援
  4 子どもへの支援

第III部 MSWとアドミニストレーション
 1章 組織に位置づくために
  1 導入期
  2 組織改革
 2章 経営・教育に関わるMSW

 編集を終えて

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