基礎から学ぶ楽しい疫学 第3版
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疫学の初心者向けの定番教科書。著者一流の切れ味鋭くユーモアに富んだ語り口で、疫学研究の方法論、バイアスの問題、統計処理の方法など、疫学の基礎知識を学べます。第10章「疫学に必要な統計」では,平均の差の検定,割合の差の検定,相関係数の検定などの解説を追加。隠れファンの多い脚注も一読の価値あり!
著 | 中村 好一 |
---|---|
発行 | 2013年01月判型:A5頁:240 |
ISBN | 978-4-260-01669-8 |
定価 | 3,300円 (本体3,000円+税) |
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序文
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第3版 序
売れ行き好調な本書である。初版(2002年刊行)以来,「黄色い本」の別名でそれなりに売れてきた。全国に80ある医学部医学科の大学のなかで唯一,「疫学」という科目が公衆衛生学から独立して存在する自治医科大学では,毎年,そして2006年の第2版刊行以降は,版のみならず刷まで指定して教科書として使用してきた。1学年の定員は,本書を教科書として使い始めた当初は100人,これが今では期間限定の定員増まで含めて123人(定期試験は記述式で行っているが,採点が大変である。以前は95番まで来ると「あと5人。もうちょっとだ,頑張れ!」だったが,今は「まだ30人近くあるのかよ?」)なので,自治医大の学生が購入した(させられた?)のは千冊あまりだが,世のなかではもっと売れているという話も聞く。「この本を読んで疫学がようやくわかった」という,医学/保健科学からは少し距離を置く仕事をされている方からのお褒めの言葉は,仮に外交辞令だとしても,うれしかった。可能であれば,本書を医学書ではなく一般書にして,ミリオンセラーを目指したい(ちょっと無理か?)。
どうして今回,版を改めたのか? これまでも増刷のたびに微少な修正を行ってきた。たとえば,6章の表6-2(→ p. 125)で示した,硬膜移植歴を有するクロイツフェルト・ヤコブ病の患者数。研究班のサーベイランス委員会で新たに登録されるたびに数を改めてきた。これは全体の枠組みを変更せずに,単に数字を1つ(あるいは最大2つ)入れ替えるだけですむので容易だが,大きな書き換えはできない。2版も9刷となったので,そろそろということで改訂させていただいた。たとえば,今回新たに追加した2章1項の図2-2(→ p. 14)。これはやはり,疫学の原点だと思う。講義や講演でもよく使うし,やはり本書に入れたい,と以前から考えていて,今回の改訂で実現した。なお,第3版の改訂作業の進行中に開催されたサーベイランス委員会で,新たに2例の硬膜移植歴を有するクロイツフェルト・ヤコブ病が確認された。すでに第1回の校正は済んでいたが,表6-2を修正していただいた。
ついにここまでやるか,という感がないわけではないが,筆者と医学書院の編集担当の共通の趣味の世界をほどよく(色濃く?!)反映するものとなった,新たに取り入れたコラム「疫学デッドセクション」。デッドセクションとは,鉄道において2つの異なる電化方式(直流,交流)を切り替えるための電流が流れていない区間のことをいう。別名は死電区間。以前,首都圏だと常磐線で上野から水戸方面に向かう電車が取手駅を出た後,あるいは在来線で九州から本州に向かう電車が門司駅を出て関門トンネルに入る手前で,夜であっても車内の電灯が数秒間消えていた。この区間がデッドセクションで,惰性走行している間に交流,直流を切り替えているのである(ちなみに,上野方,あるいは本州の下関方が直流)。近年は電車の性能が向上し,室内灯は消えなくなったが,運転席では以前と同様の切り替え作業を行っている。本書でも章や項の間を結ぶコラムを「疫学デッドセクション」とした。マニアを含む鉄道関係者以外には馴染みのない言葉であり,医学書に「デッド」という言葉はふさわしくないかもしれないが,おつきあいいただきたい。
手間のかかる改訂作業にご尽力いただいたのは,医学書院のテツである西村僚一氏(医学書籍編集部)とテツではない(本当は隠れテツだったりして?)平岡知子氏(制作部)の両人である。第3版の制作をご担当いただいた平岡氏は,本書の原点である雑誌『公衆衛生』の連載(2000~2002年)の際の担当であった。「縁」というものを感じた。また,(本物の)デッドセクションについてはうちの教室員のテツである渡辺晃紀先生(栃木県保健福祉部)からご教示いただいた。その他大勢の方々のおかげで今回の改訂ができた。改めて感謝を申し上げたい。
2012年12月
中村好一
売れ行き好調な本書である。初版(2002年刊行)以来,「黄色い本」の別名でそれなりに売れてきた。全国に80ある医学部医学科の大学のなかで唯一,「疫学」という科目が公衆衛生学から独立して存在する自治医科大学では,毎年,そして2006年の第2版刊行以降は,版のみならず刷まで指定して教科書として使用してきた。1学年の定員は,本書を教科書として使い始めた当初は100人,これが今では期間限定の定員増まで含めて123人(定期試験は記述式で行っているが,採点が大変である。以前は95番まで来ると「あと5人。もうちょっとだ,頑張れ!」だったが,今は「まだ30人近くあるのかよ?」)なので,自治医大の学生が購入した(させられた?)のは千冊あまりだが,世のなかではもっと売れているという話も聞く。「この本を読んで疫学がようやくわかった」という,医学/保健科学からは少し距離を置く仕事をされている方からのお褒めの言葉は,仮に外交辞令だとしても,うれしかった。可能であれば,本書を医学書ではなく一般書にして,ミリオンセラーを目指したい(ちょっと無理か?)。
どうして今回,版を改めたのか? これまでも増刷のたびに微少な修正を行ってきた。たとえば,6章の表6-2(→ p. 125)で示した,硬膜移植歴を有するクロイツフェルト・ヤコブ病の患者数。研究班のサーベイランス委員会で新たに登録されるたびに数を改めてきた。これは全体の枠組みを変更せずに,単に数字を1つ(あるいは最大2つ)入れ替えるだけですむので容易だが,大きな書き換えはできない。2版も9刷となったので,そろそろということで改訂させていただいた。たとえば,今回新たに追加した2章1項の図2-2(→ p. 14)。これはやはり,疫学の原点だと思う。講義や講演でもよく使うし,やはり本書に入れたい,と以前から考えていて,今回の改訂で実現した。なお,第3版の改訂作業の進行中に開催されたサーベイランス委員会で,新たに2例の硬膜移植歴を有するクロイツフェルト・ヤコブ病が確認された。すでに第1回の校正は済んでいたが,表6-2を修正していただいた。
ついにここまでやるか,という感がないわけではないが,筆者と医学書院の編集担当の共通の趣味の世界をほどよく(色濃く?!)反映するものとなった,新たに取り入れたコラム「疫学デッドセクション」。デッドセクションとは,鉄道において2つの異なる電化方式(直流,交流)を切り替えるための電流が流れていない区間のことをいう。別名は死電区間。以前,首都圏だと常磐線で上野から水戸方面に向かう電車が取手駅を出た後,あるいは在来線で九州から本州に向かう電車が門司駅を出て関門トンネルに入る手前で,夜であっても車内の電灯が数秒間消えていた。この区間がデッドセクションで,惰性走行している間に交流,直流を切り替えているのである(ちなみに,上野方,あるいは本州の下関方が直流)。近年は電車の性能が向上し,室内灯は消えなくなったが,運転席では以前と同様の切り替え作業を行っている。本書でも章や項の間を結ぶコラムを「疫学デッドセクション」とした。マニアを含む鉄道関係者以外には馴染みのない言葉であり,医学書に「デッド」という言葉はふさわしくないかもしれないが,おつきあいいただきたい。
手間のかかる改訂作業にご尽力いただいたのは,医学書院のテツである西村僚一氏(医学書籍編集部)とテツではない(本当は隠れテツだったりして?)平岡知子氏(制作部)の両人である。第3版の制作をご担当いただいた平岡氏は,本書の原点である雑誌『公衆衛生』の連載(2000~2002年)の際の担当であった。「縁」というものを感じた。また,(本物の)デッドセクションについてはうちの教室員のテツである渡辺晃紀先生(栃木県保健福祉部)からご教示いただいた。その他大勢の方々のおかげで今回の改訂ができた。改めて感謝を申し上げたい。
2012年12月
中村好一
目次
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第1章 疫学とは
人間集団における健康状態の頻度測定
第2章 疾病頻度の測定
1.曝露と疾病
2.疫学指標
3.相対危険と寄与危険
第3章 既存のデータ
疾病頻度に関するデータは目の前にある
第4章 疫学研究方法
1.記述疫学,生態学的研究,横断研究-まずは比較的簡単なものから
2.コホート研究-観察疫学研究の中心となるもの
3.症例対照研究-もう1つの中心となるもの
4.介入研究-最も強力な研究デザイン
5.では,どの研究方法を採用するのか?
第5章 偏りと交絡
1.偶然誤差と系統誤差-バイアス=真の姿を歪めるもの
2.バイアスとその制御-(狭義の)バイアスは研究計画段階で制御すべし
3.交絡因子とその制御-交絡因子に配慮のない研究は,疫学研究ではない
4.標準化-直接法と間接法を使い分ける
第6章 因果関係
疫学研究における最後の詰め
第7章 スクリーニング
疫学の集大成
第8章 サーベイランスと疾病登録
恒常的に実施されている疾病頻度調査
第9章 臨床疫学
疫学の臨床応用
第10章 疫学に必要な統計
1.標本抽出と標本サイズ-研究計画で最も重要な部分
2.推定と検定-検定よりは推定を
3.推定の実際-点推定値±1.96×標準誤差
4.多変量解析-強力な武器,しかし安易な利用は要注意
第11章 疫学と倫理
避けて通ることのできない課題
第12章 疫学の社会への応用
最後のステップ
索引
疫学デッドセクション
「曝露」と「暴露」
平均への回帰
オーバーマッチング
必要条件と十分条件
多重比較 multiple comparison
ウォルフ-ハルデイン補正 Woolf-Haldane correction
John Snow Pub
プライバシー権
疫学者の養成
人間集団における健康状態の頻度測定
第2章 疾病頻度の測定
1.曝露と疾病
2.疫学指標
3.相対危険と寄与危険
第3章 既存のデータ
疾病頻度に関するデータは目の前にある
第4章 疫学研究方法
1.記述疫学,生態学的研究,横断研究-まずは比較的簡単なものから
2.コホート研究-観察疫学研究の中心となるもの
3.症例対照研究-もう1つの中心となるもの
4.介入研究-最も強力な研究デザイン
5.では,どの研究方法を採用するのか?
第5章 偏りと交絡
1.偶然誤差と系統誤差-バイアス=真の姿を歪めるもの
2.バイアスとその制御-(狭義の)バイアスは研究計画段階で制御すべし
3.交絡因子とその制御-交絡因子に配慮のない研究は,疫学研究ではない
4.標準化-直接法と間接法を使い分ける
第6章 因果関係
疫学研究における最後の詰め
第7章 スクリーニング
疫学の集大成
第8章 サーベイランスと疾病登録
恒常的に実施されている疾病頻度調査
第9章 臨床疫学
疫学の臨床応用
第10章 疫学に必要な統計
1.標本抽出と標本サイズ-研究計画で最も重要な部分
2.推定と検定-検定よりは推定を
3.推定の実際-点推定値±1.96×標準誤差
4.多変量解析-強力な武器,しかし安易な利用は要注意
第11章 疫学と倫理
避けて通ることのできない課題
第12章 疫学の社会への応用
最後のステップ
索引
疫学デッドセクション
「曝露」と「暴露」
平均への回帰
オーバーマッチング
必要条件と十分条件
多重比較 multiple comparison
ウォルフ-ハルデイン補正 Woolf-Haldane correction
John Snow Pub
プライバシー権
疫学者の養成
書評
開く
疫学を学ぶなら,まず「黄色い本をお読みなさい」
書評者: 辻 一郎 (東北大大学院教授・公衆衛生学)
いま疫学を学ぶ人が増えている。疫学を志す人が増えていることに加えて,他の研究領域と疫学との接点が広がっているからである。例えばゲノム科学にとって,疫学は不可欠なものになった。臨床医学の共通言語ともいえるEBM(根拠に基づく医学)は,疫学に基盤を置いている。公共政策や生命倫理,メディアの方々にとっても,疫学の理解は重要である。そこで疫学を学ぶ人が増えているのである。
しかし初学者にとって,疫学は何ともわかりにくい。そのような悩みをよく聞く。私の助言は,ただ一言。
「黄色い本をお読みなさい」
畏友・中村好一教授が2002年に上梓された名著『基礎から学ぶ楽しい疫学』(俗に「黄色い本」と呼ばれる)の第3版が出版された。序文の書き出しがすごい。
「売れ行き好調な本書である」
いつかは言ってみたいセリフではないか。ただ前記のように,私もわずかながら売り上げに貢献していると思う(だから評者を頼まれたわけではないだろうが)。
疫学の定義や基本的な考えに始まって,疫学の研究方法,偏りと交絡,因果関係を議論した上で,「疫学の集大成」としてスクリーニングを取り上げているのは興味深い。その上で,統計解析に約50ページを確保している。そして,倫理の問題と社会への応用について読者に問いかけて,本書は完結する。
一読して,私は留学先のジョンズ・ホプキンズ大学の疫学科長を長らく務めたゴーディス教授の「疫学入門」の名講義を思い出した。ちなみに同大学では,入門→中級→上級となるにしたがって,講義は若手が担当する。入門編を,楽しくわかりやすく伝えるほど難しいことはないからである。
本書のもう一つの魅力は,「脚注」である。解説に加えて,著者のホンネあり,冗談あり,読者への問いかけあり,まるで著者と会話している気にさせられる。この重層感が本書をより楽しくわかりやすくしている。
そして今回新たに加わったのが,各章の末尾を飾る「疫学デッドセクション」というコラムである。その中で,航空機パイロットの養成が,プロペラ機からジェット機,ハイテク機へと,航空機の進歩をなぞるように順を追って学んでいくことを紹介しながら,疫学者の養成も,まず記述疫学に始まり,他の観察研究から介入研究へと順を追っていくべきだとの主張は,実に説得力がある。これは疫学者の養成に限ったことではない。冒頭に述べたように,他分野から疫学を勉強する方々も増えている。その方々が本書を読まれる際は,必要な部分だけを「つまみ読み」するのでなく,第1章から最後までじっくり読んで,疫学そのものをご理解いただきたいと思うものである。
脚注を栄養剤にして読み切れる,実用性重視の「黄色い本」
書評者: 名越 究 (栃木県保健福祉部保健医療監)
本書(業界内の通称は「黄色い本」)の特徴は,地域保健対策の政策立案や研究で用いるレベルの疫学のエッセンスを,コンパクトながらも必要十分かつわかりやすく解説している点である。また,調査・分析を行う際に参照しなくてはならない国の統計へのアクセス方法や,調査を設計する際に留意しなければならない疫学倫理指針への対応方法といった,知っておくと有用な情報についても幅広く提供してくれていることも他書にない美点である。保健師,栄養士など地域保健対策に従事する技術職の人から,「手近な疫学・統計学の参考書として何が良いか」と尋ねられたら,評者は本書を紹介することにしている。
さてこの黄色い本の使い方であるが,時間がない人には一気に通読してどこにどのようなことが書いてあるか,全体の構成を大まかにつかんでおき,後は実務の際に必要に応じて該当部分を読み直すというのを勧めている。普通,教科書を通読するというのは苦痛な作業だが,本書の脚注には読み進めるための栄養剤のような効果があるので,たいていの人は読み切ってしまうだろう。なお,脚注といっても本文中の用語の説明だけではなく,本文中には書けない世相に対する著者の本音なども混ざっている。極論すればここを読んだだけでも知的好奇心が十分満足させられるといえ,本書のもう一つの特色となっている。もっとも,最初からゆっくり咀嚼しながら読み進めて実力を養っていくのが正統な使用法であることはいうまでもない。学習が進んでより高度な知識が必要となってきたなら,用途に応じた専門的な参考書に進むとよいだろう。
さて,本書は2002年の初版発行以来11年で早くも2回目となる改訂を行った。第3版は2色刷となって読みやすさへの配慮がなされるとともに,国の政策,社会環境,学術における知見など新しい情報を更新して記述を充実させたにもかかわらず,全体では10ページも減っている。普遍的な部分のモディファイにもかなりの力を注いでいるはずで,実用性重視のこだわりが強く感じられる。
それにしても,第2版が出版された2006年初頭,まだ0系新幹線が現役であり,ボーダフォンが携帯電話事業者として健在であり,特定健診・保健指導は始まってもいなかったのだ。激しい変化が続く世の中できちんと仕事をするために,技術職としてのたしなみとして,アップデートされた黄色い本を常に手元に置いておくことを心掛けたいと思う。
必ずや疫学を楽しく学んでいただけることを確信できるテキスト
書評者: 廣田 良夫 (大阪市大大学院教授・公衆衛生学)
中村好一先生著の『基礎から学ぶ楽しい疫学』が,「黄色い本」の愛称で好評を得ていることを,この5年間ほど聞き及んでいた。今般,本書の第3版発行に当たり書評の依頼を受けたことを機に,全ページにくまなく目を通した。元来,医学部学生を対象にまとめられたようであるが,医学・公衆衛生の広範な領域で既に活躍されている多くの方々にも読んで欲しい,そして必ずや疫学を楽しく学んでいただけることを確信できるテキストである。
国内外を問わず多くの疫学のテキストでは,本書の3つの章(疾病頻度の測定,疫学研究手法,偏りと交絡)の内容を中心に,「理解できぬ奴が悪い」と言わんばかりのしかつめらしい文章が続く。それはあたかも,「疫学者以外の者に疫学を容易に理解されてたまるものか」といった疫学者の偏屈な誇りが,行間にびっしりと詰まっているかのような雰囲気を醸し出している。その結果,多くの読者がもはや学ぶ気力を失って,「疫学は楽しくない」「疫学なんてわからなくとも構わない」と刷り込まれてしまっている。「疫学者とは数をかぞえることが得意な医師のことである」というジョークの所以でもある。
本書の中で引用されているように,中村先生は川崎病やクロイツフェルト・ヤコブ病などに関し,多くの臨床家や基礎医学者との交流の中で研究を遂行してこられた,実学としての疫学研究実践者である。
「理解が得られての疫学」という立場から,内容は秩序立てて整理され,説明の文章は簡明でわかりやすい。概念的でともすれば屁理屈と誤解されがちな疫学理論も,頭に心地よく浸み込むであろう。異なる見解があり一言では言い表しにくい,あるいは,断定しにくいといった事項については,いたずらにすべてを説明しようとせず,そのニュアンスを各ページの脚注で上手に伝えてある。中村先生の豊富な知識と経験がなせる技であろう。
本書は,記述疫学から分析疫学まで,既存データ活用および頻度調査から関連性検討まで,疫学の幅広い領域をカバーしている。また従来,疫学のテキストに記載されることが少なく,別途,臨床疫学や統計学のテキストを必要とすることがあった内容についても,「第7章 スクリーニング」や「第10章 疫学に必要な統計」にわかりやすく説明されている。
これから疫学を学ぼうとする人,研究報告や文献を理解するために疫学の知識を身につけたい人,いったんは挑戦したけど諦めた人,また,疫学なんて不要と考える現役の臨床研究者など,楽しく学べる本書をぜひ一読して欲しい。思考経路が拡大すること必定であろう。
また,中村先生におかれては,本書をさらに磨き上げることにより,疫学への理解と関心が深まり定着するよう,今後とも奮闘いただきたい。
書評者: 辻 一郎 (東北大大学院教授・公衆衛生学)
いま疫学を学ぶ人が増えている。疫学を志す人が増えていることに加えて,他の研究領域と疫学との接点が広がっているからである。例えばゲノム科学にとって,疫学は不可欠なものになった。臨床医学の共通言語ともいえるEBM(根拠に基づく医学)は,疫学に基盤を置いている。公共政策や生命倫理,メディアの方々にとっても,疫学の理解は重要である。そこで疫学を学ぶ人が増えているのである。
しかし初学者にとって,疫学は何ともわかりにくい。そのような悩みをよく聞く。私の助言は,ただ一言。
「黄色い本をお読みなさい」
畏友・中村好一教授が2002年に上梓された名著『基礎から学ぶ楽しい疫学』(俗に「黄色い本」と呼ばれる)の第3版が出版された。序文の書き出しがすごい。
「売れ行き好調な本書である」
いつかは言ってみたいセリフではないか。ただ前記のように,私もわずかながら売り上げに貢献していると思う(だから評者を頼まれたわけではないだろうが)。
疫学の定義や基本的な考えに始まって,疫学の研究方法,偏りと交絡,因果関係を議論した上で,「疫学の集大成」としてスクリーニングを取り上げているのは興味深い。その上で,統計解析に約50ページを確保している。そして,倫理の問題と社会への応用について読者に問いかけて,本書は完結する。
一読して,私は留学先のジョンズ・ホプキンズ大学の疫学科長を長らく務めたゴーディス教授の「疫学入門」の名講義を思い出した。ちなみに同大学では,入門→中級→上級となるにしたがって,講義は若手が担当する。入門編を,楽しくわかりやすく伝えるほど難しいことはないからである。
本書のもう一つの魅力は,「脚注」である。解説に加えて,著者のホンネあり,冗談あり,読者への問いかけあり,まるで著者と会話している気にさせられる。この重層感が本書をより楽しくわかりやすくしている。
そして今回新たに加わったのが,各章の末尾を飾る「疫学デッドセクション」というコラムである。その中で,航空機パイロットの養成が,プロペラ機からジェット機,ハイテク機へと,航空機の進歩をなぞるように順を追って学んでいくことを紹介しながら,疫学者の養成も,まず記述疫学に始まり,他の観察研究から介入研究へと順を追っていくべきだとの主張は,実に説得力がある。これは疫学者の養成に限ったことではない。冒頭に述べたように,他分野から疫学を勉強する方々も増えている。その方々が本書を読まれる際は,必要な部分だけを「つまみ読み」するのでなく,第1章から最後までじっくり読んで,疫学そのものをご理解いただきたいと思うものである。
脚注を栄養剤にして読み切れる,実用性重視の「黄色い本」
書評者: 名越 究 (栃木県保健福祉部保健医療監)
本書(業界内の通称は「黄色い本」)の特徴は,地域保健対策の政策立案や研究で用いるレベルの疫学のエッセンスを,コンパクトながらも必要十分かつわかりやすく解説している点である。また,調査・分析を行う際に参照しなくてはならない国の統計へのアクセス方法や,調査を設計する際に留意しなければならない疫学倫理指針への対応方法といった,知っておくと有用な情報についても幅広く提供してくれていることも他書にない美点である。保健師,栄養士など地域保健対策に従事する技術職の人から,「手近な疫学・統計学の参考書として何が良いか」と尋ねられたら,評者は本書を紹介することにしている。
さてこの黄色い本の使い方であるが,時間がない人には一気に通読してどこにどのようなことが書いてあるか,全体の構成を大まかにつかんでおき,後は実務の際に必要に応じて該当部分を読み直すというのを勧めている。普通,教科書を通読するというのは苦痛な作業だが,本書の脚注には読み進めるための栄養剤のような効果があるので,たいていの人は読み切ってしまうだろう。なお,脚注といっても本文中の用語の説明だけではなく,本文中には書けない世相に対する著者の本音なども混ざっている。極論すればここを読んだだけでも知的好奇心が十分満足させられるといえ,本書のもう一つの特色となっている。もっとも,最初からゆっくり咀嚼しながら読み進めて実力を養っていくのが正統な使用法であることはいうまでもない。学習が進んでより高度な知識が必要となってきたなら,用途に応じた専門的な参考書に進むとよいだろう。
さて,本書は2002年の初版発行以来11年で早くも2回目となる改訂を行った。第3版は2色刷となって読みやすさへの配慮がなされるとともに,国の政策,社会環境,学術における知見など新しい情報を更新して記述を充実させたにもかかわらず,全体では10ページも減っている。普遍的な部分のモディファイにもかなりの力を注いでいるはずで,実用性重視のこだわりが強く感じられる。
それにしても,第2版が出版された2006年初頭,まだ0系新幹線が現役であり,ボーダフォンが携帯電話事業者として健在であり,特定健診・保健指導は始まってもいなかったのだ。激しい変化が続く世の中できちんと仕事をするために,技術職としてのたしなみとして,アップデートされた黄色い本を常に手元に置いておくことを心掛けたいと思う。
必ずや疫学を楽しく学んでいただけることを確信できるテキスト
書評者: 廣田 良夫 (大阪市大大学院教授・公衆衛生学)
中村好一先生著の『基礎から学ぶ楽しい疫学』が,「黄色い本」の愛称で好評を得ていることを,この5年間ほど聞き及んでいた。今般,本書の第3版発行に当たり書評の依頼を受けたことを機に,全ページにくまなく目を通した。元来,医学部学生を対象にまとめられたようであるが,医学・公衆衛生の広範な領域で既に活躍されている多くの方々にも読んで欲しい,そして必ずや疫学を楽しく学んでいただけることを確信できるテキストである。
国内外を問わず多くの疫学のテキストでは,本書の3つの章(疾病頻度の測定,疫学研究手法,偏りと交絡)の内容を中心に,「理解できぬ奴が悪い」と言わんばかりのしかつめらしい文章が続く。それはあたかも,「疫学者以外の者に疫学を容易に理解されてたまるものか」といった疫学者の偏屈な誇りが,行間にびっしりと詰まっているかのような雰囲気を醸し出している。その結果,多くの読者がもはや学ぶ気力を失って,「疫学は楽しくない」「疫学なんてわからなくとも構わない」と刷り込まれてしまっている。「疫学者とは数をかぞえることが得意な医師のことである」というジョークの所以でもある。
本書の中で引用されているように,中村先生は川崎病やクロイツフェルト・ヤコブ病などに関し,多くの臨床家や基礎医学者との交流の中で研究を遂行してこられた,実学としての疫学研究実践者である。
「理解が得られての疫学」という立場から,内容は秩序立てて整理され,説明の文章は簡明でわかりやすい。概念的でともすれば屁理屈と誤解されがちな疫学理論も,頭に心地よく浸み込むであろう。異なる見解があり一言では言い表しにくい,あるいは,断定しにくいといった事項については,いたずらにすべてを説明しようとせず,そのニュアンスを各ページの脚注で上手に伝えてある。中村先生の豊富な知識と経験がなせる技であろう。
本書は,記述疫学から分析疫学まで,既存データ活用および頻度調査から関連性検討まで,疫学の幅広い領域をカバーしている。また従来,疫学のテキストに記載されることが少なく,別途,臨床疫学や統計学のテキストを必要とすることがあった内容についても,「第7章 スクリーニング」や「第10章 疫学に必要な統計」にわかりやすく説明されている。
これから疫学を学ぼうとする人,研究報告や文献を理解するために疫学の知識を身につけたい人,いったんは挑戦したけど諦めた人,また,疫学なんて不要と考える現役の臨床研究者など,楽しく学べる本書をぜひ一読して欲しい。思考経路が拡大すること必定であろう。
また,中村先生におかれては,本書をさらに磨き上げることにより,疫学への理解と関心が深まり定着するよう,今後とも奮闘いただきたい。
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