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神経診断学を学ぶ人のために 第2版

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難解な神経診断学の理解のため、基礎的知識(解剖、生理、薬理)から臨床への橋渡しとなる解説をめざした初版の機能・系統別構成はそのままに全編を大幅増補。「視床」「イオンチャネル異常症」の章新設など構成を変更、「眼球運動の中枢調節」「基底核の神経ネットワーク」「パーキンソン病の病態生理」「呼吸の調節機構」など最新の知見を基に増補。またトピック等をまとめたコラムを46→90題に増加、新しい図・文献も追加。
柴崎 浩
発行 2013年03月判型:B5頁:400
ISBN 978-4-260-01632-2
定価 9,350円 (本体8,500円+税)

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第2版の序

 本書は初版の発行からまだ3年半しか経っていないが,幸い初版に対して多くの読者から反響をいただき,補充すべき点や問題点をご指摘いただいたので,ここに第2版を発行することにした。しかし,初版から第2版を通じての特色として,基礎的知識(解剖,生理,薬理など)から臨床への橋渡しとなるような解説を目標とし,神経解剖学的構造別の記載ではなく機能別に構成し,さらに臨床所見を重視して診察の手順に則って記載した。
 主な追加・改訂点は以下の通りである。まず上記のように,初版では全体を通して解剖学的構造単位ではなく機能的分類に従って解説を進めたが,大脳皮質へ上行するすべての投射経路の中継点である視床(thalamus)については,とくに脳血管障害の好発部位でもあることを考慮して,新しい章(27章)を設けて解説することにした。また,9章の「外眼筋,注視,眼球運動」では眼球運動の中枢調節に関する最近の考え方を加えた。さらに16章の「四肢の運動機能」では,基底核の細胞構築と神経回路,およびパーキンソン病の病態生理について,最近の知見を盛り込んで解説を拡充した。そして29章の「神経内科的緊急症」では,脳幹機能に関連して呼吸の調節機構とその障害について解説を補充した。
 初版では比較的ユニークな試みとして,最近注目を集めているトピック,あるいは筆者が興味を抱いてきた臨床的話題について計46題のColumnを設けたが,多くの方に興味をもっていただいたので,この版ではそれを90題に増やして,内容の充実を図った。また,出版社から図が多いほど読みやすいという意見もいただいたので,腱反射の検査法などを含めて,20件の図を追加した。そのほか,初版22章の「精神・認知機能」と24章の「認知症」を統合して,1つの章とした。また,初版25章の「発作性・機能性神経疾患」の一部であった「イオンチャネル異常症」を,近年増大しているその重要性を考慮して,独立した章(25章)として取り扱った。さらに,初版の発行後に発表された知見を追加して,とくに優れた総説をできるだけ多く引用文献として追加した。そのほか多数の点で,表現を改善し,読みやすいように努めた。
 なお,初版では残念ながらいくつかの誤った記載や誤字がみられた。なかでも,3章「診察の手順」の先天性皮膚異常の項で,結節性硬化症と神経線維腫症の皮膚所見を取り違えて,その記載が逆になっていた。また13章「平衡覚」のところで,球形と卵形の機能に関する記載が逆になっていた。すなわち,初版では古い著書に従って,球形が前後方向,卵形が重力方向の加速を受容すると述べたが,最近の考え方ではむしろ逆が正しいことが判明したので,訂正した。また,16章─「随意運動の中枢調節」の項で,視床の運動中継核に関連して,基底核から入力を受ける中継核と小脳から入力を受ける中継核との間で多少の混乱があったので,用語に関する問題点を解説した。また,索引を含めていくつかの誤字があったので,この機会を借りてお詫びするとともに,第2版では修正した。
 初版に対して多くの方から貴重なご意見をいただいたが,なかでも非常に詳細に目を通していただいた榊原白鳳病院神経内科の目崎高広先生に心から感謝いたします。また,「視床」の章を設けることをご提案いただいた医療法人羅寿久会浅木病院理事長の三好正堂先生にお礼を申し上げます。そして,第2版編集の全過程にわたってご尽力いただいた医学書院医学書籍編集部の小南哲司氏,および同制作部の田中晟喜氏に深甚の謝意を表します。

 2013年2月
 柴崎 浩

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第2版の序
初版の序
用語の用い方

1 神経疾患の診断(総論)
 1 病変部位診断
 2 病因診断
 3 臨床診断
2 病歴聴取
 1 年齢と発症年齢
 2 性別
 3 主訴
 4 現病歴
 5 既往歴
 6 生活歴
 7 家族歴
3 診察の手順
 1 全身の診察と神経学的診察
 2 神経学的診察の手順
4 意識状態の把握
 1 意識の中枢
 2 意識障害の発症機序
 3 意識状態の観察
 4 意識障害の種類と程度分類
 5 意識混濁に類似し,鑑別を要する状態
5 脳幹と脳神経領域
 1 脳幹
 2 脳神経の一般的構造
 3 体性感覚に関与する脳神経
 4 自律神経成分を含む脳神経
 5 脳幹における脳神経核の位置
6 嗅覚
 1 嗅覚系の解剖と神経伝達物質
 2 嗅覚の診察
7 視覚
 1 視覚系の解剖と機能
 2 視覚機能の診察
8 瞳孔と調節
 1 内眼筋の神経支配
 2 内眼筋の診察
9 外眼筋,注視,眼球運動
 1 外眼筋の神経支配
 2 注視の神経調節機構
 3 内側縦束と核間性眼筋麻痺
 4 眼球運動の調節機構
 5 外眼筋,注視および眼球運動の診察
10 三叉神経
 1 解剖と機能
 2 三叉神経に関連した機能の診察
11 顔面神経
 1 解剖と機能
 2 顔面神経支配領域の診察
12 聴覚
 1 聴覚神経路の構造
 2 聴覚の診察
13 平衡覚
 1 平衡覚神経路の構造と機能
 2 平衡覚の診察
14 舌咽神経,迷走神経,舌下神経
 1 嚥下および発声・構音にかかわる神経支配
 2 咽頭・喉頭の体性感覚支配
 3 味覚
 4 唾液分泌
 5 内臓の自律神経支配
 6 内臓からの求心路
 7 嚥下,発声,構音に関する診察
15 頸部と体幹
 1 頸部の診察
 2 体幹の診察
16 四肢の運動機能
 1 運動系の最終共通路
 2 随意運動の中枢調節
 3 四肢の運動系の診察
17 腱反射と病的反射
 1 腱反射の調節機構
 2 腱反射の検査の仕方
 3 病的反射の種類と発生機序
 4 錐体路徴候としての表在反射の欠如
18 不随意運動
 1 不随意運動の診察
 2 振戦
 3 舞踏運動
 4 バリズム
 5 アテトーゼ
 6 ジストニー
 7 ジスキネジー
 8 ミオクローヌス
 9 常同運動
 10 意図すれば短時間抑えられる不随意運動
 11 末梢神経起源の不随意運動
19 体性感覚系
 1 体性感覚系の構造と機能
 2 体性感覚の診察と異常所見
20 自律神経系
 1 自律神経遠心系の構造と機能
 2 自律神経求心系の構造と機能
 3 自律神経系の診察
21 姿勢・歩行
 1 歩行の中枢調節機構
 2 歩行の診察
22 精神・認知機能
 1 精神・認知機能の診察
 2 認知症
23 失語・失行・失認
 1 言語,行為,認知に関する神経回路網
 2 言語,行為,認知の診察
24 発作性・機能性神経疾患
 1 てんかんと痙攣
 2 頭痛と片頭痛
 3 睡眠障害
25 イオンチャネル異常症
 1 遺伝性イオンチャネル異常症
 2 自己免疫性イオンチャネル異常症
26 心因性神経疾患
27 視床
 1 感覚中継核としての後腹側核
 2 運動視床としての前腹側核と外側腹側核
 3 前頭前野への中継核としての背内側核
 4 記憶の中継核としての前核
 5 頭頂葉への中継核としての視床枕
 6 上行性網様体賦活系の中継核としての内板核
 7 視覚および聴覚の中継核
28 視床下部と神経内分泌
 1 視床下部の構造と機能
 2 神経内分泌
 3 外界への適応と身体内部環境の調節
29 神経内科的緊急症
 1 呼吸麻痺をきたす疾患
 2 意識障害をきたす疾患
 3 痙攣重積状態
 4 早期に治療しないと機能回復が良くない状態
 5 昏睡患者の診察
 6 脳死の判定
30 日常生活障害度
31 機能回復と予後
 1 神経組織の傷害のされ方と機能障害およびその回復
 2 神経機能回復の機序
32 検査方針の立て方

文献
神経学をこれから学ぼうという人へ(あとがきに代えて)
和文索引
欧文索引

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神経学に携わる人にあまねく読まれるべき書物
書評者: 中野 今治 (東京都立神経病院院長)
 著者柴崎浩氏は臨床神経生理学の大家である。のみならず,臨床神経学の広い領域における該博な知識の持ち主でもある。40年前の第1回神経内科専門医(当時は認定医)試験で著者がトップの成績を修めたとのもっぱらの噂からもそのうんちくの深さが伺われる。

 神経診断学という領域に限られた内容とはいえ,臨床神経学の知見が膨大になった現在,よほどの才能と熱意を備えた人でなければ単著での執筆は困難である。著者はこのような才と熱の両者を有するまれな人である。

 本書が対象とする読者は,本書(第2版)にも掲載されている初版序に明らかにされている。いわく「これから臨床神経学を学ぶ人」である。さらには,「看護師,理学療法士,言語療法士,臨床神経生理検査技師をはじめとして,神経疾患の診療に何らかのかたちで携わる人にもわかるような言葉を用いるように努めた」とも記されている。

 その言葉通り,そのような人たちにもわかりやすく書かれている。とはいえ,本書は単なる入門の書ではなく,筆者にも非常に面白く読め,新しい知識と得心の解釈に随所で出会い,大いに啓発された。例えば,35頁の「耳側蒼白」という語は評者が初めて目にする術語で,その意味するところの重要さも理解できた。また,下顎反射における求心路の神経細胞体は三叉神経中脳路核にあるということも初めて知った(83頁)。三叉神経中脳路核は三叉神経節細胞が脳幹内に遊走して三叉神経領域の深部覚を伝えることは学んでいたが。

 本書の内容は,著者が日米における臨床神経学の数多くの先達との交わりの中で「総合的に消化して自ら築き上げてきたもの」である(初版の序)だけに,どの章も読み応えがある。中でも出色は著者の専門領域である16章「四肢の運動機能」と18章「不随意運動」であろう。一読して目からうろこの落ちる感がある。

 ただ,生理的振戦の項において,「これには機械的要素と中枢性要素が関与しており,純粋の機械的振戦は末梢の機械的共鳴によるもので,筋収縮を伴わない」とのくだり(187頁)はすぐにはふに落ちなかった。ここでの筋は骨格筋を指しており,振戦の基になっている運動は血管の拍動によるものであろうと推測・納得するのにしばしの時間を要した。機械的共鳴であっても共鳴を起こさせる力が必要だからである。

 また,病理形態学を学んだ評者にはその面でのささいな点が気になった。大脳前額断では中心溝を挟んで一次運動野が内側,一次感覚野が外側に位置する。しかし,本書のシェーマ(199頁,図18―8)では逆になっている。著者はこのような点は百も承知で,この項のテーマ「ミオクローヌス」の理解を容易にするためにあえて逆にした可能性もある。

 本書は著者の積年の経験に基づいて編まれた好著であり,「(専門医も含めて)何らかのかたちで神経学に携わる人」にあまねく読まれるべき書物である。
神経症候と診察法の背景にあるメカニズムが明らかに
書評者: 水澤 英洋 (東医歯大大学院教授・脳神経病態学)
 待望の『神経診断学を学ぶ人のために』第2版が出版され,すべて拝読する機会を得た。本書はふつうの神経症候学のテキストではない。その最大の特徴は,神経生理学(神経解剖学,薬理学を含む)から神経症候への橋渡しであることである。換言すれば,神経症候を,その背景となる神経機能の障害という視点で解説したものである。

 神経系が人のあらゆる機能をコントロールしていることからわかるように,神経症候は数が非常に多く内容も多彩である。神経症候を診ることは神経内科医にとっては楽しみである一方,初学者にとっては必ずしも楽ではない。そのようなときに多彩な神経症候の背景となる神経機能とその異常をわかりやすく解説してくれる本書は極めて有用である。そして,広範な神経症候を神経生理学・解剖学・薬理学などの視点で効率的に整理して理解する大きな助けとなる。

 これは,著者である柴崎浩先生が,経験豊かな臨床神経内科医であるとともに優秀な臨床神経生理学者であることによると思われる。これは京都大学にて臨床神経学講座と脳病態生理学講座の教授を兼任され,その後国際臨床生理学会連合の会長を務めた柴崎先生であるからこそなせる業であると思われる。20件追加された図表はまさに症候,画像検査(解剖),生理検査が多用されその象徴となっている。

 第二の特徴は,90題に倍増したコラムであり,目次の後に一覧表が載っているのもうれしい。最新のトピックあり,代表的症例あり,病態の説明あり,治療による症候の変化ありなど,本文を補って幅の広さと奥行きを与えている。コラムのみを拾い読みするといった楽しみ方もある。

 第三の特徴は,神経疾患の診断をつける上で重要な,神経学的診察の手順はもちろん,神経学的診察と全身診察の関係,そして検査の仕方に至るまで,きちんと説明があることである。すなわち,病歴聴取による病因診断,神経学的診察による病変部位診断,それらによる最終的な臨床診断の付け方が示されている。第2章は丸ごと診察の第一歩である病歴聴取に当てられており,重視されていることがわかる。

 第四の特徴は,わかっていることとわかっていないことが明確に区別されており,ポイントとなる記述には根拠となる文献が添えられていることである。これは柴崎先生が診断学も科学的・論理的でなければならないとお考えの故と拝察している。

 柴崎先生は私が最も尊敬する神経内科医のお一人である。私はこれまで何人かの著名な神経内科の先達から直接,神経学的診察の手ほどきを受けることができたが,残念ながら柴崎先生にはまだその機会はない。この『神経診断学を学ぶ人のために』は私の願いを叶えてくれる名著である。全編を通じて,神経症候とその診察法の背景にある,メカニズムを明らかにしてそれをもって理解するという一貫した科学的・論理的な姿勢がみられる。最後に「あとがきに代えて」と題して,神経学をこれから学ぼうとする人への温かいメッセージが添えられている。そこにある,神経症候学は現代的な手法で検討し,科学的な検証を加え,わかりやすい明確なものとする必要があるという柴崎先生のご意見に私も全面的に賛成である。
神経診断の魅力を徹頭徹尾追求した書籍
書評者: 糸山 泰人 (国立精神・神経医療研究センター病院長)
 神経学の魅力は多くの人が述べておられます。その魅力の一つには無限に広がる脳科学の世界につながる臨床分野であることもあげられますが,何といってもシャーロック・ホームズの世界に入り込んだような緻密な観察と論理的な推論を行いながら,難解な神経疾患に診断を下す面白さにあるのではないでしょうか。

 その神経診断の魅力を徹頭徹尾追求した書籍,柴崎浩著『神経診断学を学ぶ人のために 第2版』が,この度出版されました。柴崎先生は私が神経学を学び始めたころにその基礎から臨床のすべてを教えていただいた先生であり,また世の中にwalking dictionaryといわれる人物の存在を初めて認識させられた先生でもあります。まさに私の神経学の師と敬う先生であります。

 神経学の教科書は世界にあまたありますが,その多くは疾患単位に分類されていてそれぞれの疾患の症候,検査,治療の解説が書かれているものであったり,あるいは大脳・小脳・脳幹・脊髄というように神経解剖ごとに疾患を羅列してそれらの診療情報を記載したものであったり,また個々の代表的な神経症候学を詳しく述べたものがほとんどであります。本書においては,実際の臨床現場に立ったとき,患者から症状をいかに聴取し,それに関連した神経学的診察をいかに行い,そこから得られる神経症候をいかに観察し推測し,それらをいかに合理的な神経診断につなげていくかが具体的に解説されています。このような教科書が一人の著者において書かれたことは大変貴重なものと考えます。

 本書の診断に至るまでの基本となる考え方は3 step diagnosisであります。診断にかかわる事柄を混然と考えるのではなく,まず最初に第1ステップとして解剖学的診断,すなわち病変部位診断を専ら考え,次に考えを切り替え第2ステップとして病因診断を検討し,そして最終ステップとして臨床診断としてまとめる過程が重要だとしています。中でも重視しているのが,第1ステップの解剖学的診断に至るプロセスであり,それに至るまでの病歴聴取や神経学的診察における重要な観察と推測のポイントが随所に見受けられます。例えば,「主訴は患者が主として訴える症状であるかのように一般では考えられがちであるが,これは必ずしも正しくない。むしろ,その患者の診断にとって最も大事な症状,あるいは前景に立っている症状を主訴として記載するほうが妥当と考える」はまさに柴崎流の診断学の起点となる考えであります。

 本書は実際の神経診断に携わる読者にふさわしい項目立てになっています。診断の基本的な考え方,神経疾患の主要な症候,それに大まかな神経系障害による症候の項目という組立になっています。各項目においては必要な神経系の構造とネットワーク,およびその生理学的・薬理学的働きが要領よく述べてあり,それらを理解した後に診察所見をどのように推理して合理的な診断へ至るかという過程がまさに柴崎浩先生が身近におられるような語り口で解説されています。各項目ともよくまとまって書かれていますが,それらの中でも脳神経系の症候,特に眼球運動障害,また大脳基底核をはじめとした随意運動の中枢調節,それに不随意運動,中でもミオクローヌスの項目は圧巻です。これらに加えて,多くの読者が興味を持つ注目のトピックをまとめたコラムが実に要領よく述べてあり,神経診断学の修行中において一服のお茶をいただく感があります。

 神経学はまさに日進月歩の神経科学分野とともにあり,神経難病が克服されるのもそう遠くはない時代になったともいえます。そういった神経学の基本が神経診断学であります。神経学を学び,教え,進化させる方々に柴崎先生が心血を注がれて書かれたこの『神経診断学を学ぶ人のために 第2版』をぜひお薦めいたします。
神経診察に関わる全ての人々に薦めたい啓発の書
書評者: 祖父江 元 (名古屋大学大学院教授・神経内科学)
 柴崎浩先生の「神経診断学を学ぶ人のために」改訂第2版が出版された。この書は既に2009年に第1版が出版され大変好評であったが,今回,多くの改訂が加えられ装いも新たに出版されたものである。

 まず,柴崎先生ならではの大変な労作であると感じる。序で先生自ら述べられているが,電算化や画像化がどれだけ進んでも,神経診断学は学習と経験に基づいた病歴聴取と診察の中から生まれるものであることをまず宣言されている。最近の神経診断がややもすると画像やコンピューターに基づく知識に偏りすぎていて,安直な形で進められてしまっていることへの警鐘にもなっている。神経診断学は,理論に基づき系統的に行えば正しい診断に達することができるものであり,かつその背後に潜む神経系の美しさや素晴らしさが見えてくることを示しているのが本書である。

 本書にはいくつかの特徴がある。

 その第1は,柴崎先生がお一人で執筆された点である。先生の長年にわたる経験や考え方あるいは提言をまとめた書であることである。全編に満ちる確信の書きぶりと小気味よい端正な記述の流れは,まさにこのことによっている。

 第2は,診断や病態理解に至る解剖学的,神経機能的背景が,まさに互いに関連する形で述べられており,考え方の道筋が示されている。特に不随意運動,姿勢・歩行,運動機能などは先生ご自身の研究成果も多く取り入れられて,考え方の根拠がはっきり述べられている。

 第3には実践的であるということである。三段階診断法や病歴聴取,診療の手順を始め,各項目に診察の具体的な手順が述べられていて初心者にも診断の流れやポイントが理解できるようになっている。さらに具体的な疾患の記載が手際よく文脈に挿入されており,知らず知らずのうちに疾患にたどり着いている。

 第4には新しい神経学の知見が盛り込まれていることである。それは新規の疾患遺伝子であったり,治療法であったり,疾患分類であったりする。このup-to-dateは改訂版の大きな特徴である。

 第5には90にも達するコラムの存在である。ポイントをおさえたテーマの選択と簡潔な記述のコラム欄は本書の大きな特徴で,重要な情報が凝集されており,本文と絶妙な掛け合いになっている。

 第6は,視床の項の存在である。視床についてこれだけ簡潔にその系統的な機能がまとめられているものはあまり例を見ない。特にその中継核としての視床の重要性をあらためて考えさせられる項目である。

 最近の診療の電算化は電子カルテをはじめ,画像や検査,情報の扱いなど,われわれの日常の診療に大きな変化をもたらしている。もちろん多くの良い点が見られるが,神経診察の領域でも,ややもすると不都合が起こっているかもしれない。例えば患者の神経症候の変化を時系列でみることがおろそかになっていないか。感覚障害の分布や強度,modalityを細かく描出する作業は,以前は診察の基本であったが,IT化とともに稀薄になってはいないか。若い人たちは,電子化情報の中に本質があると誤解してはいないか。本書は,臨床神経学の本質は,患者が訴える症状とその時間的経過の把握,および診察によって得られる症候の組み合わせであるとする考え方は少しも変わってはいないことを教えているように見える。

 本書がこのような時代の中で,あらためて改訂版として出版される意義は誠に大きいと考えられる。

 本書は,一方では,神経診断は決して難しいものではなく,その背景を理解することによって多くの人が共有すべきものであることを述べている。また神経診察は極めて実践的なものであり,診断や治療に向かうtoolとして多くの人が共有すべきものであることを示している。

 神経診察に関わる全ての人々に,啓発の書として本書を薦めたい。

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本書の記述の正確性につきましては最善の努力を払っておりますが、この度弊社の責任におきまして、下記のような誤りがございました。お詫び申し上げますとともに訂正させていただきます。

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