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臨床実践力を育てる!
看護のためのシミュレーション教育

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看護基礎教育、臨床看護師教育において活用が進むシミュレーション教育。教育を実践する際に基盤となる学習理論、教材設計の方法、デブリーフィングをはじめとする教育技法と評価のスキルまでを網羅的に解説したはじめての書籍。シミュレーション教育の構造などに関するオリジナルの概念図、モデル図も充実。第5章では研修や授業ですぐに活用できるシナリオを集めた。「学習者中心の学び」を実現するシミュレーション看護教育の理論と実践が、この1冊でまるごとわかる。
編著 阿部 幸恵
発行 2013年08月判型:B5頁:208
ISBN 978-4-260-01764-0
定価 3,740円 (本体3,400円+税)

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はじめに
学習者中心の教育をめざして

 医療の進展に伴い、現在の看護師に求められるものは多岐にわたる。社会のニーズに応えるために専門職者として身につけておかなければならない技術・知識も膨大だ。
 そのようななかで、これまで教員や指導者は、学生や後輩たちを教え導こうとするあまりに、「いかに教えるか」「いかに彼らの能力を評価するか」という、教師・指導者目線からのアプローチ方法に固執してきたのではないだろうか。 
 本来、教育とは、学習者である学生や後輩が看護師としてよりよい方向に着実に育つことをめざすものである。
 ここで看護教育における、よりよい方向やゴールとは何かについて考えてみたい。筆者が考えるところでは、授業や研修で教えた知識を暗記して試験に合格することでも、演習で行われたデモンストレーションを忠実に再現して技術試験に受かることでもない。なぜなら、教師・指導者らが評価を行う場、限定されたそのときにだけ「知っている」「できる」では、ひとりの看護実践者として成長していく過程の学習成果としては、何の意味ももたないからだ。
 学習者が看護師(あるいは看護学生)として出会うであろう患者や家族に対して、彼ら自身の知恵と心、そして身体を使って、エビデンスに基づいた看護を提供できるように導かなければならない。つまり、看護教育がめざすものは、学習者がみずから考え、自立した看護実践が行えるまでに育てることであろう。
 そのためには、学習者みずからが理想の看護師像を抱き、そこに向かって主体的に歩む必要がある。
 かつて、ソクラテスは

 「わたしは産むことはできない。産婆である。私は問うことで相手が『自分の考え』を産むのを手伝うことしかできない」

 と言った。有名な「問答法(産婆術)」である。彼はみずからは教えず、自分と弟子との会話のやりとり(問答)を通して、弟子たちがみずからの「知や無知」に「気づき」、成長していく手法で弟子を育てた。

 このような言葉もある。

 “I hear, and I forget. I see, and I remember. I do, and I understand.”
 (聞いたことは忘れる。見たことは思い出す。体験したことは身につく)

 似た言葉で、古代中国の哲学者・老子の格言がある。
 (「見つけ出したことは、身に付く」という言葉が付け加わることもある)。

 「聞いたことは、忘れる。見たことは覚える。体験したことは、分かる」

 これらの言葉は、学習者自身が経験して身につけたことこそが、彼らの真の学びや育ちにつながることを表している。まさに「学習者中心の教育」を指している。
 そして今、教師や指導者には、「教師中心の教育」に傾きすぎた従来の教育を顧みて、学習者が主体的に学ぶ「学習者中心」の教育への方向転換が、高等教育をはじめとするすべての教育の場で求められている。
 「学習者中心の教育」を展開していくうえで大切なことは、学習者みずからが「学びたい」と思い、みずから、目的をもって成長しようという意思をもつことである。その支援のために、教師・指導者は存在している。
 教師・指導者が「教えなければ」という呪縛から自分の身を解き放ち、「学習者が意欲的に学習するためにいかに自分があるべきなのか」という視点に立つことは、大きな「教育観」のパラダイムシフトとなるはずだ。
 「学習者中心の教育」、それを実現していくための方法はいくつかある。そのひとつが「シミュレーション教育」なのである。 
 シミュレーション教育とは臨床でのあらゆる状況、患者の状態を学習者のレディネスに合わせて模擬的に再現した環境での体験型学習である。失敗も成功も含めた学習者のシミュレーションでの体験すべてが、彼らの学びとなるように、教師・指導者が支援しながら学習目標に導いていくものである。しかも、学習者の内側から出てくる学びたいという欲求、つまり内発的な動機づけによる学習が基本に据えられている。
 決して、「教え込む」「刷り込む」教育ではない。問題解決型かつ学習者中心の教育なのである。本書ではこの理念を貫きながらシミュレーション教育について解説していく。
 第1章~第4章では、「シミュレーション教育」の土台となっている教育論を味わっていただきたい。この教育の基本を通して、みずからの「教育観」を見つめていただければ幸いである。
 第5章では、看護学生や新人看護職員対象のシミュレーション例をユニークな発想で紹介している。シミュレータを使って指導を行うことがシミュレーション教育ではない。看護現場のコンテクストを意識しながら教師・指導者が創意工夫することで、さまざまな場面を体験するための生きた教材づくりが可能となることを、シナリオの実例を通して示した。それぞれの学校や職場でのシミュレーション教育に役立てていただきたい。
 看護学生も新人看護職員も「その人だけの看護の賜物」を秘めているし、無限の可能性をもっている。われわれ教師や指導者が授業・実習・臨床というあらゆる場で学習者の「もっと学びたい」を引き出すことができたら、きっと学習者はわれわれを超える看護師に育っていくと確信している。

 「看護する者の手は、病人のために差し伸べられる時、不思議な力を発揮する」
      『きょう一日を――寺本松野ことば集』(日本看護協会出版会,2010)より

 心や身体に弱さを覚えるすべての人たちへ愛と希望をもたらすことのできる看護師を育てたいと願う。シミュレーション教育を通し、われわれ教師や指導者が後輩たちに寄り添う意味をともに考えたい。

 阿部幸恵

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はじめに

第1章 医療におけるシミュレーション教育
 1.1 医療者を取り巻く環境の変化
 1.2 プロフェッショナリズムを発揮するための基礎的能力
 1.3 変革する看護教育-学習者中心、学習成果を重視した教育へ
  Column 1 高等教育のユニバーサル化
 1.4 学習者中心の教育と能動的学習方略
  Column 2 デールの経験の円錐(学習のピラミッド)
 1.5 看護教育におけるシミュレーション教育
 1.6 海外の看護教育におけるシミュレーション教育
 1.7 医学分野におけるシミュレーション教育
 1.8 薬学分野におけるシミュレーション教育

第2章 シミュレーション教育の構造と理論
 2.1 シミュレーション教育とは何か
 2.2 シミュレーション教育の一連の流れと構造
  Column 3 標準的な救命処置を目的とする各種のコース
 2.3 理論1 シミュレーション教育の土台となる教育/学習理論
 2.4 理論2 シミュレーション教育のデザインに参考となる教育/学習理論
 2.5 理論3 デブリーフィングセッションで応用したい教育/学習理論

第3章 シナリオ作成と教育技法
 3.1 シナリオの作成
 3.2 具体的な教育技法
  Column 4 構造化されたデブリーフィング技法

第4章 学習環境の整備-必要となるリソース
 4.1 必要となる人材
 4.2 必要となる機器・物品
 4.3 シミュレーション教育を実践する場
    おきなわクリニカルシミュレーションセンターでの運営

第5章 シナリオ集
 5.1 シナリオ活用にあたっての留意点
 シナリオ1 血圧測定-両上肢切断の患者
 シナリオ2 点滴投与患者の移送
 シナリオ3 ショックの認知と対応
 シナリオ4 急性呼吸不全患者への対応-喘息発作のケース
 シナリオ5 坐薬挿入後の排泄介助
 シナリオ6 検温トレーニング-優先順位の判断
 シナリオ7 心窩部痛を訴える患者への対応-狭心症発作のケース
 シナリオ8 クモ膜下出血患者への対応

付録 Debriefing Assessment for Simulation in Healthcare©(DASH©
あとがき
索引

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医学教育を含む医療者の教育に携わる人に勧めたい一冊
書評者: 大滝 純司 (北大大学院専任教授・医学教育推進センター/東医大兼任教授・総合診療科)
 「看護のためのシミュレーション教育」は,琉球大の阿部幸恵教授の編集による,シミュレーション教育の解説書です。日本でも海外でも,医療関係職種の教育にシミュレーション教育が急速に普及してきている中,この領域について学ぶ指導者,教育関係者にお薦めの一冊です。

 本書の第一の特長は,収められている内容の幅広さです。医療においてシミュレーションが重要になっている背景はもとより,その教育を理解する際に踏まえておくべき教育や学習に関する理論の概要が,過不足なく紹介されています。また,看護教育だけでなく,医学教育や薬学教育におけるシミュレーション教育についても,それぞれの領域の分担執筆者による解説が載せられていて,領域横断的に俯瞰することが可能な構成になっています。さらには,シナリオを作成する手順や要点,それを用いて演習などを行う際に役立つ教育技法,そしてそのような教育を実現するための環境づくりまで,丁寧に述べられています。最終章には,看護教育で実際にそのまま使える多様なシナリオが8編,掲載されています。

 第二の特長は,わかりやすさです。医療者の教育を担当し始めたばかりの方には,教育や学習に関する理論は比較的難解で,とっつきにくく感じることが多いと思いますが,それらの要点についてわかりやすく解説されていて,参考文献のリストも充実しています。しかも,日本の医学教育のFDでしばしばみられる,ローカルルール的なものではなく,一般の教育学で用いられているいくつもの理論について,それぞれを相対化しながら概観できる構成になっています。このため,多様な理論について,それぞれの位置付けや概念の特徴を整理して理解しやすくなっています。シナリオの構造や教育技法の解説でも,それらと理論との関連が記述されています。

 このユニークで有用な書籍には,編著者の阿部先生のこれまでのキャリアと活動が生かされています。先生は救急部門で看護師としての経験を積まれた後,看護教育に携わられたのを機に教育に深く興味を持たれ,教育学を修めることを志し,学士,修士を経て教育心理学の領域での研究で博士の学位を取得されています。その後,東京医科大学病院の卒後臨床研修センターで,クリニカルシミュレーションラボの管理者として勤務されました。その頃私も同じセンターで副センター長を担当しており,いろいろとお世話になりました。それからの活躍については私が紹介するまでもないでしょう。医療現場での教育の大切さと,基礎から研究レベルまでの教育学を知る阿部先生は,現在は,全国的にそして海外からも注目を集めている「おきなわクリニカルシミュレーションセンター」の副センター長として,シミュレーション教育の開発研究と実践に日々尽力されています。

 医療者のシミュレーション教育について,その背景にある理論から,すぐに使えるシナリオまで,幅広い内容をわかりやすく紹介し解説しているこの本は,看護教育だけでなく,医学教育を含む医療者の教育に携わる人に,きっと参考になると思います。ぜひ一度,手にとってご覧ください。
シミュレーション教育の基礎から実践までを網羅したわが国初の書籍 (雑誌『看護管理』より)
書評者: 冷水 育 (東京医科大学病院 特定行為試行事業看護師)
◆看護を語り合いながら指導ができる,シミュレーション教育

 看護基礎教育のカリキュラム改正や新人看護職員研修制度の導入で,ようやく日本の医療・看護の分野で,シミュレーション教育の必要性が重視されるようになりました。

 長年,臨床現場では看護基礎教育の内容を十分に把握したうえで新人看護師教育を行なうことは困難であり,指導に当たる看護師は,看護基礎教育と臨床での知識・技術の統合を,患者を抱えながら指導していくことに限界を感じ,疲弊し,離職してしまうという悪循環に陥っていました。

 私自身も,救命センターでプリセプターとして新人看護師指導を行ない,その後,病棟指導係として新人看護師指導を担当する看護師の支援を行なってきました。例年,10人,20人と入職する新人看護師の指導と,指導にあたる看護師の支援は病棟全体にまで及びます。1人ひとりの看護師と,看護についてじっくり話し合って指導したい思っていても,目まぐるしく変化する患者状態や,慌ただしく追われる業務のなかで,何とか事故を起こさないようにすることだけで精一杯でした。

 そのようななかで「シミュレーション教育」という教育方法と出合い,試行錯誤,失敗を繰り返しながら奮闘してきました。テキストもなく,シナリオもなく,評価方法もわからないなかで,シミュレーション教育発祥の地である米国の文献も読み……とにかく,何もない荒れた畑に,どうにか看護教育の種を蒔くべく,汗だくで取り組んできました。

 なぜここまで頑張ってきたのか。それは,シミュレーション教育に多くの可能性を感じたからです。知識・技術の統合のみならず医療安全も伝えられる。そして何より,落ち着いて「看護」を語り合い,考えながら指導ができるという実感がありました。

 多くの看護師は,臨床の場面で立ち止まり,自分自身が行なっている看護について意識したり,そこで考えた内容を表現したりすることを得意としていません。日々の業務として流されてしまいがちな「検査の指示受け」や「採血」「検温」でも,患者の背景や病態,時間,その意味を十分に考え,工夫して実践していれば,「看護の心」をもったケアになっているはずです。

 このようなことから当院では,日常的に行なっている「ヘルスアセスメント(フィジカルアセスメント)」や「検温」などのシミュレーションを通して,学習者と指導者が一つになって「看護の心」を考える機会を創出することを大切にしています。

◆本書の読み方,活用方法

 本書を初めて手にしたとき,「これだ! 私たちがシミュレーション教育で,やりたかったこと,知りたかったことは!」と感嘆しきりでした。これまで実践で模索してきたシミュレーションの基礎から応用までの知識が明確かつ愛情たっぷりに書かれていたからです。

 指導者である私たちが「シミュレーションを実施したくても,荒れた畑(環境)を前に何から手を付ければよいのか」と頭を抱えていたところに,(1)畑を起こす前の土を知ること(第1章 医療におけるシミュレーション教育),(2)シミュレーションの畑を耕すために(第2章 シミュレーション教育の構造と理論),(3)どのような種を蒔くのか(第3章 シナリオ作成と教育方法),(4)収穫のための肥料・環境(第4章 学習環境の整備)について,わかりやすく解説されています。さらには,すぐに実践に活用できるシナリオ集も掲載されています。

 本書は,1冊でシミュレーション教育の基礎から実践まで学習し活用できる,わが国で初めての書籍と言えるでしょう。

 ぜひ,指導者の皆さんには,最初から通読してもらい,臨床でのシミュレーション教育に活かしていただきたい。

 しかしながら,「臨床で今すぐシミュレーション教育を導入したい」「実際にシミュレーション教育を導入はしているものの効果的にできている気がしない」という方も多いことでしょう。そういった方には,具体的なシミュレーションシナリオの作成方法について書かれた第3章から読んでみることをおすすめします。自施設や病棟でどのような看護教育目標に向かって,何を身に着けてほしいのかに立ち戻って考えることができるでしょう。そのようななかで疑問が生まれるたびに,基本が書かれている第1~2章に立ち返る,という読み方が有効だと思います。

 また本書は,「こう教えるべき」「こう評価すべき」といった強制的な面が一切なく,「学習者にどのような問いかけを行なえば,考えるきっかけをつくれるか」に重点が置かれている点も魅力です。

◆シナリオ集は各施設で応用して活用を!

 シナリオ集でも,デブリーフィングのポイントとしてアウトラインは示されていますが,「考えるようなきっかけを与える問いかけ」とするためには,やはり「何を学び取ってほしいか」に忠実であり,「どのような種類の種を育てたいか」を指導者がもつことが重要だと示唆しています。

 また,シナリオ集では,具体的に物品から時間配分,環境設営まで細やかに書かれており,明日からでもシミュレーション教育ができるようになっています。

 しかし,シミュレーションの環境は施設によってさまざまであり,基本的な土壌ができていればそれぞれの環境にあった教育をアレンジできます。例えば,学習者の人数が多ければ,グループワークでのデブリーフィングとしたり,勤務時間外でしか教育時間が確保できない場合は,1つのシナリオを回数を増やして,時間を短くしたコースで行なったりする方法もあります。たとえ高機能なシミュレータを用いなくても,患者状況を紙に書いて実施してもよいかもしれません。ぜひ,各教育施設・臨床の現場で実践できる方法を工夫してみてはいかがでしょうか?

 さまざまな教育現場で,シミュレーションで蒔いた「看護の種」が,どのような花を咲かせ実をつけるかは,それぞれの畑次第です。本書は,いろいろな畑で,たくさんの看護の花が咲き,実を結ぶことを祈念している著者の想いが伝わる1冊です。

 私自身も,シミュレーション教育を通してもっと看護を見つめていきたいと思います。また,特定行為試行事業看護師として,特定行為だけではなく患者を中心としたチーム医療を看護の視点でとらえ,チームが有効に機能し安全な医療を提供できることを目指していきたいと思っています。

 今後,特定行為試行事業看護師が,臨床の場でどのような役割を担うべきかを確立し,検証していくためには,シミュレーションが重要になってくると思います。特定行為を実践する前の特定行為試行事業看護師教育としてのシミュレーションも検討していきたいと思っています。私自身の「看護の花」が結実することを願って。

(『看護管理』2013年12月号掲載)
学習者主体の教育方法を具体的に提示した書籍
書評者: 垣花 美智江 (那覇市医師会那覇看護専門学校学校長)
 本書の巻頭で著者は,「学習者が看護師(あるいは看護学生)として出会うであろう患者・家族に対して彼ら自身の知恵と心,そして身体を使ってエビデンスに基づいた看護を提供できるよう導く,つまり,看護教育がめざすものは,学習者が自ら考え,自立した看護実践が行えるまで育てることである」と記しています。

 私は,この一文の中に著者がこの本で伝えたい命題があると理解しました。これは,看護師は臨床経験のなかで自己のキャリアを育み,成長し続けなければならない。そして,教育者(指導者)は,学習者主体の能動的学習方略を考え,学習者の課題発見と学習意欲を引き出す支援者として存在しなければならない,ということにほかなりません。

 この命題は,私たち教員が教育課題として取り組んでいる「看護実践力の育成」「自己教育力の育成」「学習者主体の教育」に一致するものです。私が所属する看護専門学校においても,フィジカルアセスメントや心音・肺音の聴取できるシミュレータ,リフレクションを可能にする視聴覚教材などの整備,学内技術教育へ臨床指導者を参加させるなど,思考錯誤を繰り返しながら教育方法を模索してきました。しかし,納得できる結果を得ることができず,悶々としていました。

 そのようなときに,著者の提唱する系統立てられたシミュレーション教育と出会いました。そして,驚かされたのは,著者の授業展開です。学習者を前のめりにさせる学習への動機付け,シミュレーション中の学習者の思考と感情を揺さぶる声かけ,学習者が白板の前に自ら進み出たくなるデブリーフィングは,まさに,学生の自己効力感を高め,学ぶことを楽しませる授業でした。著者が実践する教授法は,学習者主体の教育へとうまく転換できずにいた私たちに進むべき道を指し示すものだったのです。

 本書は,これまで間近で目にしてきた著者によるシミュレーション教育を教育・学習理論で裏付けながら,実践マニュアルとして丁寧に書き上げています。「第1章 医療におけるシミュレーション教育」では,「いま,なぜ,シミュレーション教育なのか」について概説し,看護師・医師・薬剤師教育への実践例を説明しています。

 中でも,看護教育における方法論については,基礎教育から臨床教育に向かうキャリア発達過程に沿って提示されており,一人の学生がプロフェッショナリズムを発揮できる看護師へと育つためのツールとして,シミュレーション教育を活用できることが示されています。「第2章 シミュレーション教育の構造と理論」では,シミュレーション教育の定義と,教育の一連の流れと構造について具体的に記述し,その根拠となる教育・学習理論で裏付けながら説明しています。「第3章 シナリオ作成と教育技法」では,シナリオ作成のプロセスに沿ってチェックポイントを示し,指導者のためのシナリオデブリーフィングチェック表も提示されており,第5章の具体的なシナリオ集の紹介と合わせて,すぐに使えるマニュアルとして編集されています。本書全体の印象は,概念図やモデル図を多く用いることで,紙面の圧迫感がなく,読みやすく,理解を助ける構成となっています。

 これからシミュレーション教育に取り組もうと考えている方,シミュレーション教育の評価とレベルアップをめざす方へ薦めたい一冊です。この本を手にした方の“わかった”“できた”の声が聞こえてくるようです。

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