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脳卒中機能評価・予後予測マニュアル

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脳卒中の機能予後予測は、リハビリのゴール設定や入院治療期間の設定に極めて重要である。本書は、リハビリに携わる医師ならびに療法士に向けて、まず予後予測のために必要となる機能評価法について解説、それを踏まえてより実践的な予後予測ができるように、従来から最新の予後予測法に至るまで幅広く取り上げた。また代表的な症例を通して、具体的な臨床応用の実例を紹介。常に予後予測が求められるリハビリスタッフ必見の書。
編集 道免 和久
発行 2013年06月判型:B5頁:288
ISBN 978-4-260-01759-6
定価 4,950円 (本体4,500円+税)

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 脳卒中患者の主治医になったとき,あるいは担当療法士になったとき,考えなければならないことは治療の帰結(アウトカム)についての見通しを立てること,すなわち予後予測である。リハビリテーションを行えば歩けるのか,どの程度の自立度に至るのか,どのような合併症が起こりえるのかなどを知ったうえで治療を進める必要がある。リハビリテーション医学が発展する以前は,とにかくやってみようといった予後予測なしの治療も存在した。しかし,リハビリテーション医療の治療期間全体が短くなり,治療にもエビデンスが求められる現代において,予後予測を伴わない治療は非常に危険である。なぜならばやり直しがきかないからである。たとえば最終的に歩けなかったとき,予後予測が全くなされていなければ,この症例は何を行っても歩けなかった,そして治療には問題なかった,と後付けで言い訳ができてしまう。見通しなしに治療していると,治療内容の吟味すらできない事態に陥るであろう。

 まずは予測してみよう。そうすれば,たとえば歩行自立するという予測が外れた際でも,「なぜ歩けなかったか」「見通しが甘くなった理由は何か」「評価しきれていない機能障害が存在したのではないか」「治療法や介入時期に問題はなかったか」など,あらゆる角度から深く考えることができる。このような考察は,実は予後予測が適中することより重要であると言っても過言ではない。さらに,予測の通りの帰結に至りそうな場合でも,予測以上の改善をめざすような臨床上のチャレンジ精神や先端的リハビリテーション治療を開発する努力は,専門家として欠かせない資質である。したがって,まず入院時に大まかな予後予測を行い,それに基づいたゴール設定を行うことを勧めたい。ここでは定量的で正確な予後予測である必要はない。予後予測のプロセスを踏むことによる治療の質の確保と円滑なチーム医療の推進が目的である。そして予後予測が外れていたとしても,チーム全員が共通のゴールを治療目標として意識していれば,誤りにすぐに気づくであろう。その時点で,ゴールの変更や治療法の修正をしても遅くない。予後予測を目安とすることによって,それが正しくても間違っていても,治療の方向づけが適切に行われることがわかる。予後予測がないリハビリテーションは,光もなく暗闇の中を歩くようなものである。

 本書は,兵庫医科大学リハビリテーション医学教室およびNPO法人リハビリテーション医療推進機構CRASEEDが主催する「脳卒中機能評価・予後予測セミナー」のテキストの内容をもとに編集・執筆された。読者が脳卒中リハビリテーションにおける機能予後予測に必要な機能評価法を学び,そのうえで具体的な予後予測法を実践することを目標としている。『脳卒中機能評価・予後予測マニュアル』という書名の通り,読者は本書を手引書として使いながら,いくつかの予後予測法を実践できるようになっている。

 ただし,ここまで述べたことからわかるように本書の最終的な目的は「よく当たる予測法」をマスターすることではない。もちろんそのような便利な方法はいまだ存在しない。予測法によって得られる結果は,一つの目安であり,臨床上の多種多様な因子の一部を反映しているにすぎない。したがって,ある条件で「よく当たる予測法」も,施設,治療法,リハビリテーションの体制,制度などが変われば,全く適中しなくなる。読者はそれを前提にしながら本書を読み進め,いくつかの「予後予測法の例」を利用して,実際の症例で数値を当てはめていただきたい。大切なことはその後である。予測法によって全く異なる結果になってしまったり,経過とともに予測より高い帰結となったり,また逆のこともある。それがなぜそうなるのか,じっくり考察するとよい。多くの因子が関わる予後予測を適用しながら,これらのことを考える習慣が身についたとき,読者の臨床力はきわめて高いものになっていることであろう。さらには,いくつかの予後予測を適用しながら,予後予測に含まれない多様な臨床因子が頭の中に浮かび,患者のリハビリテーション後の帰結が確率分布のようにイメージできるようになるはずである。

 本書が脳卒中リハビリテーションの臨床に関わる方々のお役に立てれば幸いである。

 2013年5月
 道免 和久

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第I部 予後予測のための脳卒中機能評価
 第1章 予後予測のための機能評価の基礎
  1 QOLの医療
  2 リハ医療における論争の原因
  3 機能評価の重要性
  4 優れた機能評価法を使う意義
  5 CI療法から考察する機能評価法
 第2章 脳卒中の機能評価概論
  1 機能評価とは
  2 機能評価法の選択にあたって
  3 評価の目的
  4 障害のレベル
  5 簡便性
  6 データの共有
  7 評価尺度の特性
  8 信頼性
  9 妥当性
  10 感度と特異度
 第3章 ADL評価
  1 脳卒中治療ガイドライン
  2 PULSES Profile
  3 Barthel Index
  4 FIM
  5 modified Rankin Scale
 第4章 総合評価
  1 急性期の評価
  2 SIAS
 第5章 高次脳機能の評価
  1 スクリーニング検査
  2 前頭葉機能障害
  3 言語障害
  4 視空間失認
  5 失行
  6 失認
  7 記憶障害
 第6章 感覚・運動・反射の評価
  1 感覚
  2 運動機能
  3 反射
 第7章 上肢機能の評価
  1 SIAS-Motor
  2 FMA
  3 ARAT
  4 WMFT
  5 MAL
 第8章 下肢・体幹,歩行の評価
  1 下肢・体幹の評価
  2 歩行の評価
 第9章 評価が困難なときの工夫
  1 重度の患者における座位姿勢・体幹機能の記述方法
  2 座位バランス・上肢機能
  3 下肢の協調性と分離の状態
  4 下肢と体幹機能
  5 床上動作・生活関連動作
  6 症例呈示
 第10章 Rehabilitation Assessment System(RAS)
 第11章 機能評価研究のめざすべき方向
  1 機能評価研究の重要性
  2 機能評価の普及度
  3 機能評価研究の方向性

第II部 脳卒中機能予後予測
 第1章 予後予測総論
  1 予後予測の必要性
  2 予後予測の方法
  3 既存の帰結研究を臨床応用することの限界
  4 帰結研究に用いられる研究デザイン
  5 帰結研究に使用される統計用語と手法
 第2章 従来の予後予測法
  1 代表的な帰結研究とその適用方法
  2 予後に影響を与える因子
  3 ADLの予後予測
  4 歩行能力の予後予測
  5 上肢機能の予後予測
  6 その他の機能の予測
 第3章 合併症の予測
  1 脳卒中後の合併症と予測の必要性
  2 脳卒中後の生命予後
  3 合併症の内容
  4 合併症を予測する因子
  5 脳卒中後に多くみられる合併症
 第4章 最新の予後予測法
  1 はじめに
  2 急性期の脳卒中の予後予測
  3 くも膜下出血の予後予測
  4 嚥下障害の予後予測
 第5章 対数予測,ADL構造解析,自宅復帰率
  1 はじめに
  2 FIMを用いた評価
  3 FIMによる脳卒中ADL予後予測法
  4 脳卒中患者のADL構造解析
  5 自宅復帰率
 第6章 最近の研究動向-MRI拡散テンソル法画像(DTI)
  1 はじめに
  2 簡単な脳の見方
  3 MRI拡散テンソル法(DTI)
  4 大脳脚FA値と片麻痺患者の長期予後
  5 おわりに

第III部 予後予測の実践事例
 症例1 上肢機能の予後予測-急性期の運動麻痺が重度な脳出血例
  1 症例情報
  2 麻痺側上肢機能の評価
  3 画像所見からの予測
  4 臨床所見からの予測
  5 脳卒中の予後に対する大規模cohort studyを利用した予測
  6 予測のまとめ
  7 治療
  8 第176病日における上肢機能評価
  9 結果
  10 考察
 症例2 上肢機能の予後予測-急性期の運動麻痺が軽度な脳梗塞例
  1 症例情報
  2 麻痺側上肢機能の評価
  3 画像所見からの予測
  4 臨床所見からの予測
  5 脳卒中の予後に対する大規模cohort studyを利用した予測
  6 予測のまとめ
  7 治療
  8 第177病日における上肢機能評価
  9 結果
  10 考察
 症例3 上肢機能の予後予測
  -慢性期において,neuro-science based rehabilitationを実施した例
  1 症例情報
  2 麻痺側上肢機能の評価
  3 画像所見からの予測
  4 臨床所見からの予測
  5 脳卒中の予後に対する大規模cohort studyを利用した予測
  6 予測のまとめ
  7 治療
  8 第243病日における上肢機能評価
  9 第482病日における上肢機能評価(CIMTから8か月後の評価)
  10 結果
  11 考察
 症例4 歩行とADLの予後予測-脳出血
  1 症例情報
  2 予後予測の実際
 症例5 歩行とADLの予後予測-脳梗塞
  1 症例情報
  2 予後予測の実際
 症例6 歩行とADLの予後予測-くも膜下出血
  1 症例情報
  2 予後予測の実際
 症例7 自宅復帰率の予測
  1 症例情報
  2 予後予測の実際
  3 考察

第IV部 評価マニュアル
 第1章 Motor Activity Log(MAL)
  1 日本語版MALについて
  2 原典
  3 動作項目
  4 尺度(順序尺度)
  5 評価用紙
  6 評価方法
 第2章 Wolf Motor Function Test(WMFT)
  1 日本語版WMFTについて
  2 原典
  3 必要機材
  4 評価を行う際の注意点
  5 評価項目
  6 評価方法
 付録1 すぐに役立つFIM活用法
 付録2 海外の評価表をもとにした日本語版の作成
  1 日本語版作成に関する許可の申請
  2 順翻訳
  3 逆翻訳
  4 整合性の検討
  5 日本語版の検討・修正
  6 臨床的有用性の検討
  7 日本語版の完成

索引

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ゴール設定の正しさを吟味するための導入書
書評者: 市橋 則明 (京大大学院教授・理学療法学)
 理学療法や作業療法では,「評価に始まり評価に終わる」とよく耳にするが,この評価結果を数値化し,蓄積できていないことが,科学的データに基づくエビデンスを示しにくくしている大きな原因である。医学会では,過去のカルテの血液データや画像データなどを後方視的に分析し,ある治療効果の有無や予後を検討しているような研究も多いが,理学療法や作業療法分野ではほとんどない。エビデンスの確立や正確な予後予測のためには,国際的に共有できる,信頼性や妥当性の高い機能評価を日々の臨床の中で行っていくことが不可欠である。

 理学療法や作業療法評価におけるゴール設定の重要性は誰もが認めるところであるが,理学療法士や作業療法士は何を根拠にゴール設定をしているのであろうか? 自分が評価した結果から患者のゴールを導き出すためには,必ず予後予測を行う必要があるが,多くの場合は過去の経験からのみゴールを設定し,そのゴールが正しかったかどうか(治療が正しかったのかどうか)の吟味さえされない。これでは理学療法や作業療法の発展など考えられない。

 上記の問題を解決してくれる良書として,道免和久教授編集の『脳卒中機能評価・予後予測マニュアル』が発刊された。本書の第I部では,「予後予測のための脳卒中機能評価」としてADL評価,総合評価,高次脳機能の評価,感覚・運動・反射の評価,上肢機能の評価,下肢・体幹・歩行の評価等が詳細に解説されている。第II部では,「脳卒中機能予後予測」として,従来の予後予測法,合併症の予後予測,最新の予後予測法,FIMを用いた予後予測法などが紹介されている。さらに,第III部において予後予測の実践事例が7例紹介されている。まず,この実践事例から読み始めると予後予測を具体的に理解しやすいかもしれない。この第III部では,急性期の運動麻痺が重度な脳卒中例の上肢機能の予後予測や,脳出血や脳梗塞例の歩行とADLの予後予測が症例情報とともに具体的に記載されていて,非常にわかりやすい。最後に第IV部としてMotor Activity Log(MAL)とWolf Motor Function Test(WMFT)の評価マニュアルも記載されている。

 マニュアルという名の通り本書を手引き書としながら,予後予測法を実践できるようになっている。ただし編者は,本書の最終的な目的は「よく当たる予測法」をマスターすることではないと述べている。予後予測することで,予後予測が外れた理由をあらゆる角度から深く考察することのほうが,予後予測が的中することよりも重要であると指摘している。

 本書は,兵庫医科大学リハビリテーション医学教室が主催する「脳卒中機能評価・予後予測セミナー」のテキストの内容をもとに編集・執筆されたとのことである。本書を手引き書に臨床での評価に活用し,さらに深い知識を得たい場合には,セミナーへの参加をお勧めする。
機能評価と予後予測の海原を上手に舵取りするために
書評者: 大田 仁史 (茨城県立健康プラザ・管理者)
 いまや国民病と言われる脳卒中はリハビリテーションにかかわるすべての人に避けて通れない疾患である。しかも,脳卒中の現す病態はリハビリテーションに携わる者にとって勉強に事欠くことはない手ごわい対象でもある。現在,リハビリテーション医療の治療はエビデンスに基づいたものが強く要求されるようになり,中でもきちんとした機能評価と予後予測なしでプログラムを組むことは,めざすべき港のない漂流船が海図なしで暗闇の海原を航海するような無謀極まりないものと言われるようにさえなった。すなわち機能評価・予後予測は必須中の必須になっている。しかしその全貌を理解するためのわかりやすい書はこれまで見当たらなかった。

 本書には,評者が敬愛する道免和久教授の「患者のQOLをどう支えるか」というリハビリテーションの思想が基軸にあり,教授のリハビリテーションに対する熱い思いがこのマニュアル書を貫いていることがよくわかる。特に第I部の第1章から第4章は,あたかも道免教授から直接実践統計学の講義を受けているような気さえする。洗練された文章は読みやすく,しかも無駄がない。後期高齢者の筆者は,臨床にいるときに出合えばよかったという思いに包まれ,現在の臨床家は幸せだとさえ思った。

 本書には実際的な評価法が十二分に紹介されている一方で,時間や手間のかかり過ぎるのは一般には使われないとして評価法が精選されている。しかもエビデンスの高いものばかりである。その意味では脳卒中リハビリテーション医療の教科書的価値があると思う。

 本書は計IV部構成で,第I部は「予後予測のための脳卒中機能評価」で11章からなる。第II部は「脳卒中機能予後予測」で6章からなり,第III部の「予後予測の実践事例」では7つの症例が紹介されている。第IV部は「評価マニュアル」で,加えて2つの付録からなる。

 読者は,まず本書の全貌をつかむために,目次から第IV部の評価マニュアルまでページをめくってほしい。ついで第I部の1~4章の道免教授担当の章を読む。教授の思想を身につけるためである。理解は7割くらいでいいので1日のうちにここまで通読する。そして10章,11章に目を通す。これらの章は10章の一部を除いて道免教授が担当されたものである。

 本書の「序」で道免教授は「本書の最終的な目的は『よく当たる予測法』をマスターすることではない」とし,「多くの因子が関わる予後予測を適用しながら,これらのことを考える習慣が身についたとき,読者の臨床力はきわめて高いものになっていることであろう。さらには,……予後予測に含まれない多様な臨床因子が頭の中に浮かび,患者のリハビリテーション後の帰結が確率分布ようにイメージできるようになるはずである」と読者にエールを送っている。

 脳卒中のリハビリテーションにかかわる全国のリハ医,PT,OT,STの座右の書にしてほしい。

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