早期離床ガイドブック
安心・安全・効果的なケアをめざして

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術後患者に対して、早期離床に取り組むための頼れるガイドブック。術後の呼吸・循環機能を最大限いかし、術後合併症を予防しつつ、早期の身体回復を促すためのノウハウが満載。患者の身体・心理状態を時間軸で捉えながら、安心・安全・効率的な介入法を提示。ICUだけでなく、一般病棟でも活用できる。
編著 宇都宮 明美
発行 2013年10月判型:B5頁:184
ISBN 978-4-260-01687-2
定価 3,080円 (本体2,800円+税)

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読者のみなさんへ

 「離床」という言葉を聞いて,以前ならベッドから離れて歩行すると思う医療者がほとんどであったと思います。しかし,デコンディショニング予防のため,早期にADLの拡大を図ることが推奨されるようになり,包括的リハビリテーションが周術期治療のガイドラインとなった今,体位変換から離床は始まっているとの認識が浸透してきています。このことは私たち看護師にとっても,心臓や機能低下をきたした臓器保護を考慮した安静療法から,安静によるデコンディショニングを予防するケア介入への画期的な変化となりました。と同時に,それまでの指示による安静拡大から,離床という運動負荷をかけながらその負荷に対する耐性を評価するという,さらに高度な能力が看護師に求められることにもなりました。
 初めて私が「人工呼吸器を装着した患者さんに歩いてもらおう。」と声を上げたとき,病棟スタッフ・医師の驚きの表情は今でも思い出します。何を言い出すんだろう,と考えたスタッフもいたと思います。そこで,この取り組みを理解し,協力してもらうために,(1)人工呼吸器からの離脱のために医療者で患者さんの身体機能を評価し,二重負荷を避けながらのリハビリテーションが可能であること,(2)ポジショニングによって人工呼吸器装着中でも早期から呼吸器合併症予防や換気血流比不均衡への援助が可能であること,(3)座位・立位・歩行を行うことで呼気・吸気筋力トレーニングとなることを説明し,ディスカッションを重ねました。実施にあたって,看護師だけでなく,医師,理学療法士,臨床工学技士ともゴールを共有しました。初めて歩行した日,看護師はモニタチェックを担当する者,気管チューブを保持する者に分かれ,理学療法士は歩行支援と筋力評価を行い,臨床工学技士は人工呼吸器のセッティングと歩行時の機器の作動確認を担当しました。歩行することで患者さんはモチベーションも向上し,また多職種との協働が効を奏し,それから数日後,長期に装着した人工呼吸器から離脱となりました。この成功体験は患者に大きなアウトカムをもたらすと同時に,私たちに自信と協働することの素晴らしさを実感させてくれました。これが私にとってのチーム医療の出発点であったように思います。
 新しい取り組みは,組織文化に揺れを生じさせます。組織文化を変えることは容易ではありません。文献で証明されていても,実践を変えるには抵抗が生じます。また,リーダーシップ能力の高い人によって一時的に導入されたとしても,その人がいなくなれば実践されなくなってしまいます。組織の多くの人のコンセンサスがないと本当の意味の変革はありません。さらに,協働には,お互いの専門性を尊重する姿勢,アサーティブなコミュニケーションが必要です。早期離床を行ううえで,看護師には多職種をコーディネートしていく能力が求められます。看護師は自らの役割はもちろんのこと,他職種の役割や専門性,強みを知っておくことも必要です。
 本書では,心臓リハビリテーション,呼吸リハビリテーション,術後呼吸器合併症予防という3つの視点から,早期離床について記述しています。目的や介入の視点を考慮することで,評価指標にも違いが存在します。読者のみなさんにはこの点にも注意つつ,臨床での応用を検討していただければと思います。
 最後に,本書の作成の過程で,こころが折れそうになったこともありました。その時にディスカッションを重ね,支えてくださった医学書院の山内 梢様に感謝します。

 編者 宇都宮明美

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第I章 早期離床プログラムの考え方
 1 早期離床とモビライゼーション
  モビライゼーションとは/早期離床とモビライゼーションの関係/
  モビライゼーションの実施にあたって
 2 早期離床プログラムとは
  早期離床を時間軸で捉えることの意義/早期離床プログラムの対象者/
  経時的にみる早期離床プログラムと看護師の役割/早期離床とチーム医療

第II章 早期離床プログラムの実践に必要な知識
 1 安静・侵襲による生体反応
  体位からみた身体反応/侵襲と生体反応/
  侵襲が呼吸に及ぼす影響/術後痛
 2 安全に実施するためのリスクアセスメントと対策
  早期離床プログラム実施時に発生しうる事故/
  人工呼吸器の誤抜管,ドレーン・チューブの事故(自己)抜去/
  転倒・転落/急変
 3 痛みの評価と疼痛コントロール
  術後疼痛の概要と発生機序/早期離床における疼痛アセスメントのポイント/
  疼痛コントロールのために使用される薬剤/疼痛コントロールと投与経路/
  早期離床プログラム実施に向けた疼痛アセスメントの流れ
 4 効果的なケアにつなげる心理的アセスメント
  術前の心理的アセスメント/術後の全人的な苦痛のアセスメント
 5 アドヒアランスを促す患者教育
  アドヒアランスの基本概念/患者主体の早期離床へ

第III章 早期離床のプランニングとアセスメント
 1 術前のアセスメントと指導
  術前評価と患者とのコミュニケーション/患者情報/
  身体的理学所見(フィジカルアセスメント)/検査測定値/術前指導の実際
 2 早期離床プロトコール
  目的・対象別の早期離床プロトコール/段階的な運動負荷/
  早期離床の導入にあたって
 3 導入・実施・中止・再開の判断基準とアセスメント
  導入基準/中止の判断/再開

第IV章 安全・効果的・効率的な早期離床の実施技術
 1 術後呼吸器合併症予防と早期離床-一般病棟を中心にした取り組み
  食道がんにおける周術期リハビリテーション/
  離床時のドレーン・カテーテル管理/
  周術期リハビリテーションとチームアプローチ
 2 周術期心臓リハビリテーションと早期離床-CCUから病棟まで
  心臓リハビリテーションの歴史と定義・目的/
  周術期心臓リハビリテーションの対象者/心臓リハビリテーションの有効性/
  離床開始基準と中止基準/開心・開胸術後の特殊性と合併症/
  周術期の心臓リハビリテーションの実際と注意点/
  心臓リハビリテーションチームスタッフの役割
 3 人工呼吸器離脱困難患者の呼吸リハビリテーション
  人工呼吸器離脱困難とは/人工呼吸器装着が呼吸筋に及ぼす影響/
  トレーニングという概念/モビライゼーションの実際/
  呼吸困難の判断ツール/多職種連携による効果的な呼吸リハビリテーション
 4 事故を防ぎ安全に実施するためのテクニック
  人工呼吸器装着患者の離床時の安全対策/
  血液浄化施行下の早期臨床プログラム/
  IABP・PCPS・ECMO 装着患者への早期離床プログラム
 5 患者・家族への説明とインフォームド・コンセント
  早期離床導入前に説明すべきこと/安全確保と疼痛コントロール/
  目標提示と患者・家族のかかわり方
 6 早期離床におけるポジショニング・モビライゼーション
  ポジショニング・モビライゼーションの実施にあたって/
  ステップ1-関節可動域(ROM)運動/ステップ2-仰臥位から側臥位へ/
  ステップ3-座位(ヘッドアップ・端座位)/ステップ4-立ち上がり・立位/
  ステップ5-歩行
 7 退院に向けた一般病棟でのモビライゼーション
  運動強度の設定と評価/栄養状態の評価と指導/
  患者自身による運動強度・注意点の理解/多職種の介入と情報共有
 8 退院へ向けた指導
  入院前指導/術後の指導/退院直前の指導

第V章 事例から学ぶ実践法-ハイリスク患者を中心に
 事例1 人工呼吸器離脱に困難が予測される患者へのリハビリテーション
 事例2 体外式膜型人工肺装着患者へのポジショニング
 事例3 大動脈弁置換術翌日からの病棟での取り組み


column
 早期離床に関する文献検討/早期回復プログラム/
 早期離床の実施時におけるME機器,ルート類の確認事項/
 術後早期回復のためのERASプロトコール/術前・術後の口腔ケア/
 一般病棟へとつなぐ院内ラウンド/ポジショニング後のアセスメント/
 気づきを促す情報提供/側臥位の身体的メリット/食べることへのサポート

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早期離床を安全かつ効果的,効率的に実践
書評者: 道又 元裕 (杏林大病院看護部長)
 疾病にさいなまれた患者が回復していくプロセスは決して簡単ではなく,さまざまなハードルを乗り越えなければなりません。その道のりの良否を握る鍵が早期離床へ導くリハビリテーションです。

 今や臨床における早期離床のためのリハビリテーションは,従来の安定回復期に対するリハビリテーションとは異なり,入院直後といっても過言ではない早い時期からのスタートが常識です。その対象となる疾病,状態は外科領域,内科領域を問わず広がってきています。つまり,全身状態が安定し,患者が自らリハビリテーションを始めることが可能となってからの介入ではなく,超早期であっても介入の余地があれば可及的速やかに開始することがスタンダードなのです。

 その背景には,早期に離床を実現することによって,不要な臥床による肺炎などの呼吸器合併症をはじめとした廃用による連鎖的機能低下,二次的合併症を予防できることが明らかとなってきたことが挙げられます。

 不要な連鎖的合併症の発生を予防するためには,多職種によるチーム医療が不可欠です。単一の職種だけがその専門領域のパワーを駆使したところで限界があるばかりか,余計に増悪してしまうことも少なくありません。したがって,全身管理,局所管理,モニタリング,アセスメント,合併症の予測,開始と中止および過程の評価(安全と危険の判断,効果の評価),機能回復のためのスキル,患者のQualityを前提とした展望などについて多職種が協働・共同をしながらリハビリテーションを提供することが重要です。

 本書は,そんな「急性期医療の対象となる患者の早期離床」を「安全かつ効果的,効率的に実践」することをコンセプトとして,経験豊富な編著者たちがこれまで臨床で培ってきた臨床知とエビデンスを丁寧に整理,表現し,読者が理解しやすいように編さんされた良書です。

 離床に必要な知識と実践を多角的な視点からアプローチした構成に仕上げており,特に急性期に必要なエッセンスはおおむね網羅されています。本書を通読すると,早期離床プログラムの考え方から実践するために押さえておくべき知識が効果的に収載されていることがわかります。また,実践へのアセスメントと計画の基本から種々の領域,回復時期下の臨床場面を通じて,実践,管理,チームアプローチ,患者指導,家族へのかかわりなどを図と写真を多用して,とてもわかりやすくするための工夫が施されています。

 ベッドサイドにおける患者の早期離床を学び,実践する方々の指南書としてぜひお薦めしたい一冊です。
急性期・回復期・患者指導に生かせる具体的な早期離床
書評者: 吉里 孝子 (熊本大病院看護師長/急性・重症患者看護専門看護師)
 ICUや救急領域において,デコンディショニングを予防しながら呼吸や循環・代謝を活性化させ,回復を促進させるために早期離床の重要性は強調されています。この本は看護師の視点から早期離床をどのように考え,アセスメント・計画・実施・評価していくかを示しているのが特徴です。

 第I章では,早期離床プログラムについて,外来から入院(急性期から回復期),そして退院後を一つの時間軸でとらえ,他職種によるチーム医療の必要性と同時に看護師間の連携の重要性を伝えています。第II章では早期離床には看護師の判断が不可欠であるという考えのもとに,看護師が知っておくべき知識が述べられています。具体的には臥床による身体への障害(廃用症候群)と侵襲が生体に及ぼす影響,早期離床を妨げる大きな要因である疼痛へのアプローチ,さらには患者教育について触れています。第III章では早期離床のプランニングとアセスメントについて,術前身体評価が術後の回復過程に影響するという視点で書かれ,トータルケアの考えが述べられています。著者らは,早期離床が患者の早期回復プログラムの主要な構成要素であることを示し,入院前からの手術襲侵や合併症のリスク,ならびに身体状況,病気や手術の認識や理解度をアセスメントし,術後の回復過程につなげることの大切さも書かれています。さらに早期離床を安全に進めるためのプロトコールの必要性も述べられ,医療チームが共通の認識のもとにプログラムに参加し,離床の進行の可否のみならず,実施中の中断および再施行の判断について,基準作りの重要性についても書かれています。第IV章では,具体的な事例を基に早期離床のエッセンスについてわかりやすく述べられ,すぐに臨床に活用しやすい内容になっています。

 私はICUの看護管理者として,また専門看護師として組織横断的に活動する中で,何かと稼働率や在院日数の短縮を意識した活動を求められています。臨床現場はまだまだ看護師が看護に専念できる環境にあるとは言い難く,煩雑な業務に追われているのも事実です。

 一方でチーム医療の重要性についての認識は,少しずつ広がっているのも実感しています。他職種の専門性を理解しつつ,看護師の専門性を加味し,患者の早期回復への成果を導く方法として,早期離床は重要な意味合いを持っていると思います。看護の対象が「生活者」であり,患者を病気の軌跡の中でとらえるという視点は欠くことのできないものです。この本は,そのための大切な考え方や必要な知識,安全なプロトコールや判断基準の必要性を解き,外来から急性期・回復期・患者指導に生かせる具体的な内容を臨床看護師に示してくれるといっても過言ではないと思います。
現代的理学療法の知識と実践のギャップを埋める良書
書評者: 讃井 將満 (自治医大さいたま医療センター教授・麻酔科学)
 現代のICUでは,人工呼吸中でさえ患者はできるだけ覚醒し,見当識が保たれているのがベストとされている。ICUにおけるできるだけ良好な精神状態がICU退室後の長期予後に影響すると考えられているからである。そのためには,良好な鎮痛が得られていることが前提条件で,多くのICU患者が鎮痛薬のみ投与され必要がなければ鎮静薬を使用しないプロトコールが主流となった。

 このような鎮痛をベースとした浅い鎮静は,人工呼吸器時間を短縮する一方で,それに伴う肉体的・精神的な有害作用を増加させないばかりか,長期の精神的,肉体的予後に好影響を与える可能性がある。さらに,このような浅い鎮静の効果を最大限発揮させるために,いわばセットメニューとして行うべきものが早期離床(early mobilization)である。人工呼吸開始早期から肉体的活動を段階的にアップさせ,最終的には人工呼吸器を装着したままの歩行をめざすのが標準になった(週刊医学界新聞 第3041号 2013年9月2日)。

 われわれ医療者にとって,文献や学会レベルで得た新しい知識と,その実践との間に横たわる障壁は高い。特に,新しく学んだ手技の導入に関しては保守的とならざるを得ない。しかしこの保守性は,見方を変えれば重症の患者さんを目の前にして極めて正常な感受性の表出であり,この感受性は,どれほどシミュレーション・トレーニングを受けた医療者でさえ,失ってはならないものでもある。本書『早期離床ガイドブック 安心・安全・効果的なケアをめざして』の主題である早期離床に関しても,一歩間違えれば生命維持に必須の管類が事故抜去され容易に危機的状況になるし,いつから始め,どのようなときには中止し,どのような段階を経てステップアップしていくかなど,経験のない医療者にとっては想像もつかず,障壁は高い。

 この障壁を乗り越えるための最も効率の良い方法は経験者に学ぶことであり,インターネットを通じて共通の医学知識を共有する現代でさえ,実地研修の輝きが失われることがない。さすがに「本書を読めば実地研修が不要になります」と書けば,今流行の偽装にあたるが,このような「実地研修の良さを疑似体験できる書です」と書いても過大広告に当たらないと思う。また,本書は既存の呼吸理学療法に主眼を置いたICUの理学療法本と異なり,冒頭に述べた現代的ICUの理学療法の意義をよく咀嚼した上で,重症患者の理学療法を安全に行うコツがちりばめられている。そして,図表,写真のないページがほとんどないほどに豊富で,多数の具体的なプロトコールが掲載され,ベッドサイドに置いておきたいと思わせる。

 著者の宇都宮明美さんとは,近年お仕事を一緒にさせていただく機会が多いが,多くの人を惹きつける,とにかく明るい太陽のような方であると思うのはボクだけではないであろう。本書は,そのような明るい宇都宮さんが,ICUにおける理学療法というまだまだ暗い道の多い領域にライトを当ててくれ,「日本はノウハウもスタッフも十分ではないけど一緒に頑張りましょう」と励ましてくれ,なんだか自分のICUでもできそうな気分にさせてくれる良書である。

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