がん疼痛緩和の薬がわかる本

もっと見る

がん疼痛緩和の薬の効用や副作用、アセスメント、選択・使用の考え方がわかりやすく解説された本。症例が豊富にあげられているので、より理解が進む。がんの痛みの理解から、非オピオイド、オピオイド、鎮痛補助薬まで取りあげた、臨床のエッセンス満載の1冊。
余宮 きのみ
発行 2013年09月判型:A5頁:248
ISBN 978-4-260-01859-3
定価 2,420円 (本体2,200円+税)
  • 販売終了

お近くの取り扱い書店を探す

  • 更新情報はありません。
    お気に入り商品に追加すると、この商品の更新情報や関連情報などをマイページでお知らせいたします。

  • 序文
  • 目次
  • 書評

開く



 目の前のがん患者さんの痛みを和らげたい! でも、医師から処方されている薬のことがよくわからない、薬を飲んでも痛みが十分和らいでいない、どうしたらよいのだろう——そんな悩みをもった看護師を想像しながら、筆を執ったのが本書です。
 入院中に鎮痛薬を手渡すのは看護師です。在宅療養中で薬剤を使用するのは患者さん自身や家族です。看護師は、患者さんの生活のなかでの痛みの影響を把握しながら、“薬が生活のなかで生きた道具になる”ように支援したり、助言することが求められます。がん疼痛治療の中心である薬物療法は日進月歩ですから、今や多くの薬剤に対する理解が必要になってきています。

 そこで、本書の執筆にあたっては、「薬についてはちょっと苦手で……。本を読んでもわかりにくい」と感じている看護師が、「薬はおもしろい!」と思わず感動する姿を想像しながら筆を進めました。
 具体的な工夫点は、以下のとおりです。
・難しいことを、容易に理解できるように努めました
 看護師だけでなく、がん疼痛治療にかかわるすべてのスタッフ、さらには患者さんと家族に読んでいただいても理解できるよう心がけました。痛みの治療は、医療スタッフと患者さんや家族との二人三脚なのですから。
・症例を豊富に盛りこみました
・看護師が行うべき「ケアのポイント」を随所にまとめました

 これは、医師が看護師に期待している内容です。筆者から看護師への応援メッセージともいえます。
・さらに、薬に興味をもった方のために、薬の作用機序についても記載しました
 作用機序は、「薬は難しい」と思わせる最たる部分なので、これ以上わかり易くできないところまで、わかり易い記載に努めました(主に「NOTE」に記載)
・マニュアルのようにただ「簡単な」内容ではなく、筆者の臨床経験を踏まえ、“深く広く”“臨床にすぐ役立つ”内容、また、読み物としても面白く読めるような記述に努めました

 本書を通じてがん疼痛緩和の薬についてより深く広く理解し、実践につながるお手伝いができれば、これにまさる喜びはありません。
 最後に、執筆にあたり有用な情報を提供くださった、埼玉県立がんセンター薬剤部の武井大輔氏、また日頃から緩和ケアに多大なる理解をお寄せくださっている埼玉県立がんセンターの医師、看護師、薬剤師の皆さん、そして本書のきっかけを与え、企画から出版まで労してくださった医学書院の吉田拓也氏、増江二郎氏、さらにオピオイド鎮痛薬の素である“ケシ”を表紙に描いていただいた友人で画家の柏木リエさんに心からの感謝を申し上げます。
 本書を手にしてくださっている一人ひとりと、これから出会う患者さんとご家族に幸せが訪れることを心から願っております。

 2013年 盛夏 
 余宮きのみ

開く

第1章 がんの痛みとがん疼痛治療の基本がわかる
 がんの痛みがわかる
  痛みとは
  3種類の痛み
  がんの進行とともに痛みは変化する
  痛みの心理面への影響
 痛みの評価ができる
  評価のポイントは問診
  問診で確認する情報
  大切なのは継続的なアセスメント
  痛みについての質問が負担な患者への極意
  画像診断にも目を向ける
 がん疼痛緩和の基本は薬物療法
  がん疼痛治療の夜明け
  WHO方式の成功の秘密
  WHO三段階除痛ラダーをのぼる

第2章 非オピオイド鎮痛薬がわかる
 非オピオイド鎮痛薬
  NSAIDsとアセトアミノフェン
 NSAIDs
  NSAIDsの副作用
  NSAIDsの選択にひと工夫
 アセトアミノフェン
  アセトアミノフェンの有用性
  使用にあたっての注意点

第3章 オピオイドがわかる
 オピオイド
  オピオイドとは
  オピオイドの分類
  オピオイドによる依存、耐性
  オピオイドを飲みたがらない場合の対処
  オピオイドの副作用
 オピオイドの使用にあたって
  どんなときにオピオイドを開始するか
  生活支援
  レスキュードーズ
  タイトレーション
  医師への伝え方
 弱オピオイド-WHO三段階除痛ラダー第二段階のオピオイド
  共通点は有効限界があること
  弱オピオイドの出番
  投与開始時の注意-生活に合った投与間隔
 コデインリン酸塩
  コデインの概要
  コデインの魅力
  コデインを服用している患者のケア
 トラマドール
  トラマドールの概要
  トラマドールの魅力
  トラマドールを服用している患者のケア
  相互作用
 強オピオイド-WHO三段階除痛ラダー第三段階のオピオイド
  強オピオイドの強み
  強オピオイド製剤の種類と選択
 モルヒネ
  モルヒネの概要
  豊富な剤形が魅力
  モルヒネ製剤の種類
  モルヒネを服用している患者のケア
 オキシコドン
  オキシコドンの概要
  オキシコドンの魅力
  オキシコドン製剤の種類
  相互作用
 フェンタニル
  フェンタニルの概要
  フェンタニルの魅力
  フェンタニル製剤の種類
  フェンタニル貼付剤を使用している患者のケア
  相互作用
 メサドン
  使用のポイント
 腎障害の影響
  腎障害下でオピオイドを使用するとき
  オピオイド使用中に腎機能が悪化したとき
  腎障害下でモルヒネを使用するときのケア
  クレアチニン値の落とし穴
 肝障害の影響
  肝血流をチェックする
  投与量と増量間隔
 オピオイドローテーション
  換算の方法
  オピオイドローテーションをしてもうまくいかない場合
 投与経路の変更
  投与経路の選択
  非経口投与は副作用が少ない
  先行オピオイドの減量・中止のタイミング
  持続注射のポンプ
  PCAシステム

第4章 鎮痛補助薬がわかる
 鎮痛補助薬
  鎮痛補助薬とは
  鎮痛補助薬の出番は
  使用のコツはアセスメント
  どの鎮痛補助薬を選択するか
  鎮痛補助薬使用にあたってのケア
  効果判定-どれくらいで効いてくるのか?
  鎮痛補助薬はなぜ効くのか
 抗けいれん薬
  抗けいれん薬の使用方法
  プレガバリン(リリカ®)、ガバペンチン(ガバペン®
  クロナゼパム(ランドセン®、リボトリール®
  バルプロ酸ナトリウム(デパケン®、バレリン®
  カルバマゼピン(テグレトール®
  ミダゾラム(ドルミカム®
 筋弛緩薬
  バクロフェン(ギャバロン®、リオレサール®
 抗うつ薬
  鎮痛補助薬としての抗うつ薬
  三環系抗うつ薬 ノルトリプチリン、イミプラミン、アミトリプチリン、クロミプラミン
  デュロキセチン(サインバルタ®
 NMDA受容体拮抗薬
  ケタミン〔ケタラール®静注用(1%)、ケタラール®筋注用(5%)〕
  イフェンプロジル(セロクラール®
 抗不整脈薬
  リドカイン(2%キシロカイン®注射)
  メキシレチン(メキシチール®
 コルチコステロイド
  ステロイドの種類
  ステロイドの使用方法
  早期から出現する副作用
  耐糖能異常がある場合には高血糖に注意
  精神症状を見逃さない
  長期投与による副作用

索引

NOTE
 心因性疼痛
 「痛い」の本当の意味を探る
 痛む部位の変化を見極める
 NSAIDsの作用を理解しよう
 COX-2阻害薬について
 食事中の苦痛にアセトアミノフェンで対応する
 作動薬と拮抗薬
 オピオイドの鎮痛作用
 「麻薬」という言葉がもつ力
 実は誰もがオピオイドにお世話になっている
 予防的な制吐薬への考え方
 制吐薬の副作用を知っておこう
 ペンタゾシンとブプレノルフィン
 注意転換で痛みが変わる
 レスキューは空腹でも服薬してよい
 胸水・腹水の影響をどうとらえるか
 コデイン、トラマドール特有の事情
 作用時間の違いによる選択
 タペンタドール-今後発売予定のオピオイド
 フェンタニル貼付剤をいきなり使用する場合のケア
 鎮痛効果の実感に合わせて調整する
 持続皮下注
 持続静注
 鎮痛補助薬をメカニズムから整理すると……
 ステロイドはなぜ痛みに効くのか

CASE
 痛みのきっかけから、突出痛の予見可能性を把握してケアにつなげる
 NSAIDsによるせん妄
 痛みの評価によって鎮痛薬をやめられた
 剤形の選択により服薬を促すことができた
 痛みが強くなる時間帯で薬剤を選択した症例
 腎障害下の患者にとって望ましい選択とは
 肝血流が低下する要因を把握する重要性を感じた症例
 痛みやレスキュー使用の状況によって投与量を決める
 症状の原因検索の重要性を痛感した症例
 経口剤から注射剤へと変更した症例
 12時間徐放性経口剤から貼付剤へと変更した症例
 24時間徐放性経口剤から貼付剤へと変更した症例
 注射剤から徐放性の経口剤へと変更した症例
 注射剤から貼付剤へと変更した症例
 貼付剤から注射剤へと変更した症例
 鎮痛補助薬でアロディニアが軽減した症例
 プレガバリンの副作用がでたが、減量し有効だった症例
 クロナゼパムが有効だった症例
 バルプロ酸ナトリウムが有効だった症例
 突出痛に対してバクロフェンが有効だった症例
 デュロキセチンによる食欲不振が持続した症例
 ケタミン注で迅速な鎮痛を得た難治性疼痛
 漸減法と漸増法の症例

開く

がん患者をケアするすべての看護師のために
書評者: 細矢 美紀 (国立がん研究センター・がん看護専門看護師)
 がんの痛みは,眠り,起き,歩き,食事をし,趣味を楽しみ,仕事や家事をし,風呂に入るなどといった,人としてあたりまえの生活を送ることを妨げる。さらに抑うつなどを引き起こすことでも知られる。がん患者にかかわる看護師の願いは,すべてのがん患者が,痛みなく,その人らしい人生を全うすることである。

 オピオイドの原料である「ケシの花」の装丁が美しい本書は,「患者さんの痛みを和らげたい! でも,医師から処方されている薬のことがよくわからない,薬を飲んでも痛みが十分和らいでいない」と悩む看護師のために書かれた。がんの痛みへの対処は難しいし,薬の理解も難しい。しかし,患者に最も身近な専門職である看護師ががんの痛みや薬について理解することを後回しにしていれば,目の前で苦しむ患者の痛みを和らげることはできないだろう。

 第1章「がんの痛みとがん疼痛治療の基本がわかる」では,がんの痛みの種類(体性痛,内臓痛,神経障害性疼痛)の見分け方や評価のポイントが詳しく書かれている。患者に「痛みはどうですか?」と大ざっぱに尋ねても,「痛いです」という大ざっぱな答えしか返ってこない。著者は,痛みの部位,強さ,性状,いつから痛いかなど痛みの評価に関する具体的な聴き方に加えて,痛みのパターン(持続痛と突出痛)を聴く際は,患者が楽な姿勢をとっているときに「今,痛いですか?」と尋ねると持続痛の有無を判断しやすく,さらに「どういうときに痛くなりますか?」「動くなど,痛みが出るときに,きっかけはありますか?」「何もしていないのに,突然痛みが強くなりますか?」「薬の切れ目に痛くなりますか?」と積極的に質問することで突出痛の種類を見分けることができる,と書く。患者の一日の過ごし方の中から痛みのきっかけを知ることができると,レスキュードーズ(以下,レスキュー)を使う適切なタイミングがわかり,また,身体の動かし方や歩行器などの補助具の工夫や,見逃していた痛みの原因の発見や治療にもつながる。

 第2-4章は,「非オピオイド鎮痛薬」「オピオイド鎮痛薬」「鎮痛補助薬」について,どんな痛みになぜ効くのか,なぜ副作用が生じるのかが,詳細かつ,わかりやすく書かれている。また,図表がシンプルでわかりやすいこと,CASE(症例)やケアのポイントが随所にちりばめられていることも本書の特長である。例えば,ケアのポイントとして,退院後の生活に合わせた薬剤の検討,レスキューは患者の嗜好や患者が一人でいても飲みやすい剤形を見極めることなどがあげられている。突出痛のために処方されたレスキューが使われていないことも多く,例として著者は,レスキューは食後でないと胃に悪いと思っていた患者や,実は粉薬が飲めなかった患者を紹介している。

 短期入院や外来治療が中心となった今,がん患者自身がレスキューを生活の中で使いこなせるようになるための,看護師によるアセスメントや患者への説明が疼痛緩和の鍵となる。また,看護師が患者のレスキュー使用前後のペインスケールの変化,効果持続時間,副作用などについて具体的に医師に伝えることは,入院でも外来においても迅速で適切な処方の変更につながる。やはり,がん患者の痛みを和らげるには痛みと薬の理解が不可欠であり,がん患者にかかわるすべての看護師に手に取ってもらいたい一冊である。
腕利きの臨床医が語るがん疼痛薬物療法の現在
書評者: 丹田 滋 (東北労災病院腫瘍内科)
 本書のタイトル『がん疼痛緩和の薬がわかる本』から私が連想したのは,2010年に日本緩和医療学会が発表した「がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン」である。著者の余宮きのみ先生が同ガイドライン作成に大きな貢献をされ,また同ガイドラインの改訂実務者グループ(WPG)のリーダーであることを知るからであろう。本書の章立ても「がんの痛みとがん疼痛治療の基本がわかる」「非オピオイド鎮痛薬がわかる」「オピオイドがわかる」「鎮痛補助薬がわかる」とすすみ,ガイドラインの「背景知識」を下書きにしたような構成である。とはいえ,本書はガイドラインの「背景知識」や「推奨」を単になぞって解説するような軟弱〈やわ〉な内容ではなく,著者の深い知識と数多くの経験に裏打ちされた歯ごたえのある一冊である。

 例えば著者の十八番〈おはこ〉の一つである鎮痛補助薬の項では,効果判定について,「どんな内服薬も大雑把にいって3~5回程度飲んだところを1つの目安にしています。3~5回服用すると,薬の濃度がだいたい一定になるからです。(中略)効果がなかったときには,どれくらい待てばいいのでしょうか。薬の効果が一定になるのが5回程度飲んだ時点とすると,1日1回の薬でも1週間以内には効果が判定できることになります。“早く薬を使って痛みを和らげて欲しい”という希望を患者がもっている場合には1~2日みて,“次の一手を打ったほうがよい”と思われる場合は,増量または変更,追加をします」と具体的で説得力がある記述がされている。また,「CASE」として紹介されている実例はケアの成功例だけでなく,著者の反省譚(かの名医でも!)が惜しげもなく紹介されていて大変参考になる。

 本書の「序」には,「医師から処方されている薬のことがよくわからない,薬を飲んでも痛みが十分和らいでいない,どうしたらよいのだろう——そんな悩みをもった看護師を想像しながら,筆を執った」と記されているが,看護師だけでなく,読みやすさの点では患者さん・ご家族にも,読み物としての面白さと臨床で役立つ点で医師や薬剤師など薬物に詳しい医療スタッフにも自信をもって薦めることができる一冊である。索引も充実しており,関心がある薬物について調べる辞書的な読み方もよし,通読もよしである(医療あるいは介護スタッフの勉強会には格好な教材ではないか)。

 注文がないわけではない。薬物の吸収,分布,代謝や排泄を含めた薬動力学的な知識,あるいは薬物相互作用についてもNOTE(解説コラム)で整理されていたら,「薬がわかる」ことを期待して本書を手にした読者が知識をさらに深める機会になったと思う。また,「疼痛緩和の薬」の発展は日進月歩である。本書では簡単に触れられているメサドンやタペンタドールを使用しての余宮流解説や実例も伺いたいところである。またフェンタニル口腔粘膜吸収剤としてバッカル錠は解説されているが,本書では触れられていない舌下錠,最近市販されたアセトアミノフェン静注液と新薬が尽きることはない。ガイドラインの改訂とともに,本書の改訂もどうか準備されますように著者にはお願いしたい。

  • 更新情報はありません。
    お気に入り商品に追加すると、この商品の更新情報や関連情報などをマイページでお知らせいたします。