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作業療法実践の理論 原書第4版

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本書は、作業療法理論の歴史的発展から、今日での有効性までを検証した1冊として版を重ねている。今回の改訂では、理論は実践のなかにこそあるべきだという観点から「実践」の書として生まれ変わった。各国の作業療法士による豊富な事例を通して「作業」の深淵にせまる本書は、まさに全世界の作業療法士にとって必携のテキストと言えるだろう。
ギャーリー・キールホフナー
監訳 山田 孝
石井 良和 / 竹原 敦 / 野藤 弘幸 / 村田 和香 / 山田 孝
発行 2014年09月判型:B5頁:320
ISBN 978-4-260-01975-0
定価 5,170円 (本体4,700円+税)

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監訳者のことば

監訳者のことば
 2010年9月2日に原著者のGary Kielhofner, DrPH, OTRさんが亡くなりました.彼は,1948年2月16日生まれの私よりも1歳若い1949年2月15日生まれで61歳の若さでしたが,がんという病の前には何とも術がなかったのでしょう.ここに謹んで哀悼の意を表します.Kielhofnerさんとは40年前,私が作業療法を学ぶために留学していた南カリフォルニア大学大学院修士課程の1年先輩であったという関係から,本書の初版から翻訳をしてきました.本書は,彼の死により絶版になると思われますので,これを書くのも最後になることでしょう.
 『作業療法実践の理論(原題名:Conceptual Foundation of Occupational Therapy Practice.作業療法実践の概念的基礎) 原書第4版』の翻訳作業は2012年1月ごろから始めたと思います.各翻訳者から各章の訳が私の手元に届いたのが2013年1月ごろで,監訳の私の校正が終了して原稿を医学書院の担当者に送り始めたのが同年4月からで,校正紙が戻ってきたのが2014年4月,監訳者校正が終了したのは6月中旬のアジアで初めての世界作業療法士連盟(WFOT)学会が開始される直前でした.翻訳が始まったときから2年半近くの年月がかかりましたが,今回の訳は何度も読み返して,訳文が日本語として十分にこなれているかどうかという点から推敲を重ねてきました.それでもなお,読みにくい点があろうと思いますので,読者諸氏はそうした点を指摘してくだされば幸いです.
 翻訳者は前版まで翻訳を担当していただいた石井良和・首都大学東京大学院人間健康科学研究科教授,村田和香・北海道大学大学院保健科学研究院教授,竹原敦・湘南医療大学設立準備室の3人の教え子たちに加えて,今回は野藤弘幸・常葉大学保健医療学部准教授に加わっていただきました.
 野藤さんとは,私が秋田大学医療技術短期大学部(医短)にいたときに文部省(当時)の科学研究費を得て「協業」というテーマで研究者を公募したときに応募してくれたときからの知り合いで,私が京都大学医短に移ったときに京都在住の彼と懇親を深めました.Kielhofnerさんが本書の第4版では臨床にいる作業療法士の協力を得て臨床のことを書きたいので,日本の臨床家を紹介してほしいといってきたのは2007年11月でした.英語も理解できて書ける人をすぐには思い出せませんでした.ある時,当時,浜松に移って常葉リハビリテーション病院に勤めていた彼のことを思い出しました.彼は首都大学東京大学院博士後期課程の私の教え子であり,人間作業モデル講習会の講師でもあり,作業療法士では数少ないボバース法の認定講習会に参加したこともあり,京都大学医短出身であるので,この役にもってこいだと思いました.彼に連絡したところ,やってもよいというので,さっそくKielhofnerさんに彼のe-mailアドレスともども知らせました.その後,2,3回,彼にどうなっているかと尋ねたところ,「質問に答えるとすぐに細かな質問をしてくるので,大変なんですよ」という答えがありました.その成果は本書を読んでいただくとおわかりいただけると思います.
 さて,私は本書の翻訳にあたり,次の用語の統一を図りました.Contextは一般に「文脈」と訳されますし,「流れ」と訳したこともありましたが,どうもしっくりしないため,今回は「背景」と訳しました.Conceptは一般に「概念」と訳しましたが,まさに文脈を考慮して,「考え」と訳したところもあります.
 原著では,第2部の実践モデルはアルファベット順に並べられています.したがって,日本語版でも50音順に並び替えました.ですから,第2部の各モデルは重要性の順に並べられているわけではないことを理解していただきたいと思います.
 2010年に第1回人間作業モデル国際学会(MOHO International Institute)に参加するためにシカゴに行った折,実践モデルに入れる基準は何なのかをKielhofnerさんに尋ねました.すると,彼は実践モデルについて書かれた本が10年以上改訂されていない場合は,そのモデルは役立っていないと判断して,実践モデルから外すと言っていました.第2版に載っていたグループモデルは第3版でなくなったのが第4版で復活しましたが,グループモデルの本が15年ぶりに改訂されたためであり,第3版に載っていたカナダ作業遂行モデルが第4版に載っていないのは,カナダ作業遂行モデルの本が2年前にやっと改訂版が出たという理由です.
 本書の意図的関係モデルや認知行動療法のところにTaylorさんという著者が出てきます.実はこの方はKielhofnerさんの奥様で,イリノイ大学シカゴ校(IUC)の作業療法学科に所属しています.彼女は作業療法士ではなく臨床心理士で,夫婦別姓なのでほとんどの方はご存じないと思います.そのような関係者の仕事をこのような形で紹介することについては疑問もあります.しかし,IUCの学生を通して意図的関係モデルはずいぶんと知られてきていることを考慮すれば,作業療法士のつくったモデルではないものの,紹介することは素晴らしいことだと思っています.
 第3版の監訳者のことばには,私が脳出血になって大変なときに訳したものであることを書きました.脳出血から8年が経ち,後遺症の軽度言語障害はほぼ元通りに戻り,書痙も右手の握力が戻ってかなりよくなりました.読者の方々からお見舞いの言葉をいただき,恐縮しております.
 最後になりましたが,医学書院の編集担当者である天野貴洋さんには大変お世話になりました.若いのにいろいろなことに気づいて知らせていただいたり,叱咤激励をしたりしていただきました.感謝しています.

 2014年6月
 山田 孝



 『作業療法の理論』の初版は,作業療法の知識を特徴づける範囲を書いたものであった.それは,この分野の中心的な同一性あるいは焦点が何でなければならないかという論争の真っただなかにあった時に書かれたものであった.本書は,作業こそがこの分野を出現させたものであり,また,この分野の中心的テーマとして最大の希望であるという中心的な見方を支持してきた.私は,作業療法では「作業」を無視できないというこの分野の認識に,長年にわたって励まされてきた.
 本書の最新版は,振り子が一方向にあまりにも大きく揺れすぎているという私の関心の高まりの影響を受けている.つまり,この分野が「作業の科学」の展開にその情熱を向けているというなかにあって,作業療法の「療法」の部分を後回しにしたり,忘れ去ったりする可能性があるという懸念から,大きな影響を受けてきたということである.
 このように,『作業療法の理論』の第4版は,自分たちのクライアントのニーズに働きかける作業療法士の作業や毎日の仕事に対するこの分野に何らかのバランスを回復するために計画されたものである.本書の中心テーマは,作業療法の理論は実践サービスのなかにこそあるべきであるという点である.結局のところ,作業療法は実践の専門職である.このように,私たちが誉めたたえ,支持し,発展しなければならない知識は,実践でこそ先行すべきものなのである.
 このことを考慮に入れて,私は作業療法とその理論に対する実践の中心的位置づけを強調するために,表題を修正した.さらに,本書の全体は,すぐれた一群の実践家の日々の仕事と見方を反映するように組み立てられている.

Gary Kielhofner

訳注:第3版までは,“Conceptual Foundations of Occupational Therapy”であったが,第4版は,“Conceptual Foundations of Occupational Therapy Practice”と変更されている.

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第1部 作業療法の理論の概観
 第1章 実践上の発見から概念上の理解へ
 第2章 実践を支援するために必要な知識
 第3章 作業療法実践の初期の展開:前パラダイム期と作業パラダイム期
 第4章 20世紀中期における作業療法実践の発展:内的メカニズムの新パラダイム
 第5章 現代のパラダイムの創発:作業への回帰

第2部 概念的実践モデル
 第6章 概念的実践モデルの特性と役割
 第7章 意図的関係モデル
 第8章 運動コントロールモデル
 第9章 感覚統合モデル
 第10章 機能的グループモデル
 第11章 生体力学モデル
 第12章 人間作業モデル
 第13章 認知モデル

第3部 関連知識
 第14章 関連知識の特性と使用
 第15章 医学モデル
 第16章 認知行動療法
 第17章 障害学

第4部 実践での理論の利用
 第18章 実践での理論:自分の概念のポートフォリオをつくる
 第19章 作業療法のリーズニング:日々の実践に作業療法の理論を用いること
 第20章 活動分析:人と作業の間の適合性の理解のために理論を用いること

索引

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「作業療法の核とは何か?」を学ぶ「作業療法実践の理論」
書評者: 長谷 龍太郎 (神奈川県立保健福祉大教授・作業療法学)
 本書は,作業の科学に偏重する傾向から,作業「療法」に振り子を戻すという書き出しで始まり,読者は書名が『作業療法実践の理論』となったゆえんを知る。全体は4部構成であり,初版から各章の流れは受け継がれ,章をまとめた部構成がされている。各部を単純化すると,理論の概念,実践モデルの類型,関連知識そして理論の利用となる。

 読者は,第1部を読み,臨床例に共感を覚えながら「作業には人々を変える可能性がある」という表現に同意をするであろう。しかし,作業療法の知識の構造を示されると,頭を抱えるかもしれない。本書のポイントは,「作業療法の理論は変化をしてきました。作業療法の理論は,概念と焦点と価値から構成されています。この視点で理論の変化を知り,概念的実践モデルの比較ができるのです」という著者の意図をくみ取ることである。もし,知識の構造の部分で混乱した方は,本文の実践例と実践モデルを読み進めることで,実践に共感できると信じている。

 第2部は,概念的実践モデルの類型が示されている。対象者の疾患に応じて使用されるモデルは異なり,読者は親しみを感じるモデルから読み進めることをお薦めする。第2部でも,著者は概念的実践モデルが,理論,実践で用いる資料,理論と資料を検証する研究と根拠の3つの構造体として示される。この比較手法は,著者による1977年の「作業療法60年」論文で使用された,比較の手法を進化させたもので,作業療法士が治療理論を比較検討する優れた手法である。読者は理論に使われることなく,冷静に検討し実践で利用するよう期待されている。第4版で新たに導入されたモデルは「意図的関係モデル」である。これは従来から言われてきた「自己の治療的使用」を作業療法士と対象者との治療関係の類型化と行動上の問題と解決の視点に置いたものである。いわば作業療法場面の雰囲気の悪化を予防し,問題を軽減し雰囲気の修正へと展開するモデルである。読者は臨床を振り返り,気まずくなった場面や無気力な対象者への支援で困惑したことを思い出し,自分がどのような推論と解決を模索したかを再学習することになる。在宅支援を行っているある作業療法士は,この記述を読み,納得できると述べていた。

 第3部では,医学が関連知識として示されていることに違和感を覚えるかもしれない。しかし,作業療法場面は,医療機関から地域生活支援や教育場面に拡大している。対象者と周囲の人々そして社会との関係を扱うために,医学や障害学が関連知識となる。第3版では個人内と個人間の対人交流を関連知識としていたが,心理行動上の関連知識として認知行動療法が導入されている。

 最後の第4部は,読者への宿題である。自らの実践を支える理論と実践モデルを整理する資料(ポートフォリオ)を作ること。臨床で行った作業療法上の推論(クリニカルリーズニング)を検討すること。対象者の作業療法に必要な活動分析を適切に行うこと。読者はこの三つを行うことで,作業療法の核を身に付けて,対象者の支援を続けながら自らの知識と技能と態度そして判断力を高めていけるようになるだろう。そして,本書は33年間に及ぶ作業療法への貢献をしてきたKielhofnerによる最後の書物である。合掌。
理論が実践に結びつく! 作業療法士,学生必読の書
書評者: 宮前 珠子 (聖隷クリストファー大大学院教授・作業療法学)
 本書は20世紀に生まれた現代作業療法界随一の理論家であり,2010年に61歳の若さで惜しくも亡くなってしまった,ギャーリー・キールホフナーの渾身の力がこもった遺作であり名著である。そして翻訳にも遺作への思いがこもり,大変よくこなれたわかりやすい日本語の名訳となっている。

 本書は1992年に“Conceptual Foundation of Occupational Therapy”という原題で初版が発行され,翌1993年に「作業療法の理論」として邦訳が発行された。その後2回の改訂を経て,2009年に今回の原著第4版が“Conceptual Foundation of Occupational Therapy Practice”のタイトルで発行された。それを受けて本書のタイトルも「作業療法実践の理論」となっている。旧版も作業療法の歴史と理論の全体像を捉えた他に見られない優れた本ではあったが,全体に概念的で難解であり,即実践に結び付くものとは言えなかった。

 しかし今回の第4版はがらりと様相が変わり,著者が序文で「作業療法の理論は実践サービスの中にこそあるべきである」と述べ,また「私たちは大学でこれらのすべてを学んだけれど,実践でどのように使うかわかりません」(18章冒頭)といった学生の言葉を深く受け止め,作業療法の理論をいかにわかりやすく,この本を読んだだけでも臨床実践に使う手がかりを与えるかということに心が砕かれている。概念に具体例を挙げた説明が加わり,理論ごとにケーススタディーを複数示し,写真を添えて理解の深まりを図り,キールホフナーのこれだけは伝えておきたいという真摯な思いがひしひしと伝わってくる。

 全体は4部に分かれ,第1部は,作業パラダイムに始まり,機械論的パラダイム,そして現代化した作業パラダイムに至る歴史的概観,第2部は現代の作業療法理論として,(1)意図的関係モデル,(2)運動コントロールモデル,(3)感覚統合モデル,(4)機能的グループモデル,(5)生体力学モデル,(6)人間作業モデル,(7)認知モデルの7つを取り上げ,概念を豊富な具体的説明と症例とともに示している。第3部では作業療法で利用する他分野の関連知識として,(1)医学モデル,(2)認知行動療法,(3)障害学を取り上げてわかりやすく解説し,そして第4部「実践での理論の利用」では,複雑な作業療法実践を行うには理論の全体像を知った上で複数の実践モデル・理論に精通する必要があり,クライエントのニーズに応じてそれらを使い分けることができなければならないことを具体例を通して述べている。

 本書を最後に改訂版はもう出ないわけであるが,キールホフナーが知力と体力を傾注して残した本書,作業療法の歴史,パラダイムの変化を包括的に捉え,また現代作業療法の理論と実践を鳥瞰図的・マクロ的に示した上でそれぞれの理論の使い方を多くの症例を通してミクロに示した本書は,すべての作業療法士への珠玉の贈り物となり不朽の名著になるであろう。作業療法士,作業療法学生必読の書として薦めたい。

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