ひとを育てる秘訣

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現場の声をありのまま受け止めてきた著者だからこそ伝えたい、新人や後輩を育てるための心構え。それは、考え方をほんの少し変えてみたり、物事をリフレーミングしてみたり、誰にでもできることばかり。経験年数も病院の規模も関係なく、現場で指導する立場にいる方に本書の活用をお勧めしたい。
渋谷 美香
発行 2013年07月判型:A5頁:112
ISBN 978-4-260-01629-2
定価 1,760円 (本体1,600円+税)

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はじめに

「教育委員や指導者の心と仕事を軽くする本にしたい」
 本書は、「自分がひとに教えるなんてできるのだろうか?」という不安やプレッシャーの中で、真摯に新採用者に向き合っている指導者が「これでよいのだ」と自分で自分を信じることができる本にしたいという明確な目的のもとに作られました。
 よって、施設ではじめて教育委員やプリセプター、指導の任についた若手の看護職を対象とし、新採用者への教育を実際に「どうすればよいか」が見えるように、講演や研修会場でお目にかかったプリセプターや指導者役割の方々からいただいたリアルな現場の声をもとに、指導者に求められる具体的な行動および事例を紹介しています。
 本書は、医学書院発行の雑誌「看護管理」に、「ヒトを育てる秘訣」として2010年5月号から2011年3月号まで連載されたものに加筆いたしました。連載中もその後も「理論は難しいけれど、これならできそうだと思えました」、「未来を託す若手に読んでもらっていました」など、多くの読者の方から、励ましやご意見をいただき、それがこの本の存在価値となりました。
 理論や知識を深く理解できていたとしても、実際に指導するとなると、どうすればよいのかわからないことは誰にでも経験があるでしょう。そのようなときに、この本をひも解いていただき「等身大の自分で今できることをやる」と思えるお守り本として活用していただければと願っています。
 2009年7月に一部改正され、2010年4月に施行された「保健師助産師看護師法及び看護師等の人材確保の促進に関する法律」によって新人看護職員の研修制度が努力義務化され、労働条件の改善や教育研修体制の整備に取り組む病院が増え、新卒看護師の離職率は2010年度以降顕著に減少し、2011年度は7.5%まで下がりました。今後も重要な存在となる指導者を施設内外問わず支えていければと思います。

 本書は、編集や制作、デザイナーなど目的を共有した多くの関係者との協働によりチーム力を結集して制作されました。心よりお礼申し上げます。

 2013年6月
 渋谷美香

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 一番 内容を絞り込んで復唱させる
 二番 チームの約束事は例を出して説明する
 三番 目標達成できると新採用者に思わせる
 四番 次、どうするか? が「振り返り」の基本
 五番 自分の役割と仕事内容を意識する
 六番 「指導しなきゃ」の圧力から解放される
 七番 新人なら、困っていることがあるはず?
 八番 相手がメモをとりやすい形で説明する
 九番 「後で復習」から「今、確認・獲得」へ
 十番 モヤモヤした現状を乗り越える
 十一番 涙があふれる新採用者の背中をさする
 十二番 次、何をすべきか? だけ考える


 一番 「ここまでできる」を明らかにする
 二番 解釈で終わらない。事実を見つめる
 三番 理解度を確認する
 四番 「できる?」から「どこまでできる?」へ
 五番 怒らない指導だけではひとは成長しない
 六番 指導状況を「透明化」してみる
 七番 指導仲間と教え方をシェアする
 八番 シンプルに事実を伝える
 九番 自分の指導を信じる
 十番 違いを大切に扱う
 十一番 「ほめる」から「伝える」に変える
 十二番 悪循環を断ち切る


 一番 到達度の差に驚かない
 二番 意識的に「対応策」を考える
 三番 説明を重ねるよりアウトプットで理解させる
 四番 辞めたいと相談されたら、素直に気持ちを伝えればいい
 五番 指導内容は多様性があっていい
 六番 思い切って先輩に相談し、教えてもらう
 七番 「協育」・「響育」の文化を自分たちが創る
 八番 「そうれんほう」を使った人材育成
 九番 覚悟を強さに変える
 十番 病棟の厳しい先輩を変えるには
 十一番 勉強会は「熱意」より「共感」
 十二番 結果が出る指導へ


 一番 私を素敵にできるのは、私しかいない!
 二番 評価するのは対象者
 三番 教育システムの評価に参加する
 四番 人手不足に悩むより教育計画を考える
 五番 自己学習できるためのしかけをつくる
 六番 「ひとを育てる」力を次世代につなぐ
 七番 基準や方向性を見直す
 八番 やりきった事実を認める
 九番 異なる価値に自ら触れにいく
 十番 次年度の指導者を安心させる
 十一番 指導者以外のスタッフを安心させる
 十二番 あなたがこの組織に必要である理由

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教育担当者を元気にするために欠かせない1冊 (雑誌『看護管理』より)
書評者: 高橋 千晶 (済生会山形済生病院 看護部長)
◆教育を提供する人たちを元気に

 「教育委員や指導者の心と仕事を軽くする本にしたい」。これは,本書の「はじめに」の第一文です。著者である渋谷美香さんに当院の教育担当者研修の講師をお願いしたのも,教育を提供する人たちの負担をとって,元気にしたいという思いからでした。

 当院では全看護職員に教育ニード・学習ニードを調査し,その分析結果から次年度の研修計画を立てています。2007年度の調査では,それまで学習意欲が高かった新人教育担当者の学習ニードが前年度よりも著しく下がっていました。

 この原因としては,2007年度に7対1入院基本料を取得して新採用者数が例年の倍になったために,新人教育担当者の負担が増えて精神的に疲れていることが考えられました。

 新人看護職員が就職先を選ぶ理由の第1位に挙げられているのが教育体制の充実です。2010年から新人看護職員研修が努力義務化されました。これにより,各病院の教育体制が整い,新人看護職員の離職率も下がってきました。

 しかし,教育担当者や実地指導者の負担が軽くなったわけではなく,逆に新人を辞めさせてはいけないというプレッシャーになっているのではないでしょうか。

◆具体的行動レベルで,新採用者への関わり方が理解できる

 本書では,施設ではじめて指導の任についた若手の看護職が,新採用者へどのように関わり,どのように行動したらよいのかが具体的に示されています。

 目次を見ると,春夏秋冬の四季に分けられ,それぞれの季節に12のエピソードがあり,その時期に指導者がつきあたる悩みについてアドバイスがあります。これは,渋谷さんが講演や研修会で,実際に会ったプリセプターや指導者から聞いた生の声をもとに書かれたものです。

 たとえば秋は「早く独り立ちしてほしい」という指導者側の期待と,新採用者の現実とのギャップに愕然とし,焦る時期です。そこで,本書の秋の一番「到達度の差に驚かない」を見ると,「他人との差を気にする前に,新採用者の到達目標(ゴール)と現在の知識や技術力を正確に把握するほうが先です」とあります。その方法も何点か挙げられており,まずやってみる,悩むよりやってみよう,と背中を押されます。

 また,冬の十二番「あなたがこの組織に必要である理由」の最後では,「だからあなたが指導者に選ばれたのです。だからあなたはこの組織に必要なんです」と締めくくられています。管理者が,どういった看護職員を育てたいのか,ビジョンを明確にして伝えていくことにより,スタッフが安心でき,「新人は職場全体で育てる」という組織風土ができる,と自分自身に言われているようです。

 この本の帯には「はじめて先輩になるひとのためのお守り本」と書いてあります。A5サイズというコンパクトさも,“看護書籍らしくない”デザインも,若いスタッフたちの小さなバッグに入れやすいようにと考えてあります。常に持ち歩き,くじけそうになったら開いてほしい本です。

(『看護管理』2013年12月号掲載)
指導経験の浅い指導者も自信がもてるようになる書
書評者: 泉尾 雅子 (都立駒込病院看護部)
 本書は,著者が雑誌「看護管理」に連載していたコラム「ひとを育てる秘訣」を大幅に加筆しまとめたものです。新人看護師を育てていく過程で,比較的経験の浅い指導者が遭遇する疑問,問題点に対しての著者ならではの解決法,教訓が示されています。見開きページごとに一つのテーマが取り上げられ完結しています。

 本書の特徴の一つは,新人看護師の指導秘訣(全部で48個)を春・夏・秋・冬と指導時期に合わせて4つの季節に分類していることです。たとえば,「春」編の中の1つ“内容を絞り込んで復唱させる”では,新人看護師は何度も同じことを聞いてくる。これに対して「1回の指導につきポイントを3つ以内に絞り込み,説明が終わったら復唱させて理解度を確認する」などの具体的なアドバイスが示されています。「秋」編の“覚悟を強さに変える”では,「新人看護師の指導が半年経過し,指導に煮詰ったら,一息おいて,少し頭を整理しましょう。自分が教えたいことと,相手が学びたいことのズレを見極め,今,患者や家族に何をすべきか実行する。覚悟をもって指導者役割を果すことにこだわる」ことを薦めています。経験の浅い指導者はもちろん,ベテラン看護師にとっても有益で具体的なアドバイス,秘訣が詰まっていて,しかも,どのページから開いても素直に頭にはいる内容が盛り込まれています。ざっと目を通した後,季節ごとに読み返すのをお薦めしたいと思います。

 もう一つの特徴は,右ページの下のほうにところどころに配置された標語形式のワンポイントアドバイスです。よい結果を生む「心まどわず自らの指導を信じて」“吉”と,悪い慣習「教えたいことを詰め込む指導」を“凶”とし,指導者がつい陥ってしまうNGを端的に表現しています。

 著者は東京都立病院の看護教育担当者を対象にした研修で集中講義を担当していました。その人材育成の基本的考え方は,実践的で有益,しかも臨床現場でありがちな事例を盛り込みながらわかりやすい講義で,大変好評でした。

 本書は,看護教育のプロとしての著者が,指導経験の浅い指導者にも自信がもてるよう,具体的な秘訣を伝授し,エールを送ってくれます。指導者,看護教育に携わるすべての人にぜひお薦めしたい1冊です。
はじめて指導者になる人に贈りたい1冊
書評者: 西田 朋子 (日本赤十字看護大学講師・看護教育学)
 「教育委員や指導者の心と仕事を軽くする本にしたい」(はじめに)とあるように,本書は,現場で初めて指導者になるすべての人に向けられた,著者からの暖かいメッセージに満ち溢れている。

 初めて後輩を育てる立場になった人も,ひとを育てる立場になって長い人も,「ひとを育てるってどういうことだろう?」「どうやったらもっとうまくいくのだろう」と考えることは少なからずあるだろう。しかし,考えれば考えるほど,また,後輩が思うように育たないと感じれば感じるほど,「ひとを育てるって難しい」と思いがちである。ところが,後輩が頼もしく育つと,「ひとを育てるって楽しい!」「また指導者になりたい!」という思いを抱くのも事実ではないだろうか。本書には,指導的立場にある多くの人が,悩みつつ指導にあたりながらも,最終的には指導者になってよかったと思えるような仕掛けがちりばめられている。

 1つ目は,目次に目を通すだけでも,「今の自分にも,これならできそう」と思える具体的な行動を選び取れることである。われわれは指導に困っているときに,藁をもつかむ思いで解決の糸口を探ろうと本を手に取ることがある。しかし,じっくりと腰を据えて本を読む時間が取れないこともあるだろう。“涙があふれる新採用者の背中をさする”(春 十一番)のように,内容を十分に読む時間が取れなくても,今できることにたどり着くことができる。

 2つ目は,パラパラとページをめくってみるとわかる。ところどころにある,おみくじの指南のような著者からの「お告げ」に目が留まるはずである。ところどころ,というのが著者らしい仕掛けである。そして,次の「お告げ」は何だろう? と思いながら読んでいるうちに,スーッと気持ちが軽くなるのを期待できる。

 教えることは学ぶこと,とも言われるように,はじめから相手が望むようには教えられないかもしれない。しかし,ひとを育てることや教えることは,育てる・教える立場である自分を受け入れ,逃げ出さず,あきらめないことが第1歩であるのかもしれないとあらためて考えさせられる。本書を何度か読み返してみると,「新採用者へのかかわり方」だけではなく「指導者としての自己のありよう」の大切さも浮かび上がってくる。考えや意見が異なるのは,そのひとが持っている価値が違うからであり,その違いを大切に扱うことである,という内容が文中には書かれている。著者は,本書を通して単なるかかわりの方法だけではなく,育てる人としての自己を振り返ることや,ひとを育てる自分が成長することの必然性を伝えているようにも思える。

 どの立場にあっても,ひとを育てる秘訣を知りたい方には,もちろん手に取っていただきたい本である。しかし,秘訣だからこそ次世代に受け継いでいくことも大事である。読み終えたらぜひ,皆様の身近にいらっしゃる,ひとを育てることで悩んでいる人,初めてひとを育てる立場になった指導者に贈っていただきたい。一人ひとりが自分にできることを丁寧に実践していれば成果はついてくる。本書がその後押しをしてくれるに違いない。

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