せん妄であわてない

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はっきりわからない、どうしたらいいか迷う、何か変・・・せん妄ケアの“もやもや”を、豊富なチャートや図版でスッキリ解決。せん妄とは何か? どうやって見きわめるか? 実際にどう対応するのか? 具体的な対応・ケアの方法、症状別、患者の状態別のケアの流れが現場的視点でイメージできる。
シリーズ 看護ワンテーマBOOK
編著 茂呂 悦子
発行 2011年07月判型:B5変頁:128
ISBN 978-4-260-01434-2
定価 1,980円 (本体1,800円+税)

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  • 序文
  • 目次
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はじめに

 せん妄は、患者や家族に苦痛を与えるだけでなく、治療や看護に困難をもたらすため、領域を問わず予防や終息のためのケアは重要な課題といえます。

 せん妄ケアは、予防が第一であり、要因を取り除くことが重要です。また、せん妄を発症した場合の治療の中心も要因を取り除くことであり、薬剤の投与は慎重に行う必要があります。
 せん妄ケアは、排痰援助をしたら無気肺が改善した、というような目に見える成果が即時的に得られるわけではありません。要因が取り除かれるまで日々継続してケアを実施していく必要があります。ところが、日々の看護活動を振り返ってみると、薬物投与や検査・処置の補助、一般状態の観察など治療や身体機能の回復に関する援助が優先される傾向にあるのではないでしょうか。煩忙な日常の中で、即時的な効果が見えにくいケアを積極的に実践していくことは容易ではないでしょう。

 実際、以前は筆者自身もせん妄患者への対応に疲労を感じ、効果がみられない援助を継続していく意義を見出せない、ICUを退室して生活が整えば自然に元の状態に回復するだろうと考えていました。
 10年以上前になりますが、ICUにいたある患者のトイレ介助をした際、逃亡を企てられてしまったことをきっかけに、せん妄ケアに関心をもつようになりました。当時は、まだ“せん妄”という言葉にあまり馴染〈なじ〉んでいなかったため「走れるような状態の患者がなぜICUにいるの?」と責任転嫁したりもしました。しかし、この患者への看護を振り返った時、自分は患者を理解できていなかっただけでなく、安全も守れず、安寧〈あんねい〉を与えられてもいなかったと気づきました。そして、あの時もっと何かできなかったか、どう援助すればよかったのかという問いにぶつかったわけです。

 現在、クリティカルケア領域におけるせん妄は、ICU在室日数・入院日数の延長、退院後6か月での死亡率の独立予測因子であることが報告され、ICU退室後のPTSD様症状との関連が指摘されています。さらに、65歳以上のICU入室患者では70%以上という高い発症率の報告がある中、その多くは見落とされているという指摘もあります。せん妄ケアの効果については、まだ十分な検討がされているとは言えませんが、アセスメントツールを用いたせん妄の評価を基盤として積極的に取り組む必要性が高いという認識は広まり始めています。

 本書は、推奨されているケアだけでなく、日々実践して感じたり気づいたりした経験知を含めて紹介しています。せん妄へのケアに悩みや疑問を感じている皆様の臨床実践に活用していただければ幸いです。

 2011年6月 茂呂悦子

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 はじめに
 本書の内容

ここが知りたい! せん妄とは何なのか
 ここを押さえる、せん妄とは何か
 せん妄ではこんな症状があらわれる
 せん妄の患者に対してできること
 せん妄の薬物療法

まずこれだけは! せん妄患者への対応
 [チャート]興奮している
 興奮状態
 [チャート]活気がない、うとうとしている
 活気がない、うとうとしている
 見当識障害(時間・場所・人がわからない)
 ないものが見える、聴こえる(幻覚・錯覚・誤解)
 家族にはどのように説明をすればいいか

これってせん妄? せん妄の見きわめ・予測のツボ
 せん妄になりやすい人ってどんな人?
 せん妄のアセスメントツール
 (コラム)ツールを導入するポイント
 (コラム)急性脳機能不全とは
 せん妄とうつ

せん妄のケアに強くなる
 安全の確保
 全身管理
 苦痛の緩和
 環境調整
 自立の促進
 現実認知の促進
 リハビリテーション

不安解消!! 対象・ケース別せん妄の対応
 事例1 術後患者のせん妄
 事例2 人工呼吸器装着中の患者のせん妄
 事例3 敗血症患者のせん妄
 事例4 脳血管疾患患者のせん妄
 事例5 認知症患者のせん妄

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臨地実習でせん妄に遭遇する学生の指導にも最適 (雑誌『看護教育』より)
書評者: 山本 君子 (了徳寺大学健康科学部看護学科)
 せん妄ケアだけに焦点を当てた参考書は,ほとんど見当たらなかったように思います。著者が「はじめに」のなかで述べているように,現在,クリティカルケア領域におけるせん妄は,ICU在室日数・入院日数の延長,退院後6か月での死亡率の独立予測因子であることが報告され,ICU退室後のPTSD様症状との関連が指摘されています。また,65歳以上のICU入室患者では70%以上という高い発症率の報告があるなか,その多くは見落とされているという指摘もあります。このような現状を踏まえると,せん妄を“看護の力”で早期発見し予防していきたいと思いませんか。“看護の力”を発揮するためにも本書が活用できます。

 私は高齢者看護を担当していますが,学生が受け持つ患者でせん妄が出現していることも珍しくありません。せん妄ケアの難しさを,学生と臨地実習で経験したことがありました。学生が実習初日,入院してきたばかりの78歳の女性を受け持つことになり,患者と大変楽しそうに会話ができていました。ところが,翌日の朝,学生が挨拶に行ったときのことです。涙を浮かべながら小走りに私に近づいて来たため「どうしたの?」と尋ねると,「患者さんがベッドに縛りつけられていて……,大きな声で『助けてくれー』と叫んでいるんです。そして,足をバタバタさせながら掛け物を蹴飛ばしているんです。昨日はすごく楽しそうにしていて元気だったのに……。私はどうしたらいいのかわからないんです……」と報告してきました。臨床ではこのようなケースは多く,看護師たちもどのようなケアが必要なのかと試行錯誤しているのが現状ではないでしょうか。ただ,それが学生には十分伝わらなかったのだと思います。

 本書は,著者が臨床現場でせん妄患者への対応に戸惑ったり悩んだりした看護実践の経験知を紹介しています。臨床現場の看護師にとって待ち望んだテキストであります。認知症患者が増加しておりせん妄との違いなども判断が難しいのですが,このテキストではわかりやすく説明されています。また,臨場感あふれる事例が多く,現場で十分活用できる内容です。さらに,絵や図が多く大切な箇所はカラーで強調されており,学生にとっても「手にとってみたい」参考書となっており,何よりコンパクトであるためいつでも持ち運びができます。

 せん妄ケアは,これから“看護の世界”で重要な課題であると言っても過言ではありません。臨床看護師だけでなく,学生を指導する教員や多職種の方々にも活用できると考えます。

(『看護教育』2011年9月号掲載)

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