退院支援実践ナビ

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在院日数短縮に伴い注目が高まる退院支援。医療依存度の高い患者の退院・在宅療養生活への移行には、入院早期、ひいては外来通院中からの、看護師による「生活目線」の退院支援がカギとなる。退院調整部門はもちろん、すべてのスタッフ、看護管理者に求められる退院支援の考え方、知識、方法論を、退院支援の第一人者の著者がナビゲート。
シリーズ 看護ワンテーマBOOK
編著 宇都宮 宏子
発行 2011年04月判型:B5変頁:144
ISBN 978-4-260-01321-5
定価 1,980円 (本体1,800円+税)

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●はじめに

 本書は、退院調整部門の看護師はもちろんのこと、退院支援に取り組む病棟、外来の看護師の方々に向けて、退院支援、退院調整の実務に必要な知識、実践法をまとめたものです。
 入院は患者にとって「非日常」であり、退院とは、患者本来の「生活者」としてのあり方に戻るプロセスといえます。
 急性期病院では年々、安全な医療提供が重視されるようになっています。それ自体はすばらしいことなのですが、そうした安全重視、治療重視の管理的な医療提供には、一方で患者が退院し、日常生活に戻るプロセスを妨げている側面があります。
 入院期間が長引けば、それだけでもADLは低下します。入院中の転倒予防を厳格に行うことで、かえって廃用症候群を引き起こしてしまうこともあります。
 入院してきたばかりの患者は、1日も早く退院し、日常生活に戻ることを考えています。ところが入院して1日、2日と時間が経つにしたがって、病院内の生活に慣れてしまい、「退院し、自宅で生活する自分の姿」をだんだんとイメージできなくなっていきます。
 こうした状況を考えると、入院初期(あるいは外来通院中)から退院後の生活を見据え、必要となるであろう医療提供を見極め、支援していくことの大切さが理解できると思います。
 2009年度の1年間で、京大病院地域医療ネットワーク医療部に調整依頼のあった事例は930件。そのうち40%は自宅への退院をサポートした事例です。一方、24%が、外来通院中の患者に対する、在宅療養支援事例でした(その他、転院調整:24%・医療費等の支援:3%など)。
 外来通院中の患者が在宅療養を続けられるようサポートすること。これには今のところ、診療報酬上の評価はありません。しかし、そこで行っていることは入院中の患者への退院支援と同じです。患者目線・生活目線で、必要とされる医療を見極め、医療専門職の立場から、病態悪化を予防し、自立した疾病管理・療養生活の安定を支援すること。患者が「生活者」として生きることを支援すること。この役割を担えるのは、看護師だけではないでしょうか。
 患者が生活者として生きていくことを支援する「在宅療養支援」の考え方を、退院調整部門や訪問看護師はもちろんのこと、病棟、外来などすべての看護師で共有し、それぞれの立場から患者にかかわっていく。編者としては、本書で解説する「退院支援」の先に、そのような未来を思い描いています。本書が、退院支援と、その先にある在宅療養支援に取り組む皆さんの実践の一助になることを祈念します。

 2011年2月
 宇都宮宏子

※本書は、『看護学雑誌』 74巻5号 特集「病棟看護師必携! 一冊まるごと退院支援」をベースに、新規原稿を加えて再構成したものです。

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第1章 退院支援ってなんだろう
 なぜいま、退院支援なのか
 なぜ、外来・病棟の看護師にも退院支援が必要なのか

第2章 3段階で理解する退院支援のプロセス
 退院支援の3つのプロセス
 第1段階[外来~入院後48時間以内] スクリーニングとアセスメント
  スクリーニングはできるだけ早期から/スクリーニングの実際/
  スクリーニングシートを活用しよう!
 第2段階[入院3日目~退院まで] 受容支援と自立支援
  受容支援と自立支援は不可分/具体的な生活をイメージして考える/
  医療管理上の課題と支援/生活・介護上の課題と支援/退院支援カンファレンス
 第3段階[必要となった時点~退院まで] サービス調整
  医療管理上の課題を在宅医療サービスにつなぐ/
  生活・介護上の課題をサービスにつなぐ/退院前カンファレンス

第3章 退院支援に必要な知識
 1.栄養
 2.呼吸管理(在宅人工呼吸療法)
 3.排泄
 4.褥瘡
 5.糖尿病
 6.がん(在宅ターミナル)
 7.ストーマケア
 8.介護保険と諸制度

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書評 (雑誌『訪問看護と介護』より)
書評者: 平野 和恵 (公益財団法人 日本訪問看護財団)
 巻頭に「本書は、退院調整部門の看護師はもちろんのこと、退院支援に取り組む病棟、外来の看護師の方々に向けて、退院支援、退院調整の実務に必要な知識、実践法をまとめたものです。」(p.2)と書かれている。近年、退院支援・調整は病院の在院日数の短縮化や患者さんとご家族(以下患者・家族とする)が安心して在宅療養を再開するには不可欠な部門である。2012年度の診療報酬・介護報酬の同時改訂においても、「在宅医療を担う医療機関の役割分担や連携の促進」は重点課題に挙げられている(2011年1月21日中医協資料)。この著書はすでに退院支援・調整に関わっている人も、これから強化したいと考えている人にも、それぞれの役割を相互理解するうえでの良書である。

 私がお勧めする本書の主たる魅力は3点ある。

 1つめは、退院支援・調整の先駆者である宇都宮氏による最新書であること。私が大学病院で退院支援・調整看護師として従事していた約15年前、退院支援・調整の質により患者の退院後の生活の満足度が変わるのを経験的に実感していた。しかしそれを根拠づけるような研究成果が明らかでない手探り状態であった時期に、宇都宮氏はすでに実践し言語化し始めていた。宇都宮氏の著書に説得性があるのは、彼女が訪問看護師としての経験をもとに病院看護師や地域の関連施設を納得させる結果を出しているという根拠があるからと感心しながら読んた。今回はさらに実践内容がわかりやすく絵本式に書かれており、若い実践者にもなじみやすいと思われる。

 2つめは、退院支援と退院調整の違いを明確化していること。これは私のこだわりとも合致しているが、退院支援と退院調整は似て非なるものである。しかし昨今、この用語の定義が混同して使われることがある。詳しい定義は本書でご確認いただきたいが、願わくは、退院支援は、看護師が看護実践の一つとして患者と家族の生活を包括的にアセスメントし、時には代弁者として関わり、退院調整は、その結果をもとに対象者の状況やニーズに沿って得意分野の職種がリーダーシップを発揮すると望ましいのではないだろうか。

 3つめは、全体的にわかりやすく見やすい表現を取り入れていることで、看護職だけでなく福祉職などにも理解しやすいことである。入院期間の短縮化や在宅療養の推進によりスムーズな退院や顔の見える連携が望まれているが、たとえば担当者会議において、看護師は会議中に専門用語や略号を多用することで他職種が口をはさめない状況を作り出してしまうことが依然存在する。そんなときに退院調整に積極的に関わりたいと思うケアマネジャーさんから対処方法を相談されたら、私はまずこの本を紹介し、病院看護師がどのように患者や家族のことを考えて関わっているか予備知識を得ること勧めたい。

 「これからは外来での『在宅療養支援』が重要」(p.14)と書かれているが、この本を一読することにより、私は「これからは在宅側からの『退院支援・退院調整』も重要」と納得している次第である。

(『訪問看護と介護』2012年7月号掲載)
退院支援には“看護の総合力”が求められる
書評者: 山田 雅子 (聖路加看護大学看護実践開発研究センター長)
 「あらっ? 退院支援が絵本になった!」

 京都大学附属病院でこだわりの退院支援に取り組んで8年目の宇都宮さんが,これまでの経験と学びを仲間とともに絵本みたいにかわいらしい本にまとめたのが本書『退院支援実践ナビ』です。帯には,看護師と患者さんがキャッチボールをしているイラストが書いてあります。退院支援は,こうして互いにコミュニケーションをしながら進めていくことが大事なのだというイメージを上手に表現しています。きっと,うんと若い看護師さんにも手にとってほしいなあという宇都宮さんの強い思いが,こうしたうさぎでも飛び出しそうな本の完成につながったのではないかと思います。

 私は2004年に宇都宮さんに出会い,それからずっと彼女の仕事を見守ってきました。京都と東京で離れてはいましたが,会うたびに宇都宮さんは退院支援の話を,泉がわくかのごとくたくさんの患者さんの人生の選択とともに語ってくれました。その中から,宇都宮さんの退院支援に向けた考察が深まり,大学病院の退院調整がシステムとして機能していくプロセスが手に取るようにわかりました。正直なところ,大学病院でここまできめ細かい退院支援看護ができるようになるのだということが私にとっては大きな驚きでありました。この驚きは,宇都宮さんへの尊敬と憧れにつながることになります。

 さて本の中身ですが,退院支援概論からそのプロセス,そして退院支援に必要な知識が整理してあります。「退院調整看護師養成プログラム」を初めて取りまとめたのが2004年ですから,それから7年がたち,退院支援という看護サービスが,ここまで概念的に整理されてきたのだという感動を覚えながら,すんなりと読みすすめることができました。退院支援は「退院」に焦点を当ててはいますが,実は看護実践そのものであると解説されています。つまり,患者を全体的にとらえて個別のニーズを把握し,必要な環境を整え,患者の自立を支援するというナイチンゲールの時代から変わらずに言われている看護そのものを,退院支援を通して私たち看護師自身がもう一度振り返ってその力を獲得し直してほしいという思いが宇都宮さんの中にはあるのですね。そしてその看護を,退院支援を通して多くの看護師に楽しんでほしいとも願っているのだと思います。

 著者たちは,退院調整のベテランだけでなく,がん,排泄,褥瘡,糖尿病,などの領域で高い専門性をもって活躍している看護師たちです。退院支援の専門家だけでは退院は語れません。これまで培ってきた各領域の看護をつなぎ合わせて,必要な患者さんに適応しながら支援を考えることになりますから,退院支援は看護の総合力を必要としています。

 病院全体で退院支援に関わると,看護の質が上がる。これは私の経験からも真実であると考えています。スタッフ,管理者,退院支援担当者など,さまざまな立場にある看護職の方に,手にとって,わくわくして読んでほしいと思います。
実践的でコンパクトな退院支援解説書
書評者: 宗川 千恵子 (NTT東日本関東病院 連携統括部看護長)
◆退院支援は病院全体で取り組むべき課題

 患者や家族は,病気を抱えながら,どう生きたいか,どう死にたいか,どう介護したいかを考え,共に人として家族として,成熟していく。退院支援は看護師という専門職の立場からその過程をサポートする,奥の深い看護である。

 最近では,病院に退院支援部署を設置し専属の看護師やソーシャルワーカーを配置することで診療報酬にも反映されるようになったため,ますます注目されてきており,退院支援に関連した書籍や雑誌特集も多く見受けられるようになってきた。しかし,この『退院支援実践ナビ』ほど,実践的でかつコンパクトにまとまった本を手にしたのは初めてであった。

 なぜ今,退院支援が必要になってきているのか,その社会背景からわかりやすく解説してあり,その理由や根拠が理解できるとともに,患者が生活の場に戻るときに私たち看護師が具体的に何をしたらよいのか,プロセスに沿ってわかりやすく説明してある。そのため,読み進めていくだけで自然に頭の整理もでき,自らのアクションプランも立てやすい構成になっている。

 長年,退院支援の現場で働いてきた私にとって,退院支援は退院支援部署だけががんばってもうまくいかないものであり,外来看護師,病棟看護師ひいては病院全体で積極的にかかわることが重要であることを痛感しているが,そのことが見事なまでにわかりやすく,納得いくように書かれてある。

◆退院支援に必要な情報をコンパクトに網羅

 退院困難事例のスクリーニングにおいては,その意義や運用上の注意,患者への聞き方まで懇切丁寧に書かれてあり,これから退院支援部署を設置しようとしている病院管理者,もしくは退院支援の経験が浅い看護師にとっても「退院支援の実践書」として大いに活用できる本であると感じた。

 頻度の高い在宅医療管理については病院での看護から生活の場に戻る在宅看護への具体的なアレンジの方法やポイント,観察項目,在宅医や訪問看護師との連携や引継ぎ事項まで丁寧に教えてくれている。また,写真やスライド,事例などがふんだんに盛り込まれているため非常にわかりやすく実用的に書かれている。

 さらに在宅療養を行う上で,利用できる介護保険制度やその他の社会保障制度についての知識や情報を得ることができるため,現場での退院支援実践において,非常に役に立つ一冊である。

 急性期病院で行なわれている安全かつ治療重視の看護には,退院阻害因子が数多くある。そして,急性期病院での治療は終わっても患者の人生は続いている。急性期病院の現場で働いているとどうしてもこうした「当たり前のこと」に気づきにくくなってしまう。

 本書を読んで,「患者が日常の生活へ戻るための看護の重要性」を再び気づくことができ,自身の行ってきた退院支援の振り返りにもなった。この一冊から退院支援への「やる気」と「ヒント」を多くもらうことができ,退院支援がますます好きになってしまった。

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