大腸内視鏡挿入法 第2版
軸保持短縮法のすべて

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数多ある大腸内視鏡挿入法の書籍の中でも、まさにバイブルとして広まっている本書の改訂第2版。著者自身が日頃の検査を積み重ねた中で体得しえた事柄や感覚を、可能な限り言葉にして解説していく。よりイメージを喚起できるイラスト・画像を多く収載。ページの折々に収載したコラムは、読者に気付きを与え、また挿入法上達のための心構えや考え方等が示されている。挿入技術を習得するための必携の1冊。
工藤 進英
発行 2012年05月判型:B5頁:164
ISBN 978-4-260-01314-7
定価 13,200円 (本体12,000円+税)

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複雑な問題は,物事の真髄に近づいたとき単純さに到達できる。
内視鏡技術はartである。挿入,診断,治療に驚きを与える芸術に近い。

 私が陥凹型早期大腸癌の存在とその臨床的意義を書籍『早期大腸癌』として世に問うたのが1993年,その構想から書籍出版に至るまで5年を要した。その間私は臨床の傍ら,思索を重ねてきた。この陥凹型早期大腸癌の臨床像を体系として世に提示するには,血の滲む努力を要した。しかし幸いなことに,大腸癌の診断学に新しい地平を切り拓くことに成功した。膨大な内視鏡検査と多くの早期大腸癌症例,それに多くの志をもつ若い内視鏡医の協力もあって,それが可能となった。その後,本書の考えは英文として世界中に広がった。
 秋田赤十字病院に勉強にやってきた若い仲間とともにこの仕事を進めていく中で,私の頭から離れなかったのが,陥凹型早期癌の発見に最も不可欠な大腸内視鏡挿入法を一書にまとめることと,より精度の高い診断学であった。また正確な診断学の確立のためには大腸内視鏡挿入法の体系的な確立も同時に必要だと感じていたのである。診断学の単なるone chapterとしてではなく,奥行きを持って別個に独立した領域としてこの挿入法の問題があった。どうすれば患者に苦痛なく内視鏡挿入を行い,正確でスムーズな検査が可能か,その方法論を提示することであった。より正確な診断に不可欠なpit pattern診断を行うために行き着いたのが,太くて先端硬性部の長い拡大内視鏡,それに工夫に次ぐ工夫の末編み出したのが内視鏡挿入法-軸保持短縮法-である。これにより飛躍的にスピーディな挿入が可能となり,軸保持短縮法の手技を一層洗練させることができた。単なる“手先が器用”を超えて,定式化された1つの方法論・技術論をここに確立したのかもしれない。1990年初頭,one-man methodが急速に主流になりつつある時代であった。
 あれから15年が経過し,挿入経験も20万例に達した。軸保持短縮法も少しずつ改善し,より成熟した理論の解説ができるようになった。およそ100回を超える挿入法のイノベーションのプロセスの中から生み出されたものである。大腸内視鏡挿入技術は多くのスポーツ同様,眼器を中心とした感覚器官,手(指)・足などの運動器官,そして大脳との連携・協調作業である。また反復し体で覚えこむところもアートやスポーツと共通する点が多い。もう1つ共通するのは,挿入時の様々な動きを同時に言葉にするのが難しいことだ。この点において苦心の末文章として体現化したのが本書の初版『大腸内視鏡挿入法-ビギナーからベテランまで』(1996年)であった。正面から“挿入法”を冠した類書がなかった時代にあって,医学書の販売常識を超えたと言われるほどの数多くの読者を得た。本書にも述べるように,この新しい挿入法が診断学の発展を促した。拡大内視鏡によるpit pattern診断学が確立し,陥凹型腫瘍は世界中で認知され注目されつつある。発育進展を加味した発育形態の理解とpit pattern診断により,正しい深達度診断に基づいた治療方針が決定できるようになった。診断学はNBI,Endocytoscopy(超拡大内視鏡)でなお発展中である。一方,モダリティの面でも硬度可変機能・細径内視鏡,挿入補助機能の開発-受動彎曲・高伝達挿入部の導入,先端フードの改良,UPDシステムの導入,ハイビジョンシステム,など枚挙にいとまがない。治療面でもEMRスネアの進歩やESDという新しい治療技術が登場した。初版が出た時代背景とは大いに異なる内視鏡の世界が到来している。このように診断・治療面でのドラスティックな変化の中で,大腸内視鏡挿入法に関わることだけが万古不易ではありえない。新しい大腸診断学の進歩に相応しい新しい大腸内視鏡挿入法が求められる時代である。その点,本書はより物事の本質に近いと考えている。
 挿入法に関わる新しい概念と実際手技を盛り込んだ本書は,以上のことから,世間でありがちな初版の部分的な手直しという構成を避けた。何より,軸保持短縮法の新たなコンセプトである3S Insertion Techniqueには特別の項目を設けて解説した。これは管腔を追いかけてひたすら押す挿入法とは正反対の概念である。straight,sliding,shorteningの3つのSを基本にスコープの軸を保持しつつS状結腸は右へ右へ,横行結腸は左へ左へ最短距離でヒダを畳んでいく軸保持短縮法の理論的な根幹であり,シンプルに具体的に解説したものである。複雑な問題をより理解することによって,物事の本質に近づき,よりシンプルになる。この3S Insertion Techniqueは様々な技術の改善があって成立したものであり,多くのイノベーションの中から生まれたものである。読者はそれぞれの技量に応じて参考にしてもらいたい。その他PQに代表される細径内視鏡,PCF,硬度可変機能など,多くのラインナップの中で症例に応じてスコープを使い分ける時代を反映させた事項をすべて盛り込んだ。science-art感に基づく私自身の技術研鑽と今までの多くの仲間の臨床経験の総和が本書で表現できたと確信する。繰り返すが,20万例の挿入経験,机上の学問では得られない“現場のみが教える珠宝の言葉・真実”を本書に集約したつもりである。
 大腸内視鏡挿入は,scienceではなく,artの領域にあるものである。挿入に際しての感性,加えて診断・治療のセンス,その両者が求められるartの世界である。失敗の中から技を磨き,感性・感覚を研ぎ澄まし,勘(第六感)をも養う。技術の修練の中で絶えず向上を図る。そうしてこそ,“技術水準が高い”にとどまらず人々に驚きと感動を与えるartが誕生する。究極は,生死を分かつ状態にある患者に悲劇ではなく福音をもたらす。私のこの内視鏡哲学と35年にわたる日々の実践の体系を本書に表現したつもりである。現在,挿入法,診断学,治療学の内視鏡技術は日本が世界を圧倒的にリードしている。私自身も国内約1,000人のみならず,海外では,およそ300人の内視鏡医を指導してきた。これからはX線や3DCTよりも内視鏡時代がさらなる発展を遂げていくことは確実である。artの世界はこれからも変化していくであろう。さらなる医学の進歩とともに日本の医療が世界へ圧倒的に進出することを願って本書を完成させたつもりである。読者諸氏に次々と続いてもらい,さらなる驚きを世の中に生じることを強く願っている。
 最後に,本書企画は,医学書院医学書籍編集部の阿野慎吾氏と相談し,以来進めてきたものである。また,執筆協力者一覧にみるように執筆にあたっては宮地英行君をはじめとする多くの教室員の協力を得た。ここに記し,謝意を表したい。

 2012年4月
 工藤進英

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I.大腸内視鏡検査の心構え
 1.適応と禁忌
 2.大腸内視鏡検査のインフォームド・コンセント
II.大腸内視鏡検査における前処置と前投薬
 1.前処置
  A.ニフレック®(ポリエチレングリコール)による前処置
  B.ビジクリア®による前処置
  C.マグコロールP®(クエン酸マグネシウム)による前処置
  D.その他の方法
 2.前投薬
  A.鎮痙剤
  B.鎮静剤・鎮痛剤
III.感染症対策
 1.内視鏡の洗浄・消毒
  A.内視鏡消毒液
  B.内視鏡洗浄・消毒の実際
 2.内視鏡処置具の洗浄・消毒
IV.大腸内視鏡挿入の基本的事項
 1.大腸の解剖
  A.大腸の走行
  B.挿入部位に関する指標
 2.大腸内視鏡機種別の特徴
  A.高伝達挿入部と受動彎曲機能について
 3.軸保持短縮法の基本姿勢と概要
  A.基本姿勢
  B.軸保持短縮法の概要
  C.3S Insertion Techniqueの概要
 4.3S Insertion Techniqueの実際
  A.Straight Insertion
  B.Laterally slide
  C.Shortening
 5.場をつくる
  A.至適距離
  B.Air control
  C.相対的挿入と吸引
  D.フリー感
  E.管腔方向
  F.Jiggling
 6.軸保持短縮法の補助手段
  A.先端フード
  B.用手圧迫
  C.体位変換
  D.硬度可変
  E.UPDシステム
V.大腸内視鏡挿入の実際
 1.RSの越え方
 2.S状結腸,SD屈曲部の越え方
  A.S状結腸の越え方の基本
  B.S状結腸の通過の3パターン
 3.下行結腸から脾彎曲の越え方
 4.横行結腸の越え方
 5.肝彎曲の越え方
 6.上行結腸から盲腸
 7.Bauhin弁の越え方
 8.人工肛門からの挿入,観察
 9.レベル別注意点
  A.初級者のための大腸内視鏡検査-初級者が気をつけること
  B.中級者のための大腸内視鏡検査-中級者の陥りやすい罠
 10.極細径内視鏡による挿入法
  A.特徴
  B.挿入
 11.偶発症を避ける大腸内視鏡検査
  A.検査前偶発症
  B.挿入時偶発症
  C.内視鏡的治療処置に伴う偶発症
 12.その他の大腸検査法
  A.バルーン内視鏡
  B.CT colonography
  C.大腸カプセル内視鏡
VI.大腸内視鏡による観察
 1.病変の発見
  A.病変に対する認識
  B.死角となりやすい部位
  C.軸保持短縮法の維持
  D.Air Control
  E.病変が多い症例の注意点
  F.治療目的の場合の注意点
  G.フォローアップの重要性
 2.病変の観察
  A.内視鏡像の歪み-樽型歪曲収差
  B.通常内視鏡観察
  C.色素内視鏡観察
  D.肉眼形態の観察-発育形態分類
  E.色素拡大観察-pit pattern診断
  F.NBI拡大観察-vascular pattern診断
  G.拡大内視鏡観察の実際
  H.超拡大内視鏡観察-endocytoscopy
VII.大腸腫瘍性病変の内視鏡治療
 1.大腸腫瘍における内視鏡治療の適応
 2.EMR・ESDの適応
 3.EMR・ESDの手技の流れ
  A.内視鏡治療を始める前に
  B.前処置
  C.処置具について
 4.SM癌における内視鏡的切除後の追加腸切除の適応
  A.SM浸潤距離の計測の問題点
  B.粘膜筋板の状態の評価
VIII.大腸内視鏡治療後のサーベイランス
 1.National Polyp Study(NPS)
 2.Japan Polyp Study(JPS)
 3.角館study

文献
索引

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初心者からベテランまで,技術の習得,評価に必読の書
書評者: 吉田 茂昭 (青森県立中央病院長)
 本書の初版は1997年に上梓され,第一級の教科書として君臨し続けている。「なのに,なぜ,今さら挿入法なのだろう?」というのが,本書を手に取った最初の思いであった。しかし,序にもあるように,大腸内視鏡はこの15年間にpit patternの診断からNBIや超拡大診断,治療領域ではpolypectomyからpiecemeal polypectomy,ESD等々,極めて多様な対応が求められてきており,挿入に手間取っているようでは大腸内視鏡医として与えられた使命を果たせないのである。著者の挿入例数はこの15年間に20万件に達したそうであるが,そのキャリアの大部分は自身が開発した拡大内視鏡によっている。本機器は先端硬性部が長く太径でもあり,一般に挿入が難しい。このスコープを自在に操っている中に,挿入技術に一層の磨きがかかり,遂にはartの域に達したのであろう。本書はこうして完成した軸保持短縮法を何とか多くの内視鏡医に伝えたいという熱い思いにあふれている。

 これまでの挿入法はというと,one-man methodの創始者である新谷弘実先生のright-turn shortening(強いアングル操作で先端を粘膜ひだに引っかけ,右回旋しながら引き戻すことで腸管の直線化を図る)がよく知られている。これに対し,軸保持短縮法ではup-downのアングル操作を控え,可及的に先端硬性部を真っ直ぐに保ち,管腔の走行を的確に想定しながら,トルクを加えつつ順次スコープを挿入していくことを基本としている。筆者もUPDを用いた著者のライブデモンストレーションを見せていただいたことがあるが,確かに先端部を強く屈曲するようなシーンは一度もなかった。

 本書では,この軸保持短縮法を習熟するための基本操作とその応用について,大腸各部(RS,SD屈曲部,脾彎曲部,横行結腸,肝彎曲部,上行結腸から盲腸,Bauhin弁)の生体解剖学的な特性をわかりやすく解説しながら,それぞれを円滑に通過するための目印,個々の状況認識などについて,著者の豊富な経験を交えながら懇切丁寧に教えてくれる。あたかも実際に自分が挿入していると錯覚してしまうほどである。著者に言わせれば挿入技術はartであってscienceではないとのことであるが,教え方は極めてscientificである(おそらく基本操作を習熟した後にはartisticな創造力が不可欠だということなのであろう)。また,COLUMNの欄では,著者の博識ぶりに驚くと同時に楽しく読ませてもらえるが,特に「こんなときどうする?」は読者にとってありがたい示唆を与えてくれる。

 大腸がんは胃がん等とは違い,国や人種を越えた代表的悪性腫瘍であり,その克服は世界的な課題と言える。このような中,わが国の内視鏡診断・治療成績は圧倒的に世界を凌駕している。しかし,明日を担う若い人達が挿入に困難を感じているようでは,今後のさらなる進歩,発展は望むべくもない。「より多くの大腸内視鏡医を育てなければ」という著者の強い使命感と情熱が,この第2版を出さずにはおかなかったのであろう。初心者からベテランまで,自らの挿入技術に正当な評価を与えるうえで,あるいは超えるべき課題を再確認するうえで,正に必読の書と言えよう。
大腸内視鏡の基本となる教科書
書評者: 上西 紀夫 (日本消化器内視鏡学会理事長/公立昭和病院長)
 待ちに待った本が刊行された。大腸内視鏡の世界のトップリーダーである著者による,質の高い大腸内視鏡診療をめざすすべての消化器内視鏡医のための教科書である。序文に書かれているように,“初版時の時代背景と異なる内視鏡の世界が到来しており,診断・治療面でのドラスティックな変化の中で,大腸内視鏡挿入法が万古不易のままではありえない”というコンセプトでまとめられた本書は,まさに軸保持短縮法を軸とし,安全で確実な大腸内視鏡挿入法について,豊富なイラストや内視鏡像を用いてわかりやすく解説している。また本書は,『大腸内視鏡挿入法』と題しているが,内容としては大腸内視鏡に関する基礎のみならず,大腸内視鏡の診断,治療に関する最新の情報もコンパクトに掲載されている。

 さて,初版の発刊以来15年が経過し,この間に蓄積された豊富な経験に基づき,そして機器の改良,進歩により挿入法も進化しているが,その基本はone man methodであることに変わりがない。そして,挿入技術とともに変わらないのが心構えである。確かに以前に比べると,新しい機器の登場,適切な上級医による指導,シミュレーターやコロンモデルによる修練などにより挿入が比較的容易になったことは事実である。しかしながら,上部消化管内視鏡に比し大腸内視鏡検査は難しい手技であり,また,ベテランであっても挿入困難例に遭遇することはまれではない。そこで重要なのは著者が強調している“熱意と忍耐”である。すなわち,“急がば廻れ”であり,基本に立ち返る心構えである。その難しさを安全,確実に乗り越えていくための解説が具体的に,わかりやすく書かれている。そのわかりやすさは,“現場のみが教える珠宝の言葉・真実(序文より)”に裏打ちされているためである。これに加えて,もう1つの本書の特色は,豊富なCOLUMNとして記載されたコメントである。基本は外科医であり,またスポーツマンである著者ならではのコメントであり,スポーツになぞらえた含蓄のある内容であり,大変楽しく読める。

 一方,大腸内視鏡手技の難しさから,新たな大腸の検査法としてカプセル内視鏡やCTC(CT colonography)が開発され,臨床応用されてきている。しかしながら,適切な大腸疾患の診断,治療のためには内視鏡のスムーズな挿入と操作が不可欠なことは自明であり,その意味で,本書はまさに大腸内視鏡の基本となる教科書である。本書を手にすると,豊富なイラスト,写真,そして適切な解説のおかげで具体的なイメージが想起され,すぐにでも大腸内視鏡ができそうな気になってくる。その意味で,DVDが付いていればもっと……,と願うのはやや欲張りなのかもしれない。しかしながら,内視鏡診療の基礎や応用に関する教育法として,DVDなどを用いたe-learningが今後の検討課題として考えられるが,その場合,本書の内容はその第一候補になることは間違いない。

 いずれにしても,本書は,消化器内視鏡の初心者にとっては大腸内視鏡の入門書であり,同時にベテランにとっても自己の研鑽,そして若手の教育のための指導書として必須の本である。すべての消化器内視鏡医に強く推薦したい。

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