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パーキンソン病治療ガイドライン2011

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日本神経学会監修の下、パーキンソン病治療についてエビデンスに基づきまとめられたガイドライン。第I編「抗パーキンソン病薬と手術療法の有効性と安全性」では各種薬剤・手術療法を詳述。第II編「クリニカル・クエスチョン」では運動症状および自律神経障害などの非運動症状への薬物療法、手術療法、リハビリテーションなど、治療の実際についてわかりやすく解説。パーキンソン病の臨床に携わるすべての医師必携の1冊。
シリーズ 日本神経学会監修ガイドラインシリーズ
監修 日本神経学会
編集 「パーキンソン病治療ガイドライン」作成委員会
発行 2011年04月判型:B5頁:220
ISBN 978-4-260-01229-4
定価 5,720円 (本体5,200円+税)
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神経疾患治療ガイドライン改訂版の発行にあたって(葛原 茂樹/水澤 英洋/清水 輝夫)/(高橋 良輔)

神経疾患治療ガイドライン改訂版の発行にあたって
日本神経学会 
 前代表理事 葛原 茂樹/代表理事 水澤 英洋
 ガイドライン統括委員長 清水 輝夫

 日本神経学会では,2001年5月と7月の理事会で,当時の柳澤信夫理事長の提唱に基づき,主要な神経疾患について治療ガイドラインを作成することを決定し,2002年に「慢性頭痛」,「パーキンソン病」,「てんかん」,「筋萎縮性側索硬化症(ALS)」,「痴呆性疾患」,「脳血管障害」の6疾患についての「治療ガイドライン2002」を発行しました.
 2002年の発行から5年以上が経過し,各疾患において新しい知見や治療薬が加わったことを踏まえ,2008年5月と7月の理事会において治療ガイドラインの改訂を行うことを決定し,直ちに作業を開始しました.今回の改訂の対象は,前回のガイドライン発行以降に治療上の新薬承認や使用薬の変更があった「慢性頭痛」,「パーキンソン病」,「てんかん」,「認知症」,「脳血管障害」の5疾患(その後,諸般の事情で慢性頭痛については今回の改訂は見送り)と,今回から新たに加わった「多発性硬化症」を含めた6疾患であり,疾患別治療ガイドライン(改訂)委員会が設置されました.さらに,これらと新規に設置された「遺伝子診断のガイドライン」作成委員会を含めて,全体を代表理事の下で統括する統括委員会も発足しました.なお,それぞれの疾患別委員会は,委員のほかに,研究協力者,評価・調整委員から構成されております.
 今回の治療ガイドライン改訂の作成にあたっては,本学会として,すべての治療ガイドラインに一貫性を持たせることができるような委員会構成としました.近年問題になっている利益相反に関しても,本学会として独自に指針と基準を定めた上で,担当委員を選びました.各委員会における学会としての責任体制を明確にするために,委員長(他学会と合同の委員会を作っているものについては,本学会から参加する担当理事)は,理事長が理事の中から指名しました.各疾患別委員会の委員候補者は,委員長(あるいは担当理事)から推薦していただき,推薦された委員候補者には利益相反について所定の様式に従って自己申告していただき,審査委員会の審査と勧告を踏まえて各委員会の委員長と再調整した上で,理事会で承認するという手順で委員を決定しました.
 ガイドライン作成にあたり,関連する他学会との協力は前回の治療ガイドライン2002でも実施されておりましたが,今回のガイドライン改訂にあたってはこの方針をもう一歩進めて,全疾患について複数の関連諸学会に呼び掛けて合同委員会を組織し,ガイドライン作成にあたりました.快く合同委員会設置にご賛同いただいた各学会には,この場を借りまして深く感謝いたします.
 今回の改訂治療ガイドラインは,日本医学図書館協会の協力を得て前回と同じくevidence-based medicine(EBM)の考え方に基づいて作成されていますが,基本的にQ & A(質問と回答)方式で記述されていますので,読者には読みやすい構成になっていると思います.回答内容は,エビデンスを精査した上で,可能な限りエビデンスレベルに基づいたガイドラインを示してあります.もちろん,疾患や症状によっては,エビデンスが十分でない領域もあります.また,薬物治療や脳神経外科治療法が確立している疾患から,薬物療法に限界があるために非薬物的介入や介護が重要な疾患まで,治療内容はそれぞれ様々で,EBMの評価段階も多様です.当然ながら,治療によって症状の消失や寛解が可能な疾患と,症状の改善は難しくQOLの改善にとどまる疾患とでは,治療の目的も内容も異なります.そのような場合であっても,現時点で考えられる最適なガイドラインを示すように努めました.
 さらに,神経内科診療において,遺伝子診断の重要性が増している現状を踏まえ,神経内科医に必要な遺伝子診断のための知識とポイントをまとめた『神経疾患の遺伝子診断ガイドライン2009』を新規に作成し,2009年に刊行いたしました.
 本ガイドラインは,決して画一的な治療法を示したものではないことにもご留意いただきたいと思います.同一の疾患であっても症状には個性があり,最も適切な治療は患者さんごとに異なっていますし,医師の経験や考え方によっても治療内容は同じではないかもしれません.治療ガイドラインは,あくまで,医師が主体的に治療法を決定する局面において,ベストの治療法を選択する上での参考としていただけるように,個々の治療薬や非薬物的治療の現状における一定の方式に基づく評価を,根拠のレベルを示して提示したものであります.
 本ガイドラインが,協力学会会員の皆様の診療活動に有用なものとなることを,作成関係者一同願っております.神経疾患の治療法は日進月歩の発展を遂げており,今後も定期的に改訂していくことが必要です.今回作成した各疾患の治療ガイドラインを関係学会会員の皆様に活用していただき,皆様からいただいたご意見をフィードバックさせて改訂内容に反映させることにより,よりよいものに変えていきたいと考えております.
 これらのガイドラインが,会員の皆様の日常診療の一助になることを期待しますとともに,次なる改訂に向けてご意見とご批判をいただければ幸いです.

 2010年8月



「パーキンソン病治療ガイドライン」作成委員会
 委員長 高橋 良輔

1.対象と目的
 本ガイドラインは,2002年,日本神経学会治療ガイドラインとして作成された「パーキンソン病治療ガイドライン2002」(パーキンソン病治療ガイドライン作成小委員会,委員長:水野美邦,以下「ガイドライン2002」と表記)の改訂版として,作成されたものである.
 パーキンソン病は静止時振戦,強剛,無動,姿勢反射障害などの運動症状を特徴とする一方,自律神経障害,うつ,睡眠障害,認知症などの非運動症状も高頻度に合併する多系統変性疾患である.中高年者に好発し,わが国には約15万~18万人の患者がいると推定される.病理学的には黒質線条体ドパミン神経の変性ならびにαシヌクレインを主成分とする封入体,レヴィ小体の出現が特徴である.パーキンソン病の病因はいまだ不明であり,ドパミン神経死を抑制する神経保護治療はまだ知られていない.
 しかし,L-ドパ,ドパミンアゴニストを中心とする薬物療法,深部脳刺激を中心とする手術療法,カウンセリング,リハビリテーションなどの非薬物療法など対症療法には多くの治療の選択肢が存在し,神経内科を専門とする医師であっても治療法の選択に迷う事態が生じている.
 そこで,どのような順序で治療を進めるのが患者のQOL(quality of life)や長期予後にとって最善であるのか,エビデンスに基づいた治療の指針(ガイドライン)を提示する必要があるとの考えから,「ガイドライン2002」が作成された.このガイドラインは公開以降,わが国でパーキンソン病診療に携わる神経内科医に広く活用され,標準的なパーキンソン病治療の普及に大きな役割を果たしてきた.
 しかしそれから9年が経過し,この間にドパミンアゴニストとしてプラミペキソール,ロピニロールが,カテコール-O-メチル基転移酵素(COMT)阻害薬としてエンタカポンが,新しい抗パーキンソン病薬としてゾニサミドがわが国で使用できるようになった.一方心臓弁膜症など,ドパミンアゴニストの一部が重大な副作用を伴うことも明らかになった.また手術療法では脳深部刺激療法の有効性が広く認識され,普及してきた.このような大きな状況の変化に対応する必要があることから,このたびガイドライン改訂に至った.
 本ガイドラインの対象患者は発症早期から進行期に至る様々な病期のパーキンソン病患者であり,運動症状および非運動症状に対する薬物および非薬物療法に関して,evidence-based medicine(EBM)の方法論に基づいて推奨される治療方法を提示するものである.これによって,わが国のパーキンソン病治療の質の向上に貢献し,全国どの施設でも高い水準の治療が受けられる状況,すなわち医療の標準化を推進することが本ガイドラインの目的である.
 なお,本ガイドラインには原則としてわが国で使用されている薬剤を記載したが,重要な薬剤については一部,わが国未承認の薬剤についても記載した.また一部に保険適用外の使用方法も記載されているが,保険診療での使用を正当化するものではないことを付記する.

2.利害関係者の参加
 本ガイドライン改訂・作成は日本神経学会が中心となって行った.加えてパーキンソン病治療にかかわる様々な領域の専門家の意見が反映される必要があるため,日本神経治療学会,日本脳神経外科学会,日本定位・機能神経外科学会,日本リハビリテーション医学会に協力学会として作成に参加して頂いた.作成委員会委員,または評価・調整委員のいずれか,もしくは両者に上記学会の会員が含まれている.患者は委員の中には含まれていないが,委員会としてできる限り患者中心の医療を実現する立場でのガイドライン改訂を心がけた.ガイドラインの利用者は専門医資格取得以前の後期研修医を含め,神経内科医を広く対象としている.

3.構成および作成手順
 今回のガイドラインは第I編と第II編の2部構成とした.第I編は前回の「ガイドライン2002」の「各抗パーキンソン病薬および治療法の有効性と安全性」と同じ形式をとり,薬物療法と手術療法に関する追補版とした.その他の内容に関しては第II編に盛り込むこととした.
 第II編が今回の改訂ガイドラインの本体となるものであり,『Minds 診療ガイドライン作成の手引き 2007』(Minds診療ガイドライン選定部会監.東京,医学書院,2007)に準拠して作成された.これは臨床疑問(クリニカル・クエスチョン)に対して,系統的な方法でエビデンスを検索し,それに基づいて推奨を決定する方法によるものである.ガイドライン作成委員会において「ガイドライン2002」の内容をできる限り臨床疑問に置き換え,その内容を網羅するよう努める一方,抗パーキンソン病薬の維持量の決定,QOLに影響を与える因子,姿勢異常,アパシー,疲労,衝動制御障害の治療,抗パーキンソン病薬の副作用とその対策,ドパミンアゴニストの選択基準,パーキンソン病を悪化させる薬剤などについて新たに臨床疑問を作成し,委員全員での討議の結果,最終的に42の臨床疑問にまとめあげた.
 第I編,第II編ともに偏りのない方法でエビデンスを検索するために,作成委員会が特定非営利活動法人日本医学図書館協会診療ガイドラインワーキンググループと共同で文献検索を担当した〔診療ガイドラインワーキンググループ委員長:河合富士美氏,特定非営利活動法人日本医学図書館協会専務理事:坪内政義氏,小嶋智美氏(愛知淑徳大学図書館),三浦裕子氏(東京女子医科大学図書館),高橋奈津子氏(聖隷浜松病院第一図書室)〕.この作業に対しては報酬が支払われた.検索式は個々の臨床疑問を分担した委員が準備し,ワーキンググループとの共同作業で確定した.検索データベースはPubMedと医中誌WEBを用い,原則として1983年以降2008年9月までを検索期間とした.委員はこの検索結果を原則として用い,必要な場合には追加検索を行い,エビデンスとなる文献を選択した.
 エビデンスレベルの分類は表1を用い,複数のエビデンスがある場合は,最もレベルの高いエビデンスを採用した.ランダム化比較試験は患者数20例以上を対象にしたものを採用し,それ以下のものはエビデンスレベルを一つ下げるようにした.レベルの高いエビデンスがない臨床疑問に関しては,可能な限り専門家パネルの意見として,作成委員会の意見を記載するようにした.また基本的に研究対象の人種差は考慮しなかった.推奨にあたっては,Minds推奨グレードに従った(表2).

 表1 本ガイドラインで用いたエビデンスのレベル分類(質の高いもの順)

エビデンスのレベル内容
Iシステマティックレビュー/RCTのメタアナリシス
II一つ以上のランダム化比較試験による
III非ランダム化比較試験による
IVa分析疫学的研究(コホート研究)
IVb分析疫学的研究(症例対照研究,横断研究)
V記述研究(症例報告やケースシリーズ)
VI患者データに基づかない,専門委員会や専門家個人の意見

(Minds診療ガイドライン選定部会監.Minds診療ガイドライン作成の手引き2007.東京,医学書院.2007.p15より転載)

 ただし,予後については,下記によった.

レベル予後
1a前向きコホート研究のシステマティックレビュー(homogeneity*1であるもの).異なる集団において妥当性が確認されたCDR*2
1bフォローアップ率80%以上の前向きコホート研究.単一集団で妥当性が確認されたCDR*2
1c全ケースシリーズ
2a後ろ向きコホート研究,あるいはRCTにおける未治療対照群のシステマティックレビュー(homogeneity*1であるもの)
2b後ろ向きコホート研究あるいはRCTにおける非治療対照群のフォローアップ.CDR*2の誘導のみ,あるいは妥当性が分割サンプルでしか証明されなかった*3CDR*2
2c「アウトカム」研究
4症例集積研究(および質の低い予後に関するコホート研究*4
5系統的な批判的吟味を受けていない,または生理学や基礎実験,原理に基づく専門家の意見

*1:homogeneityというのは,個々の研究間に結果の程度や方向性に憂慮すべき多様性がないことである.統計学的に不均一なシステマティックレビューすべてに対して憂慮する必要はなく,また憂慮すべき不均一性すべてが統計学的に有意でもない.上記のごとく,憂慮すべき不均一性を示す研究には,レベルの後ろにマイナスの印「-」をつける.
*2:clinical decision rule(予後を予測するため,あるいは診断を層別化するためのアルゴリズムあるいはスコアリングシステム)
*3:分割サンプルによる妥当性の検証とは,一度に収集したサンプルを人工的に「誘導」サンプルと「妥当性検証」サンプルに分割することである.
*4:質の低い「予後に関するコホート研究」とは,(1)ターゲットとするアウトカムをすでにもつ患者が偏ってサンプリングされている研究,(2)対象患者の80%未満でしかアウトカム測定が行われていない研究,(3)非盲検的/非客観的な方法でアウトカム測定が行われている研究,(4)交絡因子が調整されていない研究を指す.
(Minds診療ガイドライン選定部会監.Minds診療ガイドライン作成の手引き2007.東京,医学書院.2007.p41より改変転載)


 表2 本ガイドラインで用いたMinds推奨グレード

推奨グレード内容
A強い科学的根拠があり,行うよう強く勧められる
B科学的根拠があり,行うよう勧められる
C1科学的根拠はないが,行うよう勧められる
C2科学的根拠がなく,行わないよう勧められる
D無効性あるいは害を示す科学的根拠があり,行わないよう勧められる

(Minds診療ガイドライン選定部会監.Minds診療ガイドライン作成の手引き2007.東京,医学書院.2007.p16より転載)

 エビデンスレベルと推奨グレードの対応関係については,少なくとも一つのエビデンスレベルIまたは複数の矛盾しないIIの結果がある場合はグレードAまたはD,少なくとも一つのエビデンスレベルIIの結果はグレードBまたはD,エビデンスレベルIII以下の結果の場合は,グレードC1またはC2とした.推奨グレードはエビデンスレベルだけでなく,臨床的有効性の大きさ,臨床上の適用性,害やコストに関するエビデンスも考慮して決定した.臨床疑問に対する推奨に加えて,【背景・目的】,【解説・エビデンス】,【推奨を臨床に用いる際の注意点】の3項目を設け,個別の臨床場面に推奨を用いる際の助けになるよう,配慮した.さらに「ガイドライン2002」で用いられた治療のアルゴリズムに関しても,利用者に重宝された実績を考慮して,できるだけ残すようにし,新しいエビデンスに基づいて内容の改訂を行った.
 本ガイドラインは評価・調整委員会による外部審査を経た後,パブリックコメントを求め,適切な改訂を行い公表した.

4.編集の独立性
 ガイドライン作成のための費用はすべて日本神経学会が負担した.委員は会議参加のための交通費,宿泊費の支給は受けたが,文献入手にかかわる費用,原稿作成,会議参加に対しての報酬は受け取らなかった.また,すべての委員が利益相反に関して自己申告書を提出し,倫理委員会の審査を受け,その審査結果に従ってガイドラインの作成・改訂作業が行われた.

5.本ガイドラインの活用法と今後の課題
 EBMの提唱者である臨床疫学者のGuyattは,EBMを「個々の患者の医療判断の決定に,最新で最善の根拠を良心的かつ明確に,思慮深く利用すること」と定義している.また診療ガイドラインは米国医学研究所(Institute of Medicine;IOM)によって「特定の臨床状況の下で,臨床医と患者が適切な医療を行えるよう支援する目的で体系的に作成された文書」と定義されている.このようにガイドラインとは主治医の治療法選択の手助けをするもので,強制するものではない.一方,ガイドラインには全国どの施設でも高い水準の医療が受けられる体制,すなわち医療の標準化を目指す側面がある.利用者には本ガイドラインでの推奨が,現在の標準的治療であることを念頭に置きつつ,個別の臨床場面における適切な治療法選択や臨床的決断の「素材」として,お役立て頂ければ幸いである.
 特に読者諸賢に注意を喚起しておきたいことであるが,「ガイドライン2002」では治療のアルゴリズムが本文や脚注を無視して引用され,本来の意図とは異なったメッセージとして受け取られることがしばしばあった.例えばパーキンソン病治療経験の少ない医師が,ガイドラインを参考にしてドパミンアゴニストで治療を始めた場合に,治療効果が不十分であってもL-ドパの追加投与になかなか踏み切れない事例が時々見受けられるのは早期パーキンソン病治療のアルゴリズムが誤って受け取られた結果ではないかと推測される.「ガイドライン2011」作成委員会はこれを大きな問題と認識している.アルゴリズムは標準的な治療方針の概略を短時間で理解するには便利であるが,臨床場面で遭遇する多様な個別の状況に対応するのに,アルゴリズムだけを頼りにするのは無理であり,危険ですらある.本ガイドラインの利用者はアルゴリズムを必ず本文と脚注をよく読んだ上でご利用頂きたい.
 上の定義からもわかるようにガイドラインは医師と患者が情報を共有するツールとして利用されることが理想である.本ガイドラインは神経内科医を利用者として想定しているため,患者が利用するにはやや難解である.将来的には患者用のガイドラインを作成する必要があるだろう.また,現状ではわが国からのレベルの高いエビデンスの発信が少ない.今後,わが国の臨床研究が発展し,わが国で得られたレベルの高いエビデンスに基づいたガイドラインが作成されることが強く期待される.

6.本ガイドラインの著作権は,日本神経学会に帰属する.許可なく転載することなどを禁ずる.

 最後に「ガイドライン2011」が「ガイドライン2002」と同様,多くの神経内科医に利用され,日常診療の助けになることを祈るものである.

 2011年2月

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第I編 抗パーキンソン病薬と手術療法の有効性と安全性
 第1章 L-ドパ
 第2章 ドパミンアゴニスト
 第3章 モノアミン酸化酵素B(MAOB)阻害薬
 第4章 カテコール-O-メチル基転移酵素(COMT)阻害薬-エンタカポン
 第5章 アマンタジン
 第6章 抗コリン薬
 第7章 ドロキシドパ
  I.すくみ足・無動に対する効果
  II.起立性低血圧に対する効果
 第8章 ゾニサミド
 第9章 手術療法
  I.破壊術
  II.脳深部刺激療法

第II編 クリニカル・クエスチョン
 第1章 治療総論
 第2章 運動症状の薬物治療
 第3章 運動症状の非薬物治療
 第4章 非運動症状の治療
 第5章 将来の治療など

索引

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神経内科外来にぜひ置いておきたい一冊
書評者: 望月 秀樹 (阪大大学院教授・神経内科学)
 パーキンソン病治療は,10年前と比較しても多くの薬剤が使用できるようになり,薬剤選択の上でいろいろな工夫が可能となったため,患者ADLも上昇している。一方で,パーキンソン病の治療薬は,ほとんどの薬剤が神経系に作用するという性質上,副作用も多く,進行期には薬剤量や種類が増加するため,治療の選択が難しいと考えられている。そのため,エビデンスに基づいた治療の指針を提示することで,標準的な治療を開始できるように,2002年日本神経学会から初めてパーキンソン病の治療ガイドラインが作成された。そして今回,2011年版のパーキンソン病治療ガイドラインがついに出版された。前ガイドラインの良い点をそのままに残し,さらに分かりやすく,実地で使いやすいように工夫されたガイドラインである。

 2002年版からの大きな変更点は,各論部分をクリニカル・クエスチョンと題し,臨床上の具体的な質問に答えるという形式になっていることで,大変実践向きになっている。治療法で難渋することが多い非運動症状については,14項目で48ページも割かれており,治療法,対処法が細かいところまで記載されている。パーキンソン病のアパシー,疲労についての治療法や対処法など,他ガイドラインには書かれていないような内容まで網羅されており,臨床の場で重宝することは間違いなく,神経内科外来にはぜひ置いておきたい一冊である。

 2002年版では治療のアルゴリズム(未治療時)が一人歩きして,利用者に誤解を生むことがあったとも言われているが,今回の改正では脚注を入れることで,できるだけ個々の患者に対応できるように工夫されている。未治療パーキンソン病の治療決定をするときには,患者一人一人の重症度や合併症,あるいは社会的状況をふまえた上で,このガイドラインを基に,患者のニーズに対応できるようじっくりと説明し,治療を決定するのが良いだろう。

 また,エビデンスを示すガイドラインになると,どうしても引用論文が増えてページが厚くなってしまうが,それを減らすべく巻末に主要な引用文献のみを記載し,参考にした二次資料としてPubMedや医中誌の検索法が記載されているのがうれしい。

 驚いたのは,現在日本未発売でこれから使用が可能となる薬剤の紹介もされていることである。具体的には,rotigotine, rasagiline,リバスチグミン*などの記載があり,安全性,有効性が海外の論文を基に示されている。新しい薬剤の使い始めには,海外の情報は意外と少ないものだが,本ガイドラインにはしっかりとした記載がされているので,今後使用する時の参考になる。遺伝子治療の項目も将来の治療として新たに付け加えられた。遺伝子治療は,われわれがすぐに選択できるわけではないが,海外・日本での臨床結果が紹介されており,新たな治療法の可能性を示している。

 海外では,本ガイドラインに記載されている以外にもすでに使用されている薬剤もあり,これから新しい抗パーキンソン病薬が使用できるようになるであろう。その度に,新しい治療法が追加され,われわれはその治療効果や新たな副作用に注意しなければならない。次回の改訂までに使えなくなる薬剤もあると思われるので,本ガイドラインも今後は,少し早めに改訂することを検討していただきたいと思う。

*註:本稿は2011年5月に執筆されたものです。リバスチグミンは2011年7月より発売が開始されました。
改訂により,臨床現場での使いやすさが一段と向上
書評者: 澁谷 統寿 (新古賀病院・脳神経内科)
 医療には事実と論理に基づく科学性と,経験や伝承に基づく非科学性が混在しており結果を予想できないことが多く,医師の経験則がいくら豊富であっても必ずしも患者にとって良い結果をもたらすとは限らない。

 経験的に最も尊重されていることは,患者さんと真面目に向き合って対話し,いかに信頼関係を築くかである。臨床医は専門性(自律性)の立場から,一人一人の患者の選択すべき道を示し,臨床現場ではどのような場面に遭遇しても適切に判断し対処できる能力を養っておくことが必須である。その過程で根拠に基づく治療ガイドラインの利用は医療の質の標準化(均一化)に有用であり,その普及は社会における医療の在り方を問い直すものである。

 『パーキンソン病治療ガイドライン2011』は「抗パーキンソン病薬と手術療法の有効性と安全性」と「クリニカル・クエスチョン」の2編構成となっている。前者は2001年以降のエビデンスを踏まえ,薬剤や手術療法の有効性,安全性,臨床使用での注意事項や今後の検討課題についてガイドライン作成委員会の現在の考えが簡潔明瞭に記載されている。

 「クリニカル・クエスチョン」は9年前に作られた治療ガイドライン2002と比べるとその作成プロセスが格段に進歩していて読みやすい構成で素晴らしい出来上がりである。これは改訂作業にあたりライブラリアンの協力と医療情報学の専門家の意見を参考に,ガイドライン作成上の課題が体系的に整理されたことによる。パーキンソン病は慢性進行性の疾患であり予後への影響因子も多様で,患者のQOLと10年後,15年後の長期予後を見据えた治療が求められる。また,治療薬による副作用やさまざまな合併症,運動症状,自律神経障害や精神症状への対応も必要である。

 これらの想定される臨床上の疑問に対してエビデンスとともに作成委員の臨床経験を適切に取り込み,Minds推奨グレード(おすすめ度)として明確に回答し,その背景と解説,臨床に用いる際の注意点が適切に示されている。第三者からの評価(EUを中心としたAppraisal of Guidelines for Research & Evaluation ; AGREEの評価法)やさまざまな視点からのオープンな議論によっても高く評価される書である。

 この治療ガイドラインは神経内科医を対象として作られたものであるが,内科医や研修医にとっても理解しやすい内容で,臨床現場での使い勝手の良し悪しの視点からも,ユーザーとしての各医師にとって使いやすく,患者アウトカムの改善に寄与するであろう。

 治療ガイドラインは“Starting Point for Discussion”として本来は医師の意思決定を「支援する(assist)」役割を担っている。しかし,治療ガイドラインが社会的に広く認識された今日では医療訴訟の判断基準として利用される可能性も高くなっている。本書の活用は臨床医のdefective medicineへの懸念を払拭して医療の質の向上に役立つものであり,多くの臨床医が本ガイドラインを適切に利用することを期待している。

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