OCTアトラス

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今や眼科診療に不可欠の検査機器となったOCT(光干渉断層計)画像のアトラス。800超のOCT画像を含む1800以上の画像を収載。スペックルノイズ除去スペクトラルドメインOCTの画像は感動的なまでに美しく、微細な網膜構造や病変が手に取るように分かる。症例ごとに「読影のPoint」を明示、巻末に「OCTによる病変形態インデックス」を掲載。専門医はもちろん、これから読影を学ぶ初学者にも必携の書。
𠮷村 長久 / 板谷 正紀
発行 2012年04月判型:A4頁:368
ISBN 978-4-260-01513-4
定価 25,300円 (本体23,000円+税)
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 1997年に日本での臨床応用が始まった当時のOCT画像は今から思えばお世辞にもきれいとはいえないものでした.しかし,OCTには生体眼で非侵襲的に網膜の断層画像を撮影できるという,他の検査にはない大きな利点がありました.このため,当時のTime-domain OCTを使って眼底疾患に関する数多くの新知見が発見されてきました.その後,2002年に第二世代ともいうべきOCT 3000(Stratus OCT©)が発売され,OCTの画像が飛躍的によくなりました.当時,私は信州大学にいましたが,OCT 3000の画像を初めて見たときの驚きを今でも鮮明に覚えています.Spectral-domain(SD)OCTの導入は2006年ですが,私たちはその前年の2005年11月に発売前のOCTを使う機会に恵まれました.そのときの感動は,OCT 3000の画像を初めて見たときよりも大きなものでした.3次元画像などは,まるで自分が疾患眼の中へ入って,病巣を手に取ることができるような気持ちにさせてくれるものでした.
 私は30年余り眼科学研究の世界に身をおいてきました.そして,その間に二回大きな研究の波に出会っています.一つは,分子生物学を眼科領域へ応用しようとする1990年代前半に経験した大きなうねり,そしてもう一つが2000年代前半から始まったOCTをはじめとする眼底イメージング研究の大きな動きです.正直なところ,OCTが導入された1997年当時には眼底イメージング研究の波がこれほど大きなものになるとは考えもしませんでしたが,京都大学へ移った頃からは眼底イメージング研究が分子生物学の眼科応用よりもずっと大きなものになるであろうと感じはじめていました.そして,2005年にSD-OCTを本格的に使い出して,その思いは確信に変わりました.
 京大眼科が眼底イメージングの研究を開始したのは,この2005年の出来事が大きなきっかけの一つとなっています.その後,SD-OCTが一気に普及し,さらにスペックルノイズを除去した画像を得ることができるようになって,まるで網膜疾患の病理像を見るように患者眼の状況を把握することが日常となりました.
 今ではOCTは眼科診療に必要不可欠の診療機器となり,日本各地でOCTの講習会のような教育的催しが開催されています.このことからもOCTの読影を勉強したいという眼科医の要望が強いことがよくわかります.かねてより,OCTのアトラスのような書籍を出したいと考えていましたが,群馬大学岸章治教授の名著があり,既に改訂版も出ていますので,「屋上屋を重ねる」愚を避けるとの思いもあって躊躇していました.しかし,自分たちでOCTの本を出したいという思いが募り,また,医学書院の薦めもあって本書をまとめることになりました.本書はできるだけ少人数での執筆にしたいと考えていましたので,症例の選択から画像収集,画像の説明や読影のポイントの記載に至るまで,すべて共著者の板谷正紀先生と私の二人で行いました.さすがに,二人ですべてを行うには作業量が多く,考えていたよりも出版時期が遅くなってしまいましたが,網膜疾患のOCT像を観察して,そこから網膜疾患の成り立ちを考えるという診療の“要”ともいえる作業のいくらかを示すことができたのではないかと思っています.
 本書は私にとっては医学書院から出版する3冊目の本になります.『加齢黄斑変性』でも『眼科ケーススタディ-網膜硝子体』でも感慨深い作業をすることができましたが,とりわけ本書は作業量が多く正直なところ大変でした.その分,医学書院の編集・校正担当の方々にはいろいろと無理をきいていただきました.厚くお礼を申し上げます.
 本書が数多くの眼科医に利用され,網膜疾患の診断と治療に役立つとともに,その病態をさらに深く考える助けになることがあれば,望外の幸いです.

 2012年3月
 春浅い京都にて
 吉村長久

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1 OCT読影の基礎
 Bスキャンの基礎
 正常網膜
 正常眼脈絡膜イメージング
 Bスキャン表示
 深さ分解能の誤解
 アーチファクト
2 網膜硝子体界面病変
 特発性黄斑円孔
 Macular microhole
 特発性黄斑上膜
 硝子体黄斑牽引症候群
3 糖尿病網膜症
 糖尿病網膜症
 糖尿病黄斑浮腫
4 網膜血管病変
 網膜静脈閉塞症
 網膜動脈閉塞症
 特発性傍中心窩毛細血管拡張症
 網膜細動脈瘤
5 中心性漿液性脈絡網膜症
 中心性漿液性脈絡網膜症
6 加齢黄斑変性
 ドルーゼン
 網膜色素上皮剥離
 萎縮型加齢黄斑変性
 脈絡膜新生血管と滲出型加齢黄斑変性
 ポリープ状脈絡膜血管症
 網膜血管腫状増殖
 Malattia leventinese
 特発性脈絡膜新生血管
7 網膜変性症
 多発性一過性白点症候群
 急性帯状潜在性網膜外層症
 点状脈絡膜内層症
 若年網膜分離症
 スタルガルト病
 卵黄様黄斑ジストロフィ,成人発症卵黄様黄斑ジストロフィ
 弾性線維性仮性黄色腫
 癌関連網膜症
 クリスタリン網膜症
 網膜色素変性症
 網膜白点症
 小口病
8 ぶどう膜炎
 ベーチェット病
 サルコイドーシス
 原田病
 交感性眼炎
 トキソカラ症
 急性網膜壊死(桐沢型ぶどう膜炎)
9 病的近視とその類縁疾患
 近視
 Dome-shaped maculaと下方ぶどう腫
10 網膜剥離
 裂孔原性網膜剥離
11 OCTによる病変形態インデックス
 網膜硝子体界面病変
 黄斑の肥厚
 中心窩剥離・黄斑部の網膜剥離
 網膜外層の萎縮
 網膜色素上皮層の隆起・波打ち
 脈絡膜の肥厚と萎縮

索引
 欧文索引
 和文索引
 症例索引

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臨床で出合う眼底疾患の知識を身につけられる一冊
書評者: 天野 史郎 (東大大学院教授・眼科学)
 京都大学眼科の吉村長久教授と板谷正紀准教授の執筆によるOCTアトラスが発行された。光干渉断層計optical coherence tomography(OCT)は1997年に眼底疾患の診断装置として国内に導入され,網膜の3次元構造を簡単に観察できる装置として急速に臨床の場に普及した。その後,ハード,ソフト両面での改良が大幅に進み,現時点での最新鋭のspectral-domain OCTでは深さ分解能5-7μmが実現されている。

 最新鋭のspectral-domain OCTによる画像が多用されている本書では,まずOCT読影の基礎として,細胞層が低反射,線維層や境界が高反射という原則,正常網脈絡膜のOCT像の解説,スペックルノイズと加算平均による除去,アーチファクトなどの事項がわかりやすく解説されている。次いで,各論として,黄斑円孔・黄斑上膜など網膜硝子体界面病変,糖尿病網膜症,網膜血管病変,中心性漿液性脈絡網膜症,加齢黄斑変性,網膜変性症,ぶどう膜炎,病的近視,網膜剥離の各疾患が論じられている。疾患ごとにまず概要としてそれぞれの疾患メカニズム研究のこれまでの歴史が語られ,次いで最新のOCT所見を基にした各疾患の発症機序が詳細に述べられている。そしてそれに続く180超の症例でのOCT像が本書の最大の見せ場である。各症例の病態が経時的に変化していく様子がOCT像,眼底写真,造影写真を用いて詳細に示されている。そして,各疾患における典型例はもちろんのこと,バリエーション例も多数示されている。これらの症例をすべて読んでおけば,臨床で出合う上記疾患におけるほとんどのバリエーション症例を経験したのと同じだけの知識を身につけることができるであろう。

 本書を読んだ印象としては美しい本だということである。こんなことをいうと不謹慎と言われそうであるが,普段,角膜などの前眼部疾患の患者さんを診察していて,眼底疾患の患者さんの診察をすることが少ない私などがこの本を読んでいると,その美しい写真や装丁を見て感心してしまい,ついついこれら網膜硝子体疾患で悩んでいる患者さんのことを忘れてしまいそうである。しかし,美しく撮られたOCT画像を詳細に検討することが,各種眼底疾患の発症メカニズムを解明することに発展し,個々の患者さんにおいて正しい治療方針を導くことにつながる。このことがこれらの疾患で悩んでいる患者さんに大いに役立つことは明らかであろう。病気の図譜であるのにどうして美しいと感じるかと考えると,spectral-domain OCTで撮られた画像が各種眼底疾患における立体的な変化を手に取るように示しているからであり,これを見ることでそれぞれの疾患の成り立ちが理解できるからである。

 網膜硝子体疾患を専門とする先生はもちろんのこと,他のsubspecialityを持つ眼科医,開業医,研修医など多くの先生方に推薦したい。

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本書の記述の正確性につきましては最善の努力を払っておりますが、この度弊社の責任におきまして、下記のような誤りがございました。お詫び申し上げますとともに訂正させていただきます。

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