基礎作業学 第2版

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大きな支持を得ている作業療法学教科書の第2版。作業とは何か、作業を適用するとは何か、作業分析の理論と方法、これらを低学年の学生にもわかりやすい言葉で解説。
*「標準作業療法学」は株式会社医学書院の登録商標です。
シリーズ 標準作業療法学 専門分野
シリーズ監修 矢谷 令子
編集 小林 夏子 / 福田 恵美子
発行 2012年03月判型:B5頁:216
ISBN 978-4-260-01492-2
定価 4,180円 (本体3,800円+税)
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第2版 序

 本書『基礎作業学』改訂にあたっての編集方針は,初版の基本構想を継続しつつ,読者=学習者がより“主体的”に学べるように意図したことである.作業療法の鍵となる“作業”に集約する学習情報に対して,読者が興味を注ぎ,刺激を受け取り,自ら学習に取り組むようになる姿を念頭において,今回の改訂作業を行った.
 第1章では,基礎作業学と作業療法の関係を説明して,健康な生活を営む人間と作業との関係,作業療法で対象者に適用する作業・作業分析などについて,基本的な概要を提示する.また,国内外の作業療法の実践と理論の歴史から,作業と作業療法の意義を導き,概説を試みている.
 第2章では,身体運動技能,認知技能,心理社会的技能に分けて,技能別作業分析の理論と方法について提示している.これらの確実な修得によって,適切な職業実践の土台が築かれるものと期待される.
 第3章では,“作業”適用について安全で効果的な実践過程を提示する.身体機能,精神機能,発達過程,高齢期の分野ごとに,作業療法での代表的疾患の最頻例・典型例を想定してみた.国際生活機能分類(ICF)の枠組みに基づき,「対象者の特徴」,「必要な作業の要素」,「作業適用の具体例・実際の使い方」,および「作業分析の例」(図表)に準じてまとめている.
 そのほか,序章・終章・巻末資料も,学習を盛りたてる豊富な内容にしたつもりである.
 普段の生活で身近に行っている``作業''の特性を科学的に生かし,対象者の快適で個性的な生活づくりに貢献する作業療法サービス.本書によって,その面白みに気づいていただけることを願っている.

 2012年1月
 小林夏子
 福田恵美子

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序章 基礎作業学を学ぶ皆さんへ
第1章 基礎作業学と作業療法
 I 基礎作業学
 II 作業療法と“作業”について
 III 作業療法の展開
第2章 技能別作業分析の理論と方法
 I 身体運動技能と作業分析の理論と方法
 II 認知技能と作業分析の理論と方法
 III 心理社会的技能と作業分析の理論と方法
 IV-1 感覚統合と作業分析の理論と方法
 IV-2 作業遂行分析の理論と方法
第3章 分野別作業の適用
 I 「分野別作業の適用」を学習する前に
 II 身体機能分野
 III 高次脳機能分野
 IV 精神機能分野
 V 発達過程分野
 VI 高齢期分野
基礎作業学の発展に向けて
 さらに深く学ぶために
巻末資料 ワーキングシート

索引

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作業療法の幅広い問いに応える一冊
書評者: 近藤 知子 (帝京科学大教授・作業療法学科長)
 「作業」は作業療法にとって,専門性,独自性の核となるものであり,作業について学ぶことは,作業療法そのものについて学ぶことでもある。この意味で,本書『基礎作業学』は,「標準作業療法学」シリーズの中でも,作業療法の基礎学問的役割を担っている。

 本書は,「はじめに」で触れられているように,「作業とは何か」「作業がなぜ治療になり得るのか」「作業を治療にどう活用するのか」という,幅広い問いに応えようとしている。これは,作業療法の哲学的背景と共に,作業療法実践の全過程を概略するという難解な課題に挑むものである。

 内容をみると,第1章では,作業療法における「基礎作業学」の範疇,「作用療法と作業」「作業の適用方法」が,先人の視点を用いつつ多彩な方面から説明される。次いで第2章では,人を身体運動機能,認知技能,心理社会的技能,感覚統合,作業遂行の面から捉え,それらに関連する作業分析法が,それぞれの拠り所とする理論と共に紹介される。最後の第3章では,心身機能や身体構造の障害により活動制限・参加制約をもたらされた対象者を例とし,作業療法場面で多用されてきた革細工,モザイク,ゲームなどを用いて,それらの作業分析や作業適用方法が解説されている。

 本書は,作業療法が培ってきた作業の分析法や,治療への適用方法を,既存の分野を念頭に置きつつ,確実に修めるために,有用な知識を提供する。作業療法を学ぶ学生は,作業療法で用い得る多様な分析方法を知り,人が行う作業を,技能や機能の視点から分析・理解し,治療的に段階付ける方法を身につけることに活用できるであろう。特に,第2版では,作業療法に関心を持つ学生が,その関心をより深め,主体的に学習することを第1版よりさらに意識して著されたという。各章のはじめに記された学習目標,学習後の修得チェックリスト,そして,章の終わりに載るキーワードは,知識の確認のために大いに役に立つ。また,学生だけでなく,すでに作業療法士となった人にとっても,機能・分野別に,関連する作業分析や作業の段階付けの方法を確認する際に有用であろう。

 今日,作業療法は,障害を持つ人だけでなく,災害・貧困・差別なども含め,健康な作業への従事が妨げられた人,その可能性がある人のすべてを対象としつつあり,このような新しい作業療法領域に関心を持つ人にとっては,本書で著される知識と技術が,その領域にどのような広がりをもって適用できるかを考えながら読み進めると興味深いに違いない。
学問として成熟した作業分析を学べる幸福
書評者: 鈴木 由美 (公立置賜総合病院リハビリテーション部/作業療法士)
 何年か前の話である。ある学会で顔見知りの方(作業療法士ではない職種)と会った。

 「鈴木さん,うちのスタッフの発表を聞いてやってよ。患者さんに『お茶入れ』させて治療しているんだよ」。その方はちょっと自慢気に言った。作業療法士ではないのに作業を用いて治療をしている……というのが,その発表のトピックらしかった。言われるがままに私はその発表を聞きに行った。発表は惨憺たるものだった。高次脳機能に障がいを持つ方へのアプローチだったが,「お茶入れ」という作業と対象者の状態が適合していない。「お茶入れ」をする対象者の戸惑った顔だけがビデオで映し出されていた。このような発表は作業療法士の発表では見たことがなかった。

 「先生,なぜ,『お茶入れ』を選んだんですか?」私を誘った方に尋ねた。

 「『お茶入れ』の分析をした文献を見付けたんだよ」その方は非常に誇らしげだった。しかし,次に私の口をついて出た言葉は「でも,先生。作業に患者さんを合わせようとしちゃだめですよ。患者さんに作業を合わせないと」だった。

 作業療法士は対象者の治療に作業を用いる。その根底には,作業を取り扱うための知識を確かに持ち合わせている……ということを,明確に感じた出来事だった。

 では,作業を取り扱う知識はどうしたら得られるのか。

 世界中のどこにでも作業は存在している。この作業のどれか一つを対象者の治療に用いようとする場合,作業療法士は作業を分析しその特性を知るところから始める。作業の内容によっては複雑な工程にはなるが,作業療法士が対象者に合う作業を選択するということは,少なからずこの工程を実施していることになる。そこで必要なのが作業を分析する視点であり,この作業療法士が最低限持つべき視点を記述しているのが本書だといえる。

 私が学生だったころは,作業療法の教科書も乏しく,作業分析は恩師の手書きのプリントで学んだ。今にして思えば,恩師の臨床経験から得られた知見がそこにあった。あれから30年が過ぎようとしている現在,本書を読んで,あの時の作業分析が「基礎作業学」という学問として成熟してきたことを,改めて知ることができる。

 本書の構成は非常に丁寧で,編集に携わった方々の気遣いをいたるところに読み取ることができた。用語の解説または歴史的背景の記述は,原点を明確に伝えようとする著者らの意向を強く感じる。本書の中で特に注目すべきなのは,やはり第2章の作業療法士が打ち立てた「感覚統合理論」と「作業遂行分析の理論」に基づいた分析の方法が記述されていることだと思う。この2つの理論は,専門外の領域の者にとっては知りたくてもなかなか手が出せないところにあるが,作業分析の方法というのはその理論の根幹である。本書でそこに触れることは,その後に続く専門課程への導入にもなる。第3章の「分野別作業の適応」では,迷える作業療法学生や発展途上中の若い作業療法士に多くのヒントを与えてくれると感じた。

 作業を取り扱うための知識は簡単には得られない。巻末資料のワーキングシートを見ると,学習課題がいっぱい詰まっている。しかし,本書を熟読していくと,長年作業療法士をやってきた私でも,今度は学問として「基礎作業学」を学びたいと痛切に思えるのである。

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