認知症診療の実践テクニック
患者・家族にどう向き合うか

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精神科診療のエキスパートを目指すための新シリーズの1冊。認知症患者の家族介護者から寄せられることの多い悩みや質問をもとに、患者・家族に対して有効な励ましの言葉やアドバイスの方法など、日常診療で生かせる対応のコツを紹介する。また認知症予防や薬物療法の注意点・副作用、疾患ごとの症状の特徴なども掲載し、認知症そのものに対する理解を深めることにも役立てられる内容となっている。 シリーズセットのご案内 ●≪精神科臨床エキスパート≫ シリーズセット I 本書を含む5巻のセットです。  セット定価:本体26,000円+税 ISBN978-4-260-01496-0 ご注文ページ
シリーズ 精神科臨床エキスパート
シリーズ編集 野村 総一郎 / 中村 純 / 青木 省三 / 朝田 隆 / 水野 雅文
編集 朝田 隆
発行 2011年10月判型:B5頁:196
ISBN 978-4-260-01422-9
定価 6,380円 (本体5,800円+税)

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精神科臨床エキスパートシリーズ 刊行にあたって/序

精神科臨床エキスパートシリーズ 刊行にあたって
 近年,精神科医療に寄せられる市民の期待や要望がかつてないほどの高まりを見せている.2011年7月,厚生労働省は,精神疾患をがん,脳卒中,心臓病,糖尿病と並ぶ「5大疾患」と位置づけ,重点対策を行うことを決めた.患者数や社会的な影響の大きさを考えると当然な措置ではあるが,「5大疾患」治療の一翼を担うことになった精神科医,精神科医療関係者の責務はこれまで以上に重いと言えよう.一方,2005年より日本精神神経学会においても専門医制度が導入されるなど,精神科医の臨床技能には近時ますます高い水準が求められている.臨床の現場では日々新たな課題や困難な状況が生じており,最善の診療を行うためには常に知識や技能を更新し続けることが必要である.しかし,教科書や診療ガイドラインから得られる知識だけではカバーできない,本当に知りたい臨床上のノウハウや情報を得るのはなかなか容易なことではない.

 このような現状を踏まえ,われわれは《精神科臨床エキスパート》という新シリーズを企画・刊行することになった.本シリーズの編集方針は,単純明快である.現在,精神科臨床の現場で最も知識・情報が必要とされているテーマについて,その道のエキスパートに診療の真髄を惜しみなく披露していただき,未来のエキスパートを目指す読者に供しようというものである.もちろん,エビデンスを踏まえたうえでということになるが,われわれが欲して止まないのは,エビデンスの枠を超えたエキスパートの臨床知である.真摯に臨床に取り組む精神科医療者の多くが感じる疑問へのヒントや,教科書やガイドラインには書ききれない現場でのノウハウがわかりやすく解説され,明日からすぐに臨床の役に立つ書籍シリーズをわれわれは目指したい.また,このような企画趣旨から,本シリーズには必ずしも「正解」が示されるわけではない.執筆者が日々悩み,工夫を重ねていることが,発展途上の「考える素材」として提供されることもあり得よう.読者の方々にも一緒に考えながら,読み進んでいただきたい.

 企画趣旨からすると当然のことではあるが,本シリーズの執筆を担うのは第一線で活躍する“エキスパート”の精神科医である.日々ご多忙ななか,快くご執筆を引き受けていただいた皆様に御礼申し上げたいと思う.

 本シリーズがエキスパートを目指す精神科医,精神科医療者にとって何らかの指針となり,目の前の患者さんのために役立てていただければ,シリーズ編者一同,望外の喜びである.

 2011年9月
 シリーズ編集 野村総一郎
          中村  純
          青木 省三
          朝田  隆
          水野 雅文



 高齢化社会の進行とともに認知症患者の増加は著しく,精神科医にとって認知症は避けて通れない疾患となりました.例えば精神科病院に入院中の患者の15%が認知症を主病名とするというデータもあります.
 それだけに精神科医は患者およびそのご家族から,この疾患についてさまざまな質問を投げかけられます.近年はインターネットの普及などにより知識・情報が驚くほど広く普及しましたから,従来の精神科教育では教わってこなかったことへの回答を求められることも少なくありません.例えば日々の生活上の対応のコツを求められたり,最新の前頭側頭型認知症の知識を求められたりします.特に前者では,つい「エビデンスが乏しいので」と口ごもり返事に窮するような事態もしばしばです.一方で,認知症の家族介護者は第二の犠牲者といわれるだけに,介護者へのケアという面からの対応も不可欠です.すべての介護者が,「切れそうになる自分自身の気持ちをどうにかする秘訣」を求めておられるといっても過言ではないでしょう.いずれにせよ,精神療法的アプローチだけでは対応しきれない臨床場面が展開されるといえます.
 《精神科臨床エキスパート》シリーズの一冊である本書では,このような現状において,臨床家が患者さんとそのご家族にどのように対応すればよいのか,技術論として簡易に示すことを原則としています.内容は家族介護者から寄せられやすい質問をベースにした構成としました.そのために認知症医療の現場における代表的な課題と対応について,専門家にエッセンスを抽出していただき,それに対してできる限り会話調で説明してもらうというスタイルをとりました.同時に家族介護者への励まし方が習得できる内容をめざしました.さらに執筆者の豊富な経験がにじみ出た読み物になるようにと欲張りました.
 このように本書は,認知症を医学的,精神病理学的に論じるものではなく,「今ここで」役立つ智恵の源になることを目指したものです.本書がその方向で,読者諸氏の日常診療のお役に立つなら,編者としてこれに勝る喜びはありません.

 2011年9月
 編集 朝田 隆

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第1章 認知症の予防策はあるか?-危険・防御因子と予防介入の実例紹介
 認知症予防をめぐる考察
 認知症発症の危険因子
 認知症発症の防御因子
 MCIから認知症への転換予防研究-安心院プロジェクトの紹介
 認知症予防のための提言

第2章 薬物療法の実際
 認知症薬物療法の変遷
 認知機能障害に対する薬物療法
 BPSDに対する薬物治療
 各症状に対する薬物療法
 薬物療法をするにあたって

第3章 もの忘れ外来における認知症患者とのコミュニケーション
 認知症患者とのコミュニケーションが治療の基本
 外来診療でのコミュニケーションのポイント
 本人・家族交流会およびデイサービスでのコミュニケーション
 外来通院時の患者本人の言葉
 認知症患者とのコミュニケーションで大切なこと
 患者とのコミュニケーションで大切なこと

第4章 非アルツハイマー型の認知症とは?
 そもそも変性性認知症とは?
 レビー小体型認知症(DLB)
 前頭側頭葉変性症(FTLD)

第5章 介護者のこころをケアする
 介護者支援の必要性
 どのような人が介護者になっているか
 認知症の程度と介護者の過剰ストレス
 介護者のこころの段階
 告知について
 家族が特に悩むこと
 善意の加害者とは
 善意の加害者と本人の死亡
 介護者の行動パターンと介護の破綻
 介護者自身のストレスケア
 適切な情報提供と共感の支え合い
 心理教育アプローチと家族支援プログラム
 家族支援が認知症の人の昼夜逆転を改善する
 介護者がおかれている状況から,特に留意しなければならない場合
 悪意のある虐待者への対応
 共感の源としての「家族会」の役割
 介護者を支え,明日の希望につながる言葉がけとは

第6章 生活上の障害への対処法-家族へのアドバイスを中心に
 認知症の介護者とは
 介護負担の生まれる背景
 介護殺人と介護心中
 介護者の心のうち
 当事者の心のうち
 BPSDへの対応に関するアドバイス
 生活機能障害と介護者へのアドバイス
 認知症の日常生活
 個々の生活機能障害
 切れかかったらどうするか?
 認知症医療に求められているもの

索引

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実際の診療ですぐに役立つ智恵の源が得られる実践書
書評者: 小阪 憲司 (メディカルケアコート・クリニック院長)
 本書は「精神科臨床エキスパートシリーズ」の一冊である。このシリーズは,「精神科臨床の現場で最も知識・情報が必要とされているテーマについて,その道のエキスパートに診療の真髄を惜しみなく披露していただき,……明日からすぐに臨床の役に立つ書籍シリーズを目指して」企画されたものであり,本書は認知症のエキスパートである朝田隆教授により編集されたもので,彼は「認知症の患者さんとそのご家族にどのように対応すればよいのかを示し,『今ここで』役立つ智恵の源になることを目指した」と記している。

 本書は全6章から構成されており,第1章「認知症の予防策はあるか?――危険・防御因子と予防介入の実例紹介」(山田達夫)では,認知症の危険因子や防御因子を概説した後,山田らの予防研究である安心院プロジェクトを紹介し,その成果が示されている。第2章「薬物療法の実際」(水上勝義)では,認知機能障害の治療薬としてのコリンエステラーゼ阻害薬であるドネぺジル塩酸塩,ガランタミン,リバスチグミンやNMDA受容体拮抗薬であるメマンチンを解説し,さらにBPSDへの治療薬としてのコリンエステラーゼ阻害薬,NMDA受容体拮抗薬,漢方薬,抗精神病薬,抗うつ薬などが自らの経験に基づいて紹介されている。第3章「もの忘れ外来における認知症患者とのコミュニケーション」(藤本直規,ほか)では,外来診療や患者・家族交流会やデイサービスでのコミュニケーションの仕方について藤本らが実践している内容を紹介しつつコミュニケーションの重要性が強調されている。第4章「非アルツハイマー型の認知症とは?」(横田修,ほか)では,レビー小体型認知症と前頭側頭葉変性症に焦点を当て,最近の知見も含めて詳しく紹介されている。第5章「介護者のこころをケアする」(松本一生)では,介護者の心の変化を詳しく解説し,介護者をいかに支えるかが豊富な経験に基づいて解説されている。第6章「生活上の障害への対処法――家族へのアドバイスを中心に」(朝田隆)では,認知症の生活機能障害に焦点を当て,それへの具体的な対応について専門医の立場から具体的なアドバイスが紹介されている。

 認知症の診療においては,正確に診断し適切な治療をすることがもちろん大切であるが,患者やその介護者を支えることも重要である。認知症の家族会に参加して痛感することは,担当医への不満が多いことである。患者のみならず家族の話を聞いてくれないという不満がいかに多いことか。日常の診療では介護者である家族を支えることが非常に大切であるが,担当医にその認識が乏しいことが多い。本書は,一部を除いて,認知症の診療に必要である患者・介護者への具体的な対応を学ぶには必見の書である。編集者の意図である「実際の診療ですぐに役立つ智恵の源」が得られる実践書といえよう。

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