抗精神病薬完全マスター

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精神科診療のエキスパートを目指すための新シリーズの1冊。1996年のリスペリドン導入後、使用できる新規抗精神病薬の数は増え続け、適応も拡大した。現時点を一つの節目と考え、新時代の抗精神病薬治療を総括する。各新規薬を総合的に比較しつつ、効果的な使用法、副作用対策、使い分けなどを第一線の臨床医が使用実感や症例をまじえて解説。従来型薬の再評価や新薬の動向にも触れ、この1冊で抗精神病薬の全貌が分かる。 シリーズセットのご案内 ●≪精神科臨床エキスパート≫ シリーズセット I 本書を含む5巻のセットです。  セット定価:本体26,000円+税 ISBN978-4-260-01496-0 ご注文ページ
シリーズ 精神科臨床エキスパート
シリーズ編集 野村 総一郎 / 中村 純 / 青木 省三 / 朝田 隆 / 水野 雅文
編集 中村 純
発行 2012年03月判型:B5頁:240
ISBN 978-4-260-01487-8
定価 6,380円 (本体5,800円+税)

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精神科臨床エキスパートシリーズ 刊行にあたって/序

精神科臨床エキスパートシリーズ 刊行にあたって
 近年,精神科医療に寄せられる市民の期待や要望がかつてないほどの高まりを見せている.2011年7月,厚生労働省は,精神疾患をがん,脳卒中,心臓病,糖尿病と並ぶ「5大疾患」と位置づけ,重点対策を行うことを決めた.患者数や社会的な影響の大きさを考えると当然な措置ではあるが,「5大疾患」治療の一翼を担うことになった精神科医,精神科医療関係者の責務はこれまで以上に重いと言えよう.一方,2005年より日本精神神経学会においても専門医制度が導入されるなど,精神科医の臨床技能には近時ますます高い水準が求められている.臨床の現場では日々新たな課題や困難な状況が生じており,最善の診療を行うためには常に知識や技能を更新し続けることが必要である.しかし,教科書や診療ガイドラインから得られる知識だけではカバーできない,本当に知りたい臨床上のノウハウや情報を得るのはなかなか容易なことではない.

 このような現状を踏まえ,われわれは《精神科臨床エキスパート》という新シリーズを企画・刊行することになった.本シリーズの編集方針は,単純明快である.現在,精神科臨床の現場で最も知識・情報が必要とされているテーマについて,その道のエキスパートに診療の真髄を惜しみなく披露していただき,未来のエキスパートを目指す読者に供しようというものである.もちろん,エビデンスを踏まえたうえでということになるが,われわれが欲して止まないのは,エビデンスの枠を超えたエキスパートの臨床知である.真摯に臨床に取り組む精神科医療者の多くが感じる疑問へのヒントや,教科書やガイドラインには書ききれない現場でのノウハウがわかりやすく解説され,明日からすぐに臨床の役に立つ書籍シリーズをわれわれは目指したい.また,このような企画趣旨から,本シリーズには必ずしも「正解」が示されるわけではない.執筆者が日々悩み,工夫を重ねていることが,発展途上の「考える素材」として提供されることもあり得よう.読者の方々にも一緒に考えながら,読み進んでいただきたい.

 企画趣旨からすると当然のことではあるが,本シリーズの執筆を担うのは第一線で活躍する“エキスパート”の精神科医である.日々ご多忙ななか,快くご執筆を引き受けていただいた皆様に御礼申し上げたいと思う.

 本シリーズがエキスパートを目指す精神科医,精神科医療者にとって何らかの指針となり,目の前の患者さんのために役立てていただければ,シリーズ編者一同,望外の喜びである.

 2011年9月
 シリーズ編集 野村総一郎
          中村  純
          青木 省三
          朝田  隆
          水野 雅文



 この数十年で,統合失調症に対する治療は大きく変化した.臨床的に興奮を伴うような緊張型統合失調症の人を診る機会は非常に減ってきており,その病像も少し変化してきているのではないかと思われる.特に,外来診療だけでフォローアップできる患者さんが増えてきたこと,デイケアに通って治療を受けている人や中間施設に住んで治療を受けている人など,治療環境にも変化が起こっている.
 私が研修を始めたおよそ30年前は,統合失調症の患者さんの多くは精神科病院に入院した後は退院がほとんど難しいのではないかという印象であった.何がこのような変化をもたらしたのかと考えると,いくつかの要因が考えられる.まず,神経科学の進歩によって,統合失調症の病態が少しずつ解明されて薬物療法が進歩したことや,治療的な介入法も多様化して予後に影響を与えてきているのではないかと思われる.治療も医師だけでなく,看護師,作業療法士,精神保健福祉士,臨床心理士などとのチーム医療によって包括的になされるようになってきた.また,他の身体疾患と同様に早期介入の概念も生まれており,統合失調症が難攻不落な精神疾患ではなくなってきているのではないかとの期待もでてきている.
 統合失調症の治療は,現状では薬物療法と心理社会的なアプローチをうまく融合させて行う必要があると考えられているが,この15年間は特に新規抗精神病薬による治療の進歩が大きいと推察される.1996年以降にわが国に導入された新規抗精神病薬は,1952年に開発されたクロルプロマジンに代表される第一世代(従来型)抗精神病薬に対して第二世代抗精神病薬と呼ばれているが,第一世代抗精神病薬に比べて錐体外路症状などの副作用が少ないという長所がある.そして,第二世代抗精神病薬,すなわち新規抗精神病薬の時代に入って,患者さんの生活の質や認知機能を評価し,肥満や糖尿病などの生活習慣病に対しても関心が向くようになるなど,患者さんの症状だけでなく,再発,再燃を抑えて健康な人と同様な日常生活を送ることを目標に薬物療法も改善され始めた.そのため錠剤だけでなく液剤や持効性注射剤などの剤形にも工夫がなされてきた.
 しかし,わが国の精神医療に対しては,海外からは従来型抗精神病薬による多剤,大量療法がなされているという批判もある.したがって,それぞれの抗精神病薬の特徴を熟知することは臨床での重要な課題になっている.
 医療経済の観点からも精神科医療は変革が求められており,薬物療法についても十分な知識と経験が必要である.さらに,新規抗精神病薬のなかには,双極性障害にも適応を有するものがでてきており,これらの抗精神病薬の薬理作用は疾患概念の変化にも影響を与える可能性がでてきている.そこで,現在使用可能な抗精神病薬の薬理作用や臨床効果をまとめて考察することは重要なことと考える.
 本書の執筆者は,統合失調症の薬物療法に関して豊富な経験を有し,いくつもの論文を書かれている人たちばかりである.本書は最新の文献を集めており,現在わが国で使用可能な抗精神病薬の知識を集積していると考えており,臨床の現場ですぐに役立つことを願っている.

 2012年1月
 編集 中村 純

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第1章 抗精神病薬の臨床的位置づけ
  抗精神病薬の定義と現況
  統合失調症治療の現状
  統合失調症に対する薬物療法の限界
  新規抗精神病薬の新たな適応
第2章 抗精神病薬開発の歴史と展望
  抗精神病薬は統合失調症治療の概念を大きく変えた
  統合失調症治療の神経化学的理解と精神神経薬理学の誕生
  新規抗精神病薬開発の時代
  おわりに:抗精神病薬開発の展望
第3章 従来型抗精神病薬の過去,現在,未来
  従来型抗精神病薬の多様性
  従来型抗精神病薬の多様性はなぜ論じられなかったのか
  従来型抗精神病薬と新規抗精神病薬の比較-再検討
  認知機能への効果-新規抗精神病薬は有効か
  従来型抗精神病薬各論
  まとめ
第4章 新規抗精神病薬の薬理,臨床応用
 A.クロザピン
  概説
  薬理学的作用機序
  薬物動態
  適応症と治療方針
  副作用とその対策
  相互作用とその対策
  臨床上のヒント・注意点
  臨床ケース
 B.リスペリドン
  概説
  薬理学的作用機序
  薬物動態
  適応症と治療方針
  副作用とその対策
  相互作用とその対策
  臨床上のヒント・注意点
  臨床ケース
 (附) パリペリドン
  概説
  臨床ケース
 C.オランザピン
  概説
  薬理学的作用機序
  薬物動態
  適応症と治療方針
  副作用とその対策
  相互作用とその対策
  臨床上のヒント・注意点
  臨床ケース
 D.クエチアピン
  概説
  薬理学的作用機序
  薬物動態
  適応症と治療方針
  副作用とその対策
  相互作用とその対策
  臨床上のヒント・注意点
  臨床ケース
 E.アリピプラゾール
  概説
  薬理学的作用機序
  薬物動態
  適応症と治療方針
  副作用とその対策
  相互作用とその対策
  臨床上のヒント・注意点
  臨床ケース
 F.ペロスピロン
  概説
  薬理学的作用機序
  薬物動態
  適応症と治療方針
  副作用とその対策
  相互作用とその対策
  臨床上のヒント・注意点
  臨床ケース
 G.ブロナンセリン
  概説
  薬理学的作用機序
  薬物動態
  適応症と治療方針
  副作用とその対策
  相互作用とその対策
  臨床上のヒント・注意点
  臨床ケース
第5章 統合失調症の病態仮説と将来の抗精神病薬開発の動向
  統合失調症のドパミン仮説と新薬の開発
  統合失調症のグルタミン酸仮説と新薬の開発
  今後の新規抗精神病薬開発における課題
第6章 統合失調症以外への抗精神病薬の適応
  双極性障害
  うつ病
  認知症
  せん妄
  強迫性障害,不安障害
  境界性パーソナリティ障害
  発達障害

索引

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幅広い世代の精神科医に必携の書
書評者: 樋口 輝彦 (国立精神・神経医療研究センター理事長)
 向精神薬に関する解説書は数多く出版されている。そのコンセプトは,添付文書に限りなく近いものから,薬理に重点を置くもの,使い方に主眼を置いた実践的な書などさまざまである。そしてその多くはマニュアルあるいはハンドブックの体裁をとっており,通読するよりも,むしろ外来や病棟に常備して,必要の都度,必要な項目に目を通すのに適しているものが多い。

 本書は以上のような類書とは一味違った構成である。言い換えれば,これまでの類書の良いところを取り込んだハンディな一冊といえるだろう。以下,本書の特徴について,2,3記してみたい。

 その一つは冒頭の「精神科臨床エキスパートシリーズ刊行にあたって」の中で述べられているように「現在,精神科臨床の現場で最も知識・情報が必要とされているテーマについて,その道のエキスパートに診療の真髄を惜しみなく披露していただく」というコンセプトが実行されている点である。執筆者がその道のエキスパートであるのは言うに及ばない。「診療の真髄」は「臨床上のヒント・注意点」と「臨床ケース」ににじみ出ている。

 二つ目に本書は6つの章で構成されているが,通読向きの章(第1章―第3章,第5章)と,必要の都度,その薬の項目をピックアップして読む,言ってみればハンドブック的な章(第4章)があるので,一冊で2回違った味を求めることができる点である。

 三つ目に,第4章の項目立てが大変よくできており,実践向きである点である。まず,冒頭に添付文書情報がコンパクトにまとめられている。次に概説,薬理学的作用機序,薬物動態,適応症と治療方針,副作用とその対策,相互作用とその対策,臨床上のヒント・注意点,臨床ケースの順に簡潔にまとめられており,大変読みやすくできている。

 本書は専門医をめざす若手の精神科医にも,また生涯教育を受ける世代の精神科医にも必携の書になるものと思われる。

 最後に一点,希望を述べさせていただくと,薬はこれからも次々に開発され,新規薬剤が市販されるので,それをキャッチアップするために頻繁に改訂を加えていただければありがたい。
幅広い層の精神科医が読んで得るところの大きい一冊
書評者: 神庭 重信 (九大大学院教授・精神病態医学)
 新規の抗精神病薬が出そろった観がある。通称として,第2世代とも非定型とも呼ばれるこれらの薬剤は,従来の抗精神病薬と比べて,パーキンソン症候群,ジストニア,遅発性ジスキネジアが出にくいことは確かである。これは,統合失調症の治療が,チーム医療となり,病院から地域へと広がり,患者さんの社会復帰を実現させていく上で,極めて好都合なことであったと思う。

 しかしながら一方で,東アジア6か国における統合失調症患者の処方調査(2001年7月時点)によれば,向精神薬数,抗精神病薬の処方量ともに,日本が断トツ1位である。多剤・大量療法の問題がマスメディアによる辛辣な糾弾を受け,厚生労働省から「向精神薬等の処方せん確認の徹底等について」と題された課長通知(2010年9月)が出されるに至っている。平成25年度から始まる地域医療計画で実施される医療連携の中でも,抗精神病薬の単剤化率が病院機能を測る指標として言及されている。すでに睡眠薬の併用数が3剤を越えると診療報酬が減額されることが決まったと聞く。このような“外圧”を受けて医療を変えざるを得ない状況に至ったことは,精神医学に身を置くものとして,不名誉なことである。

 昨今,精神療法の習得が精神科研修の中で重要視されているが,同様に臨床精神薬理学の基礎知識と技術の習得も,卒前,卒後の教育を通じて,さらに徹底される必要がある。いかに良い薬が誕生し,治療ガイドラインが作られてきても,治療が技であることは昔も今も変わらない。薬物を知り尽くし,自家薬籠中の薬とし,しかも服薬の心理を理解し,アドヒアランスを維持することは並大抵の技量ではないと思う。

 本書は,基礎から最新の応用にわたり実践的な情報からなり,新規抗精神病薬を適正かつ縦横に使いこなすための格好の資料ともなっている。新規抗精神病薬を薬剤ごとに取り上げて,その特徴をつぶさに紹介した箇所が三分の一を占めている。これは類書にない内容であり,臨床精神薬理学を専門として治療経験を豊富に持っている中村純教授ならではの編集であろう。薬剤の添付文書から重要な記述が転載されており,薬剤ごとに知っておかなければならない注意事項を喚起してくれる。新規抗精神病薬には気分の安定化作用も認められているが,これらの効果についても説明されており,「完全マスター」というタイトルにふさわしい内容を備えている。

 新規抗精神病薬は,さまざまな状態に応用されるスタンダードな薬剤となっている。幅広い層の臨床医が読んで,得るところの大きい一冊である。

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