病棟・外来から始める
リンパ浮腫予防指導

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がん術後から始めるリンパ浮腫予防指導に最適の書。リンパ浮腫ケアの対象には、発症後の患者はもちろん、乳がん、婦人科系がんなどの治療後の患者のように、未発症だがリスクを有する方も含まれる。リンパ浮腫ケアにおいて大切なのは、専門的知識・技術を有するスペシャリストの関わりに加えて、病棟・外来にいる看護師のように、ジェネラリストである医療職のサポートである。発症前から関わり、発症後もフォローするための知識・技術・考え方を解説した実践書。
編著 増島 麻里子
発行 2012年01月判型:B5頁:208
ISBN 978-4-260-01415-1
定価 2,970円 (本体2,700円+税)

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はじめに

 本書は、リンパ浮腫発症リスクのあるがん患者へのリンパ浮腫予防指導に必要な知識、考え方、技術を提供することを目的としています。以下の6部から構成されており、医療者が患者と共に本書を用いながら指導できるように、また、医療者向け院内教育などに活用できるように、全般的に見やすく読みやすい、明快な内容となるよう心がけました。
 第1部では、実際のリンパ浮腫予防指導の場面で、患者からよく受ける質問をQ&A形式で示し、医療者が、患者にどのように説明するかを簡潔にまとめています。第1部を読むだけでも、リンパ浮腫、ケアの全体を簡単に理解できると思います。
 第2部は、がん治療や病態に伴って生じるリンパ浮腫の基礎的かつ専門的知識編です。日々、患者に接している中で、なぜ浮腫が生じているかを考えるためには、リンパ浮腫の病態をはじめ、病歴、がんの治療方法の特徴など患者の全体像を把握しておく必要があります。そこで、患者の全体像を描きながらアセスメントするために必要な病態生理、がん治療との関連を詳しく解説しています。
 第3部は、リンパ浮腫予防指導の実践編です。がん術後の患者は、リンパ浮腫の発症リスクを潜在的に持ちながら、生涯を過ごすことになります。医療者には、患者自身がケアを継続できるよう指導することが求められます。医療者が、患者のセルフケア能力をアセスメントしながら、日常生活を想定し、わかりやすく指導するための具体的な実践内容を紹介しています。
 第4部では、専門的教育を受け、かつ知識・技術を有する医療者や専門的治療機関にリンパ浮腫を発症した患者を速やかに引き継ぐために必要な知識を示しています。
 第5部では、リンパ浮腫に対する複合的治療1)(複合的理学療法を中心とする保存的治療)の概説を述べています。複合的治療の要素である用手的リンパドレナージや圧迫療法などの具体的な実践方法は他の良書に譲り、本書では、リンパ浮腫指導管理料の算定要件に明記されている「セルフケアの重要性と局所へのリンパ液の停滞を予防及び改善するための具体的実施方法」について、発症前の患者に適切に説明できるよう、基本的知識を得ることを目指しています。
 第6部では、リンパ浮腫指導管理料と弾性着衣の療養費支給について解説し、診療録への記載方法の工夫や注意点を具体的に示しています。
 さらに巻末には資料として、リンパ浮腫予防指導に実際に活用できるパンフレットを紹介しています。

 日本において、がん治療やがんの病状悪化が、リンパ浮腫の原因の多数を占めます。これまで、このような原因で生じるリンパ浮腫は、治療やがんの病態によるものでありしかたがないと捉えられる時代が長く続いてきました。日本の医療において、リンパ浮腫ケアが特にクローズアップされてきたのは1990年代後半ですので、今もなお知識や技術が浸透しつつある段階といえます。昨今では、リンパ浮腫が、がん治療やがんの進行に伴う1つの症状であることが社会的に注目されるようになり、2008年度の診療報酬改定時には、リンパ浮腫指導管理料の新設、2010年度の改定時には外来での再算定が可能となりました。
 拡充されつつあるリンパ浮腫ケアの対象には、リンパ浮腫を発症した方はもちろん、今後リンパ浮腫を発症する可能性がある方も広く含まれます。リンパ浮腫を発症した方に対しては、専門的知識・技術を有するスペシャリストのケアが中心になり、リンパ浮腫を発症していないが、発症リスクがある方に対しては、病棟や外来にいるジェネラリストである全ての医療者の関わりがとても大切です。ジェネラリストが継続的に関わることで、患者が発症リスクとつき合う長きにわたる生活へのサポートが充実し、リンパ浮腫が発症したとしても早期に発見でき、重症化を避けることにつながります。

 現在、患者は自分で書籍やインターネットなどから多くの情報を得ることができます。しかし、膨大な情報の中から、個々の疾患の状態、治療に即した必要な情報を選択するのは困難な場合もあります。ある患者は、リンパ浮腫の発症リスクが低いにもかかわらず、ひどくおびえ、生活範囲や行動を過剰に制限していました。一方で、ある患者は、リンパ浮腫の初期段階と考えられる時期に現れた浮腫に気づかず、悪化させる行動を繰り返した結果、症状が進行してしまいました。がん術後の患者が、リンパ浮腫発症リスクや疾患そのものについて正しい知識を持つことができれば、無用な不安にとらわれず、早期にリンパ浮腫発症の徴候に気づくことができます。そして、発症リスクを避ける行動を考えながら、自分らしい生活を保つことができます。そのような状況を実現するための医療が、全国で標準的に提供できれば素晴らしいと思います。本書がそのような医療の一助として活用されれば幸いです。

2012年1月
編著者 増島麻里子


文献
1)リンパ浮腫研修委員会:リンパ浮腫研修委員会における合意事項, 2011.
http://www.lpc.or.jp/reha/greet04.html

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 はじめに

第1部 リンパ浮腫Q&A
 Q1 リンパ浮腫とは何ですか?
 Q2 リンパ浮腫になったら、どのようにむくむのでしょうか?
   普通のむくみとは、どう違うのですか?
 Q3 がん治療の後、いつまでリンパ浮腫発症に気をつければよいですか?
 Q4 リンパ浮腫は、どのように予防すればよいのですか?
 Q5 「上肢に負担をかけないように」と言われましたが、
   どのようなことが負担になるのでしょうか?
 Q6 下肢のリンパ浮腫になる可能性があるのですが、
   スポーツをしても大丈夫でしょうか?
 Q7 乳がん手術後にテニス(身体の一部分を多く使う運動)をしても大丈夫ですか?
   上肢のリンパ浮腫発症が心配です。また、プールに入っても大丈夫ですか?
 Q8 旅行は、リンパ浮腫の発症に影響するのでしょうか?
 Q9 リンパ浮腫を予防するためには、
   身体を温めて血行をよくするほうがよいのでしょうか?
 Q10 太らないほうがよいと言われたのですが、なぜですか?
 Q11 蜂窩織炎とは何ですか? なぜなるのですか?
 Q12 蜂窩織炎は危険ですか? 蜂窩織炎の対処方法は?
 Q13 リンパドレナージをすれば、リンパ浮腫を予防できますか?
 Q14 弾性スリーブをつけることで、上肢リンパ浮腫の発症を予防できますか?
 Q15 下肢リンパ浮腫の発症リスクがある場合、発症予防のために
   弾性ストッキングをはいたほうがよいでしょうか?
 Q16 リンパ浮腫が発症してしまったら、どのような治療法があるのでしょうか?
 Q17 弾性スリーブは、いつごろから使用するのがよいのでしょうか?
 Q18 がんの術後療法を受けている場合、リンパ浮腫への影響はありますか?
 Q19 リンパ浮腫発症後、むくみがとれたら弾性スリーブは外してよいのでしょうか?

第2部 がん疾患や治療に関連したリンパ浮腫
 1 リンパ浮腫に関わる解剖生理と疾患の知識
 2 乳がん治療とリンパ浮腫の関係
 3 婦人科がん治療とリンパ浮腫の関係
 4 泌尿器系がん治療とリンパ浮腫の関係
 5 リンパ浮腫のアセスメント

第3部 リンパ浮腫予防指導
 1 リンパ浮腫予防指導で何を伝えるか
 2 リンパ浮腫予防指導前の患者アセスメント
 3 リンパ浮腫の早期発見のポイント
 4 リンパ浮腫の予防指導
 5 外来における予防指導後のフォローアップ

第4部 リンパ浮腫が発症したら
 1 リンパ浮腫発症後の治療を担う人と施設
 2 治療専門機関との連携

第5部 複合的治療
 1 複合的治療
 2 スキンケア
 3 用手的リンパドレナージ
 4 圧迫療法
 5 運動療法

第6部 リンパ浮腫指導管理料と弾性着衣の療養費支給
 1 リンパ浮腫指導管理料
 2 弾性着衣の療養費支給

資料 リンパ浮腫セルフケアブック

 おわりに
 索引

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がん患者とケアをつなぐ実践書
書評者: 小松 浩子 (慶大大学院教授・慢性臨床看護学)
 これまでに,リンパ浮腫の実践書は種々発刊されているが,その中でも,本書は次の点で実用性に優れている。

 一つ目は,指導内容のポイントが,表や模式図を用いて簡潔にまとめられている。二つ目に,具体的な指導内容やケアのポイントが患者の目線から記されている。例えば,「リンパ浮腫の早期発見のポイント」という項目では,「患者が自分で観察しにくい部位」を指摘し,医療者による客観的な観察ポイントを図示している。三つ目に,リンパ浮腫指導管理料と弾性着衣の療養費支給に関する具体的な実践内容が示されている。特に,「診療録・指導記録の工夫」などは,臨床現場の看護師にとって,「かゆいところに手が届く」うれしい解説である。そして,書籍全体にわたり,簡潔,かつわかりやすい記述が心掛けられている。

 2008年度の診療報酬改定時にリンパ浮腫指導管理料が新設されたことにより,特定のがんの術前術後における患者指導などに対して算定できるようになった。さらに2010年度の診療報酬改定では,退院後に再指導を行った場合でも,1回に限りリンパ浮腫指導管理料を再算定できるようになった。このように適用範囲は広がったが,指導管理を必要とする人々が現場で適切にスクリーニングされ,受療できているとは言い難いのが現状だ。

 先日,私が主催している乳がんサポートグループで,「術後7年目を迎えたところでホッとしていたが,最近,手術した側の腕がむくんでいるように思う。術後から時間が経ち,どこに相談したらよいかわからない」との声が挙がった。幸い,サポートグループを開催している施設にリンパ浮腫ケアステーションが併設されていたため,紹介することができ,ケアにつながった。しかし,日本のすべての医療施設にリンパ浮腫の専門的なケア部門があるとは限らない。ケアの第一線を任されているすべての看護師がリンパ浮腫ケアの基本的事項について理解し,スクリーニングの役割を果たすべきである。

 本書が,がん診療が行われている医療施設で,医療従事者,およびがん患者に読まれることにより,リンパ浮腫の予防,そして発症後,早期における対処がタイミングよく,適切に行われることが大いに期待できるだろう。
がんのリハビリテーションに携わるすべての医療者へ
書評者: 辻 哲也 (慶大准教授・リハビリテーション医学)
 リンパ浮腫は,適切な治療がなされず放置されると徐々に進行していく。悪化させると,仕事や家事に支障を生じたり,見た目に気を配って生活しなければならないなど,QOLを低下させる切実な問題である。最近ではリンパ浮腫の患者会の発足や,テレビ,新聞などのメディアで取り上げられる機会も増え,患者向けの解説書もいくつか出版されるようになっている。しかし,わが国で現在,リンパ浮腫に対して積極的に治療を行っている医療機関はいまだ数少なく,「リンパ浮腫難民」が生じているのが現状である。

 リンパ浮腫は,その病態を十分に理解して,発症予防のための指導や発症早期から適切な生活指導・治療を行えば,発症してもそれ以上の悪化を防止することが可能である。したがって,婦人科がんや乳がん術後などで,まだリンパ浮腫を発症していないが発症のリスクのある場合には,病棟や外来のすべての医療者のかかわりが強く求められ,非常に重要である。

 2008年度に診療報酬上でリンパ浮腫指導管理料が新設され,2010年度の改定では外来での算定も可能となり,リンパ浮腫の予防指導の必要性について,認識が高まっている状況の中,本書がリンパ浮腫の予防指導に関する実践的な入門書として出版されたことは大変意義深い。

 本書は,がん看護やリンパ浮腫予防指導に関する教育・研究活動を継続的に行っている増島氏をはじめとする執筆陣の豊富な臨床経験を基に書きあげられ,「病棟・外来から始める」との副題が示す通り,さまざまな場面でのリンパ浮腫ケアの必要性とかかわり方を取り上げている。その内容は,「リンパ浮腫Q&A」に始まり,「がん疾患や治療に関連したリンパ浮腫」「リンパ浮腫予防指導」「リンパ浮腫が発症したら」「複合的治療」「リンパ浮腫指導管理料と弾性着衣の療養費支給」と多岐にわたるが,項目ごとにポイントがまとめられ,豊富な写真や図表を用いてわかりやすく示されている。書籍の最後に資料としてあげられている「リンパ浮腫セルフケアブック」は,実際の患者指導に役立つものである。

 臨床現場において患者指導にすぐに役に立つ実践書であるが,医師,看護師のみならず理学療法士,作業療法士,がんのリハビリテーションに携わるすべての医療者向けの院内教育などの学習にも活用されることをお薦めしたい。本書を通じてより多くの医療者がリンパ浮腫の予防指導の必要性と方法を理解し,リンパ浮腫ケアの質の向上につながることを期待している。
書評 (雑誌『訪問看護と介護』より)
書評者: 田中 ひとみ (ホームケアクリニック札幌・看護師長/緩和ケア認定看護師)
 リンパ浮腫をもつ患者さんと出会うとき、その悩みは大きく深いことを思い知らされます。腫れている腕や足が少しでももとどおりにならないかという悩みだけでなく、リンパ浮腫をもって生活し通院し、再発の恐怖とも闘っています。その末に再発した方には、全人的な痛みが新たな苦しみとなって重くのしかかってきます。

 診療報酬において、2008年にリンパ浮腫指導管理料が新設され、2010年には外来においても適応されるよう改定されました。現在、がん治療は包括的医療として位置づけられ、手術、さまざまな治療、再発、終末期に至るまで、医療者はシームレスに患者さんの苦痛に対して積極的に関わることが求められていると思います。しかし、現実はどうなのでしょうか?

 リンパ浮腫をもつがん患者さんやそのご家族の苦悩と出会うとき、どこかで医療者が関わっていたら、こんなに悪くなっていなかったのではと考えてしまうことが多くあります。早期から適切に対応し、重症化を防ぐことができる疾患の1つであるリンパ浮腫に対し、専門のリンパドレナージ・セラピストの方々が多く関わることが望まれますが、実際には限られた少数の医療機関での対応が現状です。一般の外来を含めたすべての医療者やご自宅にうかがう訪問看護師が、また、患者さん自身が正しい知識をもち、リンパ浮腫に気づいて早期から関わることで重症化を防げるのではないでしょうか。

◆重症化を防ぐ術をわかりやすく

 本書は、リンパ浮腫に対して病棟や外来にいるすべての医療者の関わりがとても大切とし、医療者と患者さんがともに活用することや院内教育などに活用できるようにまとめられています。非常に具体的でわかりやすく目で見て確認しやすくなっています。

 巻末資料としてある「セルフケアブック」は、さまざまな年齢の患者さんやご家族を考慮し、名称や部位などにふりがなも添えられており、その患者さんにとってどうかを考えられる内容となっています。初期徴候を見逃さず、早期に対応するための内容や、日常生活を工夫する点、その実際がまとめられています。スキンケアについても1人ひとりの状況を確認することにつながり、保湿剤の選定や塗る量も具体的に記載されていますので、初めての方にも適切なケアが届くことでしょう。リンパ浮腫の悪化を予防するうえでとくに重要なセルフケアのほか、リンパ浮腫の知識を得るための根拠や全体をアセスメントしていくための手立てが詳しく書かれていますので、とても学びやすいと思います。

 在宅緩和ケアを実践する私が、硬く腫れあがった腕や足を看させていただいている方のなかには、がん専門の治療病院に外来通院または入院していてもリンパ浮腫のケアについてはアドバイスや指導自体がなかったケースも多くあります。医療者が正しい知識をもち、早期に予防することが大切だと思います。

 病棟や外来、訪問看護などすべての医療者や患者さん、ご家族にもお勧めできる一冊だと思います。

(『訪問看護と介護』2012年7月号掲載)
がん患者の悩みや不安を解消するための1冊
書評者: 片木 美穂 (卵巣がん体験者の会スマイリー代表)
 自らががんになってわかったことは,とにかく先のことが不安で,何でも知っておきたい気持ちになるということです。ほかの患者も同じようで,患者会の問い合わせ窓口には,手術をする前から,「リンパ浮腫ってどういうものですか?」「リンパ浮腫にならないためにはどうしたらいいですか?」といった相談が届きます。「病院で聞いても,『リンパ浮腫になるかどうかはわからないのだから,症状が出てから考えればいい』と言われた」と話す患者もいて,残念なことに,病院の対応が患者の不安の解消につながっていない場合があります。

 本書を開くと,「リンパ浮腫Q&A」が最初の項目になっており,患者の声として普段からよく耳にする不安や質問が取り上げられています。患者が自身の病と向き合いながら家事や育児,社会生活を送っていく上で,「旅行に行きたいけれど飛行機に乗って大丈夫かな」「趣味のスポーツを再開したいけれどリンパ浮腫にならないかな」と悩み,生活を楽しめないことは多々あります。患者から相談される多くの医療者は,患者の生活に密着する不安を解決し,しっかりと適切にアドバイスしたいと思っておられることでしょう。冒頭のQ&Aでは,患者にどう説明すればいいか,注意するポイントもわかりやすく記載されており,この項目を読むだけでも,より適切なアドバイスができるようになる気がします。

 第2部「がん疾患や治療に関連したリンパ浮腫」では,乳がんや婦人科がん,泌尿器系がんなど手術部位別で解説され,第3部以降,「リンパ浮腫予防指導」「リンパ浮腫が発症したら」「複合的治療」という項目が続いています。

 患者に聞くと,がんの術後に病棟でリンパ浮腫の予防指導を受けたという方は非常に少なく,がん専門病院ですら,そういった指導はなかったという場合があります。リンパ浮腫は,必ず発症するわけではありませんが,術後にこうした予防指導が行われることで,患者は家に帰ってからの生活への心構えができ,また万が一リンパ浮腫を発症しても,病院に相談すればいいのだ,という安心感が得られるような気がします。ぜひ多くの病院でリンパ浮腫の予防指導を取り入れていただきたいと感じました。

 第6部では,「リンパ浮腫指導管理料と弾性着衣の療養費支給」についてふれています。婦人科がんを患う若い患者は多く,療養にどれぐらい費用がかかるのかということについて,大変敏感です。その一方で,患者の加入している保険によって申請窓口が異なるために,どこに行けばよいかわからず,迷ってしまう患者もいます。第6部に書かれた情報を病院で教えてもらえたら,患者の負担もぐんと減るのではないかと感じました。

 リンパ浮腫は生活に直結し,発症の有無や進行具合によってQOLが大きく違ってきます。ぜひ多くの医療者の皆様に本書を手に取っていただき,得た情報や知識を患者のために生かしていただきたいと思います。
根拠のあるケアをわかりやすく示したリンパ浮腫の卒後教育に最適なテキスト (雑誌『看護管理』より)
書評者: 丸口 ミサエ (独立行政法人国立がん研究センター中央病院 看護部長)
◆看護師はリンパ浮腫ケアの最も適したセラピスト

 リンパ浮腫のケアは,今ではがん看護の重要な位置づけになっている。多くの参考図書も出版され,臨床においてケアの知識・技術も広まってきている。また,看護師のなかにも,リンパドレナージ,圧迫療法の手技を身につけ資格を取っている人も増えてきている。しかし,その資格をとるための養成機関が限られていることもあり,希望する看護師は多いが,学びにくい状況もある。

 患者に毎日関わっている看護師にとって重要なことは,その資格の有無にかかわらず,患者の病態からリンパ浮腫が発症する可能性を含めて,リンパ浮腫のアセスメントができることである。そのためには,リンパ浮腫についての知識を習得していることが必要である。基礎的な知識を習得したうえで,臨床場面で多くの経験を積み,浮腫の鑑別が可能になる。

 リンパ浮腫に対するケアは,病態の進行を予測・予防し,さらに早期に発見することが,重症化を防ぐことにつながる。リンパ浮腫に対する用手ドレナージや,圧迫療法,運動療法などについては,多職種のセラピストが行なっているが,患者の病状や既往歴などについての知識を十分理解して行なうことが必要であり,看護師は最も適したセラピストといえるだろう。

◆看護師だけでなく,患者・家族の参考に

 この書籍は,第1部にQ&Aがあり,第2部から第1部の回答の根拠を示すべくリンパ浮腫についての知識・技術に関する内容が書かれている。したがって,疑問がある人にとっては,疑問に対する回答も,第2部以後を読むことで根拠が理解でき,日常生活での対処もわかりやすい。

 また,文献を十分活用し,信頼性のある根拠を示してある。適切なイラストや図表があり,より理解しやすく書かれている。特にがん治療とリンパ浮腫の関係についての項は,治療後のリンパ浮腫を予防するための生活上の注意を知るうえでも必要な知識である。

 リンパ浮腫のケアに関する知識・技術は,看護基礎教育ではほとんど行なわれていない。これは,抗がん剤による化学療法看護,がん性疼痛看護,緩和ケアに関する知識・技術と同様に卒後教育において行なう内容である。その教育において,この書籍は,看護師に必要な内容が盛り込まれ,非常に有効な参考図書である。

 また,患者にとっても十分理解できる内容であると思われる。それに「です,ます調」で書かれているので,患者には親しみやすい。多くの看護師,患者が参考にし,リンパ浮腫の悪化が予防でき,ケアの質が向上することを願っている。

 国立がん研究センター中央病院においても,この書を“つきじプラザ”という患者が利用する場所の図書コーナーにおいて,多くの患者・家族の参考にしていただくつもりである。

(『看護管理』2012年6月号掲載)

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