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ケアする人も楽になる 認知行動療法入門 BOOK1

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認知行動療法とは、ストレスの問題を<認知>と<行動>の面から自己改善するための、考え方と方法のこと。本書は2つの目的のために書かれた。1つは、人をケアする職業人が、認知行動療法を使ってもっと楽にセルフケアができるようになること。もう1つは、読者が自分のために使いこなせるようになったら、患者さんのケアに認知行動療法を使ってもらうことである。
伊藤 絵美
発行 2011年02月判型:A5頁:184
ISBN 978-4-260-01245-4
定価 2,200円 (本体2,000円+税)

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はじめに
ケアする人のセルフケアに認知行動療法を役立てよう


◎ケアする人のために書いた本です
 本書は、ケアを職業とする人たち、特にナースの方々を対象に書きました。
 ナースを対象とした認知行動療法(Cognitive Behavioral Therapy:CBT)の本と書くと、「患者さんの心のケアのために、認知行動療法を活用しましょうという本なのかな」と思われてしまいそうですが、実はそうではありません(全く違っているわけでもないのですが、これについてはあとで述べます)。
 本書の主な目的は、ナースの方々自身の心身のセルフケアのために、認知行動療法を学び活用できるようになっていただきたい、というものです。

◎ストレスマネジメントにぴったり
 私は大学と大学院で心理学を学び、大学院の博士課程に在籍しているときから、臨床心理士として精神科クリニックにて心理療法やデイケアの仕事に携わるようになりました。そのときに学んだのが認知行動療法です。
 当時日本では認知行動療法はあまりよく知られていませんでした。私は認知行動療法のことを知り、特に米国においてうつ病に対する治療法として薬物療法に匹敵するエビデンスが揃いはじめていると知ったことで、「これは絶対に勉強しなくちゃ」と思ったのでした。そして実際にクリニックで患者さんに対して認知行動療法を適用することをはじめましたが、その当時から強く感じていたのは、「認知行動療法を単なる“治療法”のままにとどめるのはもったいない。もっと広く健康な人の“ストレスマネジメント”の手法として使えるはずだ」という思いでした。
 そこで「認知行動療法の考え方や手法を、一般の人々のメンタルヘルスやストレスマネジメントに役立てるためにはどうしたらよいか」ということを研究テーマに選び、博士論文を書きました。その後、クリニック以外にもいくつかの現場で臨床の仕事を行い、2004年より認知行動療法に特化したカウンセリング機関を東京の大田区に開設しました。
 このようにしてかれこれもう20年近く認知行動療法を学び、実施しているのですが、「認知行動療法を病気の治療法にとどめず、一般の人びとのセルフケアに広く役立てていきたい」という強い思いは、今も変わりありません。本書はそのような私の個人的な思いが発端となっています。

◎私自身が助けられています
 なぜ私が強くそのように思うか、というと、それにはいくつかの理由があります。
 まず、私自身が自分のために認知行動療法を使っていて、実際とても助かっているということがあります。私はよくいろいろな人から、「いつも元気でいいね」「ストレスとか、あんまりないでしょ」と言われるのですが(「能天気な人」とみなされやすい。それはそれでありがたいのですが)、実際はそうでもありません。自分では、気が小さく、ささいなことにストレスを感じやすく、グジグジうだうだしやすい人間だと思っています(家族はこれに同意してくれるでしょう)。
 そんな自分がこれまでなんとかやってこられているのは、間違いなく認知行動療法のおかげです。つい数年前も、仕事や家庭の負荷やストレスがどっと増え、「このままだと本当に参ってしまうかもしれない。うつ病になってしまうかもしれない。やばい!」という危機状態に陥りましたが、それをなんとか乗り越えられたのも、自分のために必死に認知行動療法を行ったからだと考えています。
 このように、認知行動療法を専門とする私自身が、自分のためにも認知行動療法を実施して効果を実感している、というのが一般の方々に認知行動療法を勧めたい最大の理由です。
 認知行動療法の専門家には、私のような人が少なくありません。クライアントさんや患者さんをよりよく援助したり治療したりするために学んだ認知行動療法を、同時に自分自身のストレスマネジメントのために活用している臨床心理士や医師を私は何人も知っています。皆さん口を揃えておっしゃるのは、「患者さんの治療のために学んだ認知行動療法だけれども、むしろ自分自身が認知行動療法によって大いに助けられている」ということです。
 そうです。皆さん、私と全く同じなのです。

◎病気は予防できるに越したことはありません
 一般の人々に認知行動療法をお勧めするもう1つの理由は、これまでの臨床経験を通じて、特にうつ病や不安障害などの精神疾患の予防教育がいかに重要か、私自身骨身にしみて感じているからです。
 私は普段自分のオフィスでは、病名がすでについている人、すなわち、すでにはっきりと具合が悪くなっており、何らかの治療や援助が不可欠になってしまっている状態の人びとを対象として認知行動療法を行っています。慢性化した人、再発を繰り返している人、いくつもの併存疾患をかかえて苦しんでいる人も少なくありません。
 そういった方々との認知行動療法は非常に時間がかかります。面接も50回、100回というふうにかなりの回数がかかりますし、それに伴って2年、3年と終結までにかなりの期間を必要とします。もちろん回数と時間がかかれば、そのぶんお金もかかります。
 つまり診断がつくような状態にまで悪くなって、さらにそれが長期化してしまうと、回復までにコスト(時間、エネルギー、お金)がものすごくかかるのです。私は一般の人びとがそのような状態に陥るのを予防するための方法を、できれば健康な状態のうちに習得しておくのがよいと考えています。風邪を予防するのに手洗いとうがいが役立つことを知っていれば、それをしない手はないでしょう。認知行動療法もそれと同じです。

◎みんなの感想「これは使えそう!」
 実際に私は、一般の方々を対象として認知行動療法の研修やワークショップを行う機会が以前より増えています。そして一般の方々に認知行動療法をお勧めするさらなる理由としては、おおむね参加者の方々の「受けがよい」ということが挙げられます。
 「一般の方々」とは、会社員や公務員、主婦の方、学生さんなどさまざまです。ちょっと変わったところでは、刑務所や保護観察所や少年院といったところで認知行動療法を教える機会も最近増えています。
 「認知行動療法」という名称がちょっと堅苦しいこともあって、どこで教えても最初はとっつきづらそうな様子の方がいらっしゃいますが、一緒にワークをやったり話し合いをしたりして実際に体験してもらうと、多くの方が、「これは自分のために使えそう」と言ってくれるようになります。刑務所や保護観察所では、罪を犯した方がそれこそ半強制的に認知行動療法のプログラムを「受けさせられる」わけですが、驚いたことにそういった方がプログラムを受講し終わると、「今後の人生に役立つ方法を学べてよかった」「もっと早く認知行動療法を知っておきたかった」など、非常にポジティブな感想を述べることが少なくありません。
 このような体験を続けているうちに、私は、「やはり認知行動療法は一般の方々のセルフケアの方法として役立つのだ」と確信するようになりました。

◎人をケアする職業人のストレスこそが問題です
 さて、本書のもう1つの特徴は、一般の方々のなかでも、あえてナース(本書では看護職の方を基本的に「ナース」と呼ぶことにします。「看護師」より「ナース」という呼称のほうが、私にとって親しみやすいからです)を対象にしているということです。
 一般の方々に認知行動療法を広めたいのであれば、幅広く一般の人向けの本を書けばよいということになりますが、今回はあえてナースに対象を絞って書いてみることにしました。その理由もいくつかあります。
 第1の理由は、私自身、だいぶ前から、人をケアする職業の人(対人援助職)のストレスの問題に関心があったからです。対人援助職のストレスは、他の職種に比べて深刻になりやすいことは、皆さんもご存知のとおりです。言うまでもないことですが、人間は誰しもユニークでかつデリケートな存在です。そういった人が何らかの事情により他人のケアを必要とするということは、それだけでその人がすでに深く傷ついている可能性があると考えられます。ということは、傷ついている人のケアをするという仕事は、仕事とはいえ(仕事だからこそ、とも言えるかもしれませんが)、ケアする側も同時に傷つく可能性を常に孕んでいるのではないかと私は考えます。ケアする側の人は、傷ついている当事者に最も近い存在であるからこそ、ケアする人自身もまた当事者になりうるということです。
 この思いは私自身、心理学的な立場から他者をケアする仕事をずっとしてきたことによる実感でもあります。このことは、対人援助職、なかでもナースのバーンアウト(燃え尽き)に関する研究がさかんに行われていることともおそらく関連するでしょう。
 だとすると、他者をケアすることを職業とする人は、それだけ自分自身のケアやストレスマネジメントを自覚的に行う必要があることになりますし、実際にそうするべきだと私は考えています。そこで本書では、人をケアする職業の中心的存在ともいえるナースのセルフケアに焦点を絞って、認知行動療法という手法を紹介してみようと考えたわけです。

◎私はナースが好きだから
 ナースを対象として本書を書いた第2の理由としては、これは非常に個人的なことですが、私の妹がナースをしており、またなぜか親戚にもナースが多く、私が勝手に親近感を抱いていることが挙げられます。
 かつて精神科のデイケアの仕事をしていたときも、一緒に仕事をしたナースが皆非常に気持ちのよい方々で、互いに助け合ったり役割分担をしながら大変楽しく仕事ができた、という個人的な体験もあります。本書がそういうナースの方々に少しでも役に立つのであれば、私としては個人的にも非常にうれしいのです。

◎そして患者さんのケアに役立ててほしいから
 さて、本書がナースを対象とする理由の最後です。それは、冒頭に書いた「本書は患者さんの心のケアのための本ではない」ということと矛盾するかもしれませんが、ナースの方々がセルフケアのために認知行動療法を使いこなせるようになったあとに、ぜひ多くの患者さんのケアに認知行動療法を役立ててもらいたい、という思いです。
 認知行動療法は多種多様な疾患や症状や問題に効果のあるアプローチとして、世界的に注目され、急速にその普及が進んでいる心理学的手法です。しかし、実は日本では認知行動療法の普及そのものがだいぶ遅れているという現状があります。
 今はインターネットのおかげで、たとえ専門的なことであれ情報を入手する手立てがありますので、認知行動療法のエビデンスを多くの方が知ることができます。となると、うつ病や不安障害やその他の問題をかかえる多くの方々が、「自分も認知行動療法を受けたい」と思われるのは当然です。
 しかし大変残念なことに、現在日本においては認知行動療法を提供できる対人援助職が非常に少ないのです。需要が爆発的に増えているにもかかわらず、供給が全く追いついていないというのが現状です。「認知行動療法を受ければ助かるかもしれない」という確実な情報があるにもかかわらず、それを受けることができないというのは、なんてむごい現実なのだろうと思います。
 この問題を解消するためには、認知行動療法を提供できる専門家をできるだけ早く、そしてできるだけ多く育成する必要があります。私自身このような問題意識にもとづき、これまでにワークショップを開催したり、ワークショップをもとにした教材を作って出版したり、スーパーヴィジョンを行ったり、という活動をずっとしておりますが、まだまだ不十分であると自覚しています。
 そこで今回、ナースを対象とした認知行動療法の本を書くにあたって、もちろん最大の目的はナース自身のセルフケアを支援することですが、さらにその後、今度はナースの方々が認知行動療法を使って、患者さんや周囲の方々のケアを行ってくださるようになるといいなぁという思いを込めることにしたのです。

◎まずは自分のケアに使ってみてください
 認知行動療法は心理療法の一種ですが、精神分析など他の心理療法と異なり、特別な心理学的知識がないとできないとか、特別なトレーニングを積まなければ現場で使ってはならないというものではありません。本書で紹介するような考え方ややり方を理解し、練習し、身につけていただいた方であれば、誰でもそれを自分自身のために使いこなせるようになります。
 読者の皆さんにお願いしたいのは、認知行動療法を身につけて、まずはご自身のケアに活用していただき、「これは使える!」という実感が持てたら、次に、認知行動療法を必要としている患者さんや周囲の方々に提供していただきたい、ということです。
 対人援助職の中心的存在であり、心理士と比べてはるかに人数の多いナースの方々に認知行動療法を身につけていただくことによって、ナースの方々のセルフケアを支援すると同時に、患者さんに対して認知行動療法を実施できるようになれば、専門家不足を解消する大きな助けになるだろうという目論見が私のなかにあるのです。

◎この本はこんな構成になっています
 長くなりましたが、以上が本書に対する私の思いです。
 次に本書の構成について簡単に紹介します。
 BOOK1の第1章、第2章では、認知行動療法の基本的な考え方や手法を具体的に紹介しています。読者の皆さんにはまず、BOOK1の1章、2章を読んで認知行動療法の概略を理解してから、続く3章とBOOK2で展開される各事例をお読みいただくことをお勧めします。
 事例は1つにつき1章を割き、ストーリー仕立てで紹介しています。各章のタイトルから事例のおおよその内容は想像がつくと思いますので、興味のある章から読んでいただいて大丈夫です。各事例をお読みいただいたあとに再度BOOK1に戻って読んでいただけると、認知行動療法に対する知識がさらに深まるでしょう。
 2つの本とも巻末に、その本で紹介した「認知行動療法の理論・技法・ツール」をまとめています。また、BOOK2には「さらに学びたい人へのガイド」を書きました。認知行動療法を本書だけでパーフェクトに学ぶというのは不可能です。本書を読んで認知行動療法に興味を持った方には、ぜひ「さらに学びたい人へのガイド」を参考に、学びを継続し、深めていっていただけるとうれしいです。

◎安全第一で使ってくださいね
 最後に。認知行動療法はとても役に立つツールです。私自身認知行動療法をずっと使い続けて、その効果や魅力を深く実感しています。だからこそこのように本などを書いているわけですが、本書を読むと、あたかも認知行動療法が万能なツールのように見えてしまうかもしれません。
 が、この世に「万能なツール」はあり得ません。しかもツールですから、「使う人次第」というところも多分にあります。認知行動療法というツールにももちろん限界はあり、また使いようによっては人の役に立つどころか、逆に人を傷つけてしまうことだってあり得ます。したがって認知行動療法を実際に行う際には、くれぐれも慎重に、安全第一で使っていただきたくお願いいたします。
 本書は医学書院の石川誠子さんと一緒に企画したものです。本当はもっと早く世に出るはずだったのが、ひとえに私の「ぐずぐず病」によって、こんなに時間が経ってしまいました。心からお詫びを申し上げると共に、ここまで辛抱して付き合ってくださったことに心から感謝いたします。ありがとうございました。「ぐずぐず病」は治らないながらも、なんとか本書を世に出すことができました(これから認知行動療法を使って「ぐずぐず病」に取り組みます)。

 2011年1月吉日 伊藤絵美

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はじめに:
ケアする人のセルフケアに認知行動療法を役立てよう

第1章 ストレス状況とストレス反応を目に見える形にしてみましょう
 1 ストレスって何?
 2 認知行動療法の基本モデル
 3 階層的認知モデル
第2章 アセスメントしてみましょう
 1 アセスメント
 2 コーピング
 3 認知行動療法の進め方
 4 認知行動療法の適応と限界、および実施にあたっての注意点
第3章 プリセプティとの相性が悪く悩む先輩看護師アヤカさん
 1 認知行動療法に望みをかけて来談したアヤカさん
 2 自己観察と外在化でかなりスッキリ
 3 目標リスト作成までこぎつけた
 4 認知再構成法で「認知」に焦点を当てる
 5 問題解決法で「行動」に焦点を当てる
 6 コーピングレパートリーを可能な限り増やす
 7 これまでより上手にストレスと付き合えるようになったアヤカさん
第4章 BOOK1で紹介した理論・技法・ツール

索引
BOOK2はこんな展開になります

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どのように事実を捉えたのか客観的に分析し,ストレスをセルフケアする (雑誌『看護管理』より)
書評者: 岡島 恵子 (聖隷淡路病院総看護部長)
◆自身のストレスに対処するために

 最近のメンタルヘルスの重要性とその対応から,認知行動療法という言葉を聞くようになった方も多いと思います。しかしその内容に関しては,まだあまり知られていないのではないでしょうか。実は私も初めてこの言葉を聞いたとき,メンタル不調をきたした人のみが対象となる心理療法の1つだと思っていました(実際に認知行動療法は,診療報酬化されています)。しかしこの療法は,普段のストレスマネジメントにも効果があることを知り,興味をもちました。

 認知行動療法とはその言葉通り,ストレスの問題を「認知」と「行動」の両側面から改善していこうという考え方・方法です。事実は事実として存在しますが,それをどう捉え(認知),どう対処するか(行動)を考えていきます。例えば,のどが渇いているときに,コップに水が半分入っているのを見て(事実),「半分しかない(しょんぼり……)」と認知するか,「半分もある(やったー!)」と認知するのかということです。このとき重要なのは,事実に対して「どのように認知するべきか」ではなく,自分は「なぜそのように事実を捉えたのか」について,客観的に見つめ,分析していくことです。どのように事実を捉えるかは無意識に行なわれていることが多く,その認知がはっきりしないままに,その後の思考や行動が縛られ,ストレスがたまり,心身ともに疲れてしまうことが多いからです。

◆バーンアウトを防ぐために

 BOOK1には,療法の基本となる事柄が書かれています。ストレスが強くなると,そのことで頭がいっぱいになり,考え方も行動も同じことを繰り返してしまいがちです。それを打開するために基本モデルを使用して,認知,感情,身体反応,行動の4つに分けて客観的に考えていきます。本書では無意識下で行なっている認知のあり方が紹介されていますが,その事例が身近なものばかりなので,分析を読むだけでも,ストレスが少なくなるような気がしました。

 生活をしていくうえで,ストレスをゼロにすることは不可能です。また対人援助職は,バーンアウトに陥りやすいことが以前から指摘されています。看護管理者はそのようなスタッフと面接する機会が多く,また共通言語が異なる(価値観が異なる)人たちと話す機会も多くあります。「自分は大丈夫!」と思っていても,気づかないうちにストレスは溜まっていることはよくありますが,なかなか周りの人は気づいてくれません。看護管理者である自分自身が,ストレスと上手く付き合っていくためには,セルフケアが重要となります。自己の認知やそれに続く行動を振り返るために,本書を参考にしてみてはいかがでしょうか。

(『看護管理』2012年1月号掲載)
悔しいくらいに的確な言葉で説明されてしまうCBTの本 (雑誌『精神看護』より)
書評者: 曽根原 令子 (成増厚生病院看護師・精神科認定看護師(うつ病領域))
 「これからCBTに取り組もうと思う人にぴったりの本」「丸暗記、詰め込み、一切不要」「ハラハラドキドキしながら事例を読み進めれば、認知行動療法の技法がすべて理解できるようになっています」と、他の本よりも若干太い帯に書かれてある大胆な宣伝文句。これは購入するしかないでしょ、と思い手に取ったのは今年の1月のこと。

 最初はパラパラと読んでいたのが、ぐ~っと引き込まれ、気がつけば小一時間で読みきっていた。最初の感想は、「悔しい!」だった。私自身も、精神科認定看護師(うつ病領域)として、同職である精神科看護師に対して「認知行動療法的看護のすすめ」と題して、認知行動療法的看護の普及啓蒙に向けて活動している。講義のときには頭をひねり、こうしたら伝わるだろうか、ここはもっとこういうふうにして……と試行錯誤を重ねていたのに、著者の伊藤絵美先生は認知行動療法のことを、いとも簡単に、的確な言葉を使って端的に説明しきってしまっている。悔しい気持ちは、自分のボキャブラリー能力の低さを見せつけられた気がしたからだ。

 2006年3月の『精神看護』の特集は、「看護がはじめる“認知療法”」であった。それを読んだときも私は、「認知行動療法は、精神科看護そのものだ」と声を大にしていた。しかしそれをうまく伝える術を知らない私は、その特集の中の原田誠一先生(国立精神・神経センター武蔵病院:当時)の寄稿「看護の仕事に認知行動療法の視点を取り入れてみませんか?」の表題を、実はこっそりあちこちで使わせてもらっていた。

 伊藤絵美先生は今回の本のなかで、看護者が患者へ認知行動療法をおこなう前に、看護者が自分自身のストレスの問題を、認知行動療法を使ってセルフケアしてみませんか、と勧めている。なぜなら患者さんに説得力をもってお勧めするには、看護者自身が「これはいい!」と実感し、使いこなせるようになっておく必要があるからだ。

 この本には、ナースが主人公の等身大の「あるある」事例が多数織り込まれていて、認知行動療法の技法を使って解決されていく流れを読みとることができる。その事例が、たとえば、「無能な同僚に腹が立って仕方がないカオルコさん」「キレる医師のいる職場に恐怖を感じるサチコさん」「プリセプティとの相性が悪く悩む先輩看護師アヤカさん」など、あまりに「あるある」な内容であるために、想像が容易で、思わず引き込まれて読んでしまう。ボキャブラリーのない私は、またもや伊藤先生のうまい事例展開をアレンジして、こっそりと講義で使わせていただいた。すると、それまで伝えにくかった「認知」「自動思考」「スキーマ」が、「わかりやすい説明で理解しやすかった」と言われるまでになった。

 洗足ストレスコーピング・サポートオフィスで使われているワークシートなどが付録として収録されており、コピーライトのクレジットを記載したままであれば許諾なしにすぐにでも利用してよいと書いてある。そんな配慮もうれしい本だ。

 私は、看護者が仕事のうえでストレスをかかえてしまう要因は、自分の認知や自動思考に無頓着だからではないかという仮説を立てている。看護者自身が自分の認知、行動についても見つめ直すきっかけになるこの本を、ぜひ多くの人に読んでもらいたいと思う。

(『精神看護』2011年11月号掲載)
自分のケアを後回しにして他人のケアはできない
書評者: 谷 紀子 (厚生中央病院医療安全管理室看護師長)
 院内で医療安全管理者をしている私は,院内外問わず,会う人に自分の仕事を紹介するたび「ストレスが多くて大変そうですね」と同情の目を向けられることが多い。肝心の自分自身はというと,周囲に言われるほど大変なのか,正直よくわからなかった。

 ところが最近,記念日でもないのにバッグや貴金属など,自分でも驚くような高額な買い物を立て続けにするようになった。「ひところ前に流行った映画のお買い物中毒のヒロインみたいだな」などとのん気に構えていたが,友人に「それって仕事が相当ストレスなんじゃない?」と指摘され,「もしかして自分が思っている以上にストレスなのかもしれない」とふと不安になった。ちょうどそんなときにこの本に出会った。

 認知行動療法? ケアする人も楽になる? 認知行動療法という名前を聞いたことはあったが,どのような内容で,どのようなときに活用できるのかは全く知らなかった。本の帯には「切り抜け方を学べるから,次の危機にも対処できるんだ!」と書いてある。「危機って,そんな大げさな……」と思いながらも,題名にある「ケアする人も楽になる」に目を引かれた。

 認知行動療法とは,自分のストレスの有様に気づき,そこで生じている認知(頭に浮かぶ考えやイメージ)と行動(外から見てわかる動作や振る舞い)をコーピング(意図的に対処)すること,とある。本の中には,なじみはあるがいまひとつピンとこなかったカタカナ語も一つずつ丁寧に解説されており,ほどよくゆとりが設けられたイラストと文章も読みやすい。授業のように一方的に教え込まれるのではなく,著者がそばに寄り添ってナビゲーターをしてくれながら読み進めているような,初心者の読み手が途中で嫌にならないよう配慮されている印象だ。

 特に事例展開は,ナースという職業に焦点を絞って書かれたというだけあって,どれも身近で参考になる。例えば,「プリセプティとの相性が悪くて悩む先輩看護師アヤカさん」「無能な同僚管理職に腹が立って仕方がないカオルコさん」,あるいは「精神的に不安定な看護学生とのかかわり方に悩む教員タマキさん」など。自分が同じシチュエーションになったことなどはないのに,なぜか「あるあるある」と思いながら読んでしまう。自分も同じ境遇だったらきっと同じように悩むだろうと思うから,どのように解決されるのかを知りたくてページをめくってしまう。

 著者は「はじめに」の中で,「人をケアする職業の人(対人援助職)のストレスは,他の職種に比べて深刻になりやすい。ケアする側の人は,傷ついている当事者に最も近い存在であるからこそ,ケアする人自身も当事者になりうるということです」と述べている。考えてみると医療安全管理者になって,患者さん,ご家族からの苦情や,医療者の苦悩のシャワーを日々浴びている。うまく解決したときはたとえようもない爽快感と充実感が得られるが,反対にやり場のない悔しさと無力感が残る結果になることも多い。苦しいと感じることが仕事上当たり前だと思っていたが,この本を読んで,自分のストレスマネジメントにきちんと向き合ってこなかったことに気付く。またストレスをコントロールするという考え方も発見だった。ストレスへの対処法があるということだけでも心強い。そもそも自分のセルフケアを後回しにして他人のケアをしようという考え方が無理なのかもしれない。

 次にストレス状況になったときは,少しこの本にあるツールを試してみよう,そして今からコーピングレパートリーを増やしておこうと思う。きっとそうすれば,今よりお金がかからなくなる可能性は大である。
認知行動療法の学びとストレスケアの一挙両得
書評者: 鈴木 啓子 (名桜大教授・精神看護学)
 本書は「認知行動療法入門」とありますが,認知行動療法を患者さんに行うための本ではなく,ケアする人々(特に看護者)自身の心身のセルフケアに活用できるための解説書です。

 手に取ると,イラストがかわいらしく,忙しい合間にも短時間でも読み切ることができる内容です。添付されている図表やシートも,使いやすそうです。自分で実際にトライするタイプの自己トレーニングマニュアルになっており,学生でも十分わかる内容になっています。

 2冊組のうち,BOOK1では,認知行動療法の考え方と手法を具体的に紹介し,臨床で看護師が出くわすであろうストレス事例を取り上げて,その実際を学習することができます。この中で著者は認知行動療法の適応と限界,実施に当たっての注意事項も丁寧に述べており,読者が安全に使うということにも配慮してあります。どのようなストレス状況にも効く万能薬というものはどこにもないのですから,当然といえば当然ですが,きちんと記載されているところに好感が持てます。

 また,BOOK2では,実際によくある事例のストーリーを読みながら,読者自身が「自分だったらどうするだろうか」と考えながら読むことのできる展開となっています。「無能な同僚管理職に腹が立って仕方がないカオルコさん」「キレる医師のいる職場で恐怖を感じるサチコさん」「精神的に不安定な看護学生とのかかわり方に悩むタマキさん」といった事例において,相談者の相談の経緯,認知行動療法の導入,展開,その後がストーリーになっているので最後まで読まずにはいられません。つい感情移入してしまい,私も読みながら事例の相談者に共感し,「バカバカ」と罵りたくなってしまいましたが,振り返ってみると,自分自身の身の回りにも似たようなことがあることを感じます。

 看護師は常識の通用しない相手にも正攻法で自分が頑張る,あるいは我慢することで問題を解決しようとする人が多いのではないでしょうか,と著者はやんわりと述べています。真面目だけれども,物事を柔軟に考えることができずに,ゆとりのない職場環境のもとで強いストレスを抱えて苦労しているということです。真面目と正攻法だけでは燃え尽きてしまいます。本書の中で,心身ともに健康な人とは,幅広く,多様な対処行動(大したことではなく,ちょっとしたこと)が取れ,ときには「迂回する」「放置する」「助けてもらう」といった柔軟な対処方法を用いることができる人だと記載されていたのが印象に残ります。

 本書は,入門書ではありますが,認知行動療法の基本的な理論,技法,ツールについても事例を通してわかりやすく紹介され,さらに深く学びたい読者のために,専門書の紹介や研修会,学会なども紹介されています。学生支援や患者支援にも使える可能性を感じさせてくれる本です。最後に,「あの学生はどうしようもない!」「あの教員(看護師)は困る!」「こんな職場で働いていられない!」など毎日腹立たしいことでストレス多くお過ごしの読者の方がおられましたら,是非,ご一読をお勧めします。読むだけでも,気持ちが楽になりますよ。

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