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問題解決型救急初期診療 第2版

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本書は、救急患者の診断からマネジメントまで、フローチャートなどを用いて優先順位をつけ、考えること・すべきことを理解した上で、初期診療につなげるという流れで構成されている。特に基本的症候へのアプローチに重点を置き、単に手順を示すのではなく、真に理解しながら学べるよう問題解決のプロセスに焦点を当てた。最新のエビデンスとガイドラインに基づいた内容を盛り込み、マイナー系救急の内容も加わり、ますます充実した研修医必携書の待望の改訂版。
田中 和豊
発行 2011年10月判型:B6変頁:608
ISBN 978-4-260-01391-8
定価 5,280円 (本体4,800円+税)
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第2版 序

 2003年に本書の初版を出版してから早くも8年の歳月が経過した.本書は幸い救急当直をする方々,特に初期臨床研修医に多く読まれることになった.
 本書の初版は当時米国から帰国した直後の筆者が救急のレジデントをしながら執筆したものである.したがって,今から初版を見返すとまだまだ未熟な点が多く見受けられる.診療方法に米国色が強く日本の診療に必ずしもそぐわない点,自分では救急領域の諸問題を系統的に解決できるように構成したつもりだったがまだまだ抜けが多かった点などである.
 また,筆者はこの書籍出版後,本書を使用して研修医に総合診療あるいは救急診療を教える機会をもつようになった.本書を用いた研修医教育で困難に感じた点は,臨床経験つまり患者診療の経験がほとんどない学生や研修医に実際の診療を教えることである.本書は実地の臨床経験を前提としている.そのため,実地経験が豊富な臨床医ではイメージ可能なことが,実地経験が乏しい学生や初期臨床研修医には理解が難しいらしい.そのため学生や初期臨床研修医には,本書の内容を解説したCare Net DVD「Step By Step! 初期診療アプローチ」シリーズを本書と併せて視聴するように勧めている.
 このように筆者が書籍を出版し,それを用いて教育するようになってから実感するのは,「理解することは難しい,そして,理解したことを明解に記載することはもっと難しい,そして,理解して明解に記載したことを明解に教えることはもっともっと難しい」ということである.
 第2版では,初版と同様に,単なる「やり逃げ救急」ではなく「プライマリ・ケア」との連携を考えた「救急初期診療」を継続し,さらに総合診療外来や各科との連携を重視した診療の記載を心がけた.初版では米国医学を基準として救急レジデント向けに記載したが,第2版では日本の医療を基準として初期臨床研修医を意識して記載した.2000年以後に日本でもガイドライン医療が浸透したが,各種ガイドラインは原則として日本のものを用い,必要があれば米国のものも用いた.また,本書は初期臨床研修医が多く使用することを考慮し,現場が混乱しないように第2版では最先端の知見の記述は避けた.
 そして,第2版では「腰背部痛」「関節痛」「意識障害」「肉眼的血尿」については診療のアプローチのフロー・チャートを改変した.薬物については後発医薬品は用いず,NSAIDは副作用の少ないブルフェン®を,点滴のステロイド薬はコハク酸アレルギーがないリンデロン®を原則として用いた.参考文献については検索時間の節約のために,重要な原著論文以外はUpToDate®などの2次文献を引用した.
 viiiページ(拙著の相互関係図)に示すように,筆者が一連の著作で実現しようとしているのは「実学としての医学」で,目標としているのは「知識のための知識」ではなく「行動する知識」である.これらの一連の行動は言ってみれば「構造構成主義的臨床現象学」とでも言うべきものである.つまり,様々な臨床上の現象を説明する構造(理論)を現象自体から探求しようというものである.そして,その探求した理論である「構造」を,筆者は言語学者ノーム・チョムスキーの「生成文法」理論になぞらえて「生成変形診療理論」と呼んでいる.つまり,「生成変形診療理論」とは,基礎医学,エビデンス・経験から「診療理論」が生成して,その「診療形態」を「診療現場」によって「変形」させることによって最善の医療を行おうというものである.具体的には,「診療理論」とは本書に示す鉄則やフロー・チャートで,「診療理論を変形させること」とは,例えば頭部CT正常の「めまい」の患者を脳MRIが撮影できる環境では脳MRIを撮影して確定診断したり,脳MRIが撮影できない環境では脳梗塞として扱ってアスピリンを投与して経過観察するなど,診療現場に合わせて臨機応変に対応することである.この診療理論についての詳細は医学書院ホームページ「週刊医学界新聞」の筆者連載『臨床医学航海術』を参照のこと.
 本書を上梓するにあたって,丹念に原稿をご校正いただいた名古屋掖済会病院 副救命救急センター長/救急科医長 岩田充永先生と藤田保健衛生大学 総合救急内科教授 山中克郎先生,そして,忍耐強く校正にご尽力いただいた医学書院の方々に深く感謝する.
 最後に,本書によって内因性・外因性に関わらず当たり前のcommon diseaseが当たり前に診断・治療されて,それが一人一人の患者と医療関係者の幸福に繋がることによって,現在の日本の「医療崩壊」が少しでも改善されることを願ってペンを置く.

 なお,本書に対する質問・要望やご意見は下記の連絡先までお願いいたします.
 連絡先 info@igaku-shoin.co.jp

 2011年7月
 田中 和豊

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第1部 イントロダクション編
 1.Primary Careとしての救急医療
 2.救急室における基本戦略
 3.主訴
 4.問診
 5.診察
 6.検査
 7.診断
 8.治療
 9.医学判断学とEBM
 10.マネジメントと説明
 11.患者教育と予防
 12.病歴記載
 13.コンサルテーションとプレゼンテーション

第2部 症状編
 1.症状解析 Symptom Analysis
 2.疼痛 Pain
 3.頭痛 Headache
 4.胸痛 Chest Pain
 5.腹痛 Abdominal Pain
 6.腰背部痛 Back Pain
 7.関節痛 Joint Pain
 8.めまい Vertigo/Dizziness
 9.失神 Syncope
 10.痙攣 Convulsion
 11.意識障害 Altered Mental Status
 12.麻痺 Paralysis
 13.しびれ Paresthesia
 14.運動失調 Ataxia
 15.咽頭痛 Sore Throat
 16.咳・痰 Cough/Sputum
 17.喀血 Hemoptysis
 18.呼吸困難 Dyspnea
 19.動悸 Palpitation
 20.嘔気・嘔吐 Nausea/Vomiting
 21.下痢 Diarrhea
 22.便秘 Constipation
 23.吐血・メレナ Hematemesis/Melena
 24.下血 Blood per Rectum
 25.肉眼的血尿 Gross Hematuria
 26.浮腫 Edema

第3部 外傷編
 1.創傷処置 Wound Management
 2.整形外科疾患 Orthopedic Injuries
 3.外傷患者の診かた How to See Trauma Patients
 4.頭頸部外傷 Head and Neck Trauma
 5.胸部外傷 Chest Trauma
 6.腹部外傷 Abdominal Trauma
 7.骨盤外傷 Pelvic Trauma
 8.四肢外傷 Trauma of Extremities

第4部 救命・救急編
 1.蘇生法 Resuscitation
 2.ショック Shock
 3.急性アルコール中毒 Acute Alcohol Intoxication
 4.急性中毒 Acute Intoxication
 5.熱傷 Burn
 6.異物 Foreign Bodies
 7.熱中症 Heat Illness
 8.偶発性低体温症 Accidental Hypothermia
 9.溺水 Drowning
 10.マイナー系救急 Minor Emergencies

付録
 1 勉強方法10か条
 2 推薦図書
 3 法的事項
 4 医学倫理
 5 医療過誤,品質保証,危機管理

略語
索引

メモ
 1 治療効果の指標
 2 マルコフ過程
 3 片頭痛のメカニズム
 4 循環器病トピックス
 5 胸痛豆知識
 6 腹痛豆知識
 7 意識障害豆知識
 8 麻痺豆知識
 9 むずむず脚症候群
 10 咽頭痛豆知識
 11 吃逆
 12 Paget-Schroetter症候群
 13 脳振盪
 14 外傷性窒息
 15 心臓振盪
 16 腹腔内圧上昇/腹部コンパートメント症候群
 17 Damage Control Surgery:DCS

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救急診療・当直に必携の書
書評者: 志賀 隆 (東京ベイ・浦安市川医療センター救急部長)
 本書は,救急の現場の最前線で働く医師たちへぜひお薦めしたい本である。通常,救急の参考書・マニュアル本は,複数の著者が執筆することが多い。本書は,日本と米国において外科と内科の臨床の最前線で研修をされ,さらに日本有数の教育病院である聖路加国際病院,国立国際医療センター,済生会福岡総合病院にて指導医として数多くの研修医を指導してこられた田中和豊先生によって執筆されている。そのため,通常はセクショナリズムに陥りやすい内科や外科の救急も連続性をもって記載されている。一貫して現場で役立つ本であることが意識されており,忙しい医師が求める事項が簡潔に記載されている。

 本書を開くと,はじめに救急診療におけるプラクティカルな基本戦略が記されている。サッカーに例えられた救急医としての診療姿勢は実にわかりやすい。さらに,Oslerの格言から始まり,救急の限られた時間の中で問診と身体所見をどのようにして有効にとるか著者の知恵が凝縮されて記述されている。これは救急診療に初めて臨む研修医にとって非常によい導入である。

 各論に移ると,救急でよくみる主訴や問題についてプラクティカルに対応できるようにフローチャートが使用されている。また,処方などの実際の対応も日本の薬剤や分量になっていてすぐに応用することができるので,外国のマニュアル本と比べると非常に使いやすい。救急では緊急手技や縫合などの基本的外科手技が必須であるが,本書では多彩なイラストがあり,救急で必須の手技が非常にわかりやすく記載されている。さらに,第2版になって耳鼻科・眼科などのいわゆるマイナー領域の対応もわかりやすく記載されており,忙しい現場で働く救急部の医師がすぐに参照できるようになっている。

 各論を読み終えた読者には,どのように臨床医として勉強すべきかという10箇条のうれしい付録もついている。また,変化する医療を取り巻く状況に対応できるように,法的事項,医学倫理,医療過誤などについて著者の解説とわれわれのするべき取り組みが記されている。

 以上より,本書はまず救急診療の初学者~中堅の医師が現場で使い,さらに深みをもって成長してからは後輩の指導にも生かすことのできる素晴らしい1冊である。
系統的診断とエビデンスに基づく治療を初期研修医に
書評者: 徳田 安春 (筑波大大学院教授/筑波大病院水戸地域医療教育センター・水戸協同病院総合診療科)
 『問題解決型救急初期診療』の第2版がついに出た。単独の著者によるマニュアルなので読みやすい。米国などで臨床経験を十分に積んだ著者の経験と英知が整理された「鉄則」と「ポイント」は,現場で大変役に立つ。箇条書きで書かれており記憶に残りやすい。内容のレベルは初期研修医に合わせてあるが,ベテラン医が救急当直をすることが多い臨床現場では,ベテラン医にとっても知識を再確認するチェックリストとしても役に立つ。

 イントロダクション編の中で,感銘を受けた文章をいくつか挙げてみる。「マネジメントを変えない検査は原則としてしない」「検査にも治療効果がある場合がある」「大部分のcommon diseaseは,パターン認識(直感的診断法)で対応できる」「救急室では,必ずしも確定診断にたどりつく必要はない」「コンサルテーションは適切な人を適切なタイミングで呼ぶ」などの文章は,まったくもって同感である。

 イントロダクション編から続く本書のコア部分は,症状編,外傷編,救命・救急編である。症状編では,26の主要症状を取り上げ,アルゴリズムを多用した診断のポイント,重要疾患の治療法や薬剤投与量まで記載している。特に症状解析の一般論と痛みに対するアプローチは重要項目であり,研修医にとっての必須項目である。検査へ偏重しがちなわが国の現場では,病歴と診察所見の重要性が貫かれている本書が果たす役割は大きい。

 治療法や薬剤投与量については,やや画一的であるがエビデンスに基づいており,救急初期治療の現場では妥当なレベルといえる。もっともこれは著者も述べているように,治療法は単一の種類ではないので,研修医は本書に基づいて個々の治療薬を選択する場合,指導医や上級医に相談して確認をとることが必要である。

 著者は系統的診断の重要性を力説しており,アルゴリズムを用いて基本部分を説明している。ただ,エキスパートによる直観的迅速診断は,系統的診断知識を動員したメンタル・シミュレーションから得られるというのが,評者の理解である。すなわち,臨床エキスパートは,豊富な臨床経験に基づいて症候学的アルゴリズムを自身の頭の中に叩き込んでおり,メンタル・シミュレーションで迅速な系統的診断を行っているのである。
臨床医の基礎体力を獲得するため,熟読に値する書
書評者: 岩田 充永 (名古屋掖済会病院救命救急センター副センター長)
 ある往年の大投手は,プロ野球で活躍を期待される若手投手から「直球で勝負できる投手になるためにはどうしたらよいでしょうか?」と尋ねられ,「徹底的に走り込むこと!」と答えたそうです。これは真の実力をつけるのには近道がないことを示しています。

 しかし,真の実力がつくまで時間は待ってくれず,直球で勝負できるレベルに達していなくても,「このコースに投げれば打たれない」という投球術を駆使してプロ野球の世界を生きている投手はたくさんいます(多分…)。

 国家試験に合格して間もない時期から救急外来に放たれる(!?)臨床研修医は,いきなり登板を命じられマウンドに登る投手のようなものです。「まだ,直球で勝負できるような実力は僕にはありませんから…」という言い訳は許されません。そのような厳しく過酷な現実の中で,「この主訴のときにはこの疾患を考えて,この検査とあの検査をやっておけばよい」というマニュアルや「この症状でこの所見の場合は○○(重篤な疾患)の可能性があるから要注意!!」というパターン認識を駆使して切り抜けようと試みている方も多いのではないでしょうか? これは,いわばピッチャーの「投球術」に当たるもので,大変役に立つものですが,投球術だけで切り抜けられるほど臨床の世界が甘くないのも現実です(長年,救急外来で働いていると本当に身に沁みます…)。

 本書『問題解決型救急初期診療 第2版』は投手の走り込みに当たる“臨床医の基礎体力”を身につけるための書籍です(マニュアル本サイズではありますが,決してちまたに溢れるマニュアル本ではありません)。胸痛,腹痛,頭痛から外傷まで臨床医として遭遇する事態に対して,病態生理や病理を重視した“本道”のアプローチが記載されています。世の中にはたくさんの病気がありますが,病態生理や病理に基づいた“本道”の思考を修得できれば患者に不利益を及ぼすような失敗を避けることができます。

 活字を読まなくなったとやゆされる世代には厳しい要求かも知れませんが,ぜひ,一文一文を味わって,熟読・読破してください(国家試験が終わって最後の春休みを謳歌している医学部6年生の課題図書にしようかなあ~)。臨床医の出発時に本書によって基礎体力(臨床の基本的な思考能力)を身につけた者は,直球勝負ができる体を作り上げた投手が実践で投球術を体得するがごとく,臨床研修の現場でクリニカルパールを蓄積していくことができると思います。そうなれば鬼に金棒,皆さんの臨床医としての人生は充実したものになるでしょう。

 「もう,臨床研修なんて終わっちゃったよ~」という皆さん,決してあきらめることはありません。我々の世代には,「後輩に教えるふりをして,自分が勉強する」という得意技があるじゃないですか! 「君たちにとって非常に役立つ本だから,一緒に読んであげよう」と研修医と勉強会を開いて,さあ,一緒に勉強しましょう!

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