摂食嚥下障害学

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言語聴覚士学生のための教科書。初めて学ぶ学生および、近年の社会情勢、環境の変化に臨床STがついていくための知識を網羅する。STに必要な評価・訓練法はもちろん脳血管障害、進行性神経疾患、認知症、サルコペニアなど疾患の解説もくわしい。また脳性麻痺、口唇・口蓋裂など小児の摂食嚥下リハにも重きを置いたのが本書の特長である。STの専門性確立と多職種との協働のありかたを、各職種の第一線の執筆陣が解説する。
*「標準言語聴覚障害学」は株式会社医学書院の登録商標です。
シリーズ 標準言語聴覚障害学
シリーズ監修 藤田 郁代
編集 熊倉 勇美 / 椎名 英貴
発行 2014年10月判型:B5頁:324
ISBN 978-4-260-01516-5
定価 5,500円 (本体5,000円+税)
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 人間にとって“食べること”は栄養摂取という生物学的な役割以外にさまざまな意味を持つ.個人の嗜好としての側面,民族・地域によるさまざまな食文化の形成という文化的意義,食卓を囲む家族内のコミュニケーションや会食の機会などの社会的機能など多岐にわたる.“食べること”は人間の存在に広く,また深くかかわる本質的な事柄である.
 一方超高齢社会にあって,さまざまな障害により食べることが困難になる高齢者の数は増加の一途をたどっている.肺炎は日本人の死因の第3位となり,その多くは誤嚥性肺炎であると言われている.また終末期における胃瘻の是非に関しては,広く社会的関心を呼び論じられるようになった.
 1998年に言語聴覚士法が施行され,その中で初めて言語聴覚士は摂食嚥下障害に対応する専門職としての位置づけが明記されることとなった.以降,摂食嚥下リハビリテーションの中で言語聴覚士に対するニーズは高まり,言語聴覚士が対応する障害の中で嚥下障害の占める割合は増加した.
 本書はこのような摂食嚥下障害を取り巻く社会情勢,環境の変化に対応し,言語聴覚士にとっての標準的なテキストとなるべく企画された.摂食嚥下障害のリハビリテーションは脳血管障害などの中枢疾患への対応が主流であったが,近年の摂食嚥下リハビリテーションの広がりを受け,本書では脳血管障害以外にも進行性の神経疾患,腫瘍摘出後,認知症,サルコペニアなど多彩な障害に伴う摂食嚥下障害を扱うこととした.特に脳性麻痺をはじめとする小児疾患に対して多くのページを費やしたことは本書の特色のひとつである.現在多くの言語聴覚士が対応している領域と,今後の発展が望まれる領域を合わせて網羅した.
 本書はシリーズの共通方針に基づき,初学者が知るべき基本的な事項をもれなく押さえている.加えてこの分野で経験を積んだセラピストにとっても新しい知見や臨床の手がかりが含まれていると考える.
 “食べること”の障害の多様性を考えた場合,リハビリテーションに関与する職種の多様性も特徴のひとつである.言語聴覚士としての専門性の確立と多職種との協働をどのように構築していくか,われわれ言語聴覚士に課せられた課題である.本書の性質上,執筆者の多くは臨床に携わる言語聴覚士であるが,多くの医師,歯科医師をはじめとする関連職種の先生がたに執筆の労を請うた.執筆を快諾いただいた諸先生がたに深謝したい.
 最後に用語について,“食べること”の障害dysphagiaの訳語としては“嚥下障害”,“摂食・嚥下障害”などが用いられてきた.“摂食・嚥下障害”は,日本摂食嚥下リハビリテーション学会の前身である日本摂食・嚥下リハビリテーション研究会が設立時に提唱したものである.これは日本語の“嚥下”が主として咽頭期嚥下を意味していることに対して,dysphagiaが先行期,口腔準備期を含めた“食べること”の障害全体をさすことから,“摂食・嚥下障害”という訳語を採択したことによる.2014年に学会設立20周年を迎え,摂食・嚥下という用語が広く認知されてきたこと,また摂食嚥下が一連のプロセスであることを考慮し,「・」をとった摂食嚥下障害が用語として新しく提唱された.また学会名も摂食嚥下リハビリテーション学会と改定された.本書もこれにならい摂食嚥下障害を用いることとした.
 本書は企画から出版まで長い年月を費やした.執筆いただいた先生がたにはご迷惑,ご心配をおかけしたが,最新の知見,情報を盛り込むことができた.医学書院編集部の方々には長期間にわたり辛抱強いご支援,ご協力をいただいた.この場をお借りして深謝したい.

 2014年10月
 編集
 熊倉勇美
 椎名英貴

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第1編 摂食嚥下機能とその障害
 第1章 摂食嚥下のメカニズム
  1 発達と成熟
  2 加齢
 第2章 摂食嚥下障害とは
  1 小児の摂食嚥下障害
  2 成人の摂食嚥下障害

第2編 摂食嚥下リハビリテーションの実際
 第1章 言語聴覚士の役割
 第2章 言語聴覚士が行う観察とスクリーニングテスト・評価
  1 評価の流れ
  2 観察
  3 スクリーニングテスト
  4 摂食嚥下を支える器官・機能の評価
  5 評価
 第3章 精密検査
  1 嚥下造影
  2 嚥下内視鏡検査
 第4章 チームアプローチ
  1 チームアプローチの意義:なぜチームアプローチが重要か?
  2 各職種の役割と言語聴覚士との連携
  3 チームアプローチをよりよく進めるために:チーム作りのコツ
  4 よりよい連携とチームの発展のために:言語聴覚士の貢献
 第5章 小児の治療・訓練
  1 小児分野の概要と言語聴覚士の役割
  2 小児の合併症とリスク
  3 言語聴覚士の介入
 第6章 成人の治療・訓練
  1 成人分野の概要
  2 成人の合併症とリスク管理
  3 言語聴覚士の訓練

第3編 摂食嚥下リハビリテーションの現状と未来
 第1章 摂食嚥下障害リハビリテーションの課題と展望
  1 小児の摂食嚥下障害リハビリテーションの課題と展望
  2 成人の摂食嚥下リハビリテーションの課題と展望
 第2章 摂食嚥下障害の研究・臨床・教育の課題
  1 現在・過去・未来
  2 研究の課題
  3 臨床の課題
  4 教育の課題

参考図書
索引

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時代のニーズを反映した基礎から学べるテキスト
書評者: 植田 耕一郎 (日大歯教授・摂食機能療法学)
 言語聴覚士の標準的なテキストとして生まれたのが本書である。特筆すべきは,例えば第1編「摂食嚥下機能とその障害」において,摂食嚥下のメカニズムを発達と成熟から始めて加齢としての変化に至る流れで提示し,また摂食嚥下障害を小児と成人に分けてあるように,全体が中途障害のみならず発達期(小児疾患)に対してもその詳細が記されているところである。

 第2編の「摂食嚥下リハビリテーションの実際」では,言語聴覚士に求められる必要かつ十分な評価法についてまとめられている。ここでも「小児の治療・訓練」は成人の項と同等のページ数を占めている。「成人の治療・訓練」の中では,脳血管障害,神経変性疾患,器質性疾患以外に認知症について言及している。認知症ごとに摂食嚥下障害としての特徴を紹介しており,時代のニーズを意識したことがうかがえる構成である。

 本分野に携わっている言語聴覚士のうち成人のみを対象としているのは83.3%,これに対して小児を対象としているのは3.3%と極端に少ない。第3編の「摂食嚥下リハビリテーションの現状と未来」では,少子化であるにもかかわらず,発達期摂食嚥下障害の需要が増加している現状に対処すべく言語聴覚士が,全国的に皆無に等しいことの危機感を募らせての提言をしている。咽頭期障害への対応は避けられないが,高齢者福祉施設などでは大半が刻み食,ミキサー食摂取である現状を踏まえ,今後は「食の楽しみ」を追求すべく味わいの獲得としての口腔相障害への対応についても言語聴覚士に期待したい。

 各章のTopicsの項には最新の情報が網羅されており,章の終わりにはKey Pointを設けてその章の要点が質問形式でまとめられている。時間が経ってもKey Pointを見返すことで,知識の過不足は整理されよう。

 言語聴覚士のみならず,医師,歯科医師,関連職種が執筆にあたり,企画の段階から時間をかけて練り込まれたからこそ,内容は本筋からそれることのなく,無駄のないシンプルな組み立てとなっている。編集者の一人である熊倉氏は,摂食嚥下リハビリテーション学会の創設時からの理事でもあり,学術的根拠とともに多職種恊働を構築してきた経験が生かされているように感じられる。

 言語聴覚障害学となっているが,言語聴覚士以外の他職種であっても何ら違和感無く知識を整理しながら読み続けられる。初学者にとっては基礎から学べ,経験者にとっては新しい知見や臨床のヒントが盛り込まれている。いつでも取り出せるよう机上に携えておきたい教本である。

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本書の記述の正確性につきましては最善の努力を払っておりますが、この度弊社の責任におきまして、下記のような誤りがございました。お詫び申し上げますとともに訂正させていただきます。

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