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症状でみる子どものプライマリ・ケア

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初期研修医・若手小児科医・家庭医など子どもにかかわるすべての医師にむけ、臨床で活躍するベテラン小児科医が子どもの診断・治療のポイントを伝授。豊富な症例写真(170点)と、あくまで臨床でよくみる症状に絞った解説が特徴。講義調の語り口で、コメディカル、医学生・看護学生はもちろん保護者の方にも理解しやすいよう工夫されている。
シリーズ 総合診療ブックス
加藤 英治
発行 2010年09月判型:A5頁:360
ISBN 978-4-260-01128-0
定価 4,400円 (本体4,000円+税)

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推薦の序(谷内江昭宏)/はじめに(加藤英治)

推薦の序―通奏低音(Basso Continuo)の魅力
 音楽のことは詳しくなく,ましてやバロック音楽のことを書くと妻から冷ややかな視線を浴びるのは承知のうえですが,加藤英治先生の著書に対しては「通奏低音の魅力」という言葉を贈りたいと思います.
 現代は日々に医療が進歩して,診療に携わる私たちが得るべき知識や,身につけるべき技術が加速度的に増えている時代です.分野によっては,私自身が医師となった頃に常識であった知識や考え方が全く時代遅れとなっています.しかし,どんどん新しくなる知識や技術を全てアップデートし続けることは困難であり,次々とやみくもに詰め込むことは現実的ではありません.準備されていない革袋はやがていっぱいになって破れてしまうか,破れるのを恐れてもう何も入れまいと守りに入るかでしょう.
 優れた医師はどのようにして,長年にわたり豊かな知識と研ぎすまされた技術を持ち続けることができるのでしょうか.新しいことを自分のものとして,理解し身につけることができるのでしょうか.それはできるだけ若い時に,医師としてのしっかりした基盤を身につけ,時代を超えて使いこなせる,上等な革袋を作り準備しているからだと思います.加藤先生がこの本の中で繰り返し書かれているように,「患者から正確な病歴と臨床所見を得て,それを教科書から仕入れた疾患や鑑別診断の知識を活用して診断する」能力が養われているからだと思います.
 加藤先生は金沢大学医学部小児科の同門であり,私の恩師である谷口昂名誉教授門下でも,類稀な臨床能力を持った先生です.そして,若い研修医を熱い思いで教え続けられている方です.長年にわたり福井県内で勤務医をされながら,医学生に対する臨床教育にも尽くされてきました.金沢大学でも毎年,小児診断学の集中講義をして頂いています.
加藤先生の講義の魅力は,それが単なる知識の伝授ではないことです.医学生に医師としての,小児科医としての喜びを,症例を通して教えて下さることです.小児科診断に関わるさまざまな事項は,時代を超えて,世代を超えて,通奏低音のように流れているものがあります.それは私たちが松田道雄先生や,スポック博士の著書を通じて学んだものです.加藤先生の講義には,そのような伝統的な小児科学教育の香りが漂っています.今回は,短い臨床講義の枠の中には収まりきらない,加藤先生の豊富な臨床経験をこの一冊の本にまとめていただきました.
 この本は怒濤のように押し寄せる情報を整理して,優れて機能的な革袋を持つために,若い学生,研修医が身につけるべき,小児科医としての通奏低音を教えてくれる本です.ここに記載された項目の一つひとつが,単なる教科書的な知識の羅列ではないことは,加藤先生ご自身が前書きの中で断られているとおりです.これは,先生が日々の臨床の中で経験され,ご自身が厳しい視線で選ばれた珠玉のような物語の数々なのです.この本を読んで得られるような基礎能力を身につけて初めて,優れた小児科医としての知識や技術が美しい音楽を奏で,また臨床の現場ではしばしば要求される即興の演奏をこなすことができるようになると信じます.
 若い先生だけでなく,すでに優れた演奏家であることを自負しておられるかもしれない指導医の立場の方にも是非一読をお勧めする一冊です.

 2010年8月
 金沢大学医薬保健研究域医学系 小児科 主任教授
 谷内江昭宏


はじめに
 この本は教科書ではありません.疾患の説明は教科書を読んでください.
 この本は国試対策本ではありません.暗記用の図表や語呂合わせはひとつもありません.
 患者の顔に病名は書いてありません.国試対策に丸暗記した知識だけでは診察室で患者に立ち向かえません.野球では,キャッチボールが上手くなければ,グランドに出ても活躍できません.診察室に出るのにも基本が大切です.臨床は先人たちの知恵の蓄積のうえに成り立っています.臨床能力は,マニュアルを読めば簡単に身に付くものでなく,基本を修得するには時間と努力が必要です.定評のある教科書を辛抱強く読むことから始めましょう.診療は,正確な病歴と診察所見を基に,教科書から仕入れた疾患や鑑別診断の知識を活用して診断することから始まります.
 この本は診療現場と教科書をつなぐ本です.医師として駆け出しの頃に患者を前にして困った経験から,こんな本があったら助かったのにという私の思いから作りました.小児のプライマリ・ケアでよくみられる症状から鑑別診断の考え方を挙げ,日常の診療でよく遭遇する疾患を中心に全18講で構成しています.170点にものぼる豊富な症例写真も,診療の助けとなるはずです.小児診療の要となる患児や保護者とのかかわり方についても,私なりのこつを述べています.
 初期研修医に一番読んでほしいと願っていますが,小児科研修医,家庭医や総合診療医を志す医師にも参考になるでしょう.また,小児診療の現場で医師とともに働く看護師,小児のプライマリ・ケアに関心をもつ医学生,看護学生,保護者にも理解しやすいように書きました.小児科医がどのような考えで診療に当たっているかを理解していただきたいと考えています.
 この本は叩き台です.なかには私の思い込みや偏りもあります.また,小児科外来診療をすべて網羅した本でもありません.臨床経験から得られたあなたの知恵を書き込んで,あなた自身の本に作り直してください.
 この本は,小児科医の道筋を私に教えてくださいました恩師谷口昂金沢大学名誉教授,佐藤保前金沢大学教授をはじめ,多くの先輩,同輩,後輩の先生方,それに大勢の患者さんとの出会いから生まれました.そして,家族旅行も満足にできなかった私を支えてくれた妻,娘,息子がいたからできた本です.皆様に心から感謝を申し上げます.

*本書は『総合診療誌JIM(ジム)』2007年7月~2009年6月号の全24回にわたり連載された「私的小児科外来診療学入門」を元に,書籍用に大幅加筆・再構成したものです.

 2010年8月
 加藤英治

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第1講 小児科外来診療を楽しむために
第2講 子どもの外来診療のプロセス
第3講 急性発熱の診かた
 視点1:発熱児にどのように迫るか
 視点2:初診時にどこまで診断に迫れるか
 視点3:重症細菌感染症にどのように迫るか
第4講 外来での抗菌薬と解熱薬
 視点1:抗菌薬の使い方
 視点2:解熱薬の使い方
第5講 咳嗽の診かた
第6講 腹痛の診かた
 視点1:腹痛の診療はなぜ難しいのか
 視点2:腹痛の診断をどのように進めるか
 視点3:病歴からどのように迫るか
 視点4:診察からどのように迫るか
 視点5:診断に迫るほかの手段は
 視点6:腹痛が続く,されど診断できない場合
 視点7:急性虫垂炎を誤診しないために
 視点8:腸重積症を見逃さないために
 視点9:プライマリ・ケアでどのような疾患が問題になるか
第7講 嘔吐の診かた
第8講 下痢の診かた
第9講 感染性胃腸炎の診かた
 視点1:感染性胃腸炎をどのように診断するか
 視点2:脱水症をいかに防ぐか
 視点3:食事をどのように開始すべきか
 視点4:外来での輸液をどう考えるか
 視点5:止痢薬をどのように使うか
 視点6:抗菌薬投与をどのように考えるか
 視点7:実際の診療をどうするか
第10講 血便の診かた
第11講 便秘の診かた
第12講 リンパ節腫大の診かた
第13講 痙攣・意識障害の診かた
第14講 頭痛の診かた
第15講 急性発疹の診かた
第16講 腎泌尿器系症状の診かた
第17講 貧血,出血斑の診かた
 貧血の診かた
 出血斑の診かた
第18講 乳幼児健診と予防接種
 乳幼児健診
 予防接種

索引

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読後に自分の診療が変わったことを感じられる好著
書評者: 橋本 剛太郎 (はしもと小児科クリニック院長)
 診療の腕を磨く上で大切なことは二つ,経験例を振り返って吟味することと,教科書や文献に当たって軌道修正をすることである。しかしこの二つを不断に続けるのは難しい。経験例が多くても振り返りや読書が不十分だと,偏狭な「オレ流」に陥る。

 福井県済生会病院小児科部長の加藤英治先生は,この不断の努力を長年コツコツと続け,たわわに実った小児診療の果実を一冊にまとめた。この本は教科書ではない。診療の現場で気をつけること,診療の進め方考え方を改めて気付かせてくれる本である。

 例えば「腹痛の診かた」の章では,病歴からどのように迫るか,診察からどのように迫るか,診断できない場合は?…と実際の診療に即して展開し,急性虫垂炎や腸重積症を見逃さないための,著者の経験に基づいたアドバイスが続く。急性虫垂炎の項では,自験例を集計して何をきっかけに診断に至ったかを丹念に分析している。ほかの章でも自験例の集計と分析が随所に見られ,著者の振り返りの姿勢には敬服するほかない。さらに教科書や文献から著者が得た膨大な知識のエッセンスが提示される。このように,経験と知識に裏打ちされた記述なので,読んでいると重厚な迫力が感じられてくる。

 複数の知人が「読んでいるうちにだんだん引き込まれて一気読みしてしまう」と言う。これは内容が豊かで痛快なだけでなく,著者の人柄が文章ににじみ出ているからだろう。よく食べ,よく飲み,よく話す,人の好いエネルギッシュな彼の文章からは,なんだか元気をもらえる。

 写真の豊富さもこの本のメリットの一つで,写真を眺めるだけでも多くを学べる。忙しい診療の中でよくこれだけの写真を撮ったものだと感心する。実は,彼はもっともっと多くの貴重な写真を私蔵しているが,この本には載せ切れなかったのである。死蔵させるにはあまりに惜しいので,次は写真集を出版してもらえないものかと期待している。

 参考書や文献のリストも豊富だが,その一つひとつに著者のコメントが付いているのがありがたい。「この本はイラストが豊富」「家庭医向けだが研修医にもお勧め」など,読者がさらに学ぼうとするときの指標になる。単なる引用源を示したアリバイ証明のような参考文献リストとは一線を画するこの新しいスタイルを,これからの本は踏襲してほしいものだ。

 この本は学生・研修医に小児科医の心を教えてくれる。家庭医・内科医に小児診療の落とし穴を教えてくれる。ベテラン小児科医には知識と経験の整理を促してくれる。読んだ後の自分の診療がちょっと変わったな,と感じる好著である。

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