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アウトブレイクの危機管理 第2版
新型インフルエンザ・感染症・食中毒の事例から学ぶ

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感染症・食中毒の集団発生(アウトブレイク)に対する公衆衛生の対策・対応方法を示した書籍の改訂第2版。2009年の新型インフルエンザ感染拡大時における都市部と地方都市の対応事例や報道発表事例などから、公衆衛生担当者がどのような対策をとるべきかを提示する。今後発生する恐れがある鳥インフルエンザなど、さまざまな感染症アウトブレイク対策への準備にかかわる公衆衛生関係者にとって必読の書。
阿彦 忠之 / 稲垣 智一 / 尾崎 米厚 / 中瀬 克己 / 前田 秀雄
発行 2012年10月判型:B5頁:216
ISBN 978-4-260-01659-9
定価 3,520円 (本体3,200円+税)

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この本の特徴と使い方

本書の特徴
 本書はいままでにない,わかりやすく実践的な感染症・食中毒の集団発生に関する本である。あくまでも1つひとつの手順を手取り足取り説明するマニュアルではなく,集団発生時の考え方や危機管理の要点をわかりやすく解説したことに本書の特徴がある。

■事例から学ぶ集団発生対応
 本書の最大の特徴は,わが国で実際に発生した感染症や食中毒の集団発生事件をもとに,時間経過にそって編集した集団発生事例を読み進むことにより,学べるように構成してあることである。従来のように,読み進むのに挫折しやすい総論や理論編から開始することもなく,感染症・食中毒の各疾患もいちいち解説しない。事例を物語りのように読み進むことにより,要所要所で自分ならどのような対策を取るのかを考えたり,重要なポイントについての解説を読むことによって,集団発生時の対応を学べるようになっている。さまざまなパターンの集団発生事例を採用することにより,いろいろな場面に対応できるようにしている。

■さまざまな施設・立場・職種の人に対応している
 本書は,おもに都道府県・保健所の感染症対策担当者・食中毒対策担当者をターゲットとして編集しているが,本書のカバーしている内容・考え方は幅広く普遍的なものであるの。そのため診療所・病院などの医療機関のみならず福祉施設・老人保健施設などの施設責任者,学校保健関係者,市町村の保健福祉担当者,産業保健関係者など感染症や食中毒の集団発生事例に遭遇する可能性のある,あらゆる関係者の学ぶべきポイントが紹介してある。また,感染症や食中毒の集団発生時に,行政がどのような考え方で,どのような対応をするのかを知るために読むという使用方法もありうる。したがって,住民・市民やNGO・NPOの関係者にも読んでいただきたい。

■実践的な内容で,自己学習に向いている
 本書の内容は事例を中心に構成していることもあり,実際に事例で問題となってきたポイントを網羅している。集団発生時の行政的意思決定,組織づくり,医療対応,サーベイランス,流行調査,情報公開,マスコミ対策など,あらゆる場面,機能に対応している。さらに,事例で学んだ内容を確認するために簡潔にまとめた標準対応編(第3章:集団発生時の原因究明の方法論)を用意した。第2章には,それまでに学んだ点を自己判定できるように,2つの紙上シミュレーション演習を掲載した。感染症・食中毒の集団発生時の重要なポイントを,それぞれの時点で自分はどう対応するか考えながら読み進むことにより,確認できるようになっている。すなわち,いざというときに使える本である。

■院内感染対策にも対応
 現在話題となっている院内感染対策にも対応している。事例でも院内感染の事例を多く取り上げているほか,福祉施設などの施設責任者の心得を解説した章(第4章「施設における危機管理」)も用意した。

■ビジュアルでわかりやすい表現
 本書の内容のレベルは看護職,感染症対策の事務職などに設定した。しかも,少ない文章で簡潔に記述した。図示を多くして,事例の時間的経過をチャートで示すことで初心者にもわかりやすい表現となるようにした。したがって,多くの関係者がストレスなく読めるように構成した。

本書の使い方
■平常時:事例を最初から読み進める
 平常時には,さまざまなパターンの事例を最初から読み進めることにより,感染・食中毒の集団発生時の対応を自然と身につけるようにする方法がある。それを確認するためにシミュレーション演習をしてみる。最後に理論的に整理したいならば標準対応編を読む。

■集団発生時:集団発生のパターンにより読む場所を選ぶ
集団感染の場によって院内感染事例など
院内感染・施設内感染:事例7,事例8,事例9,事例10,事例12,シミュレーション(2)および第4章「施設における危機管理」
学校・職域:事例4,事例12
地域における流行・散発事例:事例1,事例2,事例3,事例5,事例6,事例11,シミュレーション(1)

集団発生事例の規模で読む場所をきめる
希少感染症・少数例の発生:事例7,事例8,事例11
大規模発生:事例1,事例2,事例3,事例4,事例6
その中間:事例5,事例9,事例10,事例12,シミュレーション(1)・(2)

症状による分類
消化器症状:事例4,事例5,事例6,事例12,シミュレーション(2)
呼吸器症状:事例1,事例2,事例3,事例10
その他の症状:事例7(肝炎),事例8(耳鼻科),事例9(皮膚),事例11(副反応),シミュレーション(1)(皮膚)

感染経路による分類
直接接触:事例7,事例9
飛沫感染:事例1,事例2,事例3,事例10
水系感染:事例6
食物感染:事例4,事例5(広域流通)
その他:事例8,事例11,事例12(経口感染)
病原体による分類
ウイルス:事例1,事例2,事例3,事例7,事例10
細菌:事例4,事例5,事例8,事例12
原虫・ぜん虫・衛生害虫:事例6,事例9

感染症法の感染症分類による分類
2類:事例12
3類:事例4,事例5,事例12
4類:事例6,事例7
その他:事例1~事例3(新型インフルエンザ),事例9
*本書では,「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」を感染症法と略称する。

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この本の特徴と使い方

第1章 実践編
 【事例1】新型インフルエンザ対策
  自治体と医師会の協働による地域システムの構築(東京都江東区)
 【事例2】新型インフルエンザ対策 一般的な自治体(A県の例)
 【事例3】新興感染症発生時における報道発表
 【事例4】O157の大規模アウトブレイクと医療体制
 【事例5】広域流通汚染食品によるO157のdiffuse outbreak
 【事例6】水系感染によるクリプトスポリジウム症集団発生
 【事例7】透析施設での劇症肝炎集団発生
 【事例8】院内感染による中耳結核多発事例
 【事例9】介護職員を巻き込んだ疥癬の集団発生
 【事例10】精神科病院におけるインフルエンザ集団感染
 【事例11】予防接種健康被害
 【事例12】保育所における赤痢集団発生が3か月にわたり遷延した事例

第2章 演習編
 [紙上シミュレーション演習(1)]原因不明の皮膚炎の流行調査事例
 [紙上シミュレーション演習(2)]障害者施設における下痢症集団発生事例

第3章 標準対応編
 0.アウトブレイクの危機管理
 1.診断の点検
 2.アウトブレイクかどうかの確認
 3.既存情報から基礎知識を得る
 4.症例定義を文書化する
 5.調査準備
 6.発生場所や環境の調査
 7.患者の調査
 8.積極的患者調査
 9.時 時・場所・人の特徴による流行状況の確認(1)
 10.場所 時・場所・人の特徴による流行状況の確認(2)
 11.人 時・場所・人の特徴による流行状況の確認(3)
 12.情報を集約して仮説をたてる
 13.アウトブレイクをコントロールする
 14.仮説の検証(分析疫学)
 15.分析疫学的検討結果の解釈
 16.提言を行う
 17.対策の評価,発生状況の確認

第4章 平常時からの危機管理
 施設における危機管理 地域ケアの現場で日常の感染症対策の質を高めよう
   1.感染症予防は介護の質を左右する
   2.感染症の危機管理は平常時の取り組みから
 サーベイランスと平常時対策
  【平常時の感染症・食中毒対策】
   1.サーベイランス
   2.感染症・食中毒集団発生マニュアルとシミュレーション
   3.非常時に備えた準備
   4.事前対応型危機管理
  【感染症・食中毒集団発生時の対応】
   1.組織対応,体制づくり
   2.情報管理,情報公開,マスメディア対策

●付録
 1.主要感染症の潜伏期間
 2.「感染症法」に基づく感染症調査の概要
 3.人獣共通感染症(人畜共通感染症・動物由来感染症)

おわりに
索引

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現場がつくった現場に役立つ健康危機管理の実践テキスト
書評者: 田上 豊資 (高知県中央東福祉保健所長)
 本書の第1版が出版されたのは2000年である。当時は1995年に阪神・淡路大震災,1996年に堺市のO157食中毒事件が発生した後であり,公衆衛生現場に健康危機管理の機運が高まっていた。それから12年が経過し,公衆衛生現場待望の第2版がこのたび,出版された。この間,2002年のSARS,2003年の鳥インフルエンザ,2009年の新型インフルエンザといったグローバルな健康危機が発生した。また,2年前には東日本大震災という未曽有の災害も発生した。本書から学ぶ健康危機管理の対応が求められる事例は引き続き起こっているのである。

 本書が大学で学ぶ教科書と全く異なるのは,現場従事者に役立つ実践的な本づくりに徹している点である。著者(阿彦忠之氏,中瀬克己氏,前田秀雄氏,稲垣智一氏)は,保健所や衛生研究所,本庁等において公衆衛生行政に長く従事されている実務者であり,著者代表の尾崎米厚氏も,現在は鳥取大学で教鞭をとっておられるが,以前は国立公衆衛生院で公衆衛生医・保健師の現任教育や研究に携わっている。本書は,こうした現場の公衆衛生に精通した執筆陣が具体事例を集めて執筆した,いわば「現場がつくった現場に役立つ実践テキスト」である。

 「第1章 実践編」は,新型インフルエンザなど12の実践事例が紹介・解説されている。読者には,自分が担当者としてその事件に遭遇した気持ちになって,物語風に各事例を読み進めてほしい。どの事例も,最初に「事件の概要」「学んでほしいポイント」「背景」が書かれている。それを頭に置いた上で「事件経過」を読み,「自分が担当ならば,どう対応するだろうか?」と思いを巡らせながら読むことをお勧めする。そして,末尾に筆者が記した解説と「自分が担当だったら……」と考えたこととを比較するのである。

 「第2章 演習編」は,紙上シミュレーション演習である。1例目は「原因不明の皮膚炎の流行」,2例目は「障害者施設における下痢症の集団発生」である。読者は第1章以上に,頭の体操をしてほしい。「自分が担当者だったどうするか」と考えながら読み進めると,筆者から時系列に次から次へと質問が飛んでくる。このような構成をつくるのに,さぞかし筆者は苦労されたであろうが,演習としてとてもよくできている。筆者の努力に敬意を表したい。

 「第3章 標準対応編」は,より教科書的な内容ではあるが,ここでも単に疫学の理論を並べ立てるのではなく,実際の危機管理の手順に沿って解説が記されている。すなわち,「アウトブレイクの確認」から始まり,「症例定義と積極的疫学調査」,次いで「時,場所,人の特徴を図式化すること」「原因,伝播経路の仮説をつくって検証すること」「再発防止のために報告すること」という順に沿って,集団発生の対策・調査の基本的要素がわかりやすく紹介されている。危機管理の対応に慣れない読者であれば,ぜひとも,この項を読んだ後で,再度,第1章や第2章の事例に戻って読み直してほしい。そうすると,基礎理論の意味がよく理解できるのではないだろうか。

 そして,最終章である第4章では平常時からの危機管理が解説されている。平時にできないことは,有事にもできないのである。本章を参考にして平時からの対策を準備してほしい。本書のあとがきにあるように,「想定外だ」と言い訳することは慎まなければならない。ぜひとも多くの公衆衛生従事者が本書を読まれて,「想定外の事象への臨機応変な対応を可能にする基本的な考え方」を身につけることを願う。

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