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腹部大動脈瘤ステントグラフト内挿術の実際

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腹部大動脈瘤ステントグラフト内挿術(EVAR)のすべてを学べる本格的テキスト。日本で使用可能な3種類の腹部大動脈瘤用ステントグラフト(Zenith、Excluder、Powerlink)をすべて収載し、経験豊富な術者が、基本から応用、トラブルシューティングまで、手術に有用な知識を系統的に解説していく。一部QRコードを用いた動画教材もあり、さらに充実した内容でEVARの実際を教授する。
編集 大木 隆生
発行 2010年09月判型:B5頁:336
ISBN 978-4-260-01134-1
定価 13,200円 (本体12,000円+税)

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 本書は2009年に医学書院から発刊された『胸部大動脈瘤ステントグラフト内挿術の実際』の姉妹本であります.胸部大動脈瘤ステントグラフトのテキストブックの出版を先行させた理由は,2008年に本邦初の胸部大動脈瘤ステントグラフトとしてW. L. Gore社のTAGが保険収載されましたが,当時その使用経験があった医師は本邦では慈恵医大のスタッフだけでしたので,より緊急性の高いニーズが存在したためです.お陰さまで『胸部大動脈瘤ステントグラフト内挿術の実際』の売れ行きは好調で,多くの読者からお褒めのお言葉をいただきました.しかし同時に,腹部大動脈瘤ステントグラフト内挿術(EVAR)のテキストブックも発刊してほしいとの嬉しいご要望も多数寄せられました.さらに,慈恵医大に存在する10名の指導医が全国各地の数十に及ぶ病院に出向き,腹部大動脈瘤ステントグラフト術の立ち上げに協力させていただきましたが,各病院での手術室のセットアップ,周辺機器の品揃えから手術のテクニックに至るまで多種多様であり,また,各デバイスの特徴や短所が必ずしも完全に理解されていないことを知りました.本邦初の腹部大動脈瘤ステントグラフトが薬事承認を得てからすでに4年が経過していますが,このようにいまだに成書を望む声やその必要性があることを知りました.
 私は1995年以来1,000件を超える腹部大動脈瘤ステントグラフト術を施行してきましたが,当初は企業製デバイスも成書もなく,手作りステントグラフトによる試行錯誤の連続でした.企業製デバイスの開発にも携わりましたが,なかには製造中止に追い込まれたものもいくつかあります.このように手探りの時代には自らの失敗から多くのことを学びました.「愚者は経験に学び,賢者は歴史に学ぶ」と言いますが,読者の皆さんには是非「賢者」になっていただきたいとの想いから,本書を執筆することとしました.また,私が米国から帰国して以来,毎年夏に慈恵医大で開催してきましたライブサージェリーを中心としたJapan Endovascular Symposium(JES)が今年で第5回目を迎えますが,本書発刊はその記念事業の1つでもあります.
 本書は前著と同様に多数の症例写真やシェーマを用いて,読者が具体的なイメージを持ってステントグラフト手術の実際を理解できるよう工夫を凝らしています.これに加え,今回は臨床医向けの医学書としては本邦初となるQRコード(二次元バーコード)テクノロジーを採用し,静止画では伝えきれない内容を動画でご覧いただけるようにしました.今後この手法が医学書でも広く普及するものと思います.また,本書ではEVARのテクニックにとどまらず,EVARを実施する際に必要なCTの読影,術後管理,さらにしばしば必要となる腎動脈ステント術や腸骨動脈の血管形成術なども詳細に解説しました.したがって,本書にはEVARを行ううえで必要な知識のすべてが網羅されています.
 私が12年間に及ぶ米国での活動に終止符を打ち,慈恵医大での血管外科の立ち上げのために帰国したのは2006年7月で,そのわずか10日後に本邦初の企業製ステントグラフトが薬事承認を取得しました.ステントグラフトの知識や技術があっても,ステントグラフトそのものが使用できなければ徒手空拳です.このタイミングが必然であったのか偶然であったのかはともかく,私の帰国と同時にステントグラフトが本邦でも使用できるようになったことは神の思し召しではないかと当時感じたことを憶えています.慈恵医大に着任した当時は,本学の血管外科には戸谷直樹,立原啓正,黒澤弘二の3名の医師と神谷美和(秘書)しかおらず,腹部大動脈瘤の手術件数も年間でわずか1~5例でした.無論ステントグラフト術は施行していませんでした.そして,慈恵医大にある32の診療科のなかで診療報酬額は最下位でした.この状態から,米国の私のもとに留学していた金岡祐司(岡山大学卒)と渡米前に社会保険大宮総合病院で寝食をともにした平山茂樹とともに墨誠,太田裕貴,金子健二郎,前田剛志,原正幸,宿澤孝太ら慈恵医大の若手が参入してくれました.また,後には石田厚(千葉大学卒)や田中克典(慶應大学卒)が慈恵医大に移籍し,現在では医師14名,秘書3名を数えるようになりました.このスタッフとともに過去4年間,一日も休まず切磋琢磨しながら腹部大動脈瘤の治療をはじめ多くの血管外科手術を施行し,3年あまりの間に世界最多である約700例の腹部大動脈瘤ステントグラフト術と約100例の開腹手術を施行しましたが,これら待期手術においてはいまだに1例も手術死亡がありません.また,現在では32ある診療科のなかで血管外科の診療報酬額はトップにあります.息つく暇もない臨床活動に加えて第50回国際脈管学会を主催しましたし,JESもこれまで4回開催しました.さらにステントグラフトの成書も本書で2冊目になります.わずか4年足らずでこれだけの飛躍が達成できたことはステントグラフトの威力と同時に慈恵医大血管外科のスタッフおよび秘書らの不断の努力の賜物であり,この場を借りてわがスタッフとともに本邦へのステントグラフトの承認・導入に腐心してくださった石丸新先生と池田浩治氏(日本医薬品医療機器総合機構),私にステントグラフトの教科書を執筆するよう助言してくださった新井達太慈恵医大心臓外科学講座初代教授,そして血管外科の発展を信じて当科に専用の最新鋭のFPD透視装置などのインフラを先行投資してくださった森山寛慈恵医大病院院長に,心から感謝の意と敬意を表します.
 本書がわが国における腹部大動脈瘤ステントグラフト術のより安全かつ効果的な普及に少しでも貢献できることを心から願っています.

 2010年7月
 大木隆生

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1.EVARの意義と血管外科医に及ぼすインパクト
2.EVARの施設基準・実施医基準とその意義
3.EVAR 過去,現在と展望
4.EVARの治療成績
5.EVARの実際-基礎編
 1 CTの読影
 2 オペルームのセットアップ
 3 必要な周辺機器
 4 大腿動脈の露出法
 5 血管造影とpuncture
 6 血管内超音波(IVUS)
 7 内腸骨動脈のコイル塞栓
 8 腹部大動脈瘤に合併した腎動脈狭窄に対するステント留置術
 9 デバイスの挿入
 10 術前術後管理
 11 フォローアッププロトコール
6.EVARの実際-デバイス編
 1 Zenith(Cook社製)
 2 Excluder(W. L. Gore社製)
 3 Powerlink(Endologix社製)
7.トラブルシューティング
 1 瘢痕化した鼠径部に対するアプローチ
 2 アクセス不良症例の対処法
 3 対側ゲートのカニュレーション困難例
 4 内臓分枝をcoverした場合の対処
 5 Terminal aorta が狭い症例の対処
 6 術中エンドリーク
 7 塞栓症
 8 アクセス血管の損傷
 9 大腿動脈の閉鎖
 10 中枢neckの穿孔
8.晩期エンドリークの治療
9.Open conversion
10.症例呈示
 1 Zenith Short neck(フレア)
 2 弓部瘤に対するHybrid手術と胸腹部大動脈瘤に対する枝付きステントグラフト
 3 Zenith 逆さまdeploy・逆conversion
 4 Zenith aorto-uni-iliac(AUI)
 5 Zenith Flexを使用した症例
 6 Excluder Second neck
 7 Excluder 屈曲の強い症例
 8 Excluder 破裂・動静脈瘻例
 9 Excluder 感染性動脈瘤に対するEVAR
 10 Short neckに対するChimney stent+EVAR
 11 アクセス不良のため12Fr Excluderレッグを用いて治療したAAA
 12 腸骨動脈の急性閉塞を合併したAAA:血栓除去後にEVAR症例
 13 Powerlink 嚢状瘤

索引

QR動画一覧
内腸骨動脈瘤の末梢分枝への選択的カニュレーションが難しい例でのテクニック
Excluder メインボディとレッグの解剖学的deployment
中枢側のtouch up(deflate 時にバルーンが中枢側に押しあがる)
Push & Pull 法
用手的腹壁圧迫法
ガイドワイヤの先端が対側ゲート付近にあることを示すサイン(ペコペコサイン)
Type I A エンドリーク
Type IV エンドリーク
造影剤のはけが悪い腎梗塞の例
翼状針からの最終造影(コイル塞栓された内腸骨動脈の描出)

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その充実した内容は読者の期待を裏切らない
書評者: 石丸 新 (戸田中央総合病院・副院長)
 待望の大木隆生編集『腹部大動脈瘤ステントグラフト内挿術の実際』が発刊された。

 海外を中心に企業製デバイスが臨床導入され始めた1995年以降,蓄積された膨大な治療経験を基に大きく進化を遂げてきたステントグラフト内挿術は,今日に至りもはや大動脈瘤治療において主役の地位を得たと言っても過言ではない。

 編者が米国アルバートアインシュタイン大学で血管内治療の開発に挑戦し続けた10年は,まさしくステントグラフトが黎明期から成熟期へと向かう時期にオーバーラップしており,この間の経験に加えて帰国後の豊富な治療実績が本書に結実したといえる。そのコンテンツの前半は海外の大規模臨床試験と日本ステントグラフト実施基準管理委員会が行う追跡調査の結果を踏まえた現状分析と将来展望に始まり,治療戦略の立案に欠かせないCTの読影,手術室のセットアップあるいは周辺機器など,術前に準備すべき事項が余すところなく記載されている。次いで,ステントグラフト内挿術の基本手技について解説されているが,これにはシース挿入経路となる末梢動脈の処理法,塞栓症への配慮と対応策あるいは外科手術との対比による成績評価などが含まれており,血管外科医である編者ならではの識見に裏付けされた記述として見逃せない。

 本書には,2010年現在わが国で市販されている腹部大動脈瘤治療用ステントグラフト3機種のすべてについて,各々がもつ構造・機能特性に即した適応判断と手技上の要点が解説されている。さらには,筆者らの豊富な経験を基に,本治療の実施医にとって必見ともいえるトラブルシューティングの粋が網羅され,術後晩期エンドリークやその修復法,そして特殊例への工夫を凝らした治療法の提示へと続く後半はまさに圧巻といえる。

 本書は,先に出版され高い評価を受けている 『胸部大動脈瘤ステントグラフト内挿術の実際』 と同様,平易で必要かつ充分な説明文,的確に配置されたイラストならびに鮮明なX線画像により構成され,その充実した内容は大木隆生教授と氏が率いる東京慈恵会医科大学血管外科教室が世に問う叢書として読者の期待を裏切らない。

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