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ブルガダ三兄弟の心電図リーディング・メソッド82

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ブルガダ症候群を発見した医師として名高いP. Brugadaを中心に、その三兄弟が非常に大切にしている82の心電図を紹介。厳選された心電図自体も大変貴重であるが、ユニークで分かりやすいイラストとポイントを絞った解説文から、三兄弟が進める謎解き(心電図診断)が明らかになる。心電図を学び始めたレジデントはもちろん、EP、アブレーションを行う不整脈専門医にも役立つtips & tricksが満載。
野上 昭彦 / 小林 義典 / 鵜野 起久也 / 蜂谷 仁
Josep Brugada / Pedro Brugada / Ramon Brugada
発行 2012年07月判型:B5横頁:232
ISBN 978-4-260-01544-8
定価 4,950円 (本体4,500円+税)

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訳者の序日本語版 推薦の序

訳者の序
 このたび,Josep,Pedro,RamónのBrugada兄弟の執筆による“Our Most Beloved Electrocardiograms”の日本語版『ブルガダ三兄弟の心電図リーディング・メソッド82』を出版できることになったことは大きな喜びです.
 Brugada先生のお名前はBrugada症候群の発見者として世界的に有名ですが,1993年のBrugada症候群発表以前からの多くの臨床不整脈に関する論文を報告されており,私はそれらの論文を通じて不整脈を学んできました.その内容は上室頻拍から心室頻拍へと多岐に及び,それらの論文の一編一編が教科書のようであったのを今でも覚えています.

 個人的にBrugada先生たちの「秘密」に直接触れられたのは2005年のことです.このとき,わが国でPedro先生とJosep先生による心電図判読コースが開催され,私もmoderatorとしてそれに参加させていただきました.そのとき,両先生の心電図講義を目の当たりにして,先生方が優秀な科学者であると同時に熱心な教師でもあることがわかりました.そののちもご縁があり,Pedro先生主催のEP fellow programのアジア版でもお手伝いさせていただくこととなり,不整脈学に留まらない先生の心臓病教育の奥深さに再び感激しました.

 今回,日本語版でお届けできるようになった本書には,Brugada先生たちの不整脈・心電図教育のエッセンスが詰まっています.本書は82題の問題形式になっていますが,そのすべては体表面心電図からの設問です.それは,“すべての不整脈診断は注意深い体表面心電図の観察なくしては始まらない”というBrugada先生の教えから成り立っています.この背景には昨今の多彩な医療機器を駆使した不整脈検査に対する反省もあります.解説部分も単なる回答ではなく,ラダーグラムで体表面心電図を解き明かし,さらには先生方の哲学までもがウィットに富んだ文章で表されていますので,読み物としても楽しいものです.また,設問にはそれぞれ「不思議な」タイトルとその心電図を捧げる不整脈学の先達たちのお名前が記されています.若い読者にはあまりなじみのない先生方のお名前もあるかもしれませんが,そのタイトルやその先生方に捧げられている理由を考えてみるのも一興です.ぜひ,楽しみながらこの本の一頁一頁をめくって,Brugada三兄弟の愛すべき心電図をご堪能ください.
 最後に,本書の出版にあたり企画の段階からご尽力いただいた医学書院の大野智志氏に感謝の意を表したいと思います.

 2012年5月
 訳者を代表して
 横浜労災病院不整脈科
 野上昭彦


日本語版 推薦の序
 我々が執筆した書籍の日本語版が発行されると聞き,とても驚き,とても嬉しく思っている.この話を聞いたとき,我々の執筆作業が佳境を迎えていた際に,いつも雨ばかり降っているベルギーのフランドル地方で,思いがけず晴天が続いたことをふと思い出した.
 この書籍が日本の医師たちにも母国語で読まれ,日常の診療に役立ててもらえることを願っている.また,この企画を実現させてくれた,野上昭彦先生とほかの先生方にも感謝の意を表したい.
 我々が厳選した心電図を読み解くことによって,日本の読者の方々にも心電図診断の興味深さを味わってもらいたい.そうすれば,今回取り上げた82の心電図はまさに“pearl”であることがおわかりいただけると思う.

 2012年5月
 Pedro, Josep and Ramón Brugada



 我々の人生には,“どうしてそれをしたの?”という問いかけが常に存在する.幼児期に始まり,思春期,成人した後にも延々と続き,きっとそれは死を迎えるまで終わらない永遠の問いかけである.
 もしあなたがまだ幼い子どもであったとしたら,この問いかけはたいてい,何か悪さをしたときで,父親か母親からのある種の叱責の意味合いを帯びているであろう.
 もしあなたがティーンエイジャーであったとしたら,ほかの人から同様の問いかけがあれば,もっと感情が込められ,同意を求めるような意味合いになるかもしれない.“もう何をすべきか分かっているよね!”といったふうに.
 大人になると問題はさらに複雑になり,問いかけが向かう先が自分自身に変わっていく.“どうして私はそれをしたのだろう?”と.つまり,今回の我々三兄弟の立場に置き換えてみると,“どうしてこの本を書いたのだろう?”という自問になるかもしれない.
 この答えを見つけることはなかなか難しいが,あえて挙げてみるならば……

1)金儲けのため.いやいや,多くの人がまず思いつくかもしれないが,残念ながら,そうではない.むしろ本を執筆するには,儲けよりも出費の方が多い場合もある.
2)節税のため.もちろんこれも違う.
3)執筆を口実として,美しい島でバカンスを楽しむため.これは少し当たっているかもしれない…….
4)自分たちの権威を広く知らしめるため.
5)友人と夜遅くまで,大好きなカード遊びを楽しむため.

 かくして我々三兄弟は,ベルギーのフランドル地方にある美しい村,Sint Martens-Latemで本書の原稿を執筆した.この村はたいてい雨が降っているので,草木が青々としていてとても美しいところである.
 今回取り上げた82の心電図は,我々がこれまでに経験した,文字通り山ほどもある中から厳選したもので,いずれも愛着が深いもの(Most Beloved)ばかりである.それゆえ,これらの心電図を解説する作業はとても楽しく進んだが,本当はそれぞれの心電図にゆかりのある友人たちとディスカッションしながらまとめたいという気持ちがあった.残念ながらそれは叶わぬことであり,その代わりに82の症例それぞれに捧げたい友人の名前を挙げさせてもらった.もちろん,名前を挙げることのできなかった友人も数多くいるので,この場を借りて謝罪と感謝の意を記しておきたい.

 さてさて,この本の原稿が完成したときには,いつも雨が降っているこの地域ではとても珍しいことに,2日間にわたって青空を見ることができた.これも,我々の友人たちからの祝福があったからかもしれない.

 我々三兄弟は,この本を書き上げることを通じて,とても知的な喜びを得ることができたような気がしている.この知的な喜びが読者にも伝わり,皆さんの知的な刺激となるよう切に願っている.

 Pedro, Josep and Ramón Brugada

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1 似て非なるもの
2 離ればなれの心房
3 頻脈なしの頻脈発作
4 スピード・アップ
5 スピード・アップII
6 高く低く
7 大当たり
8 期外収縮で死んだり生き返ったり
9 踊るP波
10 心房二段脈,それとも?
11 混乱しないで!
12 周期交互脈
13 賢ければEPは不要
14 名作
15 完全ブロックは完全に死んでいる訳ではない
16 心室捕捉のまれな一例
17 房室結節二重伝導路の確認~前項からの続き
18 右室の心拍数は?
19 イパネマの娘のキス
20 偽性不完全右脚ブロック
21 誤ってごみ箱に捨ててしまった心電図
22 自己ペーシングにより心室頻拍が停止
23 細かく分析することにより違いがわかる
24 “P”を探せ
25 偽性torsade de pointes
26 なまけものの副伝導路
27 終わりのない物語
28 そこにあるすべての情報を活用せよ
29 似合いの相手
30 手がかりはアクセサリーにあり
31 降参の準備を
32 心房は回路の必須領域か
33 発作性房室伝導
34 誰が誰?
35 自己をエントレインせよ
36 法則に従わない
37 もう見るべきでない心電図記録
38 奇妙な形をした右脚ブロック
39 どうかアブレーションすることなきように! こいつはいい奴だ
40 止まれ,そして行け
41 頸動脈洞マッサージによる頻拍の奇異性誘発
42 R'
43 普通ではない心房粗動
44 2つの所見があるときは
45 注意深くよく見て
46 心電図を理解すること
47 特発性でかつ2種類も
48 恐ろしい頻脈の停止
49 二度死ぬ(止まる)とき
50 ほんの数ミリセカンドが大きな違い
51 栄養失調のP波
52 心電図の奏でる音楽
53 心臓から遠く離れたところで
54 捻れ回り
55 私たち兄弟の一番大切な宝
56 ちょうど真ん中に
57 コンセプトは変化している
58 P波に乗る
59 ブロックし続けよう
60 小さいけれど素晴らしい詳細解析
61 喜ばしき例外
62 難しい局在診断
63 非常に遅い……
64 両方向旋回
65 異形成でなく……
66 自然の助け
67 時計回り
68 問題解決
69 P波の幅
70 刺激伝導系の捕捉
71 拡張期の観察
72 最小の症例
73 三冠
74 すべての誘導を見よ
75 2つの波のサーフィン
76 アドレナリンが役立たない場合
77 心房にも障害が生じている
78 また別の副伝導路
79 1対1から2対1へ
80 ウォルフ
81 知恵を絞って
82 非常に短い-ラスト・メッセージ

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メソッドを読み解くことで実力を確認できる,玄人向けの教科書
書評者: 相澤 義房 (新潟大名誉教授/立川メディカルセンター研究開発部部長)
 『ブルガダ三兄弟の心電図リーディング・メソッド82』(原書“Our Most Beloved Electro cardiograms”)が翻訳され,医学書院から上梓された。原著者は,あの高名なブルガダ三兄弟で,突然死蘇生例の中から特徴的な心電図所見を示す8例を報告し,これが今日Brugada症候群として知られるようになった。これは1992年の出来事であり,20年を経てその業績をたたえ2012年のヨーロッパ心臓病学会(ESC)で表彰されている。以前,Pedro Brugada教授がBrugada症候群,私がJ波関連特発性心室細動,そしてSilvia Priori教授が遺伝性不整脈と,ウィーンのESCでシンポジウムの機会をつくっていただいたのも10年以上昔の懐かしい思い出である。三兄弟の中で,とりわけ長男のP. Brugada教授はユーモアにあふれ,クリスマスカードならぬクリスマスメールを送ってくれるが,これが節約なのかエコをしているのかといった物議をかもしたりしている。

 さて,本書の内容であるが全体で82題の心電図(不整脈)を取り扱っている。おのおの,不整脈の名前ではなくユーモアを含んだしかも本質的なタイトルが付けられている。そしてその解説(回答)は簡潔に,キーポイントを挙げるという形をとっている。取り上げられた不整脈は誰もが目にするはずのもので,決してまれなものに限ったり,奇をてらったものではない。ある程度ありふれた不整脈でありながらも,随所にさすが三兄弟と言うべき心電図診断における心がけが見てとれる気がする。

 1題1題がわかるには,心電図と不整脈の基本の理解が要求される。しかしこれらを身につけていれば,正しく解釈できると思われる。その意味で,読者は心電図,不整脈の実力がどれ程身についているかの自己判定ができるし,本文に指摘されたポイントであやふやなことがあれば,それを自ら教科書などで確認することで自分の力を伸ばすこともできる。したがって,本書は初心者向きというより,“世の中に通用するには,これだけの心電図と不整脈の理解が必要である”といった,いわば玄人向けの教科書ともいえる。

 訳はわが国の中堅の実力者による。心電図の解釈がブルガダ兄弟の解釈で良いかどうかを慎重に吟味しながら,訳に当たったのではないかと想像している。不整脈専門医がわが国で確立されつつあるが,そこで要求されるレベルは本書を読み解くことができる,あるいはここでの解釈を理解し共有できるということであるかもしれない。

 おのおのの心電図は彼の友人である不整脈学者に捧げられているが,その意図もまたささげられた人の反応も,ここでは知ることはできない。
従来の教科書では体験できない斬新な不整脈の解読メソッド
書評者: 大江 透 (心臓病センター榊原病院研究部長)
 Josep,Pedro,Ramonの三兄弟全員がそろって不整脈の世界的権威であることは,不整脈の歴史上まれなことである。また,研究面では臨床電気生理,分子生物学,臨床不整脈と異なる分野で活躍しているが,三人とも皆よき臨床家であり,教育にも非常に熱心であることは驚異である。私は同じ不整脈を専門としている関係で,三人全員と知り合うチャンスがあり,兄弟三人がお互いに異なる個性を持ちながらも非常に仲の良い兄弟であるということに感心している。

 このたび,ブルガダ三兄弟が協力してそれぞれが経験したたくさんの不整脈症例から,非常に興味がある症例や教育的に有用な82症例をまとめて『Our Most Beloved Electrocardiograms』(原書)と題して出版したことは,不整脈の教育や治療に携わっている者には大変な朗報である。また,この本が『ブルガダ三兄弟の心電図リーディング・メソッド82』として日本語に翻訳されたことは,日本の医師にとって大変喜ばしいことである。

 この本は,wide QRS tachycardia, narrow QRS tachycardiaおよび難解な12誘導心電図に読者が遭遇した状況を想定して,おのおのの心電図から診断の鍵となるポイントを読み取るコツ,特にP波・QRS波の形状,T波・QRS波に隠れているP波の同定,P波とQRS波の関係などを注意深く調べることの大切さを教えてくれる。さらに,これらの所見からどのように正確な診断に導くかの思考過程を詳しく解説してくれる。その意味では,日本語の題名である「心電図リーディング・メソッド」を文字通り実践してくれる。このような斬新な不整脈の解読のメソッドにより,従来の教科書からでは体験できない勉強ができる。実際,提示された心電図を自分で考え,次にその解説を読んでいくと,まるでブルガダ三兄弟が直接説明してくれるような気になる。また,一つ一つの症例にユーモアに富む題が付いているが,これも解説を読むと題の意味が理解される。

 この『Our Most Beloved Electrocardiograms』の日本語訳を担当した4人は,私と同様にブルガダ三兄弟と親交がある。日本で開催されている心電図判読コースをブルガダ三兄弟と一緒に支えてきた先生なので,ブルガダ三兄弟が伝えたい意図を読者に正確に伝えてくれている。

 この本は,前期・後期研修生はもとより,不整脈に出合う機会が多い救急医療や循環器治療に携わっている医師,さらに不整脈の教育を担当している先生にとって楽しく勉強できる本である。
心電図を読むことへの興味をかき立ててくれる書
書評者: 三田村 秀雄 (東京都済生会中央病院心臓病臨床研究センター長)
 “The Kiss of the Girl from Ipanema.”

 これが何のことかを知るだけでも一読の価値がある。

 心電図の解説書は次から次へと出てくるが,どれを読んでも本当に読めるようにはならない,多くの読者がそう嘆いているに違いない。確かに心電図は深い。特に不整脈の読みは基礎的な電気生理学的法則を理解した上で,後は幾何学の問題をパズルのように解いていく頭の体操みたいなものである。心電図の診断基準を羅列しただけの本を読んだだけでは,読めるようになった気がしないし,実践にも役立たない。心電図は読む人の「好奇心」と「ねちっこさ」がなければ,猫に小判でしかない。でもそのきっかけとなる興味をかき立ててくれる導火線の役割を担うのが本書である。

 できる人はその推理の進め方にセンスと冴えがある。名だたる不整脈学の権威は皆,心電図が好きで,皆,それを読みこなす才能を兼ね備えている。あたかも先天性のように。いや,もしかしたら本当に先天性なのかもしれない。そう思わせるのも本書の執筆者が,あのブルガダ三兄弟だからにほかならない。

 Pedro,Josep,Ramonの三兄弟はスペイン生まれで,バルセロナの大学卒業後にこの道に入ることになる。その後,各人が世界を股にかけて活躍中である。後にブルガダ症候群と名付けられた最初の症例報告は1992年,PedroとJosepが発表し,Ramonは1998年,在米中にNatureに発表された特発性心室細動の分子生物学的研究で有名になった。ちなみにブルガダ症候群という名前は1996年にJACCに掲載されたわれわれの論文で初めて使用したものであるが,白状すると,ブルガダ症候群と名付けてしまえば査読者のブルガダ某がきっと採用してくれるだろうと読んだゴマすりがきっかけである。

 さて本書の内容であるが,三兄弟が長年かかって大事に集めた愛すべきケースが全部で82個,取り上げられている。いずれも珠玉の心電図ともいえるようなものばかりである。個人的には心房梗塞の心電図につい見とれてしまった。それぞれ代表的な記録がまず,右側ページに示され,そこには最初に掲げたような奇抜なタイトルが付いている。それだけで,読者はそこに何が秘められているのか,探索せざるを得ない気持ちになってくる。一例ごとに工夫を凝らしたタイトルが付けられており,それが何の意味なのか,深読みするのもまた楽しいが,訳者の野上昭彦,小林義典,鵜野起久也,蜂谷仁の各先生にとっては心電図の解読よりもこの翻訳が難しかったに違いない。

 面白いのはそれぞれの心電図にゆかりのある人達の名前があげられており,その人達にささげる,という形式を取っていることである。なぜこの人にささげるのか,と変なことを考えるのもまた一興である。ブルガダ波形の心電図はCharles Antzelevitchにささげられていた。この心電図は当然ながら「Our most precious jewel」として提示されているが,なぜかこれが一番,平凡な心電図に見えてしまったのは私だけであろうか。Michael Haissaguerreにささげられたのは「Concepts are changing」と題された心電図で,これなんかもP on Tで始まらない肺静脈起源の心房期外収縮が紹介されていて面白かった。

 とにかく楽しみながら,深みにはまっていくのが本書である。ブルガダ三兄弟がこんな部分に興味を持ったのだ,と知るだけでも面白い。多分,翻訳者達も苦労しながら,でも存分に楽しんだに違いない。今度は読者が楽しむ番である。

 そういえば,「Super-wolff」,これもこの本に教えてもらったすてきなサインである。「イパネマの娘のキス」も多分,一生忘れないだろう。何なのかは本書を読んでからのお楽しみ。

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