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イラストレイテッド泌尿器科手術 第2集
図脳で学ぶ手術の秘訣

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著者のオリジナルイラストにより泌尿器科手術の全貌を、さらに見やすく、あらゆる症例にきめ細かく対応できるテクニックと考え方を提示。前書に引き続き、より幅広くかつディープな術式を目前に展開してみせる。「図脳」のコンセプトに根ざした、誰にでもわかりやすく記憶に残る手術イメージを提起。
加藤 晴朗
発行 2011年03月判型:A4頁:352
ISBN 978-4-260-01103-7
定価 16,500円 (本体15,000円+税)

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推薦の序(小川 秋實/西澤 理) /はじめに(甘い蜜と不満足力)(加藤 晴朗)

推薦の序
 本書は泌尿器科手術の手順をイラストで示したものである。それぞれの手術手技を目で追って理解できる。同じ術式でも病態に応じたバリエーションを示し,なかにはごく稀と思われる病態への手術もある。それにしても,このように多数のイラストを載せた手術書は他にないのではないか。
 イラストはすべて著者が新たに描いたものである。いわば,著者の手術記録といえる。手術記録はイラストを入れておくと一目で手術の概要がつかめる。しかも,局所解剖と手術手順を熟知した人が描いたイラストは文字よりわかりやすい。これが著者の考えである。急いで手術手技を検討するさいに開きたい本である。
 著者の加藤晴朗講師は,付和雷同しない強い個性の持ち主である。医学部卒業後,一か月余り中国を放浪旅行してから教室に入ってきた。スポーツマンでめっぽう足が速かった。若いころから漫画的イラストを描くことに卓越していた。膀胱癌手術が圧倒的に多いエジプトに自ら希望して留学し,手術の真髄を勉強してきた。このような個性と才能があって本書が生まれたといえる。コラム欄のエッセーも著者の見解がはっきり出ていて,なかなか面白い。「イチローは何故怪我をしないか?」についての話は秀逸である。
 内視鏡手術・ロボット手術が増え,開放手術は減ってきているが,開放手術がなくなることはないと思う。外傷,奇形の場合は開放手術が必要である。また,不意の大出血,高度癒着の剥離,他臓器の視触診が必要な場合も開放手術が不可欠である。それに,内視鏡手術・ロボット手術でも対象臓器への操作が開放手術と本質的に違うわけではない。今後も本書の価値が色あせることはないであろう。
 名人芸の手術は誰もができるわけでない。名人芸の恩恵は一部の患者に限られる。これに対し,理想的な手術手技は一定の修練をしたものが行えば同じ結果が出るものである。したがって,手術の教科書はわかりやすく再現性のある手技を教えるものでなければならない。難易度の低いものから高いものへ,標準的なものからバリエーションへと進むべきである。本書はこの点をある程度意識して書かれているように思う。
 ウイリアム・オスラー博士は「医学はサイエンスに基礎を置くアート」といった。この場合のアートは医療技術を指す。手術はアートであり,それを説明するイラストもまさにアートである。著者の造語「図脳」は,ややわかりにくいが,「サイエンスに基礎を置くイラスト」のことであろう。手術手技の説明は写真よりイラストがよいという主張には全く同感である。しかも,画才がある医師が描いたイラストはプロのイラストに劣ることはない。
 著者は,イラストはまだ完璧ではないという。取りあげなかった手術手技もある。手術の理想は不必要なものを取り除いた単純明快なものである。手術のイラストもそうあってほしい。手塚治虫はじめ秀でた漫画家の絵には動きがある。手術も動きである。ハサミの動き,鉗子の動き,手の動きなどが如実にわかるイラストなら素晴らしい。著者のたぐい稀な才能を活かして,これからも読者を惹きつけるイラスト手術書が出版されることを期待している。

 2011年 立春を前に
 信州大学名誉教授 小川 秋實


推薦の序
 1973年4月に外科で研修を開始したときから,1996年6月に信州大学に着任するまでの間,八戸市民病院外科,秋田大学泌尿器科に所属していた。いずれの施設でも手術記録の様式は文章と皮膚切開,術野,閉創の3枚のイラストをつけることが一般的であった。3枚のみのイラストをつけることのみでもうまく絵を描けない場合があり,負担を感じる仕事であった。カナダの留学時には,手術が終わると更衣室で術者が受話器にむかって手術所見を口述している様子をみるにつけ,イラストを描く必要のないところに魅力を感じたほどであった。その苦手な人が多いと思われる手術のイラストを描くことに,加藤晴朗先生はエネルギーと時間をまったく気にせずに一心不乱となれる才能をもっている人である。信州大学医学部臨床研究棟の耐震改修のために,本来の教室のあった臨床研究棟の4Fから別な建物である研究棟の7Fに,2009年7月24日から2010年3月5日までの224日間を小生と加藤先生を含めた5人で,同じ部屋で過ごす機会があった。小生がこの間の土曜日,日曜日,祭日に部屋にいくと,ほとんどの場合,加藤先生が部屋の机に向かっていた。何をしているのか? と聞くのも躊躇されるほど集中しており,家族サービスをしなくても大丈夫なのかと心配をしていたものである。いずれにしても,本書『イラストレイテッド泌尿器科手術〈第2集〉』のイラストと取り組んでいることを聞き出せたのは,大分あとになってからであったが,加藤先生が本書の執筆に費やしたエネルギーと時間は余人には計り知れないものである。“手術のイラストを描き続けて感じたことは,習慣になると描かずにはいられない…”との彼の言葉は正に事実である。
 本書の構成は1章 膀胱の手術,2章 骨盤内および後腹膜疾患,瘻孔,尿膜管疾患の手術,3章 前立腺の手術,4章 陰茎・尿道の手術,5章 腎および副腎の手術からなっている。手術例について撮影したビデオや写真を示すのではなく,手術手順にしたがい,step by stepの操作ごとの手術野を描いた独特の雰囲気のただようイラストで構成されており,読んで観ていると加藤先生と一緒に手術に参加しているような気がしてくる。どの章も手術を円滑に行うために有益であるが,とくに,4章で取り上げている尿道狭窄の項は,加藤先生への長野県外の他県からの手術依頼患者に対する難しい手術経験例について描かれており,手術を成功させるために不可欠なエッセンスを得ることができると思われる。
 外科手術は進化と革新がすさまじい速さで起こっており,将来的には腹腔鏡手術やロボティック手術が主流となることが予想される。そのような時代の流れのなかで開放手術から腹腔鏡下手術やロボティック手術への移行を目指している外科医にとっても,本書は開放手術を中心とする内容ではあるものの,読み,観ることで得をする内容を満載していると信じるものである。読者の先生方には手術を行うたびに本書を読み,観ることをお勧めする次第である。

 2011年 厳冬
 信州大学医学部泌尿器科教授 西澤 理


はじめに(甘い蜜と不満足力)
 “甘い蜜”の味に誘われて,新たに『イラストレイテッド泌尿器科手術〈第2集〉』を描き上げた。前回の『イラストレイテッド泌尿器科手術』は,苦しみながらあるいは楽しみながら完成にこぎつけたが,その満足感と,またそれが大変好評だったようで,皆様の励ましやお褒めの言葉が私にとっての“甘い蜜”となった。しかし,前著書の1,000枚以上?(医学書院の方が数えてくださった)のイラストのなかには,駄作も多い。解剖学的に不確かなものもある。またイラストを描き続けるうちに上達してくるので,描き始めた初期のものほどへたくそに見えてくる。結局,満足感と不満足感が混在しているといったほうが,正直なところである。図脳論のコラムで取り上げたが,70歳を過ぎた北斎が今までの画業はまだまだ取るに足らずと訴え,ダヴィンチが未完成の画家と呼ばれるのも,やはりなかなか「完成」と満足感を得ることができなかったためではないだろうか。私も達成感の底に沈澱する,この不満足感を「不満足力」とでも呼ぶべき力に変えて,新たにイラストを描き貯めて再び,今回の出版となった。
 また前回,こんな“甘い蜜”を味わうことができるなら,もう少し早く,手術書を描き始めればよかったかなあという後悔もあった。しかしよくよく吟味してみれば,やはり時期というものはある。自分の手術の技量や経験値のみならず,内視鏡手術の導入で,以前に比べて格段に外科解剖がわかるようになったし,膜構造の認識も意識するようになった。もし10年前に手術書を描き始めていたら,誤魔化しの多いものとなり,やり直しが必要になるか,途中で挫折していたかも知れない。
 ただし,1つだけ皆様にアドバイスできるとしたら,仕事に限らずなんであっても「やりたいことはやってしまおう!」ということである。時期が熟したらとか,もう少し経験を積んでからなどと言っていると,なかなかスタートがきれない。図脳論的見地からこの重要性を説明させていただければ,目標や目的をもって何かを完成させようとする機会をもてば,意識の変革が起こり,モノの見方が変わるのである。また次々に疑問や好奇心が湧いてくるのでインプットの増大が起こる。そして観察眼に磨きがかかるのである。私の例で言うと,この手術書のイラストを描くことを目的にしているが,イラストを描くことを前提に手術をすると,手術の見方,準備も変化するのである。よいイラストを描こうと思えば,よい手術をしなければならない。よい手術をするためにはよい準備をしなければならない。不思議なもので他分野からも多くを学ぼうとする行為も生まれてくる。このようにして自分自身の図脳が鍛えられているような気がする。したがって何事であっても,未熟だからといってスタートをためらうよりも,やりたいことがあれば機会を作ってしまうことのほうが,目的や問題意識をもってスタートしてしまうほうが何かを完成させるのみならず,その領域での知識の蓄積や技術の向上につながると思う。
 現代の手術書は新たな技術の進歩,外科解剖の新知見などに対応が求められる。仮に3年間を手術書完成の目標にしても,その間,新たな知見が更新されるため,どうしても時代遅れになる可能性を否定できない。例えば拡大リンパ節郭清が有用であるという,新たな知見にも手術書は対応しなければならない。今や時代は,腹腔鏡手術からさらにロボティック手術の時代に移行しつつある。このような時代に本書のような開放手術中心の手術書が受け入れられるかどうかという危惧もある。
 しかしながら手術がうまくなるには,図脳に多くの図像のテンプレートをもつことが有利であることはどの様式の手術でも変わらないであろう。拙著がその一助になれば幸いである。内視鏡手術を目指す外科医が,この本で得をすることがあっても損をすることはないと信じている。

 2011年2月
 加藤 晴朗

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1 膀胱の手術
 A 男性の根治的膀胱全摘除術
  (1)皮膚切開から開腹および腹膜の切開
  (2)骨盤リンパ節郭清(側方靱帯の処理を含む)
  (3)後方アプローチおよび後方靱帯の処理
  (4)前方アプローチ〔背側静脈群(DVC)の処理〕
  (5)尿道の離断または摘出
 B 女性の根治的膀胱全摘除術
  (1)腹膜の切開
  (2)後方アプローチ
  (3)前方の操作(尿道摘出を含む)
 C 腹膜外アプローチによる膀胱全摘除術
  (1)男性の場合
  (2)女性の腹膜外膀胱全摘除術:子宮と腟も温存する場合
 D 特殊な膀胱全摘除術
  (1)放射線照射後のサルベージ膀胱全摘除術
  (2)子宮摘出術後の膀胱全摘除術
  (3)腟壁に浸潤あるいは転移のある場合
  (4)腎尿管全摘除後の膀胱全摘除術
 E 膀胱部分切除術
2 骨盤内および後腹膜疾患,瘻孔,尿膜管疾患の手術
 A 骨盤内腫瘍
  (1)膀胱前腔腫瘍の手術
  (2)膀胱後腔腫瘍の手術
  (3)神経原性腫瘍
  (4)膀胱悪性褐色細胞腫の骨盤リンパ節再発
 B 後腹膜腫瘍など
  (1)後腹膜脂肪肉腫の手術
  (2)右腎上部にある巨大後腹膜腫瘍
  (3)精巣腫瘍化学療法後の後腹膜リンパ節郭清
  (4)後腹膜線維症の手術
  (5)下大静脈後尿管の手術
 C 膀胱腟瘻,膀胱損傷,膀胱腸瘻の手術
  (1)膀胱腟瘻の手術
  (2)医原性膀胱破裂の手術
  (3)手術後尿管腟瘻
  (4)膀胱腸管瘻の手術
 D 尿膜管疾患の手術
  (1)尿膜管膿瘍
 E 尿管腫瘍に対する腎温存手術
  (1)単腎症例の尿管腫瘍
 F 尿路再建補稿
  (1)回腸の遊離
  (2)腸管-腸管吻合
  (3)尿管-腸管吻合
  (4)特殊な回腸導管
  (5)特殊なループ尿管皮膚瘻
  (6)回腸新膀胱2種
  (7)禁制尿路変向
3 前立腺の手術
  (1)前立腺全摘除術における骨盤リンパ節郭清
  (2)恥骨後式前立腺全摘除術
4 陰茎・尿道の手術
 A 陰茎癌の手術
  (1)環状切除
  (2)陰茎部分切除術
  (3)陰茎全摘除術
  (4)陰茎癌のリンパ節郭清
 B 尿道摘出術
  (1)膀胱癌に対する膀胱全摘除時の尿道摘出術
  (2)Prepubic urethrectomy
 C 尿道狭窄または断裂の手術
  (1)高齢者の原因不明の狭窄
  (2)尿道下裂術後の尿道狭窄
  (3)球部尿道狭窄または断裂
  (4)後部尿道断裂
 D 球部尿道を用いた禁制膀胱瘻
  (1)球部尿道を禁制弁に用いた特殊な膀胱瘻
 E 女性の尿道疾患
  (1)傍尿道口嚢胞摘出術
  (2)尿道憩室摘出術
  (3)女性の骨盤骨折に伴う尿道断裂
5 腎および副腎の手術
 A 根治的腎摘除術
  (1)経腰式アプローチ(腹膜外アプローチ)
  (2)経腹式アプローチ
 B 大きな腎腫瘍に対する根治的腎摘除術
  (1)大きな右腎腫瘍
  (2)大きな左腎腫瘍
 C 腫瘍塞栓を伴う場合
  (1)右腎癌に伴う場合
  (2)左腎癌に伴う場合
 D 腎部分切除術
  (1)マイクロターゼによる部分切除
  (2)腎動脈をクランプする腎部分切除
  (3)嚢胞が腫瘍の近くにある場合
  (4)部分切除におけるさまざまな工夫
  (5)腎洞近傍の腫瘍
  (6)馬蹄鉄腎
  (7)巨大な右腎血管筋脂肪腫
  (8)メタボリックシンドロームの罠
  (9)右腎動脈のバリエーション
 E ドナー腎摘除術
  (1)左ドナー腎摘除術
  (2)右ドナー腎摘除術
 F 腎尿管全摘除術
  (1)腎盂癌および上部尿管癌における所属リンパ節郭清
  (2)下部尿管癌に対するリンパ節郭清
  (3)馬蹄鉄腎に対する腎尿管全摘除術
 G 特殊な腎摘除術
  (1)半腎摘除術
  (2)巨大水腎症
 H 副腎摘出術
  (1)小切開副腎摘出術
  (2)大きな副腎腫瘍の摘出術

おわりに
索引

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切り分けられた手術場面の豊富なイメージで困難手術にも対処できる刺激的な手術書
書評者: 筧 善行 (香川大教授・泌尿器科学)
 これは通常の手術書とは全く異なる,加藤晴朗先生の歴戦記ともいえる書である。

 昨今は腹腔鏡手術の頻度が増え,手術前後の予習・復習は自分やほかの術者の動画を利用される先生方が多いと思う。加藤先生自身も動画による予習・復習の効果を大いに認めておられる。一方,本書はすべて開放手術に関する加藤先生の豊富なイメージ図により構成されている。もちろん動画とは全く異なる教材であるが,手術がいくつかの場面に切り分けられ,設計図を見ているような心持ちにさせられる。

 加藤先生は,術者は手順に沿った場面ごとのイメージ図を徹底的に暗記して手術に臨むべきだと述べておられる。このような考え方は,漫然と開放手術をしていた時代よりも,腹腔鏡手術の時代になってむしろ意識されるようになったコンセプトではないだろうか。要するに一つ一つの作業にけりをつけて前へ進むやり方である。

 多くの手術書は標準的な解剖学的事項に基づいた,最もスムーズに進行した手術を想定したイラストと記述で構成されている。個々の症例でのバリエーションや障害は各自が臨機応変な対処を行いなさい,といういわば総論を提示し各論は読者にお任せするスタンスである。本書はそれとは全く逆の切り口になっていて,全編これ各論,という編集スタイルである。これを単なる症例の記録ではないかと批判される方もおられるかもしれない。しかし,私はそうは思わない。ある程度の経験を積んだ指導医クラスの先生方にも読み応えがあり,刺激的な手術書である。開放手術に対してあらためて意欲をかき立てられる内容といえる。一つ一つのイメージ図はプロの画家に依頼された妙にリアルなものとは異なり,どこかDr. Blandyの手術書に通じる線描画である。各臓器にはもともと輪郭はないのであるが,加藤先生の経験と自信に裏付けされた線で区切りや仕分けがなされている。

 もともと前作が発刊されたときには第2集は予定されていなかったため,初回本では第1集とは命名されていなかった。あまりに評判が高く,なおかつ加藤先生の飽くなき挑戦心と職人魂により次々とイメージ図が集積され,とうとう今回の第2集の発刊に至ったようである。第1集と膀胱全摘や前立腺全摘などのテーマは重複しているが,中身は少しずつ異なっていて,加藤先生自身の経験の蓄積も垣間見られる。また,第2集では腎部分切除術にかなりのページ数が充てられており,大変参考になる記述が満載である。折しも腎癌における部分切除の適応拡大が叫ばれている中,第2集の目玉ともいえる部分である。それら以外にも膀胱腟瘻や尿道断裂の手術など各術者がそれほど多く経験できない困難手術にも紙面が割かれていて大変参考になる。

 困難な手術を終えられた直後に,一心不乱になって手術を回想し,一つ一つ記録にとどめてこられた加藤先生の姿勢には脱帽するほかない。伊能忠敬の日本全土の地図作成に匹敵する根気と「図脳」力である。第3集,第4集が待望される。
一段と冴えた“図脳”イラストで手術手順を箇条書きしたユニークな手術書 第2弾
書評者: 岡根谷 利一 (虎の門病院・泌尿器科部長)
 多数の秀逸なイラストを用いて手術手順を箇条書きにしたユニークな手術書である。注視する必要のない箇所は書いていなくて,“図脳”が“頭視(?)”した関心領域のみを描いている。確かにユニークな手術書だと思うし,さまざまな内容を網羅していてなかなか真似のできるものではない。

 加藤晴朗先生とは学生時代から信州大学の医局まで30年以上の付き合いであるが,彼でなければなかなかこのような本は書けないと思う。短距離走がめっぽう速いのと絵がうまいのには以前から脱帽していた。旅行はインドや中国,バングラデシュ,留学はエジプト,欧米は行きたがらないという“変わった(?)”アナログ人間であり,本書のイラストはまさに彼が描きためた長年の手術記録に他ならない。

 この本を眺めていると第1集もそうであるが,イラストの筆遣いがわれわれの恩師である小川秋實先生のものによく似ている。簡潔かつ明快な絵柄とカラーで理解が深まり,読者を飽きさせない工夫がなされているように思う。

 上手な手術ほど誰でも簡単にできそうに思わせるが,まさにこの手術書を読んでいると簡単に手術が終わりそうな気がしてくる。

 加藤先生の場合,やはり“描かずにはいられない”病気にかかっているようであり,手術室ではデジタルカメラを持ち歩きながら膜構造などの解剖を確認している姿をよく見かけた。この手術書には術野の写真は全くないのであるが,手術写真集が出せるくらい写真も所有しているはずである。もしかして次は写真集でヒットを狙うかも?

 第2集では非定型的な手術が増えイラストも一段と冴えたものが増えたように思う。それ以上にコラムが増えたが,これも“書かずにはいられない”彼の読書歴からくるものであり,アナログ手法によるイラストと表裏一体のものであろう。

 手術のイラストを上手に描ける人は手術中の術野の見方が他の人とは全く異なるのだと思う。“絵を描くぞ”と思えば,まさに“図脳”にインプリントしておかねば手術が終わったときに頭の中は白紙解答となってしまい,さらにビールでリセットされて一日は終わりである。せめて翌日に,この手術書のイラストを写実して反省しながら勉強し直すのもよいであろう。

 先日,加藤先生に超写実主義の美術展を見に行くことを勧めた。本当は絵なのであるが,女性の髪の毛一本一本まで自然に流れていて,どう見ても写真であるという信じがたい芸術である。DaVinciのコンソールを覗くと極めて精細かつ深みのある3Dの術野が見られ感動する。よく考えればテレビがアナログからデジタルに変わったときも画像を見て驚いたし,ラパロの手術をハイビジョンで見ていると,それまでの画像は何だったのかと思ったことを思い出す。しかし間違ってはいけないのは,DaVinciにしても手術の完成度というのはあくまでも解剖をよく理解した上で無駄のない手技と手順によって規定されるものであるということであり,これは未来永劫変わることはないであろう。

 今後もこの手術書は,長く座右の書として役立つものと信じている。
一つ一つの手術操作・場面の連続を「図脳」で追体験できる貴重な一冊
書評者: 藤岡 知昭 (岩手医大教授・泌尿器科学)
 若い泌尿器科医の皆さまの大部分は,優れた執刀医となることを目標に研修に励んでいると思います。小生もそのような目標を持った一人であり,初老となった今でも手術前には何ともいえない小さな興奮を覚えます。

 加藤晴朗著『イラストレイテッド泌尿器科手術 第2集―図脳で学ぶ手術の秘訣』を拝読しました。4年前に出版された同名手術書(今となっては第1集)との出会いと同様に,著者の豊富な経験と出版・絵を描く情熱と努力にただただ感服しました。今回の第2集は,著者の言葉を借りると「甘い蜜に誘われて」「不満足感に対する不満足力」が出版の原動力ということですが,前回以来の基調である「手術は暗記である」という主張が頑固なまでに貫かれ,「図脳」の根幹であるイラスト・絵もより鮮明で力強く描かれており,進化を感じさせられます。すなわち,膜構造の認識による,より正確な解剖が実感できます。また,さりげなく描かれている術者の左手(場面によっては右手),筋鉤や鉗子が手術の流れに重要なアクセントとなっていることが印象的です。さらに,前回の第1集で省略したことが心残りであったとするトラブル・シューティングに関しても,今回はしっかりと記載されて貴重な情報・知恵を提供していますし,多くのコラムからは著者の人柄がにじみ出ています。

 全ての手術は,一つ一つの手術操作・場面の連続で構成されており,これらの手技・過程を合理的に順次完遂することで手術を成功裡に終了することができます。本書では,著者自身が実際に経験した豊富な手術例より,各手術における重要な局面を絵に描きつつ解説しており,著者の手術記録としての側面を持っています。読者は,絵に描かれたおのおのの場面を暗記し,それらをつなげていくことで著者と同様な手術・手技の追体験が成立するというわけです。この手術過程・手技の記憶・暗記には,その場面の絵を介する理解,すなわち「図脳」が重要であるというのが著者の手術に対する基本姿勢と思います。本書は術中写真を並べた手術書やビデオとは異質の出来上がりで,手術手順に従い各術野を描いた独特な雰囲気により著者のこだわりを認識できます。

 本書の構成は,第1章 膀胱の手術,第2章 骨盤内および後腹膜疾患,瘻孔,尿膜管疾患の手術,第3章 前立腺の手術,第4章 陰茎・尿道の手術,第5章 腎および副腎の手術より成っています。研修中の若い泌尿器科医の皆さんは,特に“膀胱の手術”,“前立腺の手術”および“腎および副腎の手術”の章が解剖の理解を深め各自の手技の向上に役立つと思われる読みやすい内容です。また,“陰茎・尿道の手術”および“骨盤内および後腹膜疾患,瘻孔,尿膜管疾患の手術”の章は遭遇する機会の少ない難題が多く,疾患の解決方法の糸口が参考になる内容で,ベテランの先生方にも有益な情報が満載されています。

 手術大好きな泌尿器科医の皆様に,貴重な一冊として,この第2集を推奨します。

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