片麻痺回復のための運動療法[DVD付] 第2版
促通反復療法「川平法」の理論と実際
促通反復療法“川平法”を写真と動画で体得できる
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主に脳卒中後の片麻痺に対して、著者が“川平法”として提唱している促通反復療法の理論的な背景と実際についてまとめた1冊。上肢・下肢・歩行に対する治療手技の実際は写真とポイントを絞った文章で丁寧に解説。DVDでは本文で解説した手技を、動画に併せた著者本人の解説で“川平法”が体得できるよう工夫されている。
●動画配信中! DVDより一部をご紹介します。
(Windows Media Playerでご覧ください)
著 | 川平 和美 |
---|---|
発行 | 2010年05月判型:B5頁:224 |
ISBN | 978-4-260-01033-7 |
定価 | 6,820円 (本体6,200円+税) |
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- 序文
- 目次
- 書評
序文
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第2版 序 進む治療効果の検証と動画(DVD)の追加について
近年,脳の可塑性の存在が明らかになり,片麻痺の回復に不可欠な運動性下行路の効率的な再建・強化法が求められている。しかし,これまでのリハビリテーション医学・医療では,新たな神経路を再建する治療技術の開発への取り組みが遅れている。そのため,改訂された最新の「脳卒中治療ガイドライン2009」でも,Bobath法,Brunnstrom法,PNF(proprioceptive neuromuscular facilitaion)などの神経筋促通法は,前版同様「行うことを考慮してもよいが,十分な科学的根拠がない(グレードC1)」とされている。その一方で,片麻痺上肢の回復については,電気刺激療法と拘束運動療法(CI療法:constraint-induced movement therapy)を行うよう勧められている(グレードB)。
促通反復療法「川平法」は片麻痺を回復させるために必要な神経路の形成/強化を行うとの観点から,患者が意図した運動を実現・反復する,つまり再建/強化したい神経路のみに繰り返し興奮を伝えることを目的に開発され,これにより試行錯誤なしに大脳の運動野から脊髄前角細胞までの神経路を形成/強化することが可能になった。現在,この促通反復療法に関する実証的検討が各地で進められており,有効性を示す研究結果が報告されている。
促通反復療法は,CI療法や電気刺激療法,経頭蓋磁気刺激法,ロボテック治療などの他の治療との併用によっても,それらの治療効果を大きく高める基礎的な治療法となることが期待されている。ことにCI療法との併用は患者の負担軽減につながるであろう。
今回の改訂にあたって,操作法の動画(DVD)を追加した。図や写真だけではわからなかった操作の速さや指示のタイミングが明確になり,促通反復療法がより多くの医師や理学療法士,作業療法士に役立つことを願っている。
この出版に際して,多くの方にご援助頂いた。特に理論面のご指導を頂いた田中信行名誉教授,写真撮影と動画撮影のディレクターを担当した作業療法士の野間知一君,写真・動画の撮影モデルを快く引き受けてくれた一氏彩子さん,馬場沙織さん,作業療法士の末吉藍さん,研究データを提供してくれた衛藤誠二先生,緒方敦子先生,松元秀次先生,下堂薗恵先生,さらに動画撮影の際に器材を提供頂いたオージー技研株式会社に心より感謝したい。
また,何回もの修正をお許し頂いた医学書院の大野智志さん,福田亘さんにも御礼を申し上げる。
2010年5月吉日
鹿児島大学大学院医歯学総合研究科運動機能修復学講座リハビリテーション医学教授
川平和美
近年,脳の可塑性の存在が明らかになり,片麻痺の回復に不可欠な運動性下行路の効率的な再建・強化法が求められている。しかし,これまでのリハビリテーション医学・医療では,新たな神経路を再建する治療技術の開発への取り組みが遅れている。そのため,改訂された最新の「脳卒中治療ガイドライン2009」でも,Bobath法,Brunnstrom法,PNF(proprioceptive neuromuscular facilitaion)などの神経筋促通法は,前版同様「行うことを考慮してもよいが,十分な科学的根拠がない(グレードC1)」とされている。その一方で,片麻痺上肢の回復については,電気刺激療法と拘束運動療法(CI療法:constraint-induced movement therapy)を行うよう勧められている(グレードB)。
促通反復療法「川平法」は片麻痺を回復させるために必要な神経路の形成/強化を行うとの観点から,患者が意図した運動を実現・反復する,つまり再建/強化したい神経路のみに繰り返し興奮を伝えることを目的に開発され,これにより試行錯誤なしに大脳の運動野から脊髄前角細胞までの神経路を形成/強化することが可能になった。現在,この促通反復療法に関する実証的検討が各地で進められており,有効性を示す研究結果が報告されている。
促通反復療法は,CI療法や電気刺激療法,経頭蓋磁気刺激法,ロボテック治療などの他の治療との併用によっても,それらの治療効果を大きく高める基礎的な治療法となることが期待されている。ことにCI療法との併用は患者の負担軽減につながるであろう。
今回の改訂にあたって,操作法の動画(DVD)を追加した。図や写真だけではわからなかった操作の速さや指示のタイミングが明確になり,促通反復療法がより多くの医師や理学療法士,作業療法士に役立つことを願っている。
この出版に際して,多くの方にご援助頂いた。特に理論面のご指導を頂いた田中信行名誉教授,写真撮影と動画撮影のディレクターを担当した作業療法士の野間知一君,写真・動画の撮影モデルを快く引き受けてくれた一氏彩子さん,馬場沙織さん,作業療法士の末吉藍さん,研究データを提供してくれた衛藤誠二先生,緒方敦子先生,松元秀次先生,下堂薗恵先生,さらに動画撮影の際に器材を提供頂いたオージー技研株式会社に心より感謝したい。
また,何回もの修正をお許し頂いた医学書院の大野智志さん,福田亘さんにも御礼を申し上げる。
2010年5月吉日
鹿児島大学大学院医歯学総合研究科運動機能修復学講座リハビリテーション医学教授
川平和美
目次
開く
初めに
基礎編
I 促通反復療法の理論的背景
A 機能局在
B 随意運動
C 運動学習
D 可塑性の証明
E 機能回復のメカニズムと可塑性
F 可塑性のメカニズム
G 神経筋促通法の問題点
H 片麻痺回復促進のための4つの視点
I 促通反復療法の治療成績
J さまざまな片麻痺の治療法とその理論
実践編
II 促通反復療法の原則と基本手技
A 促通反復療法の基本的手技
B 筋収縮の誘発
C 麻痺の改善(共同運動分離)
D 痙縮コントロールの原則
III 治療プログラムの立案
A 促通反復療法を含む治療プログラム作成上の留意点
B 患者の集中力を維持するための工夫
C 促通反復療法の治療目標
IV 上肢への促通反復療法
A 上肢の運動療法の原則
B 基本的治療手技と肩の痛みの予防
C 上肢の運動療法の進め方
D 肩の促通法
E 上肢全体の促通法
F 肘の促通法
G 手関節の促通法
H 手指の促通法
V 片麻痺下肢への促通反復療法
A 下肢の運動療法の原則
B 基本的治療手技
C 下肢の運動療法の進め方
D 股関節の促通法
E 下肢全体の促通法
F 膝の促通法
G 足関節の促通法
VI 麻痺肢の機能をいかす歩行訓練と合理的な基本動作
A 立位バランスの訓練
B 歩行訓練
C 下肢装具と杖
D 合理的な基本動作(寝返り,起坐,立ち上がり,坐り)
VII その他の運動療法
A 運動開始困難を合併する例への促通療法
B 強制把握への振動刺激,振動刺激痙縮抑制法
C 視野欠損への反復視覚刺激療法
終わりに
A 促通手技の課題
B 促通手技の未来
C まとめ
索引
基礎編
I 促通反復療法の理論的背景
A 機能局在
B 随意運動
C 運動学習
D 可塑性の証明
E 機能回復のメカニズムと可塑性
F 可塑性のメカニズム
G 神経筋促通法の問題点
H 片麻痺回復促進のための4つの視点
I 促通反復療法の治療成績
J さまざまな片麻痺の治療法とその理論
実践編
II 促通反復療法の原則と基本手技
A 促通反復療法の基本的手技
B 筋収縮の誘発
C 麻痺の改善(共同運動分離)
D 痙縮コントロールの原則
III 治療プログラムの立案
A 促通反復療法を含む治療プログラム作成上の留意点
B 患者の集中力を維持するための工夫
C 促通反復療法の治療目標
IV 上肢への促通反復療法
A 上肢の運動療法の原則
B 基本的治療手技と肩の痛みの予防
C 上肢の運動療法の進め方
D 肩の促通法
E 上肢全体の促通法
F 肘の促通法
G 手関節の促通法
H 手指の促通法
V 片麻痺下肢への促通反復療法
A 下肢の運動療法の原則
B 基本的治療手技
C 下肢の運動療法の進め方
D 股関節の促通法
E 下肢全体の促通法
F 膝の促通法
G 足関節の促通法
VI 麻痺肢の機能をいかす歩行訓練と合理的な基本動作
A 立位バランスの訓練
B 歩行訓練
C 下肢装具と杖
D 合理的な基本動作(寝返り,起坐,立ち上がり,坐り)
VII その他の運動療法
A 運動開始困難を合併する例への促通療法
B 強制把握への振動刺激,振動刺激痙縮抑制法
C 視野欠損への反復視覚刺激療法
終わりに
A 促通手技の課題
B 促通手技の未来
C まとめ
索引
書評
開く
片麻痺の回復に真摯に向き合う者にとっての好書
書評者: 澤 俊二 (藤田保健衛生大教授・作業療法学)
脳卒中の心身機能の追跡調査を茨城県で行っている。“発病10年を経て片麻痺手の回復はあきらめた”と言われた。OTとして片麻痺の上肢回復に努力をしてきた。しかし,達成することは少なかった。多くのOT,PT,医師が,片麻痺の回復に敗北感を持つ。片麻痺の回復は困難とリハ医学に“敗北”の二字として刻まれていくのだろうか。
“中枢神経系運動麻痺を回復させる”,その1点に一貫して切り込んできたリハ医師がいる。川平和美氏である。“困難視されてきた片麻痺を回復させる”と,逃げることなく30年以上にわたって真摯に闘ってきた。地道な臨床と緻密な研究から,過去の神経筋促通法に学びつつ,最新の脳科学の知見で理論化し独創的な促通反復療法「川平法」を世に問うた。2006年刊行の初版に,新たな効果実証知験や川平法のDVDを加えて,このほど第2版が出た。当事者とともに片麻痺の回復に真摯に向き合う者にとっては好書である。
今,ドラッカーが若者を中心に読まれている(岩崎夏海,ダイヤモンド社,2009)。P. F. ドラッカーは20世紀を代表する知性で,近代経営学の父と呼ばれる。ドラッカー流(「マネジメント―基本と原則【エッセンシャル版】」,ダイヤモンド社,2001)に言えば,川平氏は企業(リハビリテーション専門病院:商品は「川平法」)の経営責任者(マネージャー)である。極めて真摯である。顧客は,脳卒中当事者(急性期~慢性期),その家族,リハ医療などにかかわるスタッフである。また,リハ医療に財源を振り分ける厚生労働省も顧客である。
企業の第一の機能は,マーケティングである。マーケティングは,顧客の欲求からスタートする。顧客が価値ありとし,必要とし,求めている満足がこれである。当事者は片麻痺の回復を強く希求する。財源ありきの医療ではなく,患者の希求に応える医療でなければならない。
企業の第二の機能はイノベーションである。イノベーションとは新しい満足を生み出すことである。片麻痺の回復は,新たな人生の再生に結びつく。イノベーションの戦略の第一歩は,古いもの,死につつあるもの,陳腐化したものを計画的かつ体系的に捨てることである。昨日を捨ててこそ,人材という貴重な資源を新しいものに解放できる。麻痺は治らないという既成概念を氏は捨てた。さまざまな理論,治療法を試み,捨てるものは捨てた。用いるものを用い,川平法をつくった。人材を育てた。麻痺は治らないと考えているリハ医師,PT,OTを開放させ,大きな満足を当事者に示した。川平氏は,世界に伸びゆく社会貢献を第一目的におく企業のトップマネージャーであると私は思う。
近年,急速に進む再生医療は,片麻痺の回復や脊髄損傷の麻痺の回復に大きな希望をともしつつある。この10年の間にリハ医学は大きく変貌を遂げる。しかし,この「川平法」はさらに洗練されてリハの臨床現場で片麻痺の回復に大きく貢献をしていくだろう。「川平法」は臨床現場で育った治療法である。ほかの治療法とともに,常に当事者の片麻痺の完全回復の1点で科学的に競っていく。完全回復までの道は険しいが,「川平法」をはじめ最新の脳科学や進化学をもとにした種々の治療法の登場で,今,大きな希望が見えてきた。
写真と動画で理解が深まる
書評者: 前田 眞治 (国際医療福祉大大学院教授・リハビリテーション学)
本書初版の発行から4年経過し,「川平法」は促通反復刺激法としてリハビリテーション治療の一端を担うまでに確立してきている。第2版での大きな特徴は,初版では文書で読むだけではその技法が詳細に理解しづらかったところを,DVDによる動画を用いて具体的に解説しているところである。それにより,図や写真で伝えきれなかった各手技における速さや指示のタイミングなどを的確に把握し,実際の患者を目の前にして実施することができる。本書中の図や写真も非常に豊富で,初心者の手を取るような懇切丁寧な解説によって,これだけでもリハビリテーション医,理学療法士・作業療法士や学生などにもわかりやすい書物となっている。しかし,もっと多くの治療者に広めたいという著者の思いからか,改訂版ではDVDを用いることで,さらに理解しやすいような配慮がなされている。すでに初版をお持ちの先生であっても自分の行っている手技を確認できるなど,このDVDの付いた第2版は一見の価値があり,ぜひご覧いただきたい。
この「川平法」は著者の詳細なる患者観察と反復刺激による神経可塑性のメカニズムとの対比などを起源とし,最新のニューロサイエンスに基づいた神経の再建・強化を可能とするものである。
本書に書かれた促通反復刺激法は,損傷された神経の可塑性を最大限に発揮させ,麻痺を可能な限り改善させる方法で,患者が意図した動作を選択的に強化する治療として注目される。現在,リハビリテーションで行われている拘束運動療法(CI療法)や電気刺激療法,経頭蓋磁気刺激法などと併用しても,その効果を高めることが期待できるものである。
本書の最初に記載された基礎編では,諸文献の中から「川平法」の妥当性について触れている。著者が長年にわたり研究している可塑性の基礎と,反復刺激で促通すれば,なぜ損傷神経が再建されるかについて実にわかりやすく解説してあり,この治療法の有効性について容易に理解することができる。その上で,振動刺激法など実際の手技を実践すれば,その改善が事実であることを実感できるはずである。
ここに書かれた神経筋の促通手技は,従来のブルンストローム法,PNF(固有神経筋促通法)などの方法の問題点を整理し,独自の観点から,神経筋の可塑性のメカニズムを科学的な見地から取り入れている。そして,神経筋の回復には,その使用法と頻度によって可塑性が促通されるとし,反復促通法を取り入れた画期的な手技の実践が回復に結び付くとしている。
著者は,この技術の普及実践のため,リハビリテーション医学会やその地方会でも積極的に講演活動している。その甲斐あってか現在多くのリハビリテーションの臨床現場でも取り入れられてきており,リハビリテーション医をはじめとして理学療法士,作業療法士はこの方法に注目し実践している。わが国で生まれ育った「川平法」を世界へと発信していくためにも,臨床の現場に欠かすことのできない書物の一つになると思われる。ぜひ,本書を実際に手に取り「川平法」を実践していただくことが,今後のリハビリテーションの発展につながると確信している。
誰もが初めてこの書物を手にしたときの驚きと充実感は,その後に実践する治療による患者の変化によってさらに実感されることであろう。
書評者: 澤 俊二 (藤田保健衛生大教授・作業療法学)
脳卒中の心身機能の追跡調査を茨城県で行っている。“発病10年を経て片麻痺手の回復はあきらめた”と言われた。OTとして片麻痺の上肢回復に努力をしてきた。しかし,達成することは少なかった。多くのOT,PT,医師が,片麻痺の回復に敗北感を持つ。片麻痺の回復は困難とリハ医学に“敗北”の二字として刻まれていくのだろうか。
“中枢神経系運動麻痺を回復させる”,その1点に一貫して切り込んできたリハ医師がいる。川平和美氏である。“困難視されてきた片麻痺を回復させる”と,逃げることなく30年以上にわたって真摯に闘ってきた。地道な臨床と緻密な研究から,過去の神経筋促通法に学びつつ,最新の脳科学の知見で理論化し独創的な促通反復療法「川平法」を世に問うた。2006年刊行の初版に,新たな効果実証知験や川平法のDVDを加えて,このほど第2版が出た。当事者とともに片麻痺の回復に真摯に向き合う者にとっては好書である。
今,ドラッカーが若者を中心に読まれている(岩崎夏海,ダイヤモンド社,2009)。P. F. ドラッカーは20世紀を代表する知性で,近代経営学の父と呼ばれる。ドラッカー流(「マネジメント―基本と原則【エッセンシャル版】」,ダイヤモンド社,2001)に言えば,川平氏は企業(リハビリテーション専門病院:商品は「川平法」)の経営責任者(マネージャー)である。極めて真摯である。顧客は,脳卒中当事者(急性期~慢性期),その家族,リハ医療などにかかわるスタッフである。また,リハ医療に財源を振り分ける厚生労働省も顧客である。
企業の第一の機能は,マーケティングである。マーケティングは,顧客の欲求からスタートする。顧客が価値ありとし,必要とし,求めている満足がこれである。当事者は片麻痺の回復を強く希求する。財源ありきの医療ではなく,患者の希求に応える医療でなければならない。
企業の第二の機能はイノベーションである。イノベーションとは新しい満足を生み出すことである。片麻痺の回復は,新たな人生の再生に結びつく。イノベーションの戦略の第一歩は,古いもの,死につつあるもの,陳腐化したものを計画的かつ体系的に捨てることである。昨日を捨ててこそ,人材という貴重な資源を新しいものに解放できる。麻痺は治らないという既成概念を氏は捨てた。さまざまな理論,治療法を試み,捨てるものは捨てた。用いるものを用い,川平法をつくった。人材を育てた。麻痺は治らないと考えているリハ医師,PT,OTを開放させ,大きな満足を当事者に示した。川平氏は,世界に伸びゆく社会貢献を第一目的におく企業のトップマネージャーであると私は思う。
近年,急速に進む再生医療は,片麻痺の回復や脊髄損傷の麻痺の回復に大きな希望をともしつつある。この10年の間にリハ医学は大きく変貌を遂げる。しかし,この「川平法」はさらに洗練されてリハの臨床現場で片麻痺の回復に大きく貢献をしていくだろう。「川平法」は臨床現場で育った治療法である。ほかの治療法とともに,常に当事者の片麻痺の完全回復の1点で科学的に競っていく。完全回復までの道は険しいが,「川平法」をはじめ最新の脳科学や進化学をもとにした種々の治療法の登場で,今,大きな希望が見えてきた。
写真と動画で理解が深まる
書評者: 前田 眞治 (国際医療福祉大大学院教授・リハビリテーション学)
本書初版の発行から4年経過し,「川平法」は促通反復刺激法としてリハビリテーション治療の一端を担うまでに確立してきている。第2版での大きな特徴は,初版では文書で読むだけではその技法が詳細に理解しづらかったところを,DVDによる動画を用いて具体的に解説しているところである。それにより,図や写真で伝えきれなかった各手技における速さや指示のタイミングなどを的確に把握し,実際の患者を目の前にして実施することができる。本書中の図や写真も非常に豊富で,初心者の手を取るような懇切丁寧な解説によって,これだけでもリハビリテーション医,理学療法士・作業療法士や学生などにもわかりやすい書物となっている。しかし,もっと多くの治療者に広めたいという著者の思いからか,改訂版ではDVDを用いることで,さらに理解しやすいような配慮がなされている。すでに初版をお持ちの先生であっても自分の行っている手技を確認できるなど,このDVDの付いた第2版は一見の価値があり,ぜひご覧いただきたい。
この「川平法」は著者の詳細なる患者観察と反復刺激による神経可塑性のメカニズムとの対比などを起源とし,最新のニューロサイエンスに基づいた神経の再建・強化を可能とするものである。
本書に書かれた促通反復刺激法は,損傷された神経の可塑性を最大限に発揮させ,麻痺を可能な限り改善させる方法で,患者が意図した動作を選択的に強化する治療として注目される。現在,リハビリテーションで行われている拘束運動療法(CI療法)や電気刺激療法,経頭蓋磁気刺激法などと併用しても,その効果を高めることが期待できるものである。
本書の最初に記載された基礎編では,諸文献の中から「川平法」の妥当性について触れている。著者が長年にわたり研究している可塑性の基礎と,反復刺激で促通すれば,なぜ損傷神経が再建されるかについて実にわかりやすく解説してあり,この治療法の有効性について容易に理解することができる。その上で,振動刺激法など実際の手技を実践すれば,その改善が事実であることを実感できるはずである。
ここに書かれた神経筋の促通手技は,従来のブルンストローム法,PNF(固有神経筋促通法)などの方法の問題点を整理し,独自の観点から,神経筋の可塑性のメカニズムを科学的な見地から取り入れている。そして,神経筋の回復には,その使用法と頻度によって可塑性が促通されるとし,反復促通法を取り入れた画期的な手技の実践が回復に結び付くとしている。
著者は,この技術の普及実践のため,リハビリテーション医学会やその地方会でも積極的に講演活動している。その甲斐あってか現在多くのリハビリテーションの臨床現場でも取り入れられてきており,リハビリテーション医をはじめとして理学療法士,作業療法士はこの方法に注目し実践している。わが国で生まれ育った「川平法」を世界へと発信していくためにも,臨床の現場に欠かすことのできない書物の一つになると思われる。ぜひ,本書を実際に手に取り「川平法」を実践していただくことが,今後のリハビリテーションの発展につながると確信している。
誰もが初めてこの書物を手にしたときの驚きと充実感は,その後に実践する治療による患者の変化によってさらに実感されることであろう。
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