胃癌外科の歴史

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Billrothによる1881年1月29日の、歴史上初の胃癌胃切除成功例を源として、現代に至る胃癌手術の理論、担い手(人)、手術術式・手術手技(技)の長大な流れをたどる著者畢生の旅の記述。歴史的事実の羅列ではなく、その事象がそれぞれにどのように連関し、影響し、また形を変えていったのか、原典を詳細にたどり検証を加える。まさに長編小説を繙くがごとく、そこに描かれた人物像は生き生きと読者に語りかけてくる。
高橋 孝
執筆協力 荒井 邦佳
発行 2011年03月判型:B5頁:280
ISBN 978-4-260-00902-7
定価 9,900円 (本体9,000円+税)

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 それは2009年2月13日のことでした.突然,高橋 孝先生から電話があり,本書の出版協力を依頼されました.体調不良のため,一人で編集校正していく自信がないということでしたので,やれる範囲でお手伝いさせていただく旨の返事をいたしました.ご存知の方も多いと思われますが,本書は医学書院から発行されている医学雑誌「臨床外科」に2006年から2007年にかけて連載された「胃癌外科におけるリンパ節郭清の始まりとその展開」を基にしたものであります.筆者は,その連載を大変興味深く読ませていただき,先生にお願いして別刷を送ってもらいました.そういうこともあっての協力依頼と思いましたが,大変光栄と思う反面,自分で務まるのかという不安もありました.ところが,数日後にはダンボール箱一杯の文献コピーが送られてきましたので,もうやるしかないと思い,いつでも参照可能なように文献整理とリスト作成から始めました.
 しかし,同年5月に先生はご逝去されました.一緒に編集していこうと思っていた矢先のことで,何の相談もできないままで校正を行うことになった次第です.したがって,基本的には先生の原稿を大きく変えることはせず,読者に分かりやすい表現に調整することと図表の校正が中心の作業になりました.
 本の内容は,先生が癌研病院(大塚)で梶谷 鐶先生の系統的リンパ節郭清に接して感激し,欧米と日本における手術治療の相違に疑問をもち,1881年のBillrothによる胃癌・胃切除術の成功から始まる欧米と日本におけるリンパ流研究とリンパ節郭清がどのように発展していったかを,膨大な文献を紐解いて考察したものです.
 先生はこの本の中で,“まなざし”という言葉を沢山使っています.例えば,「本書の主題は,胃癌外科におけるリンパ節転移をみる『まなざし』であります.…その『まなざし』は人と人とのつながりをもった学と学として継承されてきたものです…….」(第2章),「(マクロをみる“まなざし”)の中に,常にミクロの所見を予測する“まなざし”がなければ,……リンパ流を意識した郭清,すなわち系統的郭清(はできない).」(第17章)などです.外科医は,単にリンパ節を摘除することだけに傾倒するのではなく,常に癌の肉眼型とリンパ流を意識してダイナミックにリンパ節を見ること,そして病理診断までを念頭において適切な郭清を遂行することが必要であると提言しているのです.リンパ流研究の「理論」があって,初めてリンパ節郭清の技〈わざ〉「実践」が活きるのです.わが国の先達により継承されてきた“まなざし”を持って手術をする姿勢を,今の外科医に継承してもらいたいという思いが込められています.
 先生は,文献から汲み取れなかったことや古い資料がなく明確さを欠く部分に関して,本書の註釈を利用して,あたかもその時代に居たかのような想いに浸りつつ空想を巡らせています.私への手紙に,「癌研で学んだことのルーツを探る旅から,やっと戻ってきました.この旅では,いくつかの思い違いを正し,多くの新しいことを学びました.それ以上に,古典を読むことの楽しさを学んだことが最大の収穫でした.そして改めて,三宅の揺籃期の苦闘,久留の根治を目指す姿勢,梶谷のミクロを見透す目を通じて,日本の胃癌外科がBillroth,Mikuliczからの本道を歩んできたことを確信しました.」と述べられています.本当に楽しみながら文献を読み,執筆されている先生の姿が目に浮かぶようです.本書は,これからを担う若い世代へ期待を込めたメッセージであり,何度読み返しても新鮮でワクワクさせてくれる本であります.消化器外科医の方々には,是非,傍らに置いて繰り返し読んでいただきたいと願う次第であります.
 最後に,ドイツ語とフランス語の翻訳等に快く協力してくださった,ミュンヘン在住のGraeff奈那子氏,および癌研有明病院の佐野 武先生に深謝いたします.

 2011年初春
 荒井邦佳

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第1章 概観
 自分史の中での胃癌リンパ節郭清
 技と技のつながり,人と人のつながり,そして学と学のつながり
第2章 Billroth-1881年まで
 癌を見る「まなざし」-病理,病因
 病理解剖の始まりと腫瘍の分類
 細胞病理学と病因論,そして転移の把握と外科
第3章 Billroth-1881年1月29日への序奏
 Gussenbauer,Winiwarter論文(1) 胃切除の実験
 Gussenbauer,Winiwarter論文(2) 剖検例の解析
第4章 Billroth-1881年1月29日,Therese Hellerの手術
 1881年1月29日(1) この日の胃切除の意味を探る手がかり
 1881年1月29日(2) Therese Hellerの胃癌胃切除
 Billrothの癌外科,胃癌外科
第5章 Billroth-1881年1月29日 その後
 Billroth-1881年,胃癌胃切除8例
 Haberkantの集計-1894年までの胃癌胃切除
 胃癌胃切除後の生存期間,Billroth,Mikulicz,Haberkant集計
第6章 体表の癌を見る「まなざし」
 喉頭癌での観察(1) Fränkelの症例
 喉頭癌での観察(2) ドイツ皇太子の悲劇
 乳癌での観察(1) Moore・1867年
 乳癌での観察(2) Halsted・1894年
 体表癌から学ぶもの-リンパ節郭清への道筋・実践から理論へ
第7章 Mikuliczの演説(1898年)と著書(1900年),理論の始まり
 Mikuliczの演説(1) 胃癌の進展様式
 Mikuliczの演説(2) 胃癌の肉眼形態
 Mikuliczのリンパ節を見る「まなざし」(1) Sappeyのリンパ図の援用
 Mikuliczのリンパ節を見る「まなざし」(2) 実践と理論の結合
第8章 理論:リンパ流研究の革新-1896年とその展開
 Gerota液の出現とリンパ流研究の革新
 Pólya,Navratilの胃リンパ流の研究
 Poirier,Charpyのリンパ流研究
第9章 胃外科の普及と胃癌外科-世界大戦1914年まで
 Pólya,Navratilからどこへ-理論と実践,本道と逸脱
 胃外科の普及と胃癌外科:Mikuliczの訪米
 Mikuliczの郭清体系
 最初の挑戦-大網切除
 Jamieson,Dobsonの胃リンパ流-その批判
 Grovesの大網切除
 Sasse,Fohl,Finsterer,そして武藤完雄
第10章 直腸癌,子宮癌外科にみる理論と実践
 直腸癌外科:Gerota,Quénu,Cunéoの直腸リンパ流研究
 直腸癌外科:鳥潟隆三(1906年)とMiles(1908年)
 直腸癌外科:Milesの直腸リンパ流理解とabdomino-perineal excision
 子宮癌外科:Wertheimから岡林の場合
第11章 世界史の中での胃癌外科-1914~1930年代(1)
 世界史の流れと胃癌外科の流れ
 ドイツでの展開
 米国での展開
第12章 世界史の中での胃癌外科-1914~1930年代(2)
 日本での展開,Mikuliczと三宅 速
 三宅の『胃癌』(1928年)まで
 三宅の『胃癌』(1928年)
第13章 新たな展開への模索とリンパ流研究の再興-1930年代
 三宅の『胃癌』その後-治癒への希求
 Rouvièreの再検討-胃の最終リンパ節を求めて
 井上の再検討-胃の最終リンパ節を求めて
第14章 新たな展開の方向-1940~1950年代(1)
 展開の方向と樹幹論文
 胃全摘術
 合併切除
 大網広範囲切除
第15章 新たな展開の方向-1940~1950年代(2)
 久留 勝 1941年-新外科治療区分,再発,ミクロの判断
 梶谷 鐶 1944年-理論に基づいたミクロの「まなざし」
 梶谷 1950年-肉眼型,限・中・浸,「もの」を見るということ
 梶谷 1953年-系統的リンパ節郭清
第16章 1960年代以降の胃癌外科-欧米と日本(1)
 1960年代以降の胃癌外科-概観
 リンパ流理論の展開-木田(1958年)
 『胃癌取扱い規約』初版(1962年)~第10版(1979年)
 『胃癌取扱い規約』第11版(1985年)
 大動脈周囲リンパ節郭清の実践と『胃癌取扱い規約』第12版(1993年)
第17章 1960年代以降の胃癌外科-欧米と日本(2)
 1940,1950年代の展開の評価,米国
 TNM分類
 郭清用リンパ節を分類するということ
 Dutch TrialとMRC Trial
 『胃癌取扱い規約』第13版とJCOG9501 Trial
第18章 要約と結論
 医学史,外科史の中での胃癌外科
 「マクロのまなざし」から「ミクロのまなざし」
 問題提起-仮説-検証

年表
索引

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後世に残す,著者の癌外科医魂の根源よりのメッセージ
書評者: 山口 俊晴 (がん研有明病院副院長・消化器センター長・消化器外科部長)
 高橋孝先生が「臨床外科」誌に連載されていた『胃癌外科の歴史』が,このたび荒井先生の努力で見事に単行本として発刊されたことは,この連載を愛読していた評者にとっても大きな喜びである。高橋先生を大腸の外科解剖の大家としてご存じの方も多いかと思うが,日ごろより「僕は胃の解剖が好きなんだ」という意味のことを言っておられたので,『胃癌外科の歴史』を書かれたことに違和感はない。そして本書を一読すれば,高橋先生の胃外科,解剖に対する並々ならぬ情熱と,知識の深さを容易に理解することができる。先生の硬質で生真面目な文体をつなぐ,外科医としての魂の根源を成す思い入れこそが,本書を単なる文献の羅列や知識の整理にとどめない魅力あるものにしたといえよう。

 2000年の春にがん研究会附属病院に評者が異動したとき,たまたま,2006年には有明に新病院を建設し移転することが決定していた。この機会に,がん研外科で所蔵されていた手術の16ミリフィルムをデータ化して保存する事業が外科同門会を中心に進められた。その際に蒐集された手術フィルムの中に,梶谷鐶先生の胃癌手術があった。手術は現在のD2郭清を伴う,幽門側胃切除であったが,現在まさにわれわれが日々行っている術式とほとんど変わるところはなかった。当初は拍子抜けした感じで眺めているうちに,この手術が30年前から行われていたこと,そして同じ手術が現在も第一線で行われていることに深い感慨を覚えた。わが国における癌手術の確立に梶谷先生が最も重要な役割を果たしたことは紛れもない事実である。その技術はがん研に手術見学や研修に来た人たちによって日本中に広められた。また,日本胃癌研究会という内科,外科,病理など他分野の専門家が集う組織を中心として,「胃癌取扱い規約」という共通言語のもとに現在でいうトランスレーショナルな研究が進められたことも,診断,治療の標準化につながった。

 現在,わが国の胃癌手術の成績が,諸外国に比較して格段に良好なことは広く知られている。これも適切なリンパ節郭清を確実にしかも安全に行うという,長い間の努力が生んだ結果である。評者が外科医の道を歩み始めた1973年当時,すでに胃癌手術はD2郭清が基本であり,D2よりもリンパ節郭清を控えた手術は「甘い」手術として,軽蔑されてさえいた。リンパ節郭清を適正に行うことが,胃癌外科手術の基本であることを強力に推し進め,広くわが国に広めたのは梶谷先生であることに疑いはない。しかし,そのような思想がどのように形成されてきていたのか,漠然としか考えていなかった。梶谷先生の前任者の久留勝先生から影響を受けたであろうことはうすうす理解していたが,本書をひもとくことで,ビルロート,ミュックリッツ,三宅速先生,久留先生とつながる,胃癌リンパ節転移への「まなざし」こそが梶谷先生の偉業につながったものであることがよく理解できた。また,2年ほど前にミュクリッツの在籍していたBreslau大学(現在ポーランド領)を,比企能樹先生(北里大名誉教授,寿美子夫人が三宅速先生のお孫さん)とともに訪れたときに,三宅先生とミュクリッツの交流のことを知った。現在,比企先生のご子息(比企直樹先生)が,がん研究会の胃癌腹腔鏡外科のリーダーとして活躍しており,不思議な因縁のようなものを感じている。

 高橋先生は梶谷先生の高弟のお一人で,昔の話をされるときには梶谷先生のことを懐かしさと敬愛の念を込めて「梶やん」と呼んでおられた。年月とともに梶谷先生の真の偉大さが,ともすれば誤解され忘れられようとしている実態を憂い,強い意志と高邁な理論に基づいて癌と戦ってきた梶谷先生の「まなざし」を後世に残そうという情熱が,高橋先生をして本書を作らせたように思われる。そのために単に歴史的な事実を羅列するのではなく,たとえ歴史的に高名な方であろうと,その誤解や誤りについては率直に批判しており,その批判の中には現在の状況につながるものもある。日本の「胃癌取扱い規約」の変遷についても,直接の当事者でなかっただけに,もどかしくその状況を見ておられたことがよくわかる。腹腔動脈周囲リンパ節8a,8pの問題点については,個人的にも同意できる部分が多い。14Vについても,歴史的な観点から貴重な意見が述べられており,新しい「胃癌取扱い規約」でも問題になった点でもあり,ぜひ皆様にお読みいただきたい。

 後半ではDutch Trialなど諸外国のRCTに対する批判的な見方が述べられているが,おおむね妥当な評価だと思う。わが国の大動脈周囲リンパ節郭清のRCT,JCOG9501についてもかなり批判的な意見が書かれているが,欧米のTrialに比較して本研究の精度は極めて高く,必ずしもその意見には肯首しがたいものがある。ただ,標準化に走るあまりに,個別化という観点も忘れるべきではないという指摘はそのとおりであり,今後の課題であろう。むしろ,高橋先生の苛立ちは,本研究ではリンパ節転移というものに対する「まなざし」から提唱された拡大郭清という試みが否定されただけであり,胃癌治療成績の向上に資するものではないというところにあるのではないか。その見方に同意できるかできないかは別として,胃癌の手術にかかわっておられる方には特に注意深く読んでいただきたい部分である。

 がん研に赴任してから,癌治療の方向性に関しては高橋先生と評者は意見の異なる部分が少なからずあり,カンファレンスではよくお叱りを受けた。しかし,手術室で共に患者を前にした時にはそのような意見の相違は霧散し,高い見識と技術を持った高橋先生から直接厳しくも真摯なご指導を賜った。先生と過ごした手術室の濃密な緊張した時間を,今は懐かしく思い出すとともに深く感謝するばかりである。そしてわれわれに対する最後のメッセージともいえる本書を手にして,あらためて早過ぎる先生の死を悼むのは評者だけではあるまい。

 最後に末筆ながら,高橋先生の意を十分に汲み取って本書を取りまとめた荒井先生の努力に深い敬意を表する。
著者の一貫した歴史観「まなざし」で綴られた比類なき外科歴史物語
書評者: 高橋 俊雄 (東京都病院経営本部顧問・医師アカデミー運営委員長/都立駒込病院名誉院長/京都府立医大名誉教授)
 本書は,Billrothが1881年世界最初の胃癌切除に成功し,人体の消化管の連続性を離断し再建の可能性を初めて示した消化器外科最大の歴史的出来事から始まり,現在の胃癌の外科治療に至るまで,著者の歴史観「まなざし」で胃癌外科の歴史をたどった,他に類を見ない興味ある書であります。

 著者の胃癌外科に対する「まなざし」は主に胃癌のリンパ流,リンパ節郭清に注がれ,欧米でのMikulicz,Pólya,Navratil,Rouvièreらの業績,さらにわが国の三宅 速,久留 勝,梶谷 鐶らによって確立された系統的胃癌リンパ節郭清について,膨大な文献を基に哲学的とも言える詳細な考察を行っています。しかも,本書は決して固い学術書ではなく,物語調で書かれた大変読みやすい歴史物語であり,胃癌外科の歴史を知らず知らずに教えてくれます。

 本書の著者・故高橋 孝先生は,医学書院の「臨床外科」に2006~2007年に連載された「胃癌外科におけるリンパ節郭清の始まりとその展開」を基に,これに大幅に手を入れて単行本化を図るべく準備中でありましたが,残念ながら2009年5月ご逝去されてしまいました。先生から生前依頼を受けた荒井邦佳先生(現豊島病院副院長)は,持ち前の几帳面さと緻密さで本文の記述の統一,文献の補完,調査,校正を行い,この度本書が刊行される運びとなりました。

 著者の高橋先生は,癌研の梶谷 鐶先生の高弟として外科手術の達人であり,評者の前任地・都立駒込病院の外科部長としても立派な実績を残されております。生前,著者の高橋先生と直接的な交流はありませんでしたが,先生は強い学問的探究心の持ち主であり,理論家であり,そして本書にもあるように,その理論を実際の外科臨床の第一線の現場で実践された臨床外科医であります。

 いま,胃癌の治療法は以前とは大きく様変わりしてはおりますが,ここまでたどり着くためには先達の並々ならぬ努力があったことを,私どもは知らねばなりません。本書は,これらの胃癌外科の歴史をわかりやすく教えてくれる良書として,かつてリンパ節郭清に明け暮れた外科医だけでなく,今後の外科臨床を担う若い外科医の方々にもぜひ読んでいただきたく,推薦したいと思います。
胃癌外科治療の「理論と実践」を歴史からつまびらかにする良書
書評者: 丸山 圭一 (国際医療福祉大教授・胃癌外科,消化器外科/山王病院・外科/前 国立がんセンター外科医長)
 『胃癌外科の歴史』が刊行されました。胃癌の外科治療にたずさわる医師には,ぜひ読んでいただきたい良書です。

 胃癌外科の歴史は,Billrothが最初の胃癌切除に成功した1881年(明治14年)から数えて,わずか130年と短いものです。この間の進歩をふり返り,その基礎を知ることは,今,胃癌治療にたずさわる外科医にとって大変意味があるからです。

 著者は癌研病院外科部長を長らく勤められた高橋 孝先生と,先生が2009年5月に逝去された後に遺志をつがれた豊島病院副院長の腫瘍外科医 荒井邦佳先生です。本書ではお二人の考え方,すなわち胃癌外科治療の「理論と実践」を歴史からつまびらかにすることをめざしています。このために,実に膨大な文献・資料を網羅し,多くの図版と図表を載せ,著者の言葉で解説しています。

 本書を特徴づけているのは,序文で述べられているように“欧米と日本における手術治療の大きな違いに疑問をもち,欧米と日本におけるリンパ流研究と郭清手術がどのように発展してきたかを紐解いて考察した”ことです。欧米の胃癌外科の歩みは,Péan,Rydygier,Billroth,Mikulicz,Schlatter,Mayo,McNeer and Brunschwig,Wangensteenとつらなり,日本では,近藤次繁,三宅 速,武藤完雄,久留 勝,梶谷 鐶,西 満正とつらなっています。リンパ学の歩みは,Poirier,Pólya,Jamieson,Rouvière,井上輿惣一,木田八兵衛と述べられています。

 本書のもう一つの特徴は,胃癌外科ばかりでなく,喉頭癌,乳癌,直腸癌など,他の癌でのリンパ流と郭清の歩みとも比較・考察されていることです。癌治療の基礎理論を理解する上で,非常に大切なことに違いありません。ぜひ,座右の書として熟読されるようお奨めします。

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