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看護・医療系の調査研究エッセンス

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研究の成否を左右する「問題意識を深めること」と「研究計画書の作成」に役立つ知識とコツをまず解説。調査の進め方からデータ分析での実践的なヒント、研究発表で質問を受けた時の対応の仕方まで、研究の初心者に必要とされるエッセンスを、若い著者らのフレッシュな経験を踏まえて抽出し、やさしく伝えます!
竹原 健二 / 渡辺 多恵子
発行 2010年01月判型:B5頁:192
ISBN 978-4-260-00958-4
定価 2,640円 (本体2,400円+税)

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はじめに─この本が目指すもの─

 私たちは“言いたいこと”や“知りたいこと”があるからこそ日々研究に取り組んでいます.“言いたいこと”や“知りたいこと”が明らかに(形に)なれば,実践の場で1つの判断材料として使ってもらえるかもしれない,社会をよりよくできるかもしれない.そうした動機があるからこそ,「研究」という,科学的で客観的だといわれている方法を使います.
 「研究」は少なくともその分野の誰がみても同様に解釈されることが望まれます.そのため,それぞれの研究領域には,研究の「お作法」ともいえる形式があります.看護・医療系の領域における量的研究の代表的な「お作法」が,疫学(Epidemiology)です.疫学の手法を適切に使うことで,研究で得られるデータはより確かなものになっていきます.

 “研究においては,研究計画がもっとも大事である”ということを耳にしたことのある方は少なくないでしょう.この「研究計画」とは,単に対象者の選定やデータの収集方法といった研究の方法論のみを指すのではなく,“どのようなテーマについて,どういう視点から取り組むのか?”という研究の原点までをも含みます.「研究計画」を考えるということは,自分の問題意識を適切に解明するための方法を考えることでもあるわけです.この研究の原点ともいえる,自分の問題意識について深く考えることこそ,“自分の研究をすること”につながっていくのです.
 この本は,「お作法」である疫学的な思考に基づきつつ,読者の皆さんが「自分の研究テーマ」について考え,それによって直面するであろう事柄と向かい合いやすくなることを目指して書きました.研究の準備から,実施,発表といった一連のプロセスを解説しながら,それぞれのプロセスにおいて,いかに「自分の問題意識に基づいた研究に取り組むこと」が重要であるのか,ということを示していきます.研究という科学的で客観的だといわれている方法を通じて,自分の「言いたいこと」や「知りたいこと」が少しずつ形になっていくことには「学ぶことの喜び」があります.そして,そうした研究の成果が,なんらかの形で社会の役に立ったとき,その喜びはさらに大きなものとなります.「研究ってなんて楽しいのだろう!」と思えるようになるのです.皆さんにも,この喜びを是非感じてほしいと私たちは考えています.
 この本を手に取ることによって,皆さんが「自分の研究テーマ」を深めていくことの大切さや,それを追求していくことによって,研究をすることの楽しさを実感していただければ,著者としてこれほどの喜びはありません.
 この本は,真実一路(一路&真実)のペンネームで 『保健師ジャーナル』 に連載した「めざせ! 学会デビュー」をきっかけに執筆させていただくことになりました.どんな原稿を送っても,「いいね! おもしろい!」と言ってくださったことが,駆け出しの著者である私たちにとって大きな励みと自信になりました.連載でお世話になった同誌・編集室の安部耕司さん,栗原めぐみさんに感謝いたします.それから,今まで私たちに多くの学びの機会を提供してくださった先生方,多大な時間をともに費やし,多くのことを語りあってくれた研究仲間,そして,多くのことを教えてくださった実践の場で活躍されている方,私たちが実施した研究に協力してくださった皆様に心よりお礼を申し上げます.

 2009年12月
 竹原健二 渡辺多恵子

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第1章 問題意識ってなんだろう
 A 研究の問題意識とは何か
 B 問題意識は立ち位置によって変わる
 C 問題意識を深めることが研究の第1歩
第2章 問題意識の深め方
 A 問題意識を深めるための方法
 B PECOで調査・研究のかたちにする
 C 研究デザインをつくる6つのSTEP
 D 文献検索の方法
第3章 因果関係の考え方
 A 関連と因果関係
 B 因果関係のパイモデル
 C 交互作用
 D 因果関係の判定
第4章 エビデンスの考え方
 A EBMの成り立ち
 B エビデンスがもつ力と限界
第5章 研究の種類
 A 量的研究と質的研究
 B 量的研究の種類
 C 質的研究との組み合わせ方
第6章 研究計画書の作成
 A 研究計画書とは
 B 問題意識から研究計画書のアウトラインへ
 C アウトラインから研究計画書へ
 D 倫理的配慮
第7章 研究結果を歪めるもの
 A 偶然誤差と系統誤差
 B バイアス(偏り)
 C 交絡
第8章 量的研究における質問票の作成とデータ処理
 A データの種類について
 B 質問票の作成について
 C データの収集方法
 D データの入力とクリーニング
第9章 量的データの分析
 A SPSSを用いたデータの整理と加工
 B 基本的な統計量と正規分布
 C 検定・有意水準・有意確率
 D 連続尺度の検定
 E 名義尺度の検定
 F 相関分析
 G データの解釈
第10章 研究結果の発表
 A 研究の成果を発表する必要性
 B 研究の成果を発表する方法
 C 学会発表

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研究を後押ししてくれる調査研究の入門書 (雑誌『保健師ジャーナル』より)
書評者: 岡本 玲子 (岡山大学大学院保健学研究科教授)
 本書は,『保健師ジャーナル』誌に2007年4月から,一路&真実のペンネームで12回にわたって連載された「めざせ! 学会デビュー」がきっかけで執筆されたものである。その連載は,読者のみなさんもおそらく一度は「これおもしろ~い,読みやす~い」と目にされたことがあるだろう。

 タイトルが「調査研究エッセンス」とあって,一見お堅いのではと思うものの,連載時の面白さ,読みやすさを十二分に引き継いでいる。終始一貫して,読者に語りかけるように書かれており,読者はみな,研究に取り組む姿勢を後押ししてもらっている気持ちになるはずだ。

 とくによいところは,「私にも研究できるかも」「私も研究してみたい」と思わせてくれるところである。冒頭で著者は,この本がめざすものとして,研究することの楽しさと,「言いたいこと」や「知りたいこと」を研究という方法で形にする喜び,そしてその研究の成果がなんらかのかたちで社会の役に立ったときの喜び,それをぜひ感じてほしいと述べている。著者の,研究に対する熱い思いと研究に取り組む人たちへの愛情がひしひし伝わってくる。

 その思いは,各章に散りばめられている囲み例とコラムにも表れている。囲み例では,研究の過程で生じる身近な出来事が例示され,そのあとで「この場合はこう考える」「これはこういう意味」と解説されている。そうすることによって,読者が具体的に理解できるように工夫されている。コラムには,研究者としての著者の経験にもとづく助言や豆知識が書かれており,本論のアクセントとなっている。「『今後の参考にします』と逃げるのではなく,まっすぐ誠意をもって臨むことが大切」という言葉は,学会発表時の助言として,みなに知ってもらいたいことである。

 また,よくある研究解説本とは異なる構成にも要注目である。第1・2章は,「問題意識って何だろう」「問題意識の深め方」と題して,研究の第1歩を強調している。その後,すぐに研究計画書の作成方法に行くのではなく,第3章は「因果関係の考え方」,第4章は「エビデンスの考え方」など,研究デザインを考える元となる知識が提供されている。バイアスや基本的な統計,研究結果の発表についても簡潔に説明されており,初学者に有用である。

 わたし的に残念なのは表紙。クールな黒に赤のラインではなく,もっと現場の人が手にとって見たくなるように,例えば白地にピンクやグリーンを使ってイラストも入れるなど,明るいものにしてほしかった。ともあれ先日,某保健師研修会でも,これはいい本だと紹介させていただいた次第である。

(『保健師ジャーナル』2010年5月号掲載)

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