教える人としての私を育てる
看護教員と臨地実習指導者

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看護教員や臨地実習指導者は学生に看護を教え、大きな影響を与える存在である。そのような立場の人間に対する教育は、「人を教える人として」成長できるものでなければならない。本書は看護教員として、臨地実習指導者として、自らをどう育て、成長するのかを、各施設の取り組みを紹介しながら解説する。教員養成や指導者養成が風化しているような今だからこそ、本書を参考にしてもらいたい。
編集 屋宜 譜美子 / 目黒 悟
発行 2009年10月判型:A5頁:224
ISBN 978-4-260-00852-5
定価 2,860円 (本体2,600円+税)
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はじめに

 本書は,2004年に医学書院より刊行された 『看護教育講座6 看護教員と臨地実習指導者』 をもとに,新たに編集しました.現在,看護教員や臨地実習指導者として看護基礎教育を実践されている方々にとって,自分の実践を確かめ,明日の実践の方向を見いだす手助けになるとともに,近い将来,臨地実習指導者や看護教員になる方々にとって,これからの道しるべとなることを目指して執筆者の方々と取り組んだのが本書です.
 本書の前身である『看護教育講座6 看護教員と臨地実習指導者』が刊行されてからの5年間,看護教育に対して社会からのさまざまな要望が向けられてきました.医療政策は短期入院・在宅医療重視の方向へさらにシフトし,病院を中心とした新人看護師の早期離職問題,それに応える看護基礎教育課程の改正,看護師国家試験の受験資格要件に4年間の大学における看護教育の方向性が強まるなど,看護教育に寄せられる期待は急激に変化してきています.
 看護基礎教育に関するさまざまな検討会での審議や報告書には,いつも社会の期待に応えるべく,看護人材の育成の重要性と,その教育を担う看護教員・臨地実習指導者の教育実践力の重要性が挙げられています.平成20年の看護基磯教育課程の改正でも,実習指導の重要性が強調され,新たに「実習指導教員」という看護教育を担う職名が登場しています.この改正の意図においても,さまざまな健康状態にある生身の人々に寄り添い,看護学生が豊かに看護を学ぶには,看護教員と臨地実習指導者のその時その場の判断や,教育的なかかわりがいかに重要であるかを再確認することができます.
 看護教員・臨地実習指導者という「看護を教える人」を育てることは,いつの時代も行われてきたことです.ところが,看護を教える人の力が強調されているにもかかわらず,看護を教える人の資質とは何か,それがどのように育つのか,という根本的な問いは,必ずしも十分に検討がなされてきているわけではありません.
 本書では,看護教員と臨地実習指導者を人間味のある,それぞれ個性をもった人として,「看護を教える人」ということばで表したいと思いました.看護教員や臨地実習指導者は,それまで看護職として生きてきた歴史のうえに看護教員・臨地実習指導者の役割を引き受け自分の人生に重ねていきます.看護教員・臨地実習指導者という「看護を教える人」がどのように教育を受け,どのように学び続けていくのか,その本質を問うとともに,「教える人としての私を育てる」とはどのようなことなのかをしっかりと考え抜いてみたいと思いました.
 第1章では,我が国において看護教員と臨地実習指導者がどのように誕生し,法制度として社会のなかで位置づいてきたのかを概観します.それは,過去から未来へと連なる歴史のなかで,「看護を教える人」としての自分自身の立ち位置を確かめることへとつながるものです.
 第2章は,『看護教育講座6 看護教員と臨地実習指導者』に故藤岡完治氏と編者である目黒悟が著した「臨床的教師教育の考え方とその方法」(旧題「看護教育者育成の教育方法」)を再録しました.この項は,本書全体を貫く哲学にあたるものであり,看護教員・臨地実習指導者の「育ち」とは何か,それを「支える」とはどのようなことかを考えていくうえで,礎となるものです.また,臨床的教師教育の考え方と方法を具現化し,よりいっそう発展させていくために,「学生が看護を学ぶとはどのようなことなのか」「カリキュラムを創るとはどのようなことなのか」について,内容を大幅に拡充しました.
 第3章では,看護教員と臨地実習指導者の養成課程のカリキュラムがどのような意図をもって創られ,運営されてきたのか,また,受講者にとって,それはどのように経験されていたのか,学びの姿を紹介できるようにしました.とりわけ,「看護教員養成課程のカリキュラム」については,『看護教育講座6 看護教員と臨地実習指導者』で吉村惠美子氏と永井睦子氏が神奈川県立看護教育大学校を具体例として著したもの(旧題「看護教員養成のカリキュラム」)を再録しました.このカリキュラムは,「臨床的教師教育」の実現を目指し,故藤岡完治氏をはじめ,本書の編著者の共同によって,その具現化を可能にした歴史的意義をもつものです.
 第4章では,日々の教育実践のなかで,看護教員と看護教員が,実習指導者と実習指導者が,看護教員と実習指導者が共同して,ともに学び・ともに育ち合うことを可能にした実践例を紹介しました.看護教員現任研修会,学内での授業研究会,臨地実習指導者研修会,院内での学習会,臨地実習指導者と看護教員の連携など,看護教員と臨地実習指導者がともに「看護を教える人」としての「私」を育てる取り組みを具体的に紹介します.
 第5章は,本書の表題でもある「教える人としての私を育てる」とはどのようなことなのか,自らの実践を研究し教える人として成長していく看護教育者の姿を描き出します.また,本書で取り上げた,さまざまな取り組みと,それを可能にするリフレクションの意義を明らかにします.
 看護を教えるとはどのようなことなのか,看護を学ぶとはどのようなことなのか,そうした根本的な問いと真摯に向き合い,自己の看護教育実践をより豊かにしていくとともに,「看護を教える人」として成長していくための手がかりとして,本書が一助となれば,編者としては望外の歓びです.
 本書の発刊は,医学書院看護出版部の藤居尚子氏,制作部の川口純子氏の熱意と辛抱強い支えがあったからこそ実現することができました.あらためて心より感謝いたします.

 2009年9月
 編者を代表して
 屋宜譜美子

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第1章 社会における看護教員と臨地実習指導者の存在
第2章 人を育てる,育ちを支える方法
 1 臨床的教師教育の考え方とその方法
 2 学生が看護を学ぶとはどのようなことなのか
 3 カリキュラムを創るとはどのようなことなのか
第3章 看護師が看護教員・臨地実習指導者になる教育
 1 看護教員養成課程のカリキュラム
 2 看護教員養成課程の経験
 3 臨地実習指導者養成課程のカリキュラム
 4 臨地実習指導者養成課程の経験
第4章 看護教員と臨地実習指導者が学び,育ち続ける場
 1 県と教務主任会との共同による看護教員現任研修会
 2 看護教員の成長を支える授業研究会
 3 実習指導の仲間をつくる臨地実習指導者研修会
 4 実習指導者の成長を支える院内での学習会
 5 臨地実習指導における実習指導者と看護教員の連携
 6 学校と病院をつなぐ教務主任・看護管理者のリーダーシップ
第5章 教える人としての私を育てる

索引

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学び方を学び,教え方を学ぶ
書評者: 齊藤 茂子 (東京都立荏原看護専門学校校長)
◆教えることは学ぶこと

 看護教員や,臨地実習指導者は学生が看護を学ぶ最も近いところにいる。教師であり,看護師であり,研究者であり,マネジャーでもあり,そのありように学生が最も影響を受ける存在である。そのため「看護を教える人」の質が日本の看護の質を決めるといっても過言ではない。在院日数の短縮,新人看護師の早期離職など看護基礎教育を取り巻く厳しい状況の中で,「看護を教える人」が自らを成長させ,看護教育の質の向上を図ることは社会の要請であり急務である。

 本書は,屋宜先生・目黒先生をはじめとする19名のそれぞれの立場の方々によって書かれた哲学書であり実践書である。「教える人としての私を育てる」ことは新人教員もベテラン教員も生涯にわたり求められることであり,何度も紐解きたい書である。講義・実習という授業をよりよいものにするためには,あらゆる場面を通して教材の解釈,教育内容の精選,教育技法の熟達,教材化の力が求められる。どれ一つとして安易に答えの出ないものであり,時には荷が重く感じられるときもある。そのようなときこそ学ぶことが必要である。教えることは学ぶことである。

◆魅力的な目次と構成

 魅力的な書名の目次はさらに魅力的である。看護教員・指導者の存在意義や質の向上を強く感じている評者にとっては,興味関心の高いキーワードがいくつも並んでいる。読み進むにしたがい,本書が「看護を教える人」としての哲学に支えられた実践書であると認識した。本書は5つの章で構成されている。第1章からでも,心引かれる章からでも読み手を受け入れてくれるのは,各章の根底にある哲学が一貫しているためであろう。

◆豊かに語られる「看護を教える人」の学びと育ち

 第1章の,看護教員と臨床指導者の歴史的変遷は,「看護を教える人」の養成にかかわる者として興味深い。第2章は故藤岡完治先生と目黒悟先生の共著により,まさに「藤岡ワールド」が展開されている。「看護は問題解決過程なのか」「指導が指導になるとき・ならないとき」などの問いがちりばめられており,問うことによって,看護や教育が豊かに語られ深められていくことを実感することができる。

 第3章は「看護を教える人」の養成カリキュラムが詳細に書かれている。「看護を教える学習者」はこれらのカリキュラムにより,学び方を学び,教え方を学ぶ。そして目からうろこの感動を経験し,自分がどのような人間であったかを知ることで,大きく成長する。本書の修了生によって語られた経験は,評者も共感するところが多々あった。研修当時の感動がよみがえり,頑張る気持ちを新たにした。

 第4章は,「看護を教える人」の「共に学び共に育ちあう」実践が紹介されている。埼玉県における看護教員現任研修会の活動の成果は学会発表まで行われており,質の高いものとなっている。教員個々の努力や,養成所の努力はもちろんであるが,このように,組織的にシステム化し,教員の成長を支援する仕組みづくりも必要である。看護教員の継続教育モデルとして全国の範となると思われ,今後各所で取り組まれていくことを願う。

 筆者は2008年看護学教育学会で,このリフレクション研究発表群に参加し,衝撃的な感動を受けた。看護教員同士・新人看護師とプリセプター・看護教員と臨床指導者などさまざまな組み合わせでリフレクションが行われ,研修生の成長している様子がうかがわれた。「専門家は反省的思考により成長する(ショーン)」ことをまさに裏付け,リフレクションが人材育成に効果的であることを実感した。

 第5章は,本書のメインテーマに立ち返って,教える人としての私を育てるとはどのようなことなのかを総括し,リフレクションの意義を明らかにしている。最後に示された「『教える人としての私を育てる』のは,ほかならぬ自分自身なのである」は,本書の締めくくりにふさわしい言葉である。

 私の本棚に大切な一冊が加わった。評者は,2009年北海道北見市で開催された日本看護学教育学会において本書に出会った。北見市は故藤岡完治先生の出身地に近く,その地で本書の第一歩を踏み出したいという著者の方々の思いが実現したことに感慨を覚えた。本書を世に送り出して下さった著者の皆様,医学書院の皆様に読み手として感謝を述べたい。
学生のこころをゆさぶる教育実践力が伸ばせる贅沢な内容 (雑誌『看護教育』より)
書評者: 新庄 和美 (独立行政法人国立病院機構京都医療センター附属京都看護助産学校看護学科 教育主事)
 昨今の看護師養成所では社会人としての経験のある入学者の割合が増えている。社会人入学生への教育は,豊かな経験と幅広い知識をもつ人たちに行われる成人教育としての側面が大きい。彼らの学習意欲を満足させ,多様な価値観や考え方のうえに人間愛を基盤とする“看護のこころと技”を育んでいく教育が求められている。それは同時に教える者の教育力や指導力が問われることでもあり,時折,自分にそのような教育ができるのだろうかと不安にかられる。

 ちょうどそのような時,本書に出会った。読み始めると,「学ぶとは何か」「学生の学びに看護教員や実習指導者はどのようにかかわればよいのか」という,これから看護教育をめざす看護師にとっても,すでに看護教育に携わっている者にとっても命題ともいうべき「問い」に対する心地よい応答が得られ,夢中になって読み進んでしまった。

 これは,執筆者の“ねがい”がこの本のなかに,あふれるほど詰まっているせいだと思う。第一線で活躍する執筆者だからこそ教える者のニーズが手に取るようにわかるのだろう。教える者はどんなふうに思い悩むのか,何を知りたいと思っているのか……,それらに応えるように多彩なエピソードやすぐに参考にできる実際の取り組みが具体的に紹介されている。

 例えば,教育の質を高めるため教員全体で授業研究会に取り組みたいと考えている読者には,リフレクションの過程やリフレクションの参考例,参加する人の役割,授業研究会の進め方,揃えておくとよい資料などが紹介されており,それらを参考にすればすぐにでも授業研究会が始められる。「あっそうそう」と納得したり,「こうすれば私にもできる!」と思える手がかりが得られるので,どんどん先が読みたくなるのである。

 また,本を読み進んでいくうちに不思議と自身の看護実践がよみがえってくる。しかも今なら,その実践のどこが看護でどこが看護と呼べないのか,かなり踏み込んだリフレクションができる。次第に自分が拠りどころにしていたこと,学生に伝えたいことが明確になってくる。教えたいことが学生に伝わる授業がしたい,学生のこころを揺さぶる指導がしたいと思っている人にとって,教育実践力を伸ばし,学生とともに学び,ともに育つための行動がすぐに起こせる贅沢な内容になっている。

 本書は,看護とはなにか,教えるとはなにかの哲学的問いに自分なりの答えを模索している人,教える人としての自分を育てたいと思っている人,看護教育にかかわるすべての人にとって必読の書である。

(『看護教育』2010年2月号掲載)

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