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子ども虐待予防の新たなストラテジー

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子ども虐待は社会や文化と深くかかわっている。予防もそのことを踏まえたものでなければならない。保健・医療・福祉・教育をはじめ、文化の質が問われているといえる。親の養育行動や子どもの発達、地域の連携およびその活用の研究・実践をライフワークにしてきた著者が、世界の動向を踏まえつつ、日本で可能な予防策を提案。子どもと親にかかわるあらゆる専門職にお薦めしたい1冊。
上田 礼子
発行 2009年09月判型:A5頁:224
ISBN 978-4-260-00847-1
定価 3,080円 (本体2,800円+税)

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 子ども虐待は発展途上国を含めて世界中で発生しており,二人の子どもを育てた経験のある親として心が痛みます.ニュースを聞くたびに何とかできないものかと思い,あれやこれやと自分なりに考えてきました.わが国でも最近になり子ども虐待による悲惨な事件がマスコミでしばしば取り上げられ,その頻度は増加しています.しかし,身体的虐待ではなく,ネグレクト,性的虐待,心理的虐待などは適確に見つけがたく,致命的になってから明らかになることが多いのです.致命傷になってからでは手遅れです.子ども虐待は日本においても放置しておけない大きな社会的問題の一つとなっています.
 国は子ども虐待を予防する法的・行政的施策を今世紀になってようやく本格的に開始しましたが,これまでのところその増加に歯止めがかからず,予防の効果はみられていないのです.なぜ,国をあげての取り組みにもかかわらず,感染症のように目立った効果がみられないのでしょうか.この本はこのような素朴な疑問への解答を求めて,現状の打開策を探求した結果の報告です.探求の方法は実践現場の方々との協働でいくつかの解決法を試み,最良の方法を見つけだすことでした.あくまでも,実践現場に役立つような解決方法を求める実践的研究方法(アクション・リサーチともいいます)をとりました.その際の基本的な考え方の一つは,問題をかかえた親にも子どもにも,自分たちの手で問題を解決する潜在的な力があるはずで,予防のポイントはそのような力を強めることではないかということでした.そして,そのような予想が正しかったこともある程度示すことができました.
 このような実践的研究の背景には,筆者が1970年代から手がけてきた「子どもと家族」を対象とした日本の3地域における発達と支援に関する30年以上にわたる長期間の追跡的研究があります.その他にも病院,施設,保健相談所(現在の健康センターや福祉保健所など)での実践と研究の積み重ねがあります.それらの実践と研究から得られた資料をこの本の中にも随所に活用しながら述べています.
 本の内容は序章と3部から構成されています.序章は「子ども虐待予防への招待」とし,実態調査に基づいて解決策を探求する本書の要約です.まず,子ども虐待といっても行動上の種類によって分類されることを述べています.それらの行為類型と,その中でも比較的無視され,「ネグレクトの中のネグレクト」と称される「放任」について,社会的格差の現状にてらした重要性を指摘しました.また,子ども虐待予防にはリスクのある者にのみ焦点をあてる方策(ハイリスク・ストラテジー)だけではなく,広く一般のひとびとの理解と協力を求める方策(ポピュレーション・ストラテジー)との両方を必要とすること,さらに,子ども虐待予防のキー・コンセプトとアセスメントの考え方などを述べて,この本の導入としました.
 第1部は「子ども虐待予防への問題提起」とし,3章よりなっています.第1章では内外の子ども虐待予防の取り組みを歴史的にたどりました.そして,たとえ子ども時代に虐待を経験したとしても地域支援を受けて「強靱性」を発揮して成人し,大人の世界によく適応した事例が米国にあること,虐待予防活動が19世紀末に欧米先進国から世界に発信されるようになったことなど,歴史から学ぶ虐待予防の方向性を述べました.第2章では実態調査の結果から子ども虐待予防の地域の潜在的ニーズを扱いました.対象者のもつ今日的な潜在的・顕在的ニーズを明らかにしました.そして,第3章では虐待の対象となる子ども,子どもを世話する人との関係性の形成から生じる子育て上のさまざまな問題と好ましい予防的解決方法を述べました.神様ではない人間ですから,完全な大人(親)はいないのです.世話する大人(親)は子どもに対するタイミングのよい対応の仕方を学び,周りからの支援を得ることで変化していきます.一方子どもは逆境にあってもそれを克服し,長期的にみるとたくましく成長・発達できる可能性を秘めているのです.この2つは互いに促進し合う相互関係にあることを知ることが大事だと思います.
 第2部は「予防重視の新たな取り組みと具体的対応への提案」とし,4章と5章に述べました.第4章では子どもを生み,親になることと,親としての役割を身につけることとは必ずしも同じではないことを述べました.「親役割」は学ぶものなので,その学習方法を沖縄県のI病院で開催した「子育て教室」の実践に基づいて紹介しました.また,そのためも含めて新しく工夫したプレアセスメント・ツール(PACAP)の活用法を解説しました.そして,PACAPの「リスク得点」(子どもと親のマイナス面を示す以前からある指標)と「適応得点」(プラスの面を示す新しい指標)の活用によって,リスクのない人をリスクとみなす危険の率(「偽陽性率」)を減らすことができることを実証しました.第5章では子ども虐待予防とアセスメントの関係を実践の現場を念頭において実効性の観点から検討しました.そして従来からの「疾病モデル」ではなく,子ども虐待予防の観点から対象者の行動の「段階と状態」(stage-state)をアセスメントする,「子ども虐待予防サイクルモデル」を提案し,それが早期の発見と支援に役立つことを検証しました.
 第3部は「現状の問題点と今後の課題」を述べています.対象者の約8割が在宅指導,在宅見守りの状態にあることを踏まえて,地域における1次,2次,3次予防活動に向けて6章,7章,8章,9章に分けて記述しました.第6章は国の縦割り行政と縦割り専門家教育の伝統のなかで,子ども虐待予防の多職種・多機関連携の実質化はいかに困難であるかを実践現場において肌で感じたことから,困難の打開を図るための横の連携について述べました.第7章は縦の連携と縦・横の連携のありかたを事例,筆者の経験も加えて述べました.また,第8章では民間団体・グループの貢献と限界について先進国の事例を引用しながら,わが国の取り組むべき課題と解決の方向を探索しました.第9章は今後の課題と方略です.長年にわたり子ども虐待予防に米国の各地域で取り組んできたOldsらは従来行われてきた大がかりな虐待予防の研究は成功しているとはいえないと明言しています.筆者のこれまでの経験からわが国においても今後は各地域における実践を基盤とした実践的モデルを構築すること,アセスメント法の開発と連動する支援活動,および体系的教育活動の実施が必要なことを提言しました.

 この本は子ども虐待予防に関心をもたれる方々に広く読んでいただきたいと願っています.「子ども虐待は世代間に伝承する」という神話がかなり語られているようです.しかし,支援的専門職・非専門職者はこの本をお読みになることによって,早期の適切な対応によって,強靱性を発達して逆境を克服している子どもがあり,親役割を身につけて生涯にわたり発達していく親もあることを知って,前向きに対応できるようになると筆者は思っています.
 また,本書が子ども虐待予防的活動に従事する公衆衛生関係者,保健関係者,看護職者,福祉関係者,教育関係者,法律関係者などにとって,「子どもを中心」にした関連職種・機関連携の困難さ・壁を克服する手がかりになることを切に願っています.

 2009年8月5日
 上田 礼子

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序章 子ども虐待予防への招待

第1部 子ども虐待予防への問題提起
 第1章 子ども虐待予防の取り組みの歴史的変遷
 第2章 子ども虐待予防の地域の潜在的ニーズの実態-増加するネグレクト
 第3章 人間の子ども時代の特徴

第2部 予防重視の新たな取り組みと具体的対応への提案
 第4章 多職種・機関連携による予防活動;
  脱施設と家庭・地域連携による支援の再構築
 第5章 子ども虐待予防とアセスメント

第3部 現状の問題点と今後の課題
 第6章 多職種・多機関連携の実質化;(1)横の連携
 第7章 多職種・多機関連携の実質化;(2)縦の連携と縦・横の連携
 第8章 民間団体・グループの貢献と限界
 第9章 今後の課題;子どもと家族を地域支援する実践的モデルの構築と
  教育体制の確立

資料
 1 児童虐待の防止等に関する法律
 2 1945~2007年にみられる子どもの危機的状況を中心とした主な出来事
 3 K市とA市のPACAP得点グループ別18項目の平均値の比較
 4 子ども虐待予防のために利用できるアセスメント・ツール(主として海外)
 5 子ども虐待予防アセスメントの枠組みと内容,面接・観察用の指針:
  プレアセスメントと対応
 6 面接時の準備と態度

文献
あとがき
索引

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「予防」のための情報に富む一冊 (雑誌『保健師ジャーナル』より)
書評者: 上別府 圭子 (東京大学大学院医学系研究科・健康科学・看護学専攻家族看護学分野)
 子ども虐待に関しては,早期発見と子どものケアのために,行政,民間,NPOが協力し,保健,福祉,医療,教育,司法,警察などの領域の専門家および一般住民の大量の人的エネルギーが投じられてきた。なかでも市町村保健師の努力と貢献は大きい。その結果この10年で,法的整備や地域のシステム整備,国民の理解は格段に進んだと言ってよいだろう。ところが,児童相談所が受ける子ども虐待の相談件数は増加しつづけ,虐待による死亡件数は横ばいの状態である。次の10年は,多機関・多職種が一丸となって「予防」にエネルギーを投入しなければならないと考えていた矢先に,本書が刊行された。

 半世紀にわたり子どもたちの発達を支援してきた著者は,子どもの特徴をplasticity(可塑性)とresilienceという用語で表し,後者に「強靱性」という訳を当てる。子どもがもつ潜在力への確信が,著者の仕事の根底に流れている。また本書の特徴を一言で表すなら,“informative”(有益な情報に富んだ)という形容がぴったりであると評者は思う。たとえば「子ども虐待予防の取り組みの歴史的変遷」や,子どもの発達や親子関係をめぐる種々の理論的枠組みに関する記述,「子どもの『危機的状況』に関する出来事と法制度・施策」の一覧表などは,我々がこのテーマを俯瞰し,自分の立ち位置を確認するとともに目標を見定めることを助けてくれる。

 著者はネグレクトを見過ごすことへの警告を発するとともに,帰結として虐待死などのことを考えれば「3次予防」などと言っていては手遅れであることも指摘し,ポピュレーション・ストラテジーとハイリスク・ストラテジーを相補的に用いた虐待予防方略を紹介する。評者自身「周産期からの虐待予防」に関する研究や啓発活動に取り組んでいるが,著者のいう「予防」はもっと幅広い。子どもにはライフステージごとに新たなニーズがあるから,妊娠期や新生児期のみならず青年期にいたるまで,予防対応が必要であると指摘する。

 著者は,各職種による専門的アセスメントの前に行うスクリーニングを「プレアセスメント」と総称し,新たに考案した“PACAP”を紹介する。多機関・多職種連携を前提として作成された,簡便なスクリーニング・ツールである。詳細は本書をご覧いただきたいが,「偽陽性」を少なくする工夫がなされている点は見逃せない。たとえば子どもに疾患や障害のあることはリスク要因であるが,経済的な余裕がありサポートしてくれる人のいる家庭と,経済的に困窮していて孤立している家庭では,リスクが違うことは経験的にはわかっていたが,PACAPではこれを点数化した。すなわちリスク得点と適応得点を個々に算出し,リスク得点が高くても適応得点が高い家庭を偽陽性と判定し,本当にリスクの高い家庭のみをスクリーニングできるのである。本誌の読者であれば,この工夫がいかに重要なポイントであるかわかっていただけると思う。現場にとっては福音といっても過言でないだろう。

 すでにこの問題に取り組んでいる市町村保健師をはじめ,要保護児童対策地域協議会のメンバーや組織の長の方にぜひ読んでいただきたい。PACAPのみならず,日ごろの業務を建設的に見直すヒントが得られること請け合いである。

(『保健師ジャーナル』2010年1月号掲載)
地域ネットワークの一員として助産師が担うべき役割を示唆 (雑誌『助産雑誌』より)
書評者: 福島 富士子 (国立保健医療科学院公衆衛生看護部ケアシステム開発室)
 本書は「子ども虐待予防」をテーマに,取り組みの歴史や地域の潜在的ニーズから見た問題を提起し,多職種・多機関連携による虐待の予防活動を提唱し,今後の課題について,深い視点で書かれた専門書である。

 著者は1970年代から「子どもと家族」を対象とした日本の地域における発達と支援に関して30年以上にわたる長期間の追跡的研究を行なっており,また地域での施設間の連携についても膨大な実践と研究の積み重ねがある。この研究成果をもとに,子ども虐待対策について具体的に解説がされている。

 文中で,多職種・多機関の連携の重要性について触れ,国の縦割り行政・縦割り専門家教育の伝統を特徴とする日本では,連携がいかに困難であるかを述べている。著者はそれを実践現場において肌で感じてきており,連携で遭遇する問題をどう解決したらよいか,自らの体験を交えて述べている。継続ケア,支援ネットワークの重要性が指摘されている昨今,助産師がどのように役割を担っていくのかを考えるうえで参考になる。

 本書が子ども虐待に関する多くの本と異なっているのは,虐待発覚後の対応策ではなく「虐待予防」を目標としている点である。著者の長年の実践,研究のベースには,問題を抱えた親子にも,自分たちの手で問題を解決する潜在的な力があるはずで,予防のポイントはその力を強めることである,というスタンスがある。そして,その考えが正しかったことも本書のなかに示されている。

 また,子どもの「強靱性」に言及している部分では,虐待を受けた子どももそれを発揮して成人し,大人の世界によく適応した事例が米国にあることを取り上げ,「子どもは逆境にあってもそれを克服し,長期的にみるとたくましく成長・発達できる可能性を秘めている」ことを主張しており,これが支援者にとって重要な考え方であることも伝えている。

 虐待の世代関連鎖が強調されている今日であるが,人は人によって苦難を与えられるばかりではなく,人によって生きる力を与えられることもある。今を生きる大人たちの働きが次世代の子どもたちの未来に希望をつなげられるか否か,そのどちらにも可能性があることをあらためて実感した。「子どものニーズ」を最優先し,虐待予防の地域ネットワークの実質化に向けて,大人たちは連携,協働し,未来に責任を持たなければならない。

 専門書は難解で読みにくいことが多いが,本書は,わかりやすく大変読みやすい。子ども虐待についての入門書としても,虐待対策に取り組んでいる専門家にも新たな視点を与えてくれる。虐待予防に向けて活動することが求められる助産師にとって,必読の一冊だろう。

(『助産雑誌』2010年1月号掲載)
著者の幅広い経験・研究成果を生かした予防ストラテジーの提案
書評者: 小林 登 (子どもの虹情報研修センターセンター長/東京大学名誉教授)
 厚労省が全力を挙げて子ども虐待に対応しているが,児童相談所における相談件数は増加の一途をたどり,平成20年(2008年)度には4万2662件になった。過去10年間で約4倍,統計を取り始めてからの18年間で約40倍に達している。それには,もちろん実数の増加ばかりでなく,対応のレベル向上で発見・対応数が増加したこともあろう。しかし,児童相談所対応件数は,われわれの研究によれば実数の3分の1から2分の1ほどと推計される。今,子ども虐待は,社会的問題であり,われわれの未来を考えると国家的問題でもある。

 評者は,「子どもの虹情報研修センター」(日本虐待・思春期問題情報研修センター)のセンター長として,国の施策に基づき,子ども虐待対応で働いている児童相談所,福祉施設,さらには地方自治体などの職員に対して,年間20回ほどの研修を行っている立場にある。したがって,上田礼子先生の『子ども虐待予防の新たなストラテジー』を評者として拝見する機会をいただいたことは,嬉しく思うとともに,大変勉強になった。

 ご存じの通り,著者の上田礼子先生は,看護学,助産学,保健学,母子保健学の大学教育を長い間実践され,沖縄県立看護大学学長も務められた方である。したがって,本書を紐解いてみると,医学,保健学,看護学,助産学の幅広い立場から,鋭い目をもって子ども虐待予防のストラテジーを論じておられ,感銘を受ける。わが国では,子ども虐待の対応は福祉関係を中心に展開されているが,評者もJaSPCAN(日本子ども虐待防止学会)や「子どもの虹情報研修センター」などに関係してみて,もう少し医学・保健学的な発想と実践も必要ではないかと,日頃から思っていた。したがって,本書の出版の意義は大きいものと考える。

 本書は3部から成り,第1部は「子ども虐待予防への問題提起」の中で,まずストラテジーの基本として「ポピュレーション・ストラテジー」と「ハイリスク・ストラテジー」の論理的な考え方を述べておられ,参考になる。第2部は,「予防重視の新たな取り組みと具体的対応への提案」として,早期発見と支援の考え方を述べられている。重要なことは,どのような実践的なモデルを作り,どのようにリスクをアセスメントするかである。第3部は,「現状の問題点と今後の課題」として,多職種,多機関の連携で遭遇する問題をどのように解決したらよいか,自らの御体験を含めて述べられている。読者も,この問題についてはいろいろと考えさせられる機会が多いと思うので,大いに参考になろう。評者にとっても,「子どもの虹情報研修センター」で研修を行うに当たり,参考になる考えや実例が述べられている。

 子ども虐待問題に関係する者は誰でも,多職種・多機関連携による対応,特に発生予防が重要であることは十分認識しているが,そのシステムの形成と機能発揮のストラテジーについての研究については十分ではなく,実践において困難を感じているのではなかろうか。本書は,よりよいストラテジーを考えるのに有用であり,それによって,虐待対応の在り方そのものを強化することは間違いない。関係者,特に地域で対応の計画に当たっている方々に,ぜひ御一読を勧めたい。

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本書の記述の正確性につきましては最善の努力を払っておりますが、この度弊社の責任におきまして、下記のような誤りがございました。お詫び申し上げますとともに訂正させていただきます。

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