皮膚血管炎

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血管炎は難治性であり発症機序も不明な点が多く、診断・治療には困難を伴う。本書は皮膚血管炎の疾患概念を明示し、病因・病態について最新の知見をもとに解説。各論では一次性血管炎疾患と二次性血管炎疾患、さらに重要な鑑別疾患を詳述し、皮膚血管炎のほぼすべてを網羅。豊富な臨床写真、それに対応する病理組織写真を駆使することで、内科医、皮膚科医、病理医をはじめとした各科の医師にとって理解しやすいビジュアルな1冊。
川名 誠司 / 陳 科榮
発行 2013年02月判型:B5頁:360
ISBN 978-4-260-01010-8
定価 14,300円 (本体13,000円+税)
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推薦の序(長澤俊彦)/(川名誠司,陳 科榮)

推薦の序
 このたび川名誠司,陳 科榮両先生執筆の『皮膚血管炎』が医学書院より上梓された.わが国で皮膚科の立場から血管炎の臨床に関する専門書が出版されたのは,おそらく本書が最初と思われ,その意味から画期的な書物と言える.両先生とも血管炎の臨床と研究に専念されているわが国の第一人者である.本書の中で著者らは皮膚血管炎の特徴として(1)皮膚は血管炎の発症頻度が最も高い臓器である,(2)生検で確定診断できる,(3)皮膚血管炎には皮膚限局性と全身性血管炎に伴うものと2つの種類がある,(4)半数以上の症例は皮膚白血球破砕性血管炎(cutaneous leukocytoclastic angiitis)とヘノッホ・シェーンライン紫斑(Henoch-Schönlein purpura)である,との4つの項目をあげている.血管炎の臨床に携わるとき,これらのことを皮膚科医のみならず,他の領域の医師も十分念頭に置いて診断と治療にあたる必要があると思われる.
 本書の特徴はその構成が,血管炎の臨床を念頭に置いた皮膚血管の解剖図・名称・分布を最初に述べ,それから皮膚白血球破砕性血管炎を筆頭に皮膚を病変の主座とする一次性血管炎,次いで感染・薬剤・膠原病などに伴う二次性血管炎,さらに出血や血漿蛋白の異常に伴う血管炎類似疾患へと執筆が進んでいく.そして,すべての章に具体例のマクロとミクロの図譜を豊富に付して読者の理解を容易にしている.また,各章ごとに古典から最近までの重要文献が数多く引用されている.筆者は長年,膠原病・リウマチ内科医の立場から血管炎の臨床に従事してきたが,皮膚病変の正確な診断にどれだけ悩んできたかわからない.本書を手にして目から鱗が落ちた思いがする.この本は皮膚科医のみならず,筆者のように他の領域で血管炎の臨床に携わる者にとっても必読の書物と言えよう.血管炎の臨床に携わる各領域の臨床医が本書を手に取られることを心から推奨する次第である.

 2013年1月
 杏林大学名誉学長,元厚労省難治性血管炎研究班班長
 長澤俊彦



 血管炎は難治性疾患の一つであり,発症機序がいまだに分からないところが多く,診断および治療に困難を伴うのが現状です.
 皮膚は小血管炎の発症頻度が最も高い臓器です.そのため,血管炎は診療科を問わず,日常診療の中で遭遇する機会が多いものです.皮膚の血管炎の中には,皮膚に限局するものもあれば,致死性全身性血管炎の皮膚症状として現れるものもあるので,適確な診断と治療のタイミングが大事です.皮膚の血管炎病変は肉眼で容易に確認できるので,皮膚生検をすることが血管炎の早期確定診断と治療につながります.また,血管炎の皮疹にみえても非血管炎性の病変(血管炎類似疾患)であることも多く,この中には抗リン脂質抗体症候群や重症感染症のように全く治療方針が異なる場合があるので,厳密な鑑別が重要です.
 本書は,総論において皮膚血管炎の疾患概念を明示し,病因・病態について最新の知見をもとに解説しました.次いで各論において,一次性血管炎疾患と二次性血管炎疾患,さらに重要な鑑別疾患を詳述しました.これによって皮膚血管炎のほぼすべてを網羅できたと考えております.
 本書の特徴は,臨床病理を中心として皮膚血管炎をまとめたことです.豊富な臨床写真,疾患概念のまとめを図・表にし,それに対応する病理組織写真を駆使して,できるだけ理解しやすいように仕上げました.本書が内科医,皮膚科医,病理医をはじめ,各科の先生方のお役に立てれば幸いです.

 2012年12月
 川名誠司,陳 科榮

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総論
第1章 血管炎における皮膚血管の解剖図・名称・分布
  1 皮膚血管の解剖図および血液の流れ
  2 血管の種類および構造
  3 皮膚血管の分布および口径
第2章 動静脈鑑別のポイント
  1 真皮小血管における細動脈と細静脈の区別方法
  2 真皮下層から皮下組織における筋性小動静脈の区別方法
第3章 皮膚血管炎の概念,分類および特徴
  1 概念
  2 血管炎の分類
  3 皮膚血管炎の特徴
第4章 血管炎の病因論
  1 皮膚血管炎とは
  2 血管炎の発症機序
第5章 皮膚血管炎へのアプローチ
  1 皮膚血管炎の診断・治療の流れ
  2 血管炎症候をとらえる
  3 問診と身体所見
  4 血管炎のスクリーニング検査
  5 皮膚生検
  6 皮膚血管炎の暫定診断
  7 臓器病変の検索
  8 血管炎の確定診断
  9 治療
第6章 皮膚血管炎の病理診断
  1 皮膚生検のポイント
  2 病理組織診断の基本原則
  3 皮膚小血管(細動脈,細静脈,毛細血管)の血管炎病理診断基準
  4 真皮皮下境界部から皮下組織における動静脈の血管炎病理診断基準
  5 壊死性血管炎の定義
  6 病理診断の落とし穴

各論
第7章 一次性血管炎
  1 皮膚白血球破砕性血管炎
  2 Henoch-Schönlein紫斑
  3 蕁麻疹様血管炎
  4 クリオグロブリン血症性紫斑
  5 顕微鏡的多発血管炎
  6 Churg-Strauss症候群
  7 Wegener肉芽腫症(多発血管炎性肉芽腫症)
  8 結節性多発動脈炎
  9 皮膚型結節性多発動脈炎
  10 巨細胞動脈炎
  11 若年性側頭動脈炎
  12 Behçet病における皮膚血管炎
  13 浅在性血栓性静脈炎
  14 持久性隆起性紅斑
  15 Bazin硬結性紅斑
第8章 二次性血管炎
  1 感染性血管炎
  2 薬剤性血管炎
  3 膠原病に伴う皮膚血管炎
  4 腫瘍随伴性皮膚血管炎
第9章 血管炎類似疾患
 I 出血性血管病変
  1 止血機構の障害
  2 血管壁の破壊,機能低下
 II 閉塞性血管病変
  1 血栓・塞栓形成
  2 血管壁の肥厚

索引

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血管炎・血管障害の臨床と病理組織の見事な融和
書評者: 岩月 啓氏 (岡山大学大学院医歯薬学総合研究科教授・皮膚科学)
 血管炎・血管障害の診断は皮膚所見が糸口になることが多い。経験を積んだ皮膚科医であれば,臨床像からその病変の病理組織反応を考え,いくつかの鑑別診断を想起できるが,確定診断には病理組織所見が不可欠である。本書は,臨床の視点から皮膚血管炎・血管障害を体系的に解説した専門書で,豊富な臨床像と病理組織所見を掲載した構成になっている。Chapel-Hill分類や診療ガイドラインの解説書ではない。

 本書の内容は,大きく総論と各論に分かれている。総論では基本的な血管の組織学的解説と疾患概念を明確に示し,多方面からの血管炎の成因についての考え方を示している。最新の研究を追いかけるのではなく,臨床医の視点でいかに診断し,病態を把握するかという原点に立ち戻った記載が印象的である。血管炎の診断の基本は,動脈炎と静脈炎の鑑別であるが,実はこれが意外に難しい。著者はかなりのページを割いて,多数の病理組織所見を提示しながら,両者の鑑別点を解説している。各論では,一次性血管炎,二次性血管炎や多様な血管障害を紹介しており,臨床の場で遭遇する血管炎・血管病変のほとんどを網羅している。Chapel-Hill分類や既存の血管炎分類をはるかに超えた,詳細にして明解な内容で,かつ,成書の皮膚血管炎の病理的解釈に物申す気概を感じる。

 本書を読むと,これほど多種多様な血管炎・血管障害が皮膚病変として現れるのかと驚かされる。Chapel-Hill分類では,皮膚leukocytoclastic vasculitisとしてまるめ診断されてきた観のある皮膚血管炎だが,実は臨床および特徴的病理所見の違いを読み取ると,おのおのにふさわしい診断名が付与され,病態が明確になってくる。本書は,ANCA関連血管炎やさまざまな血管障害の最新知見や鑑別診断のポイントを紹介しつつ,それでも分類不能な皮膚白血球破砕性血管炎や歴史的な疾患名になりつつあるRuiter型血管炎(vasculitis allergica)や,hypersensitivity vasculitis(Zeek)にも言及しており,皮膚科医としては感慨深い。

 皮膚科医が本書を読むと,記述された診断名にうなずきながらそれらの臨床像や病理組織所見を受け入れることが可能であろう。非皮膚科医にとっては初めて目にする診断名に抵抗があるかもしれない。皮膚科用語は,「ガラパゴス化されている」という批判を受けることがある。しかし,本書の記載は,皮膚血管炎を他科と共有できる概念と用語で論じ,臨床像と病理所見というビジュアルな手法で解説されており,ガラパゴス化しつつある皮膚の血管炎概念を現代の医療水準で体系的に整理している。

 本書を介して,皮膚科医だけでなく,内科医,病理医が,ともに納得のできる形で血管炎・血管障害の考え方を共有できると期待される。その結果は,治療とそのアウトカムに反映されるはずである。
皮膚科医はもちろん,関連する内科医,病理医も必読の書
書評者: 山元 修 (鳥取大学医学部教授・感覚運動医学講座皮膚病態学分野)
 わが国における皮膚血管炎研究の第一人者である,川名誠司,陳科榮両巨頭の著書『皮膚血管炎』(医学書院)が刊行された。総論で疾患概念,病因・病態,病理組織のポイントを理解し,さらに各論で一次性血管炎疾患,二次性血管炎疾患,重要な鑑別疾患へと流れるような内容の展開で,手にした瞬間から一気呵成に読破してしまった。それだけ惹きつけられる魅力的な書である。それにしてもまず感じたのは,皮膚科学の中で皮膚血管炎は決してメジャーな領域ではないにもかかわらず,348ページにも及ぶ大著であり,それだけにかゆい所にまで手が届くように丁寧で,かつ最新の情報まで網羅した,皮膚科医のみならず内科医,病理医必携の書であるという点である。

 私は,書店で医学書,特に臨床写真や病理組織写真が豊富に掲載されている本を選ぶ際に,まずはぱらぱらとページをめくり,いかに美麗な写真が厳選されているかを吟味する。本書は臨床写真の明瞭さ,的確さはもちろんのこと,病理組織写真の美しさとバックの白抜けの良さに圧倒された。皮膚の血管炎ほど病理組織診断が重要な位置を占める疾患はない。皮膚病理組織学は何といっても「多数の標本を見てなんぼ」の世界であるが,その点で美しくかつ的確に病理組織学的所見が示された皮膚血管炎に関する書物を,私は他に知らない。私事で恐縮であるが,この度日本皮膚病理組織学会理事長を拝命して,あらためて若い医師の皮膚病理学教育について考えてみた。以前から皮膚病理学を志す若い医師が減少の一途をたどっていることに危機感を抱いてきたが,減少の理由の一つに,かつて周囲にたくさん居られた皮膚病理組織学に精通した皮膚科医が激減し,論議の対象になっている所見がどれであるかを若者に指摘できなくなったことが挙げられる。所見を把握できなくなると,全く面白くないわけである。臨床写真もそうであるが,本書の病理組織写真の一つ一つに丁寧な解説が加えてあり,このような若者でも本文を読まなくても十分に学習できる。特に入門者にとってありがたいのは,総論で皮膚の正常血管の解剖・組織学について,一般解剖学・組織学の教科書も足下に及ばないくらい懇切丁寧に解説している点である。さすが日常皮膚を精確に観察してきた皮膚科医の手による書である,と快哉を叫びたい。さらに,ある程度皮膚臨床を経験した者にとってありがたい点は,国際的な血管炎の定義や診断基準ではやや消化不良に陥りがちな“皮膚の”血管炎についての暫定診断の要点を示してくれている点であろう。実際大変役に立つのでぜひ目を通していただきたい。

 さて,本書で著者らは,(1)皮膚は小血管炎の発生頻度が高い臓器である,(2)皮膚生検で早期確定診断が可能である,特に致死性全身性血管炎の場合はこの点が重要である,(3)血管炎類似疾患は臨床症状が血管炎と酷似し,治療方針が異なる点で厳密な鑑別が必要である,という点を強調しているが,ここから筆者らの豊富な経験とそれから得られたポリシーがうかがえる。

 皮膚科医はもちろん,関連する内科医,病理医の必読の書である。そして若い医師には,ある一つのジャンルを研究してきた筆者らの熱いポリシーを知ってもらうために,一度は読破していただきたい書物である。

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