これだけは気をつけたい
高齢者への薬剤処方
高齢者への処方に注意を要する薬剤をとりあげたビアーズ基準の日本版
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高齢者が服用する際に注意した方がよい薬剤について、その注意点や対応を解説したもの。代替薬やその使用方法がある場合には具体的に記載。米国の高齢者への薬剤投与に関するBeers基準の日本版。付録として常に服用を避けるべき薬剤一覧、既往歴から避けるべき薬剤一覧も収載。
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- 目次
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序文
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序
われわれがMark H. Beers博士との共同研究で2008年に「日本版ビアーズ基準」を開発し発表した際,医師や薬剤師などから代替薬に関する問い合わせを少なからずいただいた.そのため,日本版ビアーズ基準のみでなく,代替薬の提示とその使用方法が解説された書籍の必要性を感じ,本書を企画するに至った.
生理機能が低下している高齢患者への薬剤処方をいかに適切かつ安全に行うか,という問題は現在にはじまったわけではなく,以前から高齢者薬物療法の解説書などが数多く発行されている.このような状況のもと本書を発行するにあたり,高齢者医療に役立つものとするためにはどのような構成・内容にすべきか,自問自答を繰り返しながら本書の編集にあたった.
本書は,「日本版ビアーズ基準」に記載されている薬剤を中心に,その処方薬の問題点とともに代替薬の提示と使用方法について解説されている.解説は各領域の医師に執筆をお願いし,臨床感覚に則して具体的な解説に努めていただいた.また,高齢者の薬物療法においては,生理機能の低下から副作用が出現しやすい状況にあり,加齢に伴って複数の疾患に罹患していることも多く,多薬剤処方(ポリファーマシー)といった問題もある.本書では,先に述べた「日本版ビアーズ基準」掲載薬剤の解説だけではなく,生理機能の解説や高齢者によくみられる疾患といった,高齢者の薬物療法全般にかかわる点についての総論的な内容も解説している.編集にあたっては,臨床で使用しやすいコンパクトなものとすることも重視した.
現代の医療は医師ひとりで完結するものではなく,とりわけ,高齢患者への医療提供では,薬剤師や看護師などの医療者とのチーム医療が包括的で適切な医療を提供できると考えられている.とくに慢性疾患が多い高齢患者では薬物療法が中心となっていることから,患者の服薬にかかわる機会の多い薬剤師や看護師にも本書を利用いただき,適切で安全な高齢者薬物療法の一助になれば幸いである.
2014年4月
編集を代表して 今井博久
われわれがMark H. Beers博士との共同研究で2008年に「日本版ビアーズ基準」を開発し発表した際,医師や薬剤師などから代替薬に関する問い合わせを少なからずいただいた.そのため,日本版ビアーズ基準のみでなく,代替薬の提示とその使用方法が解説された書籍の必要性を感じ,本書を企画するに至った.
生理機能が低下している高齢患者への薬剤処方をいかに適切かつ安全に行うか,という問題は現在にはじまったわけではなく,以前から高齢者薬物療法の解説書などが数多く発行されている.このような状況のもと本書を発行するにあたり,高齢者医療に役立つものとするためにはどのような構成・内容にすべきか,自問自答を繰り返しながら本書の編集にあたった.
本書は,「日本版ビアーズ基準」に記載されている薬剤を中心に,その処方薬の問題点とともに代替薬の提示と使用方法について解説されている.解説は各領域の医師に執筆をお願いし,臨床感覚に則して具体的な解説に努めていただいた.また,高齢者の薬物療法においては,生理機能の低下から副作用が出現しやすい状況にあり,加齢に伴って複数の疾患に罹患していることも多く,多薬剤処方(ポリファーマシー)といった問題もある.本書では,先に述べた「日本版ビアーズ基準」掲載薬剤の解説だけではなく,生理機能の解説や高齢者によくみられる疾患といった,高齢者の薬物療法全般にかかわる点についての総論的な内容も解説している.編集にあたっては,臨床で使用しやすいコンパクトなものとすることも重視した.
現代の医療は医師ひとりで完結するものではなく,とりわけ,高齢患者への医療提供では,薬剤師や看護師などの医療者とのチーム医療が包括的で適切な医療を提供できると考えられている.とくに慢性疾患が多い高齢患者では薬物療法が中心となっていることから,患者の服薬にかかわる機会の多い薬剤師や看護師にも本書を利用いただき,適切で安全な高齢者薬物療法の一助になれば幸いである.
2014年4月
編集を代表して 今井博久
目次
開く
第1章 ビアーズ基準と高齢者の薬物療法
1 日本版ビアーズ基準の概要
A ビアーズ基準とは
B 定量評価によるコンセンサス
C 日本版ビアーズ基準の課題と意義
2 調剤・服薬指導に当たっての注意点
1 高齢者と薬の特徴
2 加齢に伴う身体機能変化
3 高齢者向けの調剤・服薬指導
A 薬を調剤する前の観察
B 薬の使用時の観察
C 服用中の経過観察
D 調剤・服薬指導のポイント
3 高齢者の生理機能
1 高齢者の薬物動態
A 薬物動態の変化とその要因としての生理機能の変化
B 維持投与量の決定
C 代謝物の蓄積
D 薬物投与の際のポイント
2 高齢者によくみられる疾病,注意点
A 医療現場で急増する高齢者
B 厚生労働省患者調査にみる傷病状況
C 高齢者によくみられる疾患
肺炎/高齢者高血圧/脳血管障害/糖尿病/COPD(慢性閉塞性肺疾患)/
高齢者喘息/CKD(慢性腎臓病)/骨粗鬆症/悪性新生物/認知症
D 高齢者の特徴
第2章 精神系
A 向精神薬療法を実施する前に検討すべきこと
B 高齢者で注意を要する薬剤
睡眠薬/抗不安薬/抗うつ薬/抗てんかん薬
第3章 鎮痛薬
■解熱消炎鎮痛薬
●インドール酢酸系 インドメタシン
■半減期の長い非COX選択性NSAIDs
ナプロキセン/オキサプロジン/ピロキシカム
■非麻薬性鎮痛薬
ペンタゾシン塩酸塩
第4章 循環器
A 高齢者における循環器薬治療の考え方
B 高齢者に薬を使う場合の注意点
■強心薬
●ジギタリス製剤
ジギトキシン/ジゴキシン
●非カテコールアミン系経口強心薬 ベスナリノン
■不整脈治療薬
●第I群
ジソピラミド/ピルシカイニド塩酸塩水和物
●第III群 アミオダロン塩酸塩
■Ca拮抗薬
ベラパミル塩酸塩
■β遮断薬
プロプラノロール塩酸塩
■Ca拮抗薬(短時間作用型製剤)
●ジヒドロピリジン系薬剤 第一世代 ニフェジピン
■降圧薬
●交感神経抑制薬(α遮断薬)
プラゾシン塩酸塩/ドキサゾシンメシル酸塩
●交感神経抑制薬(中枢性α2アゴニスト)
クロニジン塩酸塩/メチルドパ水和物/レセルピン
第5章 消化器
■消化性潰瘍治療薬
●酸分泌抑制薬(H2受容体拮抗薬)
シメチジン/ラニチジン塩酸塩/ファモチジン/ニザチジン/ラフチジン
■潰瘍治療薬
●精神安定薬 スルピリド
■鎮痙薬
●抗コリン薬
プロパンテリン臭化物/N-メチルスコポラミンメチル硫酸塩/
チメピジウム臭化物水和物
■刺激性下剤
●排便機能促進薬
ビサコジル/ヒマシ油
第6章 内分泌・代謝
■経口血糖降下薬
●スルホニルウレア(SU)系 クロルプロパミド
■ホルモン製剤
●甲状腺機能異常治療薬 乾燥甲状腺
■性ホルモン製剤
●男性ホルモン製剤 メチルテストステロン
●卵胞ホルモン製剤 結合型エストロゲン
第7章 アレルギー
A 高齢者に対する抗ヒスタミン薬の考え方
■第一世代抗ヒスタミン薬
d -クロルフェニラミンマレイン酸塩/dl -クロルフェニラミンマレイン酸塩/
ジフェンヒドラミン塩酸塩/ヒドロキシジン/シプロヘプタジン塩酸塩/
プロメタジン塩酸塩
第8章 その他
■パーキンソン病治療薬
セレギリン塩酸塩/アマンタジン塩酸塩
■貧血治療薬
硫酸鉄
■造血と血液凝固関係製剤
●抗血栓薬 チクロピジン塩酸塩
付録
1 疾患・病態によらず一般に使用を避けることが望ましい薬剤
2 特定の疾患・病態において使用を避けることが望ましい薬剤
事項索引
薬剤索引
1 日本版ビアーズ基準の概要
A ビアーズ基準とは
B 定量評価によるコンセンサス
C 日本版ビアーズ基準の課題と意義
2 調剤・服薬指導に当たっての注意点
1 高齢者と薬の特徴
2 加齢に伴う身体機能変化
3 高齢者向けの調剤・服薬指導
A 薬を調剤する前の観察
B 薬の使用時の観察
C 服用中の経過観察
D 調剤・服薬指導のポイント
3 高齢者の生理機能
1 高齢者の薬物動態
A 薬物動態の変化とその要因としての生理機能の変化
B 維持投与量の決定
C 代謝物の蓄積
D 薬物投与の際のポイント
2 高齢者によくみられる疾病,注意点
A 医療現場で急増する高齢者
B 厚生労働省患者調査にみる傷病状況
C 高齢者によくみられる疾患
肺炎/高齢者高血圧/脳血管障害/糖尿病/COPD(慢性閉塞性肺疾患)/
高齢者喘息/CKD(慢性腎臓病)/骨粗鬆症/悪性新生物/認知症
D 高齢者の特徴
第2章 精神系
A 向精神薬療法を実施する前に検討すべきこと
B 高齢者で注意を要する薬剤
睡眠薬/抗不安薬/抗うつ薬/抗てんかん薬
第3章 鎮痛薬
■解熱消炎鎮痛薬
●インドール酢酸系 インドメタシン
■半減期の長い非COX選択性NSAIDs
ナプロキセン/オキサプロジン/ピロキシカム
■非麻薬性鎮痛薬
ペンタゾシン塩酸塩
第4章 循環器
A 高齢者における循環器薬治療の考え方
B 高齢者に薬を使う場合の注意点
■強心薬
●ジギタリス製剤
ジギトキシン/ジゴキシン
●非カテコールアミン系経口強心薬 ベスナリノン
■不整脈治療薬
●第I群
ジソピラミド/ピルシカイニド塩酸塩水和物
●第III群 アミオダロン塩酸塩
■Ca拮抗薬
ベラパミル塩酸塩
■β遮断薬
プロプラノロール塩酸塩
■Ca拮抗薬(短時間作用型製剤)
●ジヒドロピリジン系薬剤 第一世代 ニフェジピン
■降圧薬
●交感神経抑制薬(α遮断薬)
プラゾシン塩酸塩/ドキサゾシンメシル酸塩
●交感神経抑制薬(中枢性α2アゴニスト)
クロニジン塩酸塩/メチルドパ水和物/レセルピン
第5章 消化器
■消化性潰瘍治療薬
●酸分泌抑制薬(H2受容体拮抗薬)
シメチジン/ラニチジン塩酸塩/ファモチジン/ニザチジン/ラフチジン
■潰瘍治療薬
●精神安定薬 スルピリド
■鎮痙薬
●抗コリン薬
プロパンテリン臭化物/N-メチルスコポラミンメチル硫酸塩/
チメピジウム臭化物水和物
■刺激性下剤
●排便機能促進薬
ビサコジル/ヒマシ油
第6章 内分泌・代謝
■経口血糖降下薬
●スルホニルウレア(SU)系 クロルプロパミド
■ホルモン製剤
●甲状腺機能異常治療薬 乾燥甲状腺
■性ホルモン製剤
●男性ホルモン製剤 メチルテストステロン
●卵胞ホルモン製剤 結合型エストロゲン
第7章 アレルギー
A 高齢者に対する抗ヒスタミン薬の考え方
■第一世代抗ヒスタミン薬
d -クロルフェニラミンマレイン酸塩/dl -クロルフェニラミンマレイン酸塩/
ジフェンヒドラミン塩酸塩/ヒドロキシジン/シプロヘプタジン塩酸塩/
プロメタジン塩酸塩
第8章 その他
■パーキンソン病治療薬
セレギリン塩酸塩/アマンタジン塩酸塩
■貧血治療薬
硫酸鉄
■造血と血液凝固関係製剤
●抗血栓薬 チクロピジン塩酸塩
付録
1 疾患・病態によらず一般に使用を避けることが望ましい薬剤
2 特定の疾患・病態において使用を避けることが望ましい薬剤
事項索引
薬剤索引
書評
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高齢者ポリファーマシーにおける脱処方時の参考書
書評者: 徳田 安春 (地域医療機能推進機構(JCHO)本部顧問)
ポリファーマシーは患者に不利益をもたらす。コストが増大するだけでなく,副作用のリスクも高まるからだ。特に高齢者でリスクが高く,欧米ではそのエビデンスも蓄積してきている。急速に超高齢社会となったわが国でも問題となっており,われわれの一連の研究でもそのリスクが示されている。急性期病院への入院の原因となる急病のうち少なく見積もっても5%は薬の副作用によるものであった1)。STOPP基準(Screening Tool of Older Person’s potentially inappropriate Prescriptions criteria)によると,在宅医療の患者の約1/3の人々が不適切処方(Potentially Inappropriate Medication:PIM)を受けていたと報告されている2)。
このような状況で,ポリファーマシー患者の入院を受け入れている全国の急性期病院では,脱処方(De-Prescribing)の業務を行う役割を担っている。患者の利益と不利益をてんびんにかけながら処方分析を行い,不適切処方を減らす。退院時には,かかりつけ医師に電話で直接連絡を取り,退院時薬剤処方確認(Discharge Medication Reconciliation)を伝える。このような脱処方の任務を行うことが,ホスピタリスト医師の日常業務のうちの大きな部分を占めるようになった。
典型的なケースを示す。介護施設でフレイルな状態にもかかわらず,15種類もの内服薬が処方されていた80歳代の寝たきりの高齢者が誤嚥性肺炎となり入院となった。原因と考えられる抗精神病薬(ドパミン遮断作用による嚥下機能障害がある)等を中止し,その他の不適切薬剤に対して脱処方を行った。その結果,元気に回復し,退院時薬剤処方確認では5種類となった。
このような脱処方任務での参考資料として,高齢者で避けるべき薬剤リストを示した日本版ビアーズ基準は特に有用であった。これまでは日本版ビアーズ基準の具体的な利用方法が書かれた実践書はなかったが,ついに本書が登場した。本書「日本版ビアーズ基準概要」では,ビアーズ基準誕生の歴史とともにその妥当性,科学性,透明性が示されている。また,高齢者の身体機能や生理機能の変化と薬剤処方での一般的注意を総論的な知識として提供している。高齢者によくみられる疾患の特徴に加えて,典型的な症状が出にくい,症状の原因が多種類の病態によって起こる,などの臨床推論にかかわるポイントも示されている。各論では,薬剤の種類別に日本版ビアーズ基準における代表的な不適切処方がわかりやすく記載され,その代替薬が示されている。本書の編者である今井博久先生はオリジナルの基準を作成した故Mark H. ビアーズ先生と親交を深められて,日本版ビアーズ基準を開発された。海外の素晴らしいメンターを持つことによってイノベーションを生み出すことのできる,よい例であると思う。
●参考文献
1)Fusiki Y, et al. Polypharmacy and Adverse Drug Events Leading to Acute Care Hospitalization in Japanese Elderly. General Medicine. 2014 ; 15(1) : 110-6.
2)Fusiki Y, et al. Polypharmacy and Adverse Drug Events Leading to Acute Care Hospitalization in Japanese Elderly. General Medicine. 2014 ; 15(1) : 117-25.
「高齢者をみたらまず薬を疑え!」
書評者: 武藤 正樹 (国際医療福祉大大学院教授・医療経営管理学)
高齢者の薬剤処方で,「ひやり,はっと」した経験をお持ちの方は多いだろう。もともと外科医で,今も週2回の外来診療を行っている評者にもこうした経験は少なからずある。若いころ高齢者の外鼠径ヘルニアの術前の投薬で,ジアゼパムと塩酸ヒドロキシジンを使ったら,術後,延々と24時間以上も患者さんが眠ってしまって,目覚めるまでドキドキしたことがあった。
またニューヨークのブルックリンで家庭医の留学をしていたころのことだが,老年医学の専門医がいつも口癖のように言っていたことを思い出す。「高齢者をみたらまず薬を疑え!」。高齢者は多剤投与になりがちだし,医薬品による有害事象も出やすい。米国ではこうした高齢者の薬剤処方に関して,老年医学の専門家のMark H. Beers氏が1991年に初版を発表した「ビアーズ基準(Beers Criteria)」が用いられている。ビアーズ基準では,有害事象の重篤度の点から高齢者に使用を避けるべき薬剤の一覧表を示していて,2012年版には約90種類の医薬品のリストが挙げられている。
本書はこのビアーズ基準をお手本に,日本の現状に適応させて作った日本版ビアーズ基準に関する本だ。著者の今井博久先生らがビアーズ基準の考え方に沿って「日本版ビアーズ基準」を作成した。その作成手順は以下のようである。まず著者ら9名の専門家からなる薬剤の選考委員会を設置し,国内で用いられている候補薬剤について,「高齢者に不適切な薬剤処方」と専門家として判断するか否かについて,デルファイ法を用いて評価している。選考基準は以下の2つである。(I)高齢者を不必要なリスクに曝し,それよりも安全性が高い代替薬剤がある,あるいは効果が疑わしい等の理由から,65歳以上の高齢者において「常に使用を避けるのが望ましい」薬剤あるいは薬剤クラス,(II)65歳以上の高齢患者において「特定の病状がある場合に使用を避けるのが望ましい」薬剤あるいは薬剤クラス。
本書はこうして選ばれた精神系薬,鎮痛薬,循環器系薬,消化器系薬,内分泌・代謝系薬,抗アレルギー薬,抗パーキンソン病薬などの医薬品リストと,その薬剤情報,使用を避けることが望ましい理由,代替薬とその使用方法等が詳細に記載されている。
さて日本ではビアーズ基準はあまり用いられていないが,韓国ではすでに普及している。その韓国で2005年,ビアーズ基準に照らしてふさわしくない医薬品が,実際にどれくらい用いられているか調査が行われた。調査は韓国健康保険審査評価院(HIRA)が全韓のレセプトデータベースを用いて行った。その結果6835万件の高齢者向けの処方中,876万件(12.8%)がビアーズ基準による不適切処方であることが判明したという。
翻って,日本の現状はどうだろう。本書を基に日本でもレセプトデータベースによる調査を,ナショナル・レセプトデータベースを用いて行ってはどうだろうかと考えている。
書評者: 徳田 安春 (地域医療機能推進機構(JCHO)本部顧問)
ポリファーマシーは患者に不利益をもたらす。コストが増大するだけでなく,副作用のリスクも高まるからだ。特に高齢者でリスクが高く,欧米ではそのエビデンスも蓄積してきている。急速に超高齢社会となったわが国でも問題となっており,われわれの一連の研究でもそのリスクが示されている。急性期病院への入院の原因となる急病のうち少なく見積もっても5%は薬の副作用によるものであった1)。STOPP基準(Screening Tool of Older Person’s potentially inappropriate Prescriptions criteria)によると,在宅医療の患者の約1/3の人々が不適切処方(Potentially Inappropriate Medication:PIM)を受けていたと報告されている2)。
このような状況で,ポリファーマシー患者の入院を受け入れている全国の急性期病院では,脱処方(De-Prescribing)の業務を行う役割を担っている。患者の利益と不利益をてんびんにかけながら処方分析を行い,不適切処方を減らす。退院時には,かかりつけ医師に電話で直接連絡を取り,退院時薬剤処方確認(Discharge Medication Reconciliation)を伝える。このような脱処方の任務を行うことが,ホスピタリスト医師の日常業務のうちの大きな部分を占めるようになった。
典型的なケースを示す。介護施設でフレイルな状態にもかかわらず,15種類もの内服薬が処方されていた80歳代の寝たきりの高齢者が誤嚥性肺炎となり入院となった。原因と考えられる抗精神病薬(ドパミン遮断作用による嚥下機能障害がある)等を中止し,その他の不適切薬剤に対して脱処方を行った。その結果,元気に回復し,退院時薬剤処方確認では5種類となった。
このような脱処方任務での参考資料として,高齢者で避けるべき薬剤リストを示した日本版ビアーズ基準は特に有用であった。これまでは日本版ビアーズ基準の具体的な利用方法が書かれた実践書はなかったが,ついに本書が登場した。本書「日本版ビアーズ基準概要」では,ビアーズ基準誕生の歴史とともにその妥当性,科学性,透明性が示されている。また,高齢者の身体機能や生理機能の変化と薬剤処方での一般的注意を総論的な知識として提供している。高齢者によくみられる疾患の特徴に加えて,典型的な症状が出にくい,症状の原因が多種類の病態によって起こる,などの臨床推論にかかわるポイントも示されている。各論では,薬剤の種類別に日本版ビアーズ基準における代表的な不適切処方がわかりやすく記載され,その代替薬が示されている。本書の編者である今井博久先生はオリジナルの基準を作成した故Mark H. ビアーズ先生と親交を深められて,日本版ビアーズ基準を開発された。海外の素晴らしいメンターを持つことによってイノベーションを生み出すことのできる,よい例であると思う。
●参考文献
1)Fusiki Y, et al. Polypharmacy and Adverse Drug Events Leading to Acute Care Hospitalization in Japanese Elderly. General Medicine. 2014 ; 15(1) : 110-6.
2)Fusiki Y, et al. Polypharmacy and Adverse Drug Events Leading to Acute Care Hospitalization in Japanese Elderly. General Medicine. 2014 ; 15(1) : 117-25.
「高齢者をみたらまず薬を疑え!」
書評者: 武藤 正樹 (国際医療福祉大大学院教授・医療経営管理学)
高齢者の薬剤処方で,「ひやり,はっと」した経験をお持ちの方は多いだろう。もともと外科医で,今も週2回の外来診療を行っている評者にもこうした経験は少なからずある。若いころ高齢者の外鼠径ヘルニアの術前の投薬で,ジアゼパムと塩酸ヒドロキシジンを使ったら,術後,延々と24時間以上も患者さんが眠ってしまって,目覚めるまでドキドキしたことがあった。
またニューヨークのブルックリンで家庭医の留学をしていたころのことだが,老年医学の専門医がいつも口癖のように言っていたことを思い出す。「高齢者をみたらまず薬を疑え!」。高齢者は多剤投与になりがちだし,医薬品による有害事象も出やすい。米国ではこうした高齢者の薬剤処方に関して,老年医学の専門家のMark H. Beers氏が1991年に初版を発表した「ビアーズ基準(Beers Criteria)」が用いられている。ビアーズ基準では,有害事象の重篤度の点から高齢者に使用を避けるべき薬剤の一覧表を示していて,2012年版には約90種類の医薬品のリストが挙げられている。
本書はこのビアーズ基準をお手本に,日本の現状に適応させて作った日本版ビアーズ基準に関する本だ。著者の今井博久先生らがビアーズ基準の考え方に沿って「日本版ビアーズ基準」を作成した。その作成手順は以下のようである。まず著者ら9名の専門家からなる薬剤の選考委員会を設置し,国内で用いられている候補薬剤について,「高齢者に不適切な薬剤処方」と専門家として判断するか否かについて,デルファイ法を用いて評価している。選考基準は以下の2つである。(I)高齢者を不必要なリスクに曝し,それよりも安全性が高い代替薬剤がある,あるいは効果が疑わしい等の理由から,65歳以上の高齢者において「常に使用を避けるのが望ましい」薬剤あるいは薬剤クラス,(II)65歳以上の高齢患者において「特定の病状がある場合に使用を避けるのが望ましい」薬剤あるいは薬剤クラス。
本書はこうして選ばれた精神系薬,鎮痛薬,循環器系薬,消化器系薬,内分泌・代謝系薬,抗アレルギー薬,抗パーキンソン病薬などの医薬品リストと,その薬剤情報,使用を避けることが望ましい理由,代替薬とその使用方法等が詳細に記載されている。
さて日本ではビアーズ基準はあまり用いられていないが,韓国ではすでに普及している。その韓国で2005年,ビアーズ基準に照らしてふさわしくない医薬品が,実際にどれくらい用いられているか調査が行われた。調査は韓国健康保険審査評価院(HIRA)が全韓のレセプトデータベースを用いて行った。その結果6835万件の高齢者向けの処方中,876万件(12.8%)がビアーズ基準による不適切処方であることが判明したという。
翻って,日本の現状はどうだろう。本書を基に日本でもレセプトデータベースによる調査を,ナショナル・レセプトデータベースを用いて行ってはどうだろうかと考えている。
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本書の記述の正確性につきましては最善の努力を払っておりますが、この度弊社の責任におきまして、下記のような誤りがございました。お詫び申し上げますとともに訂正させていただきます。