加齢黄斑変性

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近年わが国でも患者が激増している加齢黄斑変性についてのモノグラフ。光干渉断層計(OCT)や眼底造影装置の著しい進歩、疾患感受性遺伝子多型の発見。光線力学療法や抗VEGF抗体製剤の臨床導入などのトピックテーマで満載し、この1冊で加齢黄斑変性の基礎から臨床までが網羅されている。欧米での長年の研究成果を踏まえながら、日本人の加齢黄斑変性の病態理解、診療に鋭く切り込む内容。
執筆 𠮷村 長久
執筆協力 辻川 明孝 / 大谷 篤史 / 田村 寛
発行 2008年10月判型:A4頁:272
ISBN 978-4-260-00678-1
定価 16,500円 (本体15,000円+税)
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 あれは1997年の秋のことでした.私はGassの講演を聞くために信州大学の医局の先生方と一緒に名古屋から福岡行きの新幹線に乗っていました.なぜか私の鞄の中にScience誌が入っていて,その新着の雑誌を読みもしないで,「どうぞ」とある医局員に渡しました.しばらくして彼女が「先生! すごい話が載っている」と言うではありませんか.何とホモの変異があるとStargardt病を引き起こすことが知られているATP-binding cassette transporter, retina(ABCR, 今ではABCA4とよぶ)遺伝子にヘテロの変異が起こると加齢黄斑変性になりやすいというAllikmetsらの論文が出ていました.福岡の講演ではGassがその論文を引用して加齢黄斑変性が遺伝疾患であることを述べていました.当時の私には,加齢黄斑変性のように高齢で発症する疾患と遺伝子変異がどうにも結びつかなかったのですが,この論文がその後の加齢黄斑変性と遺伝子多型の関係の壮大な話のきっかけになったことは間違いありません.歴史的な学問の進歩を目の当たりにすることができた瞬間でした.
 病態理解だけではなく,加齢黄斑変性の診断もこの20年間に大きく進歩しました.インドシアニングリーン蛍光造影検査の普及,共焦点レーザー検眼鏡,そして光干渉断層計の導入により,病巣が眼底に広がっている様子が手に取るようにわかるようになりました.また,かつては光凝固術ぐらいしかなかった治療も大きく様変わりしました.さまざまな薬剤が試みられては消えていきました.放射線治療,黄斑下手術,黄斑移動術,経瞳孔的温熱療法が注目を浴びた時代もありました.光線力学療法の導入によって,加齢黄斑変性が治療のできる疾患に変わりました.今後は,抗VEGF抗体をどのように使うかが大きな課題となっていくでしょう.
 このように,加齢黄斑変性はその病態理解,診断,治療のいずれの面でも過去20年間にエポックメーキングな変化が起こった疾患です.その変化は今も続いているため,現時点でこの疾患をまとめることは容易な作業ではありません.しかし,抗VEGF製剤の使用によって,今後,加齢黄斑変性の治療を行う施設が増加するであろうことを考えると,今この疾患をまとめることは非常に重要です.じっくりと腰を落ち着けて本を書くことが難しい時代ではありますが,自らの浅学菲才を省みず,できるだけ考え方に筋の通った本を作りたいと思い本書を企画しました.このため,本書は現在一般的な分担執筆ではありません.もともとの原稿の約1/3は京都大学眼科黄斑外来の大学院生と教員の手になるものです.残りは3名の執筆協力者と私が最初から原稿を作りました.そして,最終的にすべての原稿に私が手を入れて本書ができあがりました.したがって,本書に関する最終的な責任はすべて私にあります.分担執筆でないため,全体の統一性はとれているでしょうが,特定の考え方が前面に出ているかもしれません.また,第1章はかなり理屈っぽい記載になっているようです.そのように思われる読者は,残りの部分をお読みになってから第1章に戻っていただければ幸いです.
 なお,本書に使用した写真の多くは京都大学眼科の症例ですが,一部,私が信州大学時代に経験した症例が含まれています.文献の引用は,できるだけ正確であることを心がけましたが,お気づきの点がございましたらご指摘いただければ幸いです.また,重要な文献がすべて引用されているわけではないことをお断わりしておきます.
 最後に本書の出版を可能にしていただいた京都大学眼科黄斑外来の先生方,信州大学眼科黄斑外来の先生方,そして貴重な症例を提供いただいた関西医科大学眼科の高橋寛二先生,Texas A&M Medical CenterのRobert H. Rosa Jr.先生,また,これまでご指導をいただいた多くの先生方,そして医学書院の方々に厚くお礼を申し上げます.

 平成20年9月
 吉村長久

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[1] 基礎知識
 I.黄斑部
 II.加齢黄斑変性の疾患概念と分類
 III.加齢黄斑変性に特徴的な病変
 IV.加齢黄斑変性の特殊病型
 V.血管新生
 VI.加齢黄斑変性に関するコホート研究
 VII.加齢黄斑変性に関する基本用語解説

[2] 検査と診察
 I.眼底所見のとり方と検査の進め方
 II.眼底写真撮影と蛍光眼底造影検査
 III.Time-domain OCT
 IV.Spectral-domain OCT
 V.Microperimeter 1®(MP-1)による微小視野検査
 VI.眼底自発蛍光

[3] 鑑別を要する疾患
 I.特発性脈絡膜新生血管
 II.近視性脈絡膜新生血管
 III.中心性漿液性脈絡網膜症
 IV.網膜色素線条
 V.特発性傍中心窩毛細血管拡張症
 VI.網膜静脈分枝閉塞症
 VII.網膜細動脈瘤
 VIII.続発性脈絡膜新生血管
 IX.成人発症卵黄状黄斑ジストロフィ(成人型卵黄様黄斑変性)
 X.診断に迷う症例

[4] PCVをめぐる諸問題
 I.小型のPCVと巨大型のPCV
 II.PCVとドルーゼン
 III.網膜色素上皮離を伴うPCV
 IV.ポリープも剥離する? OCTによる新所見
 V.網膜色素上皮裂孔とMicrorips
 VI.後部ぶどう腫の境界に生じるPCV
 VII.ゲノムからみたPCVとAMD
 VIII.PCVの病理
 IX.日本人のPCVと米国人のPCV

[5] 治療の実際
 I.光凝固術
 II.光線力学療法(PDT)
 III.抗VEGF療法
 IV.その他の治療法
 V.ロービジョンケア
 VI.サプリメントは有効か?
 VII.新治療導入に関する大規模臨床試験
 VIII.症例検討

索引

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日本におけるAMD診療のために
書評者: 湯澤 美都子 (駿河台日本大病院教授・眼科学)
 欧米には加齢黄斑変性(AMD)についての成書が何冊もあるが,これまでわが国にはなかった。その理由は,長い間わが国ではAMDの頻度が低く,眼科医の関心が低かったことと関連が深いと思う。しかし,近年わが国でも滲出型AMDが増加し,2002年には身体障害者手帳取得原因の4位を占めた。また滲出型AMDと診断されてきた疾患の中にはポリープ状脈絡膜血管症(PCV)が多く含まれており,日本人のAMDは病態も治療効果も欧米のものとは異なることが明らかになった。さらにインドシアニングリーン蛍光造影や光干渉断層計(OCT)による新知見が報告されるようになり,光線力学療法,抗血管新生薬など新しい治療法も導入され,AMDの臨床はターニングポイントを迎えた。そこでAMD,とくに日本人のAMDについての成書の必要性が痛感されるようになった。

 このほどタイムリーに吉村長久教授と京都大学黄斑グループによる『加齢黄斑変性』が医学書院から出版された。本書の特筆すべき点は,第一に現在のAMDの最新知見のエッセンスが凝集されていることである。その中には京都大学黄斑グループの優れた研究結果もちりばめられている。たくさんの論文の結果は表にまとめられ,要点は図示され,大切なことだけが簡潔に記述され,読みやすいように工夫されている。また最新知見の意味や問題点が吉村教授の鋭い洞察力に基づいて解説されている。さらに内容を理解するために必要な事項も多くが図解してあり,非常に親切な本である。本書を一冊読めばAMDを理解するために必要な基礎的知識,検査,診断,鑑別疾患,日本人に多いPCVをめぐる諸問題や日本人のAMDの特徴,および治療の最前線について網羅的に理解できる。

 第二はカラー写真,蛍光眼底造影写真,OCT写真のいずれもが非常に鮮明であり,各々の写真を眺め,解説を読むだけでAMDとPCV,網膜血管腫状増殖のみならず,鑑別疾患についてもよく理解できる。図譜としても超一級品である。さらに治療の項では治療後の経過も写真で示してあるし,症例検討の項には治療法の選択とコメントも付記されており,日常臨床に有用である。

 AMDの研究者のみならず,AMDに遭遇するすべての眼科臨床医に読んでもらいたい,明日から役に立つ名著である。
著者の眼底診療への熱い思いがこめられた書
書評者: 米谷 新 (埼玉医大教授・眼科学)
 京大グループから上梓されたこの本を手にすると,大型で本文260ページもあり,タイトルからイメージされる以上のボリュームに圧倒されるかもしれない。しかし,ご安心あれ。この本は,高い専門性と学術性を備えながら,眼底クリニックのマニュアル,あるいは図譜など多彩な性格を併せ持っている。一言でこの本の特質を言い表すなら,モノグラフを教科書のオブラートで包んだ本ということができる。最初に京大グループと書いたが,実質的にはその多くが一人の著者によるものであり,この本の中に,加齢黄斑変性,そして眼底診療への著者の熱い思いが込められており,その結果としてページ数が増えたものと理解される。

 本は5章から構成されており,第1章の基礎知識からはじまる。ここを読むだけで,この本がいかに丁寧に書かれているかが理解できる。黄斑の定義から始まり,加齢黄斑変性の疾患概念,分類 等々すべてにおいて,現時点での最も妥当であろう考え方が示されている。この「考え方」は,膨大な内外の文献を渉猟した上での著者の意見であり,説得力があり,バランスのとれたものとなっている。このバランスの良さ,客観性を保とうという姿勢は全編で貫かれており,このような芸当は,今流行の分担執筆本ではなし得ないことである。

 加齢黄斑変性の診断に必須となった画像診断法については,欧米と日本での特にICGへのスタンスの違いが,本疾患についての考え方がなぜ違うのかと同時に,その歴史的背景から述べられている。しかし,光干渉断層法OCTは加齢黄斑変性の必須検査法であることは世界共通の認識である。本書では,最新のフーリエドメインOCT画像がふんだんに使われており,これが大きな特長となっている。さらに,カラー眼底写真,FAG,ICG写真だけでなく,模式図も多用されており,専門書でありながら,初心者にとっても眼底所見がわかりやすくなっている(写真222枚,色図36枚)。著者の沢山の人に眼底をわかって欲しいという気持ちの現れであろう。暇なときには,この画像を眺めるだけでも楽しめる。

 著者が,眼科基礎研究における大家であることは衆目の一致するところであろう。しかしこの本の内容は,優れた臨床家でもあることを如実に語っている。臨床家として膨大な臨床例を見事に料理しきっている一方,第1,4章では,著者が単なる臨床家と一線を画す,科学者の目を感ずることが出来る。このような本を,一人で書ききることの凄さに,同じ畑にいるものは感服するか嫉妬するか,いずれかであろう。このような優れた教科書が世に出たことを素直に喜ぶものであり,専門医だけでなく,専門医をめざしている人たちにも是非読んでもらいたい。そして,繰り返しになるが,読み方,見方で,専門書にも図譜にも,眼底診療の手引きにもなる本であるが,この本の根底にある何かを感じ取ってもらいたい。その何かがある,希有なる本である。この本は。
AMDをめぐる「もやもや」を吹き飛ばす快書
書評者: 岸 章治 (群馬大大学院教授・視覚病態学)
 加齢黄斑変性(AMD)は,近年,高齢者の失明の最大の原因となり,社会的な関心も急速に高まっている。一方で,その実体を明確に説明できる人はほとんどいないであろう。AMDの概念と治療はめまぐるしく変わり,とにかくわかりにくいのである。この度,上梓された吉村長久氏(京都大学眼科教授)執筆による『加齢黄斑変性』はAMDをめぐる「もやもや」を吹き飛ばす快書である。

 本書は5章からなる。第1章は基礎知識で,混乱しているAMDの疾患概念を明快に分類している。AMDのとらえ方は日本と欧米では異なっている。欧米ではドルーゼンの関与が大きいこと,日本ではインドシアニングリーン(ICG)蛍光造影や光干渉断層計(OCT)の新技術が導入されてからAMDを扱うようになったことがその違いであるという。たとえばポリープ状脈絡膜血管症(PCV)はICG造影なくしては診断できない。このことが日本でPCVが多い一因であるという。本邦からの論文が多く,我が国の貢献度の高さがうかがえる。血管新生の項は著者の基礎研究者としての素養がうかがえる。読者は第1章だけでAMDの全体像が把握できるようになったと感じるであろう。第2章では,フルオレセインおよびICG蛍光造影,OCT,微小視野などの検査法が実践的に書かれている。第3章は鑑別疾患であるが,実は黄斑疾患学というべき内容である。中心性漿液性網脈絡膜症,特発性傍中心窩毛細血管拡張症,卵黄様黄斑変性などは,最近概念が変わってきているので注目されたい。第4章はPCVをめぐる諸問題である。PCVの病巣がOCTでどう反映されるか,PCVは新生血管なのか,血管異常なのか,ホットな話題が組織標本とともに展開される。最も刺激的な話題はゲノムからみたPCVとAMDである。AMDはじつはage-relatedではなく,gene-relatedであること,AMDに関与する遺伝子がコードする蛋白は視細胞内節のミトコンドリアに局在しているというくだりは,ついにAMDの正体を垣間見たようでわくわくする。最終章は治療の実際である。今までに,出ては消えていった治療法の利点と欠点が解説されている。現段階では抗VEGF療法が本命である。新規治療の導入に伴い,さまざまな大規模臨床試験が実施され,学会ではそのデータがしばしば引用される。これらの臨床試験の勘どころが整理されているのはありがたい。

 本書は基本的に個人が書いたものである。その点で近年まれな,本らしい本である。分担執筆と異なり,記述に一貫性があり,著者の主張がある。文献の引用は丁寧で,学者としての姿勢が読み取れる。キャリアの大半をAMD研究の最前線で過ごした著者でなければ,俯瞰的で,かつ細部にこだわった本書の執筆は不可能であったであろう。本書は内容が高度であるにもかかわらず,わかりやすく,楽しみながら通読できる。AMDの治療と研究にたずさわる眼科医だけでなく,一般に広く本書をお薦めしたい。

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