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医療者のための結核の知識 第3版

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結核は依然として本邦の主要な感染症である。高齢者、都市貧困層、HIV感染者、外国人など、結核を停滞させている要因は増えており、対策は感染者の早期発見と潜在性結核感染症の治療へとシフトしている。第3版では、特異度の高い検査であるインターフェロンγ法(QuantiFERON®)の項を加え、感染症法(2007年4月施行。結核予防法が本法に統合された)による規定に準拠して、結核の知識のup-to-dateをはかった。
四元 秀毅 / 山岸 文雄
発行 2008年11月判型:B5頁:212
ISBN 978-4-260-00660-6
定価 3,520円 (本体3,200円+税)
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第3版の序

 結核予防法の大改定をうけて本書の第2版が出されたのは2005年のことであったが,今回,再度の改訂を行うことになった。前版の「序」でふれたように「結核予防法」が「感染症法」に取り込まれる方向にあるのは当時からすでに予想されていたことであったが,その時期は予想以上に早く,内容の変化は想像以上であった。短期間で改訂を繰り返すことについて忸怩たる思いもあるが,結核の診療は法律に依っているところが大きく,それに合わせた内容の刷新が必要であったことをご理解いただきたい。

 今回の改訂では,「感染症法」で示された内容にそって結核の診療をどのように進めるべきかを示した。「入・退院基準」に関しては,前版でも日本結核病学会の基準などを紹介したが,今回の法改定でとくに入院基準が厳密になったので,その実際を示した。退院についても基準が示されたが,これらも法律の文章だけでは分かり難い面があるので,具体的な解説を加えた。付言すると,世界保健機関(WHO)の基準はそれとして,わが国の退院基準は,欧米の実情と比較して「感染性の消失」という点にとらわれすぎているきらいがある。結核治療の総体としては退院後治療の比重が大きいので,今後,早期退院をはかり,その後の外来治療によりいっそうの努力がかたむけられるべきであろう。
 さらに,今回の法改定で,「潜在性結核感染の治療」が公式に認められた。また,結核感染の判断も従来のツベルクリン反応からインターフェロンγ法へと舵がきられつつあり,結核健診のあり方も見直しの時期にあるといえよう。

 一方,治療に関して,本書の印刷直前に,結核の治療薬としては1971年のリファンピシン以来37年ぶりにリファマイシン系抗生物質であるリファブチンの製造販売が承認され,薬価基準が収載された。適応は結核症の治療以外に,MAC症を含む非結核性抗酸菌症の治療,HIV感染患者における播種性MAC症の発症抑制であり,薬剤相互作用のためリファンピシンの使用が制限される場合,特に抗HIV薬の使用時にはリファンピシンに代えての併用が可能となった。さらにクラリスロマイシンが非HIV感染者の非結核性抗酸菌症の治療薬として適応が認められた。今後はレボフロキサシンをはじめとするフルオロキノロン剤の適応拡大が望まれる。
 米国の20世紀末の結核政策の成功は外来治療の充実と新たな患者を出さない工夫・努力によるところが大きかった。わが国でも結核罹患率は徐々に低下しつつあるが,低まん延国の状態にはほど遠い。その実現には,後追いの政策だけでなく,発生患者の治療の完遂と新たな患者を出さないことを目指したより強力な対策が必要である。本書を通じてこれらの結核診療のあり方の理解が深まることを念じている。

 今回も,本文でとりあげなかった事項を「コラム」に盛り込んだ。担当していただいた佐藤紘二,佐々木結花の両先生に感謝する。

 2008年10月
 四元秀毅
 山岸文雄

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I 結核の現状
 世界の結核,日本の結核
 結核の歴史
 日本の結核結核人口の高齢化
 結核の分子疫学

II 結核はどんな病気か
  結核の起こり方結核と結核菌
  結核菌の特徴
  結核の感染と発病
  結核の病理所見
  結核はどんなときに起こりやすいか
  結核の臨床像

III 結核の検査のすすめ方
  どんなときに結核を疑い,どのように検査をすすめるか
  肺結核の画像所見
  結核菌の検査
  その他の検査
  感染の検査法
  インターフェロン法

IV 結核の治療
  治療を始める前の手続き
  治療を始めるにあたって結核医療の基準に関連した一般的事項
  化学療法の一般的事項
  化学療法の実際
  治療を成功させるために(DOTS)
  入退院基準
  クリティカルパス

V 結核の広がりをどのように抑えるか
 A.患者の早期発見と院内感染対策
  結核患者をどのようにして発見するか
  結核の院内感染とその防止策
  結核患者が発生したときの処置
  職員の健康管理
  院内感染対策委員会の役割
 B.結核の発病をどのように抑えるか
  BCG接種
  潜在性結核感染症の治療
  結核発病のリスクファクター
  核接触者検診
 C.感染症法への統合とその背景
  結核予防法の廃止と感染症法への統合

VI さまざまな結核症例呈示
  症例1 肺炎様陰影を呈した男子高校生結核性肺炎
  症例2 咳とびまん性の小粒状影をみた女性気道散布型病変
  症例3 発熱で発症した中年男性結核性胸膜炎
  症例4 咳と発熱で発症した東南アジア出身の若年男性粟粒結核
  症例5 頭痛,意識低下をみた女性脳結核
  症例6 1年間にわたって腰痛をみた男子大学生結核性脊椎炎(脊椎カリエス)
  症例7 強い咳と微熱をみた若年女性気管支結核
  症例8 右上背部痛をみた若年男性初感染結核
  症例9 不明熱の中年男性リンパ節結核
  症例10 診断困難で予後不良な高齢者の結核再治療例
  画像所見解説

付1:エイズと結核
  HIV感染に合併する結核の特徴
  HIV感染に合併する結核の診断
  エイズ合併結核の治療
  エイズ合併結核の予防
  結核ワクチン
付2:非結核性抗酸菌症
  非結核性抗酸菌とは
  起こり方と臨床像
  疫学と診断基準
  治療
  症例 少量の喀血を繰り返す中年の女性(MAC症)

巻末資料
  1.感染症法(結核に関する条文を抜粋)
  2.結核発生届
  3.結核患者(入院・退院)届
  4.入院勧告書(72時間以内)
  5.入院勧告書(30日以内)
  6.感染症患者医療費公費負担申請書
  7.感染症法37条による初回患者情報提供書
  8.感染症法37条による継続情報提供書
参考文献

索引

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身近に迫る結核に備える第一線の医療者のために
書評者: 石川 信克 (結核予防会結核研究所所長)
 本書は,医師,看護師・保健師等の医療者に必要な結核の知識を網羅した読みやすい解説書である。感染症法統合後の初の改版で,思わぬときに結核患者に遭遇する可能性のある現在の状況で,いかに早く診断し,適切な治療を行い,周囲へのまん延を防ぐか,まさに第一線の医療者のための簡易手引き書といえる。

 著者のお二人は共に,東京病院,千葉東病院という代表的な国立病院機構の院長で,豊富な結核診療の経験に基づいて日常診療に必要な知識や手順の内容が整理されている。

 最初の第2章は基礎編で,結核の疫学や歴史,細菌学や病理学の最新の知識をわかりやすくまとめてある。第3章は検査の進め方で,日常診療でいかなるときに結核を疑い,どのように検査を進めるべきか,具体的な説明がある。胸部X線検査による画像診断,菌検査の古典的な塗抹・培養法,核酸増幅法や同定法,薬剤感受性検査の諸法が詳細に述べられている。感染の検査では,QFT-2Gを中心に,インターフェロンγ産生量の測定の意義がわかりやすい。

 治療に関する第4章では,発生届や入院届,医療費公費負担申請等を含む診断後の感染症法に基づく対応の手順が模式的に示されている。結核の診療は法律によっているところが大きく,感染症法で示された内容は一般医家や診療関係者は理解や実行がやや難しいが,ここの説明は現場で大いに役立つと思われる。化学療法の項では,薬剤に関する基礎的説明や実際の処方,治療の進め方が最新の情報に基づいている。さらに治療を成功させるための支援法DOTS,入退院基準,クリティカルパス等,治癒をもたらすための総合的なシステムの記述もある。

 感染拡大防止に関する第5章では,特に院内感染防止の諸策が詳しく,本書の圧巻ともいえる。さらに発病予防としての接触者健診,潜在性結核感染症の治療等も具体的である。

 第6章は症例検討で,10の症例が呈示されている。そのほか,エイズと結核,非結核性抗酸菌症に関する項もある。巻末資料には感染症法の結核に関連する条文も付けられ,便利である。

 本書は結核診療に関係する方々にとって大いに助けになると確信する。
いまだに問題の多い「結核」への対応を学ぶ良い解説書がここにある
書評者: 渡辺 彰 (東北大加齢医学研教授・抗感染症薬開発研究部門)
 結核はなぜなくならないのか? それどころではない! 結核は過去の疾患ではなく,わが国にとってはいまだに大きな問題を孕む感染症である。年間2万数千人が新しく結核を発症して2000人前後が死亡しているのである。近年,結核罹患率(=新規患者の年間発生率,人口10万対)はようやく20を割ったが,これは先進国の北欧諸国や米国の5倍前後と高い。すなわち,わが国は決して結核対策の先進国ではなく,東欧圏などと同じレベルの中蔓延国なのである。疫学的背景としては,わが国の人口構成で高齢者が急増していることの影響が大きい。過去の高蔓延時,若いころに感染して発病せずにいたが病巣を抱えている潜在性結核が高齢者に多く存在し,そこから多数の発症が起こるとともに,結核免疫の脆弱な若年層がそれをもらって集団感染を起こすという構図が最近顕著になっているのである。若手医療者もまったく同様であり,診断のつかないまま一般医療施設を受診する結核菌排菌患者に遭遇する機会が増えている現在,若年看護師を中心とする職業感染としての結核集団発生も多い。結核は感染・発症するとその人にとっては一生続く一大事となるのであり,一般の医療職もここでもう一度「結核」を学んで対応策をしっかり考えたい。

 本書はそのような要望に応えるのに最も良い解説書である。本書の第1版は2001年に出版された。わが国の結核が再増加に転じて1999年に結核緊急事態宣言が当時の厚生省から出され,同じころに明治時代から続いてきた伝染病予防法が抜本的改正を受けて感染症法に衣替えされた直後であり,時代の変化をとらえたタイムリーな企画であった。内容もわかりやすく,結核の早期発見と効果的な治療および時代に対応した結核院内感染対策の構築をめざすために結核の何を学ぶのか? という視点が確立されていて,一般臨床医のみならず看護師・保健師等のコメディカルにも好評を得た。2005年の改訂版は,この年の50年ぶりの結核予防法の改正を受け,結核感染のハイリスク集団が明確となってきた状況に対応してより効率的な結核対策を構築する目的があった。しかるに,2007年に結核予防法が感染症法に統合されたことを受け,本書はさらに改訂を加えてこのほど出版された。すなわち,感染症法の内容に沿いながら,潜在性結核の早期発見と治療の重要性,健診制度,必要な検査・治療,入退院基準等が解説されている。新たな知識としては従来のツベルクリン反応検査に代わるインターフェロンγ法の詳述,新たに複数の保険適用治療薬が承認された類縁疾患である非結核性抗酸菌症の解説,などが述べられるとともに,コラム欄ではさらに深い内容を知ることができる構成となっており,現場の医療者に薦めたい良き一冊である。

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