医療福祉士への道
日本ソーシャルワーカーの歴史的考察

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社会福祉士及び介護福祉士法制定から20年、精神保健福祉士法制定から10年。両資格法の制定に深く関わり、法制化の困難さ、国家資格の意味をも熟知する著者は、なぜ医療福祉士(仮称)の国家資格化にこだわるのか。歴史を見据え、在宅医療の時代だからこそ求められる医療福祉士国家資格化への思いを熱く語る。
京極 高宣
発行 2008年05月判型:A5頁:116
ISBN 978-4-260-00687-3
定価 1,760円 (本体1,600円+税)
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まえがき

 2007(平成19)年は,社会福祉士及び介護福祉士法制定20周年であり,しかも精神保健福祉士法制定10周年でもあった。この20年間,精神保健福祉士に関しては,周知のとおり社会復帰調整官の設置などの改革が図られるほかは余り大きな変化はなかったが,特に社会福祉士と介護福祉士に関しては,法改正と新しい福祉人材確保指針の策定など大幅な改善が図られた。
 しかし,上の両資格法の制定に,私個人として政策的かつ理論的にも長年深く関わってきた立場からすると,いかんせん医療福祉士(仮称)がいまだ法制化されていないことに無念の気持ちを拭い去れない。ほぼ20年前にPSWを含む形で保健医療分野のソーシャルワーカーの国家資格化が医療福祉士法(仮称)案として旧厚生省内部で検討されつつあったが,諸般の事情から法案として国会に上程されなかった。当時,私は日本社会事業大学から出向した厚生省社会局社会福祉専門官だったが,医療福祉士法(仮称)案のほうは関心がなかったわけではないものの,当時の社会局の立場から社会福祉士及び介護福祉士法の成立とその後の法の施行に向けて全力投入しなければならなかったので,医療福祉士法(仮称)案のほうは,気になりつつもソーシャルワーク研究の先輩の諸先生方に任せ,そうした関わりから一切手を引かせていただいた。そのうち,先輩の諸先生方のイデオロギー的指導によりソーシャルワーカーは一つだから,その資格も社会福祉士だけでよいとする「社会福祉士一本化路線」が日本医療社会事業協会執行部にすっかり定着してしまったのである。もちろん保健医療分野で活躍する社会福祉士を中心とする医療ソーシャルワーカーの地位向上等が涙ぐましい努力で図られたことは否定しないものの,医療ソーシャルワーカーの国家資格化はかえって遠のいてしまった感がある。誠に残念であり,ソーシャルワーカーの国家資格化に政策的かつ理論的に多少とも関わった研究者としては,私も何か道義的責任を感じざるを得なかった。もし,あの頃に,先輩の諸先生方に任せず,最後まで医療ソーシャルワーカーの願いに私なりに責任をもって応えていたらどうなったかと反省するところ仕切りなのである。
 さて医療福祉士法案の提案が困難になった頃に,私は本邦最初のソーシャルワーク職の資格化に関する専門書(『日本の福祉士制度―日本ソーシャルワーク史序説』中央法規出版,1992年,新版1998年)を刊行したが,その本の中扉に,次のナイチンゲールの深奥な言葉を引用しておいた。

「少数者による静かな着手,地味な苦労,黙々と,そして徐々に向上しようとする努力,これこそが,一つの事業がしっかりと根を下ろし成長していくための地盤なのです」(「妹パセノープへの手紙」武山満智子,小南吉彦訳『フローレンス・ナイチンゲールの生涯』現代社,1981年,326頁)

 その意味は,今まさに発足した社会福祉士にしても,さらに近い将来発足するであろう医療福祉士(仮称)にしても,それが定着し開花していくには上のナイチンゲールの言葉どおりの粘り強い道程が不可欠と考えたからであった。
 しかし,精神保健福祉士は1997(平成9)年に法制化されたが,不幸にしてその片割れの医療福祉士(仮称)は社会福祉士一本化路線により,約20年たってもいまだに法案にすらなっていない。しかし,全国的にみると,その後約20年経った現在もなお諦めずNPO法人日本医療ソーシャルワーク研究会や全国医療ソーシャルワーカー協会連絡協議会など,医療ソーシャルワーカーの国家資格化に粘り強く取り組んでいる人々の存在を知って,かつて社会福祉士制度を立ち上げた当時を思い出し,ある意味で非常に新鮮な深い感動を覚えた。しかも時代は変わり,医療の世界も病院医療中心の時代から在宅医療重視の時代に突入しつつあり,保健医療と福祉の連携は不可欠な状況において,保健医療分野のソーシャルワーカー(医療福祉士)の新たな活躍がそうした要石として期待されるようになってきた。「天の時,地の利,人の和」といわれるが,少なくとも「天の時」は到来したのである。そこで,私も,これまで講演や雑誌論文等で述べてきた考え方や内容を改めて医療福祉士への道のりを展望する単著を刊行し世に問う決意をするに至った次第である。
 先に「地の利」に関しては,かつての社会福祉士制度の法制化においては私が当時の厚生省社会福祉専門官として国家公務員であったことが幸いしたともいわれている。この点に関しては,福祉士法制定20周年を経て,資格法制定当時の厚生大臣であった斉藤十朗(さいとうじゅうろう)氏との月刊誌『地域ケアリング』(北隆館,2008年3月号)の新春ビッグインタビュー「福祉士資格創設から20年! 今だから言える制定当時の舞台裏」で十分述べさせていただいている。それにしても今回も歴史の奇妙な巡り会わせで,10年におよんだ日本社会事業大学の学長の職を終えて国立社会保障・人口問題研究所長(2005年4月~)という国家公務員となっており,それなりに厚生労働省その他の国の政策動向に広く目配りできる位置にいることは「地の利」がある。しかしながら問題は「人の和」であり,医療ソーシャルワーカー間の結束や関係者の協力がなかなか得られないところに難点があることはいうまでもない。
 ところで,最近,ソーシャルワーク研究で著名な秋山智久(あきやまともひさ)氏が,25年間にわたる全国調査をふまえた労作『社会福祉専門職の研究』(ミネルヴァ書房,2007年)を刊行された。内容については,然るべきところで紹介されるはずであるが,今もなお社会福祉士一本化路線を支持される点では私と意見を異にするところがあるものの,実証的かつ理論的にも私も共感する素晴らしい内容の力作として,誠に秋山氏のライフワークに相応しい歴史的にも記念碑的な文献となっている。私も秋山氏の労作に強い刺激を受け,データ面や論理面では不十分さを十分知りながら,かなり政策科学的な視点で拙著を刊行した次第である。
 私どもがしばしば忘れがちなことに,ソーシャルワークの資格化と発展は,政治家や行政官や学者の力だけに頼っては不可能であり,ソーシャルワーカー自らによる戦いが最大の鍵なのである。先のナイチンゲールの言葉とほぼ同じ意味内容で,日本社会福祉会発足式(1993年1月15日,東京都八王子市大学セミナーハウス)で秋山氏が起草された次なる力強い宣言をここに引用させていただきたい。

 「我々『社会福祉士』は,次のように願う。
  我々は戦う,全ての人々のよりよき生活のために。
  我々は憎む,非人間的な社会を。
  我々は愛する,全てのかけがえのない人々を。
  我々は援助する,謙虚な心と誠意一杯の努力をもって。
  そのために我々は,明るい,さわやかな,実力を持った,柔軟で民主的な専門職集団を結成したいと心より願う」(秋山前掲書,282頁)

 現在,医療ソーシャルワーカーは,ごく一部に診療報酬が点数化され,ごく一部の病院に配置基準が設けられているとはいえ,決して恵まれた労働環境にはなく,精神保健福祉士と比べて社会的認知はおろか医療界からも十分に認知されていない。具体的には待遇もなお医療事務職を大幅に超えていない。医療ソーシャルワーカーは福祉専門職としてはともかく,医療職としては正式な認知を与えられていないし,在宅医療に対する法的権限も全く定められてはいない。こうしたことに対する大幅な改革は不可欠であるが,そのためにも医療ソーシャルワーカーの国家資格化〔いいかえれば医療福祉士(仮称)の制定〕は必要不可欠なのであると私は考えている。先のナイチンゲールの精神と日本社会福祉士会発足宣言の理念をもってすれば,それは決して不可能とはいえないと私は確信している。
 なお,本書の大半はすでに触れたように講演や論文等で発表したものを加筆修正したものだが,終章は私の新しい経済理論であるオリジナルな社会市場論からの分析であり,従来から常識であったソーシャルポリシー(社会政策)とソーシャルワーク(社会事業)の二元的分離論をソーシャルマーケット(社会市場)という土俵の中で統一的に捉えようとした試論である。
 本書がわが国における医療ソーシャルワーカーの地位と身分の向上に役立ち,何よりも医療福祉士(仮称)の誕生に役立ち,患者やその家族の人たちの福祉と在宅医療の向上に貢献できれば,私にとって望外の幸せといえる。

 2008年3月7日
 国立社会保障・人口問題研究所
 (日本社会事業大学名誉教授) 
 所長 京極高宣

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まえがき
 序章 ソーシャルワーク教育の近未来
第I部 日本ソーシャルワーカーの歴史的位置
 第1章 日本ソーシャルワーカーの歴史
 第2章 精神保健福祉士法の成立―ソーシャルワーク至上主義に反論する
 第3章 精神保健福祉士養成教育への期待
第Ⅱ部 医療ソーシャルワーカーの国家資格化
 第4章 MSW国家資格化の必要性と可能性
 第5章 21世紀における在宅医療の意義と課題
 第6章 在宅医療と医療ソーシャルワーカーの国家資格化
 第7章 福祉人材確保の歴史と社会福祉士・介護福祉士の今後
 第8章 新しい福祉人材確保指針の今日的意義
 終章 ソーシャルワークの近未来―社会市場とソーシャルワークの相乗的発展

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鋭い時代認識に基づく“覚悟の書”
書評者: 村上 須賀子 (県立広島大教授・人間福祉学/MSW)
 本書の発行を知らされた時,耳を疑った。「国家資格の『医療福祉士』への道だって?」20年前に旧厚生省から提示されながら,日の目を見ずにお蔵入りし,以後,死語ともなった「医療福祉士」を真正面に据えた書籍が出版されるとは! 大いなる驚きとともに,なにやら歴史的な地殻変動を感じた。

 本書は数々の謎解きの書である。「医療ソーシャルワーカー(以下MSW)として社会福祉士を雇用しても資質のバラツキが大きいのは何故か」「MSWは必要なのに,何故人件費確保分の診療報酬上の補填が得られないのか」「そもそも,医療ソーシャルワーカーにはなぜ国家資格がないのか?」

 20年前,「社会福祉士及び介護福祉士法」制定に旧厚生省社会局社会福祉専門官として直接関わった著者が“今だから語れる”行政の現実推移を押さえつつ,以下のように述べているのである。

 当時,(1)厚生省は縦割り行政で,社会局で医療分野を除いた資格として社会福祉士法を,他方,医政局で医療福祉士法を準備していた。(2)日本医療社会事業協会(MSW協会)は,学問的基盤は社会福祉だと,福祉の世界にこだわった。(3)当初医療福祉士法案はコメディカルスタッフと同様高卒3年の学歴で資格化されようとしていた。社会福祉士案も最初は高卒2年案からのスタートで,結果的に4年制大学卒となったが,MSW協会の執行部はいち早く現行の社会福祉士だけでよい,新しい資格(医療福祉士)は求めないと決議しいまだにこの路線を固持している。(4)社会福祉士法制定から瞬時の遅れはあるものの,旧厚生省は1989年2月「医療ソーシャルワーカー業務指針」をまとめ,大学4年制の資格化に向けた地固めをしていたが当事者団体の反対で国会に提出できなくなった,などなど。

 行政側の瞬時の遅れがボタンの掛け違いを起こし,今に続く問題を残すことになった経過が豊富な注で肉付けされ,分かりやすい。

 今の40歳代未満のMSWたちはかつて資格制度成立寸前までに至った事実を知らない。ましてや国家資格者集団の医療関係者にとっては国家資格を拒否した歴史は不可解の一語であろう。謎解きは興味深い。事実MSWの間では勢いよく読まれ始めている。

 しかし,本書の意図は死んだ子の歳を数えるような回顧の趣ではない。本来医療と福祉は表裏の関係にある。生活習慣病,難病,ターミナルケア,しかりである。ことに在宅医療は医療(いのち)と福祉(生活)の保障なしでは成立しない。医療と福祉のサービスを統合してつなぐ専門職としてのMSWは必要不可欠である。その資質を国民に担保するのが国家資格であると,MSWの“天の時”来(きた)るとの主張である。日本社会事業大学学長の職を終え,現職にあるは“地の利”であると明言し,国家資格創りの熟達者はカリキュラム案まで提示し,説得力抜群である。介護保険の導入時にケアマネジャーの誕生をみたように,本書が在宅医療時代にMSWの国家資格が誕生する幕開けの役割を果たすことになるのであろう。

 5年前,京極先生にお会いした時の第一声は「MSWの国家資格? 資格創りは命がけの仕事だ,(俺は)死んじゃうよ」だった。「残しておられる仕事があるでしょう」と私は迫った。本書の既出論文一覧で,MSWの資格化の旗を一貫して掲げておられたと改めて知れた。鋭い時代認識の上の覚悟の書と拝察する。私個人としては京極先生の身が案じられる本書の出版である。

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