プルキンエ不整脈
古くて新しい“プルキンエ・ワールド”
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近年、Purkinje線維は特発性あるいは二次性を含む様々な心室性不整脈に関与することが明らかになり、注目されている。特に特発性心室頻拍/細動や、梗塞急性期に出現するelectrical stormでは頻拍の誘因(心室性期外収縮)のFocusとなり、またリエントリー回路を構成することから、カテーテル・アブレーションにより頻拍を根治させることも可能である。国内ではもちろん、世界的に著名な専門医2名が自らの経験、最先端の話題も含めて、そのメカニズムや治療法についてまとめている。
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序文
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推薦の序(大江 透)/序(野上昭彦)
推薦の序
この本は,心臓刺激伝導系のプルキンエ線維が関与している不整脈のすべてを包括的に扱っている解説書である.プルキンエ線維が関与している不整脈を単独に取り上げた本格的な著書は世界で初めてで,その内容は今までに発表されたプルキンエ線維に関連した文献を総括しているとともに,著者の小林義典先生,野上昭彦先生のお2人が経験した症例や研究をわかりやすく紹介している.このような意欲的な本が世界に先駆けて日本で最初に出版されることになったことは大変嬉しいことである.
この快挙を可能にした原因としては,1)プルキンエ線維に関する研究では,日本が基礎および臨床の両方の分野で多く貢献していること,2)筆者の2人はプルキンエ不整脈に関しての経験が豊富でまた多くの業績を残していること,によると思われる.
本文は,プルキンエ不整脈の臨床的な側面を扱う前半(I,II)と基礎的な知識を扱う後半(III)の2部構成となっている.臨床編では特発性心室性不整脈と器質性心疾患に伴う心室性不整脈に分けて解説している.特発性心室性不整脈の項では,verapamil感受性特発性心室頻拍,Focal Purkinje心室頻拍,特発性心室細動の引き金となる心室期外収縮・多形性心室頻拍,など臨床で遭遇する種々な特発性不整脈を取り上げている.発生機序の異なるこれらの心室性不整脈においてプルキンエ線維がどのように関与しているかを,心電図,心内電位図,electroanatomical mappingを用いて詳細に説明している.さらに,プルキンエ電位を指標として行うカテーテルアブレーションの具体的な方法やその有効性について検討している.
器質性心疾患に伴う不整脈は,脚間・脚枝間リエントリー性頻拍,心筋梗塞に伴う左室中隔起源の束枝リエントリー性頻拍,虚血・心筋炎・心筋症・左室機密化障害に伴う心室性不整脈,など多彩な心室性不整脈を紹介している.このような病因・病態が異なる不整脈に対するプルキンエ線維の関与の証明を,読者が理解できるように説明するには大変な労力を要したと思われる.筆者らは,特発性不整脈の場合と同様に,心電図,心内電位図,electroanatomical mappingを多く用い,さらに解剖・組織図および左室造影などの形態的なデーターを同時に提示することでより理解しやすい内容としている.
後半はQ&Aというユニークな構成としているが,プルキンエ不整脈の歴史からまだ解明されていない問題点など循環器を専門とする医師にとって大変興味ある項目を取り上げている.特に,日本人の先輩の仕事を多く紹介してくれているので,難しい不整脈の解説にも関わらず親密感を与えてくれる.
この本を読むと,プルキンエ線維がいかに多くの心室性不整脈に関与しているかを知り驚かされる.また,プルキンエ電位を記録し詳細に検討することで,従来の電気生理学的検査法では解明できなかった多くの不整脈の機序を解明できたことに感心する.さらに,不整脈とプルキンエ線維の関連性を十分検討することにより,いままでカテーテルアブレーションが不可能と考えられていた多くの難治性の心室性不整脈の治療も可能となることに大いに勇気づけられる.その意味でこの本は,循環器を専門とする医師にとって一読に値する本であると推薦できる.
2009年6月
心臓病センター榊原病院
大江 透
序
1845年,チェコの生理学・解剖学者Jan Evangelista Purkyněはヒツジの心内膜に不思議な線維網を発見した.後にPurkinje線維と呼ばれるこの組織の機能が刺激伝導にかかわるものであることを発見したのは,言うまでもなく田原淳先生の業績である.1906年,田原先生はドイツにおける研究結果を単行本“Das Reizleitungssystem des Säugetierherzens. Eine anatomisch-histologische studie uber das Atrioventricularbundel und die Purkinjeschen Faden”(邦訳『哺乳動物心臓の刺激伝導系:房室束とプルキンエ線維の解剖学的・組織学的研究』)にまとめた.この歴史的名著が出版されてからすでに100年余りが経過したが,今回,このPurkinje線維が関与する心室性不整脈についてまとめた書籍『Purkinje不整脈』を小林義典先生とともに出版することとなった.
私たちが医学部基礎医学講座でPurkinje線維を学んだのは30年以上も前のことになるが,その頃には,まさか自分たちがPurkinje線維に関わる仕事をするようになるとは思いもしなかった.医学部を卒業した1980年前半ごろから,Purkinje線維に関連した心室性不整脈の臨床研究が発表されるようになり,それまでは授業で習った記憶があるだけのPurkinje線維が,非常に興味ある対象に変わってきたことを今でも覚えている.その後,日本発の数多くの論文も発表され,日本はPurkinje不整脈研究に大きく貢献した国のひとつとなった.それらの先生方の論文を勉強するにしたがって,私はこの不思議な“プルキンエ・ワールド”の虜になってしまったといえる.
Purkinje不整脈の研究はその後のカテーテルアブレーション治療に大いに役立ったが,この分野の研究の特徴は,解剖学・生理学などの基礎医学,動物実験と臨床が深く結びついていることである.また,昔の論文であっても決して色褪せることはなく,100年前の田原先生の論文でも今日の研究や治療に役立つことがあることも特筆すべきことである.
Purkinje不整脈には未解決の問題も多く,心室細動との関係など,最近になってようやくわかりはじめてきたこともある.本書に書かれていることのなかには推論の域を出ないものも多いが,特に若い研究者・臨床医の方に,この不思議な世界の魅力を知り,私たちと同様にその虜になっていただきたいために,現時点での仮説として執筆させてもらった.ぜひ,若い読者の方から,将来,この内容を否定するような仮説が出されることを祈念してやまない.
2009年6月
横浜労災病院 冠疾患集中治療部部長
野上昭彦
推薦の序
この本は,心臓刺激伝導系のプルキンエ線維が関与している不整脈のすべてを包括的に扱っている解説書である.プルキンエ線維が関与している不整脈を単独に取り上げた本格的な著書は世界で初めてで,その内容は今までに発表されたプルキンエ線維に関連した文献を総括しているとともに,著者の小林義典先生,野上昭彦先生のお2人が経験した症例や研究をわかりやすく紹介している.このような意欲的な本が世界に先駆けて日本で最初に出版されることになったことは大変嬉しいことである.
この快挙を可能にした原因としては,1)プルキンエ線維に関する研究では,日本が基礎および臨床の両方の分野で多く貢献していること,2)筆者の2人はプルキンエ不整脈に関しての経験が豊富でまた多くの業績を残していること,によると思われる.
本文は,プルキンエ不整脈の臨床的な側面を扱う前半(I,II)と基礎的な知識を扱う後半(III)の2部構成となっている.臨床編では特発性心室性不整脈と器質性心疾患に伴う心室性不整脈に分けて解説している.特発性心室性不整脈の項では,verapamil感受性特発性心室頻拍,Focal Purkinje心室頻拍,特発性心室細動の引き金となる心室期外収縮・多形性心室頻拍,など臨床で遭遇する種々な特発性不整脈を取り上げている.発生機序の異なるこれらの心室性不整脈においてプルキンエ線維がどのように関与しているかを,心電図,心内電位図,electroanatomical mappingを用いて詳細に説明している.さらに,プルキンエ電位を指標として行うカテーテルアブレーションの具体的な方法やその有効性について検討している.
器質性心疾患に伴う不整脈は,脚間・脚枝間リエントリー性頻拍,心筋梗塞に伴う左室中隔起源の束枝リエントリー性頻拍,虚血・心筋炎・心筋症・左室機密化障害に伴う心室性不整脈,など多彩な心室性不整脈を紹介している.このような病因・病態が異なる不整脈に対するプルキンエ線維の関与の証明を,読者が理解できるように説明するには大変な労力を要したと思われる.筆者らは,特発性不整脈の場合と同様に,心電図,心内電位図,electroanatomical mappingを多く用い,さらに解剖・組織図および左室造影などの形態的なデーターを同時に提示することでより理解しやすい内容としている.
後半はQ&Aというユニークな構成としているが,プルキンエ不整脈の歴史からまだ解明されていない問題点など循環器を専門とする医師にとって大変興味ある項目を取り上げている.特に,日本人の先輩の仕事を多く紹介してくれているので,難しい不整脈の解説にも関わらず親密感を与えてくれる.
この本を読むと,プルキンエ線維がいかに多くの心室性不整脈に関与しているかを知り驚かされる.また,プルキンエ電位を記録し詳細に検討することで,従来の電気生理学的検査法では解明できなかった多くの不整脈の機序を解明できたことに感心する.さらに,不整脈とプルキンエ線維の関連性を十分検討することにより,いままでカテーテルアブレーションが不可能と考えられていた多くの難治性の心室性不整脈の治療も可能となることに大いに勇気づけられる.その意味でこの本は,循環器を専門とする医師にとって一読に値する本であると推薦できる.
2009年6月
心臓病センター榊原病院
大江 透
序
1845年,チェコの生理学・解剖学者Jan Evangelista Purkyněはヒツジの心内膜に不思議な線維網を発見した.後にPurkinje線維と呼ばれるこの組織の機能が刺激伝導にかかわるものであることを発見したのは,言うまでもなく田原淳先生の業績である.1906年,田原先生はドイツにおける研究結果を単行本“Das Reizleitungssystem des Säugetierherzens. Eine anatomisch-histologische studie uber das Atrioventricularbundel und die Purkinjeschen Faden”(邦訳『哺乳動物心臓の刺激伝導系:房室束とプルキンエ線維の解剖学的・組織学的研究』)にまとめた.この歴史的名著が出版されてからすでに100年余りが経過したが,今回,このPurkinje線維が関与する心室性不整脈についてまとめた書籍『Purkinje不整脈』を小林義典先生とともに出版することとなった.
私たちが医学部基礎医学講座でPurkinje線維を学んだのは30年以上も前のことになるが,その頃には,まさか自分たちがPurkinje線維に関わる仕事をするようになるとは思いもしなかった.医学部を卒業した1980年前半ごろから,Purkinje線維に関連した心室性不整脈の臨床研究が発表されるようになり,それまでは授業で習った記憶があるだけのPurkinje線維が,非常に興味ある対象に変わってきたことを今でも覚えている.その後,日本発の数多くの論文も発表され,日本はPurkinje不整脈研究に大きく貢献した国のひとつとなった.それらの先生方の論文を勉強するにしたがって,私はこの不思議な“プルキンエ・ワールド”の虜になってしまったといえる.
Purkinje不整脈の研究はその後のカテーテルアブレーション治療に大いに役立ったが,この分野の研究の特徴は,解剖学・生理学などの基礎医学,動物実験と臨床が深く結びついていることである.また,昔の論文であっても決して色褪せることはなく,100年前の田原先生の論文でも今日の研究や治療に役立つことがあることも特筆すべきことである.
Purkinje不整脈には未解決の問題も多く,心室細動との関係など,最近になってようやくわかりはじめてきたこともある.本書に書かれていることのなかには推論の域を出ないものも多いが,特に若い研究者・臨床医の方に,この不思議な世界の魅力を知り,私たちと同様にその虜になっていただきたいために,現時点での仮説として執筆させてもらった.ぜひ,若い読者の方から,将来,この内容を否定するような仮説が出されることを祈念してやまない.
2009年6月
横浜労災病院 冠疾患集中治療部部長
野上昭彦
目次
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推薦の序
序
I.特発性心室性不整脈
1.Verapamil感受性特発性心室頻拍
2.Focal Purkinje心室頻拍
3.特発性心室細動
4.Brugada症候群・QT延長症候群
II.器質性心疾患に伴う心室性不整脈
5.脚間リエントリー 脚枝間リエントリー
6.心筋梗塞に伴う左室中隔起源の束枝リエントリー性頻拍
7.虚血性心疾患に認められる多形性VT,VF
-Electrical stormにおけるPurkinje線維の役割
8.非虚血性心疾患に伴うPurkinje不整脈
III.[Q&A]Purkinje不整脈を理解するための基礎知識
Q1 Purkinjeとは?
Q2 Purkinje研究の歴史は?
Q3 Purkinjeネットワークは多形性心室頻拍や心室細動のリエントリー回路になりえるか?
Q4 仮性腱索(false tendon)が左室特発性心室頻拍のリエントリー回路を形成するか否か?
Q5 Purkinje線維はなにゆえ虚血に耐性をもつのか?
Q6 心筋梗塞後に発生するPurkinje線維関連不整脈は?
-動物実験により明らかにされたメカニズム
Q7 Purkinje不整脈における日本人研究者の貢献は?
Q8 動物種によるPurkinje分布の違いは?
あとがき
索引
序
I.特発性心室性不整脈
1.Verapamil感受性特発性心室頻拍
2.Focal Purkinje心室頻拍
3.特発性心室細動
4.Brugada症候群・QT延長症候群
II.器質性心疾患に伴う心室性不整脈
5.脚間リエントリー 脚枝間リエントリー
6.心筋梗塞に伴う左室中隔起源の束枝リエントリー性頻拍
7.虚血性心疾患に認められる多形性VT,VF
-Electrical stormにおけるPurkinje線維の役割
8.非虚血性心疾患に伴うPurkinje不整脈
III.[Q&A]Purkinje不整脈を理解するための基礎知識
Q1 Purkinjeとは?
Q2 Purkinje研究の歴史は?
Q3 Purkinjeネットワークは多形性心室頻拍や心室細動のリエントリー回路になりえるか?
Q4 仮性腱索(false tendon)が左室特発性心室頻拍のリエントリー回路を形成するか否か?
Q5 Purkinje線維はなにゆえ虚血に耐性をもつのか?
Q6 心筋梗塞後に発生するPurkinje線維関連不整脈は?
-動物実験により明らかにされたメカニズム
Q7 Purkinje不整脈における日本人研究者の貢献は?
Q8 動物種によるPurkinje分布の違いは?
あとがき
索引
書評
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古い頭に一撃
書評者: 井上 博 (富山大大学院教授・内科学第二)
驚くべきタイトルの単行本が上梓されたものである。平成21年7月に京都で開催された日本心電学会と日本不整脈学会の合同学術集会の書籍展示で,最大部数を売り上げたようである。不整脈全体を網羅するものばかりでなく,個々の不整脈を扱った単行本はこれまでにも上梓されている。例えば心房細動,WPW症候群,Brugada症候群などである。これらの不整脈はそれなりにまとまった疾患として認識されており,単行本としても違和感はない。
「プルキンエ不整脈」という疾患概念はなじみがうすい。左脚後枝に起源を持つベラパミル感受性心室頻拍をまず思い浮かべるが,その他の心室性不整脈については言われてみればなるほどプルキンエ線維が関係しているものもありそうに思われる。このような古い頭に一撃を加えるほどのインパクトを本書は持っている。著者の野上昭彦先生,小林義典先生は心臓電気生理の臨床でこれまで多くの業績を挙げてこられたが,特にプルキンエ線維が関連した心室頻拍や心室細動の研究に関しては第一人者である。
本書では,第I部としてまず馴染みの深いベラパミル感受性特発性心室頻拍から始まり,異所性心室頻拍,特発性心室細動が続き,Brugada症候群・QT延長症候群が記載されている。第II部では,器質性心疾患に伴う心室性不整脈として脚(枝)間リエントリーや心筋梗塞,虚血性心疾患,炎症性心疾患,心筋症に伴う心室頻拍とプルキンエ線維とのかかわりがまとめられている。第III部では,Q&A形式でプルキンエ線維にかかわる歴史や基礎的研究が紹介されている。古くは田原教授によるプルキンエ線維網の記載から近年まで,日本人が明らかにしたさまざまな事象がまとめられていて,読み物としても楽しめる。
多くの心電図,心内電位図,CARTOマッピングのカラー図版や組織所見(カラー図版も多数あり)などが豊富に掲載されており,難解な電気生理現象も理解しやすいように工夫が凝らされている。具体的な症例が提示されており,所々欄外に参照すべきQ&Aの項目が明示されているのは,読者の便を考えた上での工夫であろう。
世界でもこのような単行本は存在しない(大江教授の推薦序文にもそのようにある),しかもお二人の共著で記述が一貫している。いっそのこと英語で出版すればよかったのにと思わなくもない(裏を返せば,日本語でこのような本を読めるのは有難いことである)。医学関係の書籍が氾濫する中にあって,本書が刊行された事実に喜びたい。わが国の医学書籍出版業界も捨てたものではないと。「プルキンエ不整脈」に着目した野上先生,小林先生の慧眼に,またこのような本をあえて出版した医学書院に賛辞を送りたい。
現在,特発性心室頻拍はアブレーションで根治できる。電気生理学をよくは知らなくてもアブレーションで頻拍が根治できれば患者さんは満足かもしれない。しかし,このような治療が可能になったのは,先人が積み重ねてきた知識があった上でのことである。本書を,不整脈を専門とする方々に,ことにアブレーションに携わる若い諸君に,推薦したい。目から鱗が落ちる思いをするであろう。また本書の中で,詳細は不明である,今後の検討が必要であるとされた事項に,若い諸君はチャレンジしてみてはいかが?
書評者: 井上 博 (富山大大学院教授・内科学第二)
驚くべきタイトルの単行本が上梓されたものである。平成21年7月に京都で開催された日本心電学会と日本不整脈学会の合同学術集会の書籍展示で,最大部数を売り上げたようである。不整脈全体を網羅するものばかりでなく,個々の不整脈を扱った単行本はこれまでにも上梓されている。例えば心房細動,WPW症候群,Brugada症候群などである。これらの不整脈はそれなりにまとまった疾患として認識されており,単行本としても違和感はない。
「プルキンエ不整脈」という疾患概念はなじみがうすい。左脚後枝に起源を持つベラパミル感受性心室頻拍をまず思い浮かべるが,その他の心室性不整脈については言われてみればなるほどプルキンエ線維が関係しているものもありそうに思われる。このような古い頭に一撃を加えるほどのインパクトを本書は持っている。著者の野上昭彦先生,小林義典先生は心臓電気生理の臨床でこれまで多くの業績を挙げてこられたが,特にプルキンエ線維が関連した心室頻拍や心室細動の研究に関しては第一人者である。
本書では,第I部としてまず馴染みの深いベラパミル感受性特発性心室頻拍から始まり,異所性心室頻拍,特発性心室細動が続き,Brugada症候群・QT延長症候群が記載されている。第II部では,器質性心疾患に伴う心室性不整脈として脚(枝)間リエントリーや心筋梗塞,虚血性心疾患,炎症性心疾患,心筋症に伴う心室頻拍とプルキンエ線維とのかかわりがまとめられている。第III部では,Q&A形式でプルキンエ線維にかかわる歴史や基礎的研究が紹介されている。古くは田原教授によるプルキンエ線維網の記載から近年まで,日本人が明らかにしたさまざまな事象がまとめられていて,読み物としても楽しめる。
多くの心電図,心内電位図,CARTOマッピングのカラー図版や組織所見(カラー図版も多数あり)などが豊富に掲載されており,難解な電気生理現象も理解しやすいように工夫が凝らされている。具体的な症例が提示されており,所々欄外に参照すべきQ&Aの項目が明示されているのは,読者の便を考えた上での工夫であろう。
世界でもこのような単行本は存在しない(大江教授の推薦序文にもそのようにある),しかもお二人の共著で記述が一貫している。いっそのこと英語で出版すればよかったのにと思わなくもない(裏を返せば,日本語でこのような本を読めるのは有難いことである)。医学関係の書籍が氾濫する中にあって,本書が刊行された事実に喜びたい。わが国の医学書籍出版業界も捨てたものではないと。「プルキンエ不整脈」に着目した野上先生,小林先生の慧眼に,またこのような本をあえて出版した医学書院に賛辞を送りたい。
現在,特発性心室頻拍はアブレーションで根治できる。電気生理学をよくは知らなくてもアブレーションで頻拍が根治できれば患者さんは満足かもしれない。しかし,このような治療が可能になったのは,先人が積み重ねてきた知識があった上でのことである。本書を,不整脈を専門とする方々に,ことにアブレーションに携わる若い諸君に,推薦したい。目から鱗が落ちる思いをするであろう。また本書の中で,詳細は不明である,今後の検討が必要であるとされた事項に,若い諸君はチャレンジしてみてはいかが?
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