自殺のポストベンション
遺された人々への心のケア

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不幸にして自殺が起きてしまった後に,遺された人々に必要とされる心のケア-ポストベンションについて,具体的,実際的に書かれた本邦初の書。年間自殺者3万人時代において身近に自殺が起きた際に生じる典型的な心理反応から,個々人に,あるいはグループに対する介入法までを詳述。医療者をはじめ関係者待望の1冊。
編集 高橋 祥友 / 福間 詳
発行 2004年08月判型:A5頁:208
ISBN 978-4-260-12725-7
定価 2,860円 (本体2,600円+税)
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  • 目次
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第1章 ポストベンションとは何か
第2章 遺された人々に起こり得る反応
第3章 職場で自殺が起きたとき:対応の原則
第4章 個別のケア
第5章 グループに対するケア
第6章 フォローアップ
第7章 自殺予防教育
第8章 遺族への対応
第9章 ポストベンションの適応と禁忌
第10章 事例
推薦図書
索引
編・著者略歴

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自殺予防への新しい取り組み
書評者: 斎藤 友紀雄 (日本いのちの電話連盟常務理事)
◆サバイバー・ケアに明確な指針

 自殺後に遺された家族,あるいは影響を受けた人たちが,心身ともに治療を必要とするほど傷ついていることは意外と知られていない。英語圏ではこうした人たちを「サバイバー」と呼び,これは未遂者も含んでいるが,彼らを支援するさまざまな治療的プログラムがある。日本でも各方面でサバイバー・ケアが注目されているが,本書はこの分野の絶好のマニュアルであり,明確な指針を示したものとして,先駆的・開拓的な著作である。

 従来から自殺防止を,予防(プリベンション),危機介入(インターベンション),ポストベンションというように,3つの段階に分類してきた。「ポストベンション」は,一部では「第三次予防」と称して使われてきた。しかし本書の著者らによれば,一般の疾病ならばともかく,自殺は一度起きてしまったら取り返しのつかないことであり,第三次予防はありえないとする。そこで著者らは,自殺後に遺された人たちへのこころのケアであると説明し,含みのある「ポストベンション」という言葉のまま使用している。

◆グループ・ケアを強調

 ところでポストベンションは従来もっぱら個人に対する事後対応あるいは,こころのケアを意味するものとして使われてきたが,本書の強調点はむしろグループ・ケアである。著者らはそこで「デブリーフィング」という概念を導入,その方法論と技法を展開する。デブリーフィングはもともと軍隊用語で,戦況など危機的な状況にかかわった将兵たちによる報告と事後対策協議を指している。つまり自殺防止におけるデブリーフィングとは,職場などで実際に自殺が起きてしまったあとで,その組織の要請を受けた精神科医を中心とするチームが介入し,自殺者本人と関係の深かった人たちと話し合うことである。その目的は,本人の周囲にいた人たちの間でしばしば起こりうる,自殺の連鎖あるいは心身の障害を防ぐために,こころのケアをすることである。

 自殺が発生すると誰彼の責任がすぐ問われるが,ここで著者たちが強調しているのは,デブリーフィングとは決して責任追求や犯人探しではない。さらにデブリーフィングはあくまでもファースト・エイドであって,フォローアップはもちろん,個別のケアないしは治療に続くべきだと重ねて強調している。

 本書は自殺予防の分野に,「ポストベンション」という新しい可能性と展望を示したものとして先駆的な意味を持っている。編集者2氏のほか下園壮太,藤原俊道,山下千代の3氏らも共同執筆しており,それぞれの呼吸が合ってこころにくい。精神保健分野だけではなく,企業メンタルヘルス,教育・福祉の分野でもぜひ読んで欲しい好著である。

不幸にして自殺が起きてしまったその後のために
書評者: 広瀬 寛子 (戸田中央総合病院・看護カウンセリング室)
◆ポストベンションの実践から生まれた本

 編者のおひとりの高橋祥友先生は精神科医として,これまでも数多くの自殺に関する著書を出版しており,自殺の実態・予防・危機介入など,自殺に関する研究・臨床・教育・啓蒙活動の第一人者である。現実には自殺予防のためにどれだけ努力しても自殺は完全には防げない。そのように不幸にして自殺が起きてしまった場合は,今度は遺された人々へのケアが課題となる。

 本書は,そのような自殺した人の周りの遺された人々へのポストベンションに焦点を当ててまとめられた本である。著者らは,防衛医科大学校,自衛隊中央病院,陸上自衛隊衛生学校に所属し,自衛隊員の自殺が起きた場合に現場からの要請に基づいて,精神科医と心理職からなる2―3名のチームで出向き,ポストベンション活動を行ってきた。その実践から生まれた本である。

 さて,「ポストベンション」という聞き慣れない言葉に戸惑っている方もいらっしゃると思うが,この意味は「事後対応」であるという。不幸にして自殺が起きてしまった後に,遺された人々に及ぼす影響を最小限度にするために,心のケアを行うことを指している。

 本書の構成は以下の通りである。

 『第1章 ポストベンションとは何か』では,自殺の現状とリスクアセスメントを取り上げた後,ポストベンションの概要について述べ,『第2章 遺された人々に起こりうる反応』では,自殺が起きた後に個人と集団に現れる可能性のある反応について解説している。

 『第3章 職場で自殺が起きたとき:対応の原則』では,職場がすべきことと,外部から専門家が入る場合の職場に入る時の注意点などについて記している。

 ポストベンションには状況や対象者に応じて個別ケアと集団を対象としたケア(ディブリーフィング)をうまく組み合わせて行うことが重要であり,それぞれについて『第4章 個別のケア』と『第5章 グループに対するケア』で取り上げている。著書らは「ポストベンションは緊急事態を経験した人に対するファーストエイドであって,専門的な精神科治療の代替品ではない」から,「フォローアップのないポストベンションは,標準的なポストベンションとさえ言えない」という。そのような姿勢から『第6章 フォローアップ』が記述されている。

 『第7章 自殺予防教育』ではポストベンションの最終段階としての自殺教育について解説している。本書は主に職場で働く人たちへのケアとして書かれているが,『第8章 遺族への対応』では遺族へのケアについても触れられている。

 『第9章 ポストベンションの適応と禁忌』では,ポストベンション活動そのものが禁忌となる場合はないという立場で,実践する上で遭遇する問題点を整理している。

 最後に『第10章 事例』では自衛隊の事例に止まらない広範囲の領域におけるポストベンションの事例についてていねいに解説されている。章立てはもちろんであるが,細部まで細やかな配慮がなされており,各章は『要約』ではじまって『まとめ』で終わるという,読者が頭の中を整理しやすい形に構成されている。

◆マニュアル本ではない

 要請された専門家がポストベンションの導入に当たってどのように職場の人たちに説明するか,その説明文を具体的に記述してあるなど,痒いところに手が届く式の親切な記述である。しかし,だからといって,本書はマニュアル本ではない。著者らは何度も,その都度個別に対応することの重要性を警告する。また,この通りに行えば誰でも簡単にできるものではなく,精神科医を含めた外部の専門家が2名以上必要なことや,精神医学や心理学の専門家であってもトレーニングを受けなければできない,やってはいけないことがよくわかる。

 自殺が起きると,新聞やテレビではセンセーショナルに報道される。一方,そのような報道とは対照的に,現場ではできるだけその事実を隠そうとしてきた。病院でさえも入院患者が自殺すると,その事実は隠蔽される。他の患者はもちろん,周りの医療者に対してさえ事実が伝えられず,憶測ばかりが流れていく。こういう対応は間違っている,明らかになっている事実は淡々と伝え,隠さず取り組むことが大事だと本書は教えてくれる。また,遺された人たちの中にさまざまな感情が起きることは自然である。そういう人たちが十分にケアされてこなかった現実があり,遺された人たちが専門家に助けを求めることの大切さや,自分たちができる対応について教えてくれる。

 わが国でも自殺のポストベンションが受け入れられ,広がっていくことを願わずにはいられない。本書はまさに精神科医や心理職などの専門家だけではなく,看護師やMSWなどの医療スタッフ,引いては職場の管理職やメンタルヘルス担当者などにぜひ,読んでいただきたい1冊である。

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