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RCA根本原因分析法実践マニュアル
再発防止と医療安全教育への活用

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RCA(根本原因分析法)とは、現場で起きるインシデント・アクシデント事例に対して、個人ではなく、システムやプロセスに焦点をあて、システムの脆弱性を見出し、対策を実施することで、再発を防止する手法である。本書では、臨床および医療安全教育の場におけるRCA実施プログラムを、研修指導経験の豊富な著者が、職種や経験を問わず誰でも実践できるようプロセスに沿ってわかりやすく解説する。
石川 雅彦
発行 2007年11月判型:B5頁:176
ISBN 978-4-260-00608-8
定価 2,750円 (本体2,500円+税)
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はじめに
石川雅彦

 現在,医療安全は医療の質の向上において,極めて重要な課題として認識されている。特に,報告されたインシデント・アクシデント事例の内容を適切に分析して,対策を実施し,その結果として再発を防止することは医療安全対策の要である。本書は,事例分析手法である,根本原因分析法(Root Cause Analysis:RCA)を解説し,実践に活用するガイドである。RCAは事故の原因を個人の問題だけに終始せず,システムに焦点をあてるという特徴がある。

 筆者は,2005年米国New Orleansで行なわれた米国退役軍人病院(Veterans Affaires:VA)の患者安全センター(National Center for Patient Safety:NCPS)によるRCAの研修会に参加して事例分析を実施し,医療安全を推進するための新しい事例分析法として活用の可能性があると考えた。

 これまで,医療安全関連のさまざまな研修(医療安全管理者研修,安全管理研究科,医療安全リーダーシップ研修など)で,医療安全管理者のみならず,施設の管理者である病院長・副院長も対象として,RCAの研修を延べ1000人以上に実施し,その過程でいくつかの課題が明らかになった。そのつど試行錯誤を繰り返し,新たな取り組みを続けることによって,分析ツールとして以外のRCAの可能性に気づくこともできた。

 RCAの実施に際しては,必要物品が最小限でどこの医療機関でも入手可能であり,物品のコストがほとんどかからないこと,トレーニングを受けた職員が数名いれば他の職員に伝達が可能で,トレーニングを積むことで所要時間の短縮も可能であることなどから,多忙な医療者の臨床現場に導入することが可能であると判断した。さらに,RCAの研修を通して得られた受講者の反応や分析の結果から,導入の可能性と多くの医療機関で取り組まれる必要性を実感した。

 本書は,臨床現場で,いつでも,どこでも手にとってすぐ始められるような,RCAを実施する際のマニュアルとしての活用を目的として作成した。内容は,臨床で実施するRCAと,医療安全教育で実施するRCAに関してまとめた。また,臨床におけるインシデント・アクシデント事例発生時の活用だけでなく,学生への教育にも活用することを念頭においた。医療安全教育で実施するRCAの進め方については,1つの事例に沿って筆者が実際に研修で行なっている内容に照らして,初めて取り組む方にもわかりやすくということを心がけ,図表を多く取り入れてイメージ化できるよう工夫した。さらに,これまで,筆者が研修で実践してきた内容を盛り込み,RCAを実施する方はもとより,施設内研修でRCA研修を企画担当する方,RCAを指導する立場の方にも参考になるように,RCAの実施方法だけでなくRCA研修の企画に関しても,できるだけ具体的に展開することをめざした。なお,本書を利用される方の利便性を考慮し、一部同じ図表を繰り返し用いている。

 各医療機関によって事情はさまざまであると思われるが,極力どのような医療機関でも,実施可能な方法の提供を意識した。RCAの実施においては,多職種が参加することで職種間コミュニケーション改善のツール,および根本原因を追究する論理的な思考過程を身につけるツールとしての効果なども期待できるため,本書を活用して取り組んでみたうえで,ご感想・ご意見をいただければ幸いである。

 本書のなかでは,VA-NCPSオリジナルの表などを掲載や一部内容を参考にした記載があるが,本件に関しては,あらかじめ,VA-NCPSに翻訳・掲載などの許可を得ている。

 最後に,本書の上梓に当たっては,(株)医学書院 看護出版部課長の早田智宏氏に名実共に大変お世話になった。ここで,改めて感謝の意を表する次第である。

 2007年10月

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はじめに

第1章 基礎編 医療安全トレーニングの目的
 医療安全を確保し,質向上をめざすために
 RCA(根本原因分析法)とは
第2章 実践編その1 臨床で実施するRCA
 14のプロセスをいつ,誰が,どのように実施するか
第3章 実践編その2 医療安全教育で実施するRCA
 11のプロセスの進め方-目標の選定、教材の準備から評価まで
 3つのRCA
 RCAの展望
第4章 応用編 ケースで学びスキルアップ
 SACマトリックスを活用したトリアージ

参考文献
あとがき
索引

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チームコミュニケーションの改善トレーニングにも有用 (雑誌『看護教育』より)
書評者: 川村 治子 (杏林大学保健学部教授)
 医療安全の実務に初めてたずさわるとき,どのように事故やヒヤリ・ハット事例から本質的なシステム要因を見つけていくかに誰もが悩む。システム要因の分析手法として,SHELL,4M-4Eなどの産業界の手法や,医療用に開発されたmedical SAFERなど,これまでさまざまな分析手法が紹介されてきた。しかし,ここ数年はもっぱらRCA(Root Cause Analysis)が話題に上るようになり最近の医療安全の実務者研修では,このRCAの分析演習が好んで組まれている。その背景には,RCA,厳密にいえば,米国の退役軍人病院国立患者安全センター(VA-NCPS)が医療用に考案したRCAが今日,米国での標準的分析手法とされたことがある。

 本書の著者は,VA-NCPSのRCA研修を現地で受講し,国立保健医療科学院で病院の管理者や医療安全の実務担当者など,延べ1000人以上にRCAの指導を行った実績をもつ。

 内容は,基礎編と,日常の医療安全活動と教育での実践編2部,および応用編の4部から構成されている。著者は全編を通じて,RCAが分析手法にとどまらず,チームコミュニケーションを改善するトレーニングの一つとして,あるいは論理的思考力を養うための教育手段として期待しうることを繰り返し強調している。著者のRCAに対する並々ならぬ思いが読む側にも伝ってくる。

 RCAは時系列で事実を詳細に整理した「出来事流れ図」を作成し,その出来事一つひとつに「なぜしたのか」「なぜそうなったのか」と複数回繰り返し,当事者へのインタビューなどで情報を埋めつつ,カードに記述し,システム要因の候補をあげていく。最終的にそれらを整理し,関連性を考えながら根本原因を同定する。こうした過程を複数の職種5~6名からなるチームで議論しながら行い,対策まで考えていくというものである。

 “恐ろしく時間がかかりそうな手法”というのが,RCAに対する率直な感想だ。ここまで網羅的にする必要があるのだろうか? むしろ,最初に事象の発生や被害拡大に影響を与えたクリティカルポイントとしての出来事を同定して,そこに至る過程にフォーカスを定めて分析するほうが効率的ではないだろうか,と素朴な疑問が湧いてくる。そうした読者の疑問に答える解説として,VA-NCPSでの開発の経緯や,なされたであろう有用性に関する検証も紹介してもらいたかった。

 本書から,医療安全業務における分析手法としてのRCAよりも,むしろ,組織内のチーム研修や個人教育へのRCA活用のヒントをもらった。職種間で必要な情報を的確に伝達・共有できなかったことが,事故の要因になることはしばしばある。そうした事例のRCAをチームで行うことによって,コミュニケーションの重要性に目覚める貴重なきっかけを与えるかもしれない。

 また,個人レベルでの安全教育,たとえば,自らのエラーの背景にある不適切な認知・行動特性に気づかせる教育方法としても活用できそうである。

(『看護教育』2008年4月号掲載)
学ぶ側の視点が活かされたRCAをマスターするための実践書
書評者: 嶋森 好子 (慶應義塾大学看護医療学部教授)
 本書の著者は,医療安全管理者や病院長など病院管理者への教育を企画し,すでに1000人以上にRCA(根本原因分析法)の教育を行なっている。また,厚生労働省の「医療安全管理者の資質の向上に関する検討会」の委員でもある。そのような著者が,アメリカでRCA研修を受講し,その経験と自らの実践にもとづき,学ぶ側の視点を大切にして書かれているのが本書である。

■臨床では14のステップで進めるRCA

 本書は,基礎編と実践編に分かれている。基礎編には医療安全教育のための基本的な事項が簡潔にまとめられている。基礎編の最後で,「RCAとは何か」という項が設けられ,RCAの概略や特徴が述べられており,いわば実践編へのオリエンテーションとなっている。
 実践編はさらに2つに分けられ,その1は臨床で,その2は医療安全教育でのRCAである。
 まず,臨床で実施するRCA分析は,14のステップで進め方を紹介している。誰がいつ,どのような事例に対して,どのような方法でRCAに取りかかるのかを丁寧に説明してくれている。インシデントやアクシデント事例を集めたものの,どの事例を分析すればよいか,誰に頼んで進めればよいかと戸惑っている現場の人たちにとって,分類や整理の方法を考えるヒントになる。

 そして,RCAが終わっても安心してはいけないとばかりに,最後に“RCAプロセス完了後にすべきこと”として,実施した対策の評価の重要性を示している。

■対策の評価にトリガーリストを使いたい

 その評価で重要なのがトリガーリストである。これは1枚のカードとして本書に添付され,RCAの分析,対策を考えるとき,その評価をするときに見落としをなくすために活用する。

 RCAでは,分析を“なぜなぜ”と問いかけて進めるが,“それをどこまでやればよいのか”,初心者が理解するのは難しい。そんなときにこのトリガーリストを使えば,全体が網羅されて問題が見えてくる。これはRCAを離れて,単独でも医療安全対策を考え評価するために使えるもので,これだけを手に入れても価値のあるものだと思う。

 最後に,医療安全教育としてのRCAでは,著者がこれまで実践してきた教育・研修の積み重ねがいかんなく発揮されており,医療安全教育のプログラムの立て方や進め方,事例の示し方など,RCAを効果的に学習させるためのノウハウが満載である。

 医療安全管理者をはじめ,医療現場で起きた事例をRCAで分析してみようとしている人や,これを現場の実践者に学ばせようと考えている人にとって待望の本である。
原因分析の活用だけではなく医療安全教育への活用も
書評者: 大滝 純司 (東京医科大学病院総合診療科教授)
 多くの医療従事者と同様に,私もインシデント・アクシデント事例の報告書を書いた経験が何回かある。それぞれの事例でどのようなことが起き,どのように対処したかを記入して提出するのだが,ちょっと書きにくいと感じるときがある。その事例が生じた原因について記入する欄で,私はいつも少し考えてしまう。疲れていたのか? 急いでいたのか? それとも……まあ,その時々でそれなりに考えて記入してきた。本当にそこで記入したことが原因だったのかなぁ,と少し引っかかりながら。

 インシデント・アクシデント事例をもとに,医療のプロセスやシステムに注目し,その問題点を具体的に見つけ出し,対策を立てる。そのような分析を可能にする方法として,米国ではRCA(Root Cause Analysis:根本原因分析法)というのが用いられているのだそうだ。本書は,そのRCAについて詳細に解説したものである。全体で4つの章からなり,最初の「基礎編」ではRCAの概要を,次の第2章「実践編その1」では臨床で実際にRCAを行うやり方について書かれている。

 RCAの内容は,あっと驚くようなものではない。米国の教育にしばしば見られるように,言われてみれば当たり前に思える,比較的単純で誰にでもできるような作業の工程が「14のプロセス」として示されている。RCAは組織としてみれば一種の委員会活動であり,「14のプロセス」の中には,委員会の招集のやり方や,その委員会で行う作業手順である「4つのステップ」などが示されている。

 第3章「実践編その2」では,このRCAを医療安全教育の体験学習として研修会などで実施する方法を,そして最後の第4章には「応用編」として,RCAのプロセスの中でSAC(Safety Assessment Code)という分類方法により,事例検討の必要性を判定する作業の例題や,研修で用いるための事例などが載っている。

 著者の石川雅彦先生は,私のかつての同僚で,現在は国立保健医療科学院で政策科学部長として活躍中である。このRCAを米国で学ばれ,有用性に着目され,その後わが国でもRCAを用いた研修会を数多く実施しながら,このマニュアルをつくり上げたそうである。たしかに本書は,職員の研修などですぐに使えそうな構成になっている。

 図表が多用され,硬いテーマであるにもかかわらず,読みやすく理解しやすい点も特筆すべきだろう。インシデント・アクシデントの原因分析に興味がある人や,医療安全教育の具体的な方法を探している人は,ぜひご一読いただきたい。

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