組織病理カラーアトラス
組織写真のイメージが一目でわかる医学生・研修医向けカラーアトラス
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医学生・研修医にとって必要となる組織病理写真を1冊にまとめている。医学生にはCBT、国家試験に向けて知識の整理に、初期研修医には研修義務化で必須となったCPCに大変役立つ。カラーアトラスとして写真を大きくレイアウト。解説文はポイントを絞った箇条書を主体とし、枝葉を落として必要最小限にまとめている。シェーマも適宜取り入れ、組織写真のイメージ(顔つき)が一目でわかるように工夫されている。
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- 序文
- 目次
- 書評
序文
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序
本書は,医学を志す学徒が病理学を円滑に学習するための指針となることを目指して編まれたものである.初学者はもとより,中堅・ベテランの方々にも生涯教育の教材としてお使いいただければ幸いである.
全体の構成は,総論・各論に分けられている.総論では病態を5群に分け,その特徴を記した.各論では臓器ごとに主な疾患を取り上げ,総論で学んだ知識をもとに,おのおのの成り立ちが理解できるように示されている.
近年の医学部・医科大学のカリキュラム改変で,各科目の各論部分が臓器別などの統合講義・系統別講義に再編成される傾向にあり,病理学もその例外ではない.各論を1つの科目としてまとめて教授される機会が失われることにもなっている.つまり,各科目の各論部分の知識の整理は,各自で行わなければならないのが現状である.
このような医学教育の流れにあって,総論・各論に分けて書かれている本書の意義は大きく,病理学の自学自習にとっても好適と考えている.
本書の特徴は,文章による簡潔な説明と豊富な病理組織写真にある.これらは,多岐にわたる病理学の内容をいかに着実にマスターするかを,著者らの経験に照らして示したものである.それぞれの写真は各記述の具体例を提示している.一方,写真は,関連した記述の理解を助けるという相互作用を意識して配列した.病理学の知識の整理にとどまらず,病理組織標本実習のための手引きとしても活用していただけるものである.
ところで,医学用語の正しい習得は,医学の学習はもとより医療の実践には必要不可欠である.本書では,最も標準的と思われる『日本医学会医学用語辞典(英和)第3版』(2007年)および各種「癌(腫瘍)取扱い規約」におおむね準拠した.
各論の写真の一部は,われわれの先輩・同僚の病理医の方々から提供していただいたものである.お名前は略させていただくが,ご協力いただいた諸兄姉には心より御礼申し上げたい.最後に,本書の編集・制作にご尽力いただいた医学書院の大野智志氏,黒田清氏,阪本稔氏に深甚なる謝意を表する次第である.
2008年4月
執筆者を代表して 坂本穆彦
本書は,医学を志す学徒が病理学を円滑に学習するための指針となることを目指して編まれたものである.初学者はもとより,中堅・ベテランの方々にも生涯教育の教材としてお使いいただければ幸いである.
全体の構成は,総論・各論に分けられている.総論では病態を5群に分け,その特徴を記した.各論では臓器ごとに主な疾患を取り上げ,総論で学んだ知識をもとに,おのおのの成り立ちが理解できるように示されている.
近年の医学部・医科大学のカリキュラム改変で,各科目の各論部分が臓器別などの統合講義・系統別講義に再編成される傾向にあり,病理学もその例外ではない.各論を1つの科目としてまとめて教授される機会が失われることにもなっている.つまり,各科目の各論部分の知識の整理は,各自で行わなければならないのが現状である.
このような医学教育の流れにあって,総論・各論に分けて書かれている本書の意義は大きく,病理学の自学自習にとっても好適と考えている.
本書の特徴は,文章による簡潔な説明と豊富な病理組織写真にある.これらは,多岐にわたる病理学の内容をいかに着実にマスターするかを,著者らの経験に照らして示したものである.それぞれの写真は各記述の具体例を提示している.一方,写真は,関連した記述の理解を助けるという相互作用を意識して配列した.病理学の知識の整理にとどまらず,病理組織標本実習のための手引きとしても活用していただけるものである.
ところで,医学用語の正しい習得は,医学の学習はもとより医療の実践には必要不可欠である.本書では,最も標準的と思われる『日本医学会医学用語辞典(英和)第3版』(2007年)および各種「癌(腫瘍)取扱い規約」におおむね準拠した.
各論の写真の一部は,われわれの先輩・同僚の病理医の方々から提供していただいたものである.お名前は略させていただくが,ご協力いただいた諸兄姉には心より御礼申し上げたい.最後に,本書の編集・制作にご尽力いただいた医学書院の大野智志氏,黒田清氏,阪本稔氏に深甚なる謝意を表する次第である.
2008年4月
執筆者を代表して 坂本穆彦
目次
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総論
病理学と病理診断
代謝障害
循環障害
炎症
腫瘍
先天異常
各論
循環器
血液・造血器
呼吸器
消化管
肝・胆・膵
腎・尿路
生殖器
乳腺
内分泌
脳・神経
皮膚
骨・軟部
索引
病理学と病理診断
代謝障害
循環障害
炎症
腫瘍
先天異常
各論
循環器
血液・造血器
呼吸器
消化管
肝・胆・膵
腎・尿路
生殖器
乳腺
内分泌
脳・神経
皮膚
骨・軟部
索引
書評
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分かりやすい文章と適切な写真による病理学の理想的手引書
書評者: 本山 悌一 (山形大教授・人体病理病態学)
病理学は,病気の原因およびその成り立ちを究めようとする学問である。医学生たちは,昔も今もそして将来もまず病理学の講義と実習を通して,多くの病気の概念とそれらの原因や成り立ちを理解するために必要な医学用語に向き合うことになる。医学用語を知り使えるようになる過程で重要なことは,できるだけ普通の人が普通に話す言葉でも説明できることを意識させるということである。これを怠ってきた医師は,真のインフォームドコンセントを患者さんから得ることなど望むべくもない。
しかし,当然のことながら,平易な言葉で述べても正確さを欠いては本末転倒になりかねない。また,大部分の病気は,必ず細胞,組織あるいは臓器の形態的変化を伴う。それらにおいては,形態が示す意味を正しく解釈することなしに病気の正確な解釈はありえない。つまり,平易な言葉を使って正確に書かれた文章と形態変化を適切に示す写真とからなる手引書は,病理学の教育にはぜひとも必要なものである。この度刊行された『組織病理カラーアトラス』は,現時点でそういった理想にもっとも近い書の1冊である。
本書は,上述したように平易な言葉で正確に書かれている上に,どこを読んでも落着いた気持ちで読むことができる。これは,経験豊富で教育熱心な病理医が3人ですべて書き上げていることが大きいであろう。3人の筆者,坂本穆彦杏林大学教授,北川昌伸東京医科歯科大学教授,菅野純国立医薬品食品衛生研究所部長は東京医科歯科大学病理学教室の同門である。十分に話し合い協力しながら作られたせいか,内容に凸凹がなく,いずれも高水準であり,自ら経験された症例から選ばれたことによるであろう写真も極めて適切である。これは分担執筆者が多過ぎたり,洋書の翻訳だったりする類書とは決定的に違うところである。
本書は総論に約100頁,臓器別の各論に約280頁をあてている。総論においては,先ず概念を簡潔に示し,次いで実際的な説明に移り,病気の成り立ちや種類を理解するために必要な事項を分かりやすくかつ正確に説明している。これらの記述は,医学生だけではなく,若手病理医や一般医師の知識の再確認のためにも役立つと思われる。理解が進みやすいように模式図もしばしば用いられている。各論においては,まず疾患概念を示し,ついで「病理診断のポイント」として重要な所見を箇条書きに挙げている。写真は110mm×73mmの大きさを基本としているので,十分な大きさで見やすい。適当に余白がとってあるので,書き込みができるということも便利である。「基本構造のチェック」という頁を設けていることも親切で手が行き届いている。
本書は,既刊の『コンパクト病理シリーズ 病理アトラス』の総論,各論1,各論2の3分冊を1冊にまとめ,再構成したものであるという。『コンパクト病理シリーズ 病理アトラス』はやや値段がはるという難点があったが,今回はそれも解消されている。医学生,研修医,若手病理医たちが病理標本を鏡検する際の座右の書として推薦したい。
臨床医も知るべき疾患の病理組織学的裏付け
書評者: 町並 陸生 (東大名誉教授・河北総合病院病理部長)
医科大学あるいは研究所で第一線の病理医・病理学研究者として活躍する方々が自身で撮影した美しい病理組織のカラー写真が,本文383頁の本に613枚と極めて多数収録されている。ここに著者らの考えが如実に現れていると思われる。病理組織学的所見をいくら事細かく文章で表現しても,絶対に真実を正しく表現することができないという考えがわれわれ病理医・病理学者にはある。講義あるいはCPCにはなるべく多くの病理組織像を提示し,できるだけ少ない言葉で説明するのが正しいやり方であると私は考える。口数ばかり多くて実際の肉眼像や病理組織像の少ない発表は信用するわけにはいかない。本書を読むと,できるだけ具体的な病理組織カラー写真を多くし,必要にして十分な最小限の文章を加えた本にしたいと,著者らが病理組織カラーアトラスの理想像を追及する情熱が感じられる。もしかしたら著者らは私の考えそのものを具体化してくれたのではないかとの錯覚に陥る。
医学・医療は日進月歩であり,最近の画像診断の進歩に目を見張るものがあるが,画像診断は統計学をベースにした診断であって,病気の本当の診断ではない。画像は病気そのものをみているのではなく,病気の影を見ているにすぎない。“このような影を示す病変は何パーセントの確率でこういう病気が考えられる”というのが画像診断である。世の中で大家と称される臨床医の中に,最近は画像診断が進歩したので病理解剖を行う必要はなくなった,との考えを持つ人が少なくないのに驚かされる。このような臨床医の診療を受ける患者のことを思うと,怒りよりも悲しみを覚える。画像診断の発達により,複雑多岐にわたる人間の病気にはしっかりした病理組織学的裏付けがあることを最近の臨床医は忘れがちで,それが誤診のもとになっているのではないかと私は大いに危惧している。病理診断を行う病理医の務めは出来るだけ多数の病理組織標本を診て,臨床医の常識を打ち破る例外を見つけることであると私は考えている。
最近,宇宙ステーションの写真を見て,初めてニュートンの万有引力の法則は正しかったと思った。それまではリンゴが木から落ちるのを見て,地球が引っ張っていると考えるなど,想像しがたいことであると思っていた。病理組織標本は人間の病気にとっての宇宙ステーションの写真のようなものだと思う。
序文に著者が述べているように,本書は一般の医学徒に,初心者,中堅,ベテランの方々,いずれにも有用であり,また,病理医を志す若い方々にも有用であると思われる。
基本的な病理組織像を一冊で理解できる
書評者: 羽場 礼次 (香川大附属病院 病院教授・病理学)
本書はB5版で400頁あり,全身の病変の組織像が非常によくまとめられている。内容は総論と各論に大別されているが,特に病理学で基礎となる病理総論に力が入れられているのが最大の特徴である。また全体に大きな美しいフルカラー写真で構成されており,その間でポイント,分かりやすい表やシェーマが随所に設けられているため,基本的な病理組織像をこの一冊で理解できるように仕上げられている。
前半の総論は全体の4分の1である100頁を割いて記述されている。内容的には病理学と病理診断とともに病態を代謝障害,循環障害,炎症,腫瘍,先天異常の5分野にまとめ,それぞれに見出しがつけられている。この総論には,明瞭で美しい多数の写真が配列されており,コンパクトにまとめられた概念,ポイントを読みながらその内容を理解できるよう配慮されている。また写真だけではなく表やシェーマを適宜用い,初学者にも一目でわかるように自学自習可能な工夫がなされている。
病理学にとって特に重要な炎症や腫瘍の写真,説明を多くし,日常業務で遭遇しやすい疾患を中心に重要な病気が列記されている。すべての写真が大きく鮮明であり,矢印を入れながら簡潔に説明されているため,ウイルス感染細胞,腫瘍細胞の核や細胞質,増殖形態などを視覚的に理解しやすい。この無駄のない写真と説明により,多岐にわたる総論の豊富な知識を整理しながら次の各論へ応用することが可能である。
後半の各論は,循環器,血液・造血器,呼吸器,消化管,肝・胆・膵,腎・尿路,生殖器,乳腺,内分泌,脳・神経,皮膚,骨・軟部の12分野にまとめられ,それぞれ見出しがつけられている。全体の4分の3である300頁の記載であるが,各単元の初めに臓器別の基本構造である正常像をおさえた上で,総論と同様,大きく鮮明な写真を配置しながら,重要な疾患の概念,病理診断のポイント,鑑別診断などが簡潔明瞭にまとめられている。これらの記載は,最も標準的である『日本医学会医学用語辞典(英和)第3版』および各種「癌(腫瘍)取扱い」に準拠しているため,各科の最新の医学知識を獲得しながら用語に混乱することなく学ぶことができる。以上の内容は3人という少人数の著者による執筆であるため内容や写真の質がよく保たれており,改めて先生方に敬意を表する次第である。
この『組織病理カラーアトラス』は,医学生や研修医にとって必要となる組織病理写真を1冊にまとめている。そのため読者は本書だけで基本的な組織標本の見方や考えを身につけることができ,この1冊でCBTや国試,CPCに十分対応することが可能である。また通常の授業で行われる病理学の知識の整理だけではなく,病理組織標本実習の手引書としても十分活用できる。すなわち病理学を学ぶ医学生や研修医にとって最適の参考書である。また,若手病理医や臨床検査技師,細胞検査士の方にも疾患を理解するための有用な内容がたくさん盛り込まれているため,多数の医療関係者にお薦めしたい一冊である。
書評者: 本山 悌一 (山形大教授・人体病理病態学)
病理学は,病気の原因およびその成り立ちを究めようとする学問である。医学生たちは,昔も今もそして将来もまず病理学の講義と実習を通して,多くの病気の概念とそれらの原因や成り立ちを理解するために必要な医学用語に向き合うことになる。医学用語を知り使えるようになる過程で重要なことは,できるだけ普通の人が普通に話す言葉でも説明できることを意識させるということである。これを怠ってきた医師は,真のインフォームドコンセントを患者さんから得ることなど望むべくもない。
しかし,当然のことながら,平易な言葉で述べても正確さを欠いては本末転倒になりかねない。また,大部分の病気は,必ず細胞,組織あるいは臓器の形態的変化を伴う。それらにおいては,形態が示す意味を正しく解釈することなしに病気の正確な解釈はありえない。つまり,平易な言葉を使って正確に書かれた文章と形態変化を適切に示す写真とからなる手引書は,病理学の教育にはぜひとも必要なものである。この度刊行された『組織病理カラーアトラス』は,現時点でそういった理想にもっとも近い書の1冊である。
本書は,上述したように平易な言葉で正確に書かれている上に,どこを読んでも落着いた気持ちで読むことができる。これは,経験豊富で教育熱心な病理医が3人ですべて書き上げていることが大きいであろう。3人の筆者,坂本穆彦杏林大学教授,北川昌伸東京医科歯科大学教授,菅野純国立医薬品食品衛生研究所部長は東京医科歯科大学病理学教室の同門である。十分に話し合い協力しながら作られたせいか,内容に凸凹がなく,いずれも高水準であり,自ら経験された症例から選ばれたことによるであろう写真も極めて適切である。これは分担執筆者が多過ぎたり,洋書の翻訳だったりする類書とは決定的に違うところである。
本書は総論に約100頁,臓器別の各論に約280頁をあてている。総論においては,先ず概念を簡潔に示し,次いで実際的な説明に移り,病気の成り立ちや種類を理解するために必要な事項を分かりやすくかつ正確に説明している。これらの記述は,医学生だけではなく,若手病理医や一般医師の知識の再確認のためにも役立つと思われる。理解が進みやすいように模式図もしばしば用いられている。各論においては,まず疾患概念を示し,ついで「病理診断のポイント」として重要な所見を箇条書きに挙げている。写真は110mm×73mmの大きさを基本としているので,十分な大きさで見やすい。適当に余白がとってあるので,書き込みができるということも便利である。「基本構造のチェック」という頁を設けていることも親切で手が行き届いている。
本書は,既刊の『コンパクト病理シリーズ 病理アトラス』の総論,各論1,各論2の3分冊を1冊にまとめ,再構成したものであるという。『コンパクト病理シリーズ 病理アトラス』はやや値段がはるという難点があったが,今回はそれも解消されている。医学生,研修医,若手病理医たちが病理標本を鏡検する際の座右の書として推薦したい。
臨床医も知るべき疾患の病理組織学的裏付け
書評者: 町並 陸生 (東大名誉教授・河北総合病院病理部長)
医科大学あるいは研究所で第一線の病理医・病理学研究者として活躍する方々が自身で撮影した美しい病理組織のカラー写真が,本文383頁の本に613枚と極めて多数収録されている。ここに著者らの考えが如実に現れていると思われる。病理組織学的所見をいくら事細かく文章で表現しても,絶対に真実を正しく表現することができないという考えがわれわれ病理医・病理学者にはある。講義あるいはCPCにはなるべく多くの病理組織像を提示し,できるだけ少ない言葉で説明するのが正しいやり方であると私は考える。口数ばかり多くて実際の肉眼像や病理組織像の少ない発表は信用するわけにはいかない。本書を読むと,できるだけ具体的な病理組織カラー写真を多くし,必要にして十分な最小限の文章を加えた本にしたいと,著者らが病理組織カラーアトラスの理想像を追及する情熱が感じられる。もしかしたら著者らは私の考えそのものを具体化してくれたのではないかとの錯覚に陥る。
医学・医療は日進月歩であり,最近の画像診断の進歩に目を見張るものがあるが,画像診断は統計学をベースにした診断であって,病気の本当の診断ではない。画像は病気そのものをみているのではなく,病気の影を見ているにすぎない。“このような影を示す病変は何パーセントの確率でこういう病気が考えられる”というのが画像診断である。世の中で大家と称される臨床医の中に,最近は画像診断が進歩したので病理解剖を行う必要はなくなった,との考えを持つ人が少なくないのに驚かされる。このような臨床医の診療を受ける患者のことを思うと,怒りよりも悲しみを覚える。画像診断の発達により,複雑多岐にわたる人間の病気にはしっかりした病理組織学的裏付けがあることを最近の臨床医は忘れがちで,それが誤診のもとになっているのではないかと私は大いに危惧している。病理診断を行う病理医の務めは出来るだけ多数の病理組織標本を診て,臨床医の常識を打ち破る例外を見つけることであると私は考えている。
最近,宇宙ステーションの写真を見て,初めてニュートンの万有引力の法則は正しかったと思った。それまではリンゴが木から落ちるのを見て,地球が引っ張っていると考えるなど,想像しがたいことであると思っていた。病理組織標本は人間の病気にとっての宇宙ステーションの写真のようなものだと思う。
序文に著者が述べているように,本書は一般の医学徒に,初心者,中堅,ベテランの方々,いずれにも有用であり,また,病理医を志す若い方々にも有用であると思われる。
基本的な病理組織像を一冊で理解できる
書評者: 羽場 礼次 (香川大附属病院 病院教授・病理学)
本書はB5版で400頁あり,全身の病変の組織像が非常によくまとめられている。内容は総論と各論に大別されているが,特に病理学で基礎となる病理総論に力が入れられているのが最大の特徴である。また全体に大きな美しいフルカラー写真で構成されており,その間でポイント,分かりやすい表やシェーマが随所に設けられているため,基本的な病理組織像をこの一冊で理解できるように仕上げられている。
前半の総論は全体の4分の1である100頁を割いて記述されている。内容的には病理学と病理診断とともに病態を代謝障害,循環障害,炎症,腫瘍,先天異常の5分野にまとめ,それぞれに見出しがつけられている。この総論には,明瞭で美しい多数の写真が配列されており,コンパクトにまとめられた概念,ポイントを読みながらその内容を理解できるよう配慮されている。また写真だけではなく表やシェーマを適宜用い,初学者にも一目でわかるように自学自習可能な工夫がなされている。
病理学にとって特に重要な炎症や腫瘍の写真,説明を多くし,日常業務で遭遇しやすい疾患を中心に重要な病気が列記されている。すべての写真が大きく鮮明であり,矢印を入れながら簡潔に説明されているため,ウイルス感染細胞,腫瘍細胞の核や細胞質,増殖形態などを視覚的に理解しやすい。この無駄のない写真と説明により,多岐にわたる総論の豊富な知識を整理しながら次の各論へ応用することが可能である。
後半の各論は,循環器,血液・造血器,呼吸器,消化管,肝・胆・膵,腎・尿路,生殖器,乳腺,内分泌,脳・神経,皮膚,骨・軟部の12分野にまとめられ,それぞれ見出しがつけられている。全体の4分の3である300頁の記載であるが,各単元の初めに臓器別の基本構造である正常像をおさえた上で,総論と同様,大きく鮮明な写真を配置しながら,重要な疾患の概念,病理診断のポイント,鑑別診断などが簡潔明瞭にまとめられている。これらの記載は,最も標準的である『日本医学会医学用語辞典(英和)第3版』および各種「癌(腫瘍)取扱い」に準拠しているため,各科の最新の医学知識を獲得しながら用語に混乱することなく学ぶことができる。以上の内容は3人という少人数の著者による執筆であるため内容や写真の質がよく保たれており,改めて先生方に敬意を表する次第である。
この『組織病理カラーアトラス』は,医学生や研修医にとって必要となる組織病理写真を1冊にまとめている。そのため読者は本書だけで基本的な組織標本の見方や考えを身につけることができ,この1冊でCBTや国試,CPCに十分対応することが可能である。また通常の授業で行われる病理学の知識の整理だけではなく,病理組織標本実習の手引書としても十分活用できる。すなわち病理学を学ぶ医学生や研修医にとって最適の参考書である。また,若手病理医や臨床検査技師,細胞検査士の方にも疾患を理解するための有用な内容がたくさん盛り込まれているため,多数の医療関係者にお薦めしたい一冊である。
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