周術期の臨床判断を磨く
手術侵襲と生体反応から導く看護

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術後何時間で体液量はどう変化するのか、手術によって呼吸器系・消化器系はどのような影響を受けるのか、創傷はどのような治癒経過をたどるのか、といったことを解説。それらに対するケアについて看護診断とともに説明している。さらに疼痛やせん妄、心理面に対するケアについても述べている。 ※2012年12月1日発行の第6刷より、『NANDA-I看護診断 定義と分類 2012‐2014』 にそって看護診断の定義等を更新いたしました。

鎌倉 やよい / 深田 順子
発行 2008年04月判型:B5頁:176
ISBN 978-4-260-00570-8
定価 3,080円 (本体2,800円+税)
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はじめに

 法律上,看護師の業務は,療養上の世話と診療の補助であると規定され,看護学は生活の援助を看護の独自の機能と位置づけてきた歴史があります。しかし今日,入浴,排泄,食事など日常生活の援助を担う専門職として介護福祉士が誕生しました。一方,診療の補助として委任される医療行為については,医師の指示があったとしても,実施者責任が強く求められるようになってきました。看護を取り巻く環境は大きく変貌しています。
 このような視点で臨床を眺めると,看護師は医療の知識と技術を駆使して患者の生活を援助しているのであり,看護師にとって,医療行為と生活の援助は分離できないものになってきました。周術期の看護では,安全・安楽な術後経過であるかを判断する能力,適切に対処する能力が求められ,これらをとおして術後患者の生活を援助することになります。看護師は,経時的に患者の状態を観察し,身体内部の変化を推測しますが,その結果に基づき最良のケアを提供しなければなりません。その1つひとつが判断の連続です。この臨床判断能力を育成することが重要であり,課題です。
 周術期の臨床判断は,事実に基づく推論であり,患者を観察した結果と看護師自身の知識とを照合して,患者の状態を表す可能性を仮説として導きます。その枠組みを用いて,再度観察して情報を確認し,最も確率が高い仮説を採択して,他を棄却するプロセスで判断がなされます。患者を観察した結果から,その事実が示す可能性の全てを仮説として導き出すことができるかが重要です。
 周術期の臨床判断能力を育成するためには,手術というストレスに対する恒常性を維持する反応を理解し,観察する枠組みをもつことが必要です。従来,疾患別,術式別に周術期の看護が論じられてきましたが,本書は手術侵襲によって引き起こされる生体反応を軸とした構成です。手術侵襲によって,循環器系,呼吸器系,消化器系などが必然的にどのように影響を受けて変化するのか,それらをどのように判断して周術期の看護を導くかを述べていきます。つまり,手術侵襲による生体反応を共通の変化として記述し,そこへ患者の性,年齢,基礎疾患,術式などの個別の条件を重ねて判断していく考え方を示します。さらに,手術というストレスは様々な心理的反応を引き起こします。これらをストレス理論に基づき述べていきます。
 各章は「手術侵襲の影響を知る」「援助を組み立てる」から構成しました。「手術侵襲の影響を知る」では術後管理に必要となる基礎的な知識を中心に示しました。「援助を組み立てる」では,基礎知識を生かして臨床で実際的に応用できるように,事例を示して看護計画を示しました。本書が,周術期における臨床判断能力の向上に資することを願っています。
 本書は,愛知県立看護大学での講義を「周手術期の臨床看護判断を磨く」として,2006年4月から1年間『看護学雑誌』に連載し,それに基づき完成いたしました。連載時には医学書院編集者の高須佳子様と鶴淵友子様に,本書の完成には藤居尚子様にご支援をいただきました。また,愛知県立看護大学学生の皆様には,講義資料に対する有益な質問をいただきました。この場を借りて深謝申し上げます。

 2008年3月
 鎌倉やよい
 深田 順子

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第1章 手術侵襲と生体反応
第2章 循環器系への影響と看護
 A 手術侵襲の影響を知る
 B 循環器系への援助を組み立てる
第3章 呼吸器系への影響と看護
 A 手術侵襲の影響を知る
 B 呼吸器系への援助を組み立てる
第4章 消化器系への影響と看護
 A 手術侵襲の影響を知る
 B 消化器系への援助を組み立てる
第5章 創傷治癒の過程と看護
 A 手術侵襲の影響を知る
 B 創傷治癒への援助を組み立てる
第6章 術後の急性疼痛と看護
 A 手術侵襲の影響を知る
 B 術後疼痛への援助を組み立てる
第7章 術後せん妄と看護
 A 手術侵襲の影響を知る
 B 術後の変化を踏まえて看護を組み立てる
第8章 手術侵襲と心理的反応
 A 手術侵襲の影響を知る
 B 術前指導プログラムの援助を組み立てる
第9章 手術中の援助を組み立てる
索引

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周術期の患者の深い理解に基づいた看護を導く好著
書評者:市村 久美子(茨城県立医療大教授・成人看護学)

 周術期の看護実習を行っている学生からよく聞かれることは「患者さんの経過が早すぎてついていけない」といったことです。術後数日間、何をどのように看護していくのか? 何のために行われている処置なのか? などなど疑問が頭のなかを渦巻き、混乱の極みに陥っています。このような学生の多くはリアリティショックもありますが、今まで学習してきた内容、特に人体の構造や機能、疾患の知識などが整理整頓されないままにきているのではないかと感じています。周術期看護はさまざまな基礎知識を統合しながら展開していくわけですので、講義を行う自分自身もどのように授業を組み立てていくべきか苦慮していました。そんなときに、目に留まったのが看護学雑誌に連載されていた本書の内容でした。周術期看護の難しさ(面白さ)は、生体に起こっていることへの仮説をどれだけ的確に立てることができ、対応することができるかです。その仮説を立てるうえでの根拠となる盛りだくさんの内容が整理されており、その生体の変化と看護との関連がきちんと書かれていることに魅力を感じて、早速活用させてもらいました。そして、今回このような著書としてより充実した内容になって再デビュ-したことをたいへん嬉しく思っています。

 本書は1章ではどのような手術でも起こりうる生体反応の総論、2章から8章は手術により影響をうける循環器や呼吸器といった主要器官や創傷や痛みなどの術後の症候や心理的反応の項目となり、各章が「A 手術侵襲の影響を知る」と「B 援助を組み立てる」から構成されています。例えば、「呼吸器系への影響と看護」の項では、全身麻酔による影響が大きいため、麻酔の何がどのように呼吸器系に影響するのかを図式化し、なぜ無気肺や気管支肺炎を起こしやすいのかそのメカニズムを導いています。そして、個別情報として開腹術と開胸術といった手術部位による呼吸器への影響などを図示し、援助の組み立てとしては、事例から年齢や呼吸機能、喫煙歴、肥満といった個人情報や手術内容などから具体的な周術期(術前、術中、術後)の看護計画を立案する流れとなっています。従来の疾患や術式を章立てしているテキストとは切り口が違う点がユニ-クであり、かつ実践的です。さらに9章では手術中に起こりやすい問題とその援助についてもわかりやすく解説されています。また、各章には、「呼吸に関する記号」、「横隔膜の位置と働き」といった内容の「コラム」の項があることによりさらに興味関心を駆り立てています。

 急性期看護の臨床経験と長年の教育経験や研究実績のある著者が生み出した本書は、臨床で周術期看護に携わる人々には臨床判断の根拠の再確認となり、これから周術期看護を学ぶ方々には、まさに周術期の患者の深い理解に基づいた看護を導く好著となるはずです。

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本書の記述の正確性につきましては最善の努力を払っておりますが、この度弊社の責任におきまして、下記のような誤りがございました。お詫び申し上げますとともに訂正させていただきます。

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