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学生のための
ヒヤリ・ハットに学ぶ看護技術

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患者さんが車椅子から転落! 点滴チューブが抜けている! 実習では、ヒヤリ・ハットの危険がいっぱい。全国の看護学生の調査から明らかになった、よくあるヒヤリ・ハット事例をマンガで紹介。ヒヤリ・ハットが起こりやすい要因や背景をチェックしながら、予防策と対処法をイラストで楽しく学ぼう。
監修 川島 みどり
発行 2007年12月判型:B5頁:152
ISBN 978-4-260-00484-8
定価 2,640円 (本体2,400円+税)

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はじめに
川島みどり

 みなさんたちの臨床での看護学実習は,教室では体験することのできないリアルな状況の中で,文字通り生きた学習ができる場です。モデル人形ではなく,同級生の模擬患者でもない,本当の患者さんを受け持たせていただいて,教室で学んだ知識に実習室での演習を重ねて必要なケアを提供します。緊張で頭の中が真っ白というのも当然でしょう。

 患者さんの声に耳をすまし,教えられた手順通りのやり方をしようとしたのにうまくいかず,ヒヤリとしたりドキッとすることも1度ならずあるのではないでしょうか。実は,実習に同行する教師たちもまた,そうした場面に出合うたびに,学生と同様にヒヤリ・ハットを体験しています。そして,「どうすれば学生たちは,安全で確かな技術の習得ができようになるだろうか」と考えるのです。

 本書の著者たちは,こうした問題意識をもって集まり,実習に際しての学生たちの困惑や不安な場面を再現したり,想像しながら論議を重ねた末,具体的な実態調査を始めたのでした。調査では,全国の看護学生1,500余名の協力が得られ,興味あるデータや事例が集まりました(「厚生労働科学研究費補助金 医療安全・医療技術評価総合研究事業」による『医療・看護事故(インシデントを含む)をエビデンスにした看護技術の標準化に関する研究』)。

 その調査結果をもとにつくったテキスト案を再び学生たちに送って評価を求め,その結果を本書の制作に活かしました。ですから,本書は学生との共同作業によってできあがったものであり,このことはテキスト作成としては画期的なことといえます。

 ところで,ヒヤリ・ハットという言葉は主観的な心の動きを言い表した言葉です。誰でもヒヤリ・ハット事象は起こしたくないと考えますが,誰でも起こしがちなことも事実です。忘れてはならないことは,看護する側のヒヤリ・ハットは,患者さんに恐怖や不安を与えるもとになるということです。そして,対応を誤ったり遅れたりすると,事故につながることもあります。

 しかし,だからといってヒヤリ・ハット場面で,それを感じないことはもっと危険なことです。ヒヤリ!としたから,とっさに危険を避ける行為を考え,素早く適切な対処をして事故を防ぐわけです。もし危険なことを危険と感じなかったら,事故が起きるまで気付かず,取り返しのつかないことになってしまいます。つまり,ヒヤリとする場面でヒヤリ!とし,ハッとする場面でハッとする感性を鈍らせないことが,とても大切なのです。

 ページを開いて下されば一目瞭然ですが,本書はイラストが中心になって構成されています。4人の学生のキャラクターに親しみながら,それぞれの学生のヒヤリ・ハットに自分の思いを重ねたり評価しながら,文字のない部分でも想像力を発揮して読んで下さることを期待しています。このテキストを,看護学実習の必携として活用して下さることを著者一同念じています。

 最後に,著者の意図を汲み,親しみやすいイラストを描いて下さった横谷順子さんに心から感謝し,学生の立場に立って企画から制作まできめ細やかに働いて下さった医学書院の品田暁子さん,ありがとうございました。

 2007年晩秋

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はじめに
テキスト活用法

I. 看護学実習とヒヤリ・ハット
看護学実習とヒヤリ・ハット-安全な実習のために知っておきたいこと
ヒヤリ・ハットが発生しやすい要因-受け持ち患者さんと実習環境の特性
ヒヤリ・ハットを避けるための実習の心得10カ条

II. ヒヤリ・ハット事例に学ぶ看護技術
ヒヤリ・ハットが発生しやすい看護技術項目
■体位・姿勢の保持,移動
車椅子からの転倒・転落,移送時のトラブル
歩行時のふらつき・転倒
体位・姿勢の保持におけるトラブル
■生活環境の整備
ベッド周りの環境整備に関するトラブル
ベッド周りの物品破損,医療器具の取り扱い不備によるトラブル
■保清・整容
入浴・シャワー時の転倒・転落
保清・整容時の誤嚥・溺水
保清・整容時の熱傷・創傷・粘膜損傷
医療機器を装着した人の保清時のトラブル
■食事・水分摂取
食事・水分摂取の援助時のトラブル
■注射・点滴・与薬・酸素吸入
注射・点滴・与薬・酸素吸入に関するトラブル
■観察・報告
重要所見の観察・報告・記録の誤り,忘れ
■個人情報の保護
実習記録やメモの紛失・置き忘れ
■感染予防
学生が感染源になる時,感染源(危険物)にさらされる時
■ハラスメント
暴力・ハラスメント

索引

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臨床指導者,新人看護師に各1冊必要な本! (雑誌『看護管理』より)
書評者: 吉田 澄恵 (順天堂大学医療看護学部准教授)
◆ヒヤリ・ハットから学ぶ「看護技術」の本

 本書を初めて手にしたとき,装丁と本文中のイラストとマンガの親しみやすさとそこから与えられるイメージの豊かさに,学術書ベースの医学書院の本とは思えない実用書ぶりだとびっくりした。また,最初は「ヒヤリ・ハット」に焦点を当てたガイドブックだと思ったが,本書はメインタイトル通り,ヒヤリ・ハットに学ぶ「看護技術」の本なのである。

 取り上げられているのは,「体位・姿勢の保持,移動」「生活環境の整備」「保清・整容」「食事・水分摂取」「注射・点滴・与薬・酸素吸入」「観察・報告」「個人情報の保護」「感染予防」「ハラスメント」という9カテゴリ15項目であるが,それらは看護学生への調査結果にもとづいて選定されている。

 そして各項目ごとにヒヤリ・ハットの実例がイラスト付きで紹介され,ストーリー性のあるマンガとして「よくある事例」がきちんと描かれている。加えて,自分の担当患者と自分自身にそのヒヤリ・ハットが起きるリスクがあるかどうかをチェックする項目がついている。そのうえで,関連する基礎知識や予防策がきちんとまとめられ,ヒヤリ・ハットに遭遇した場合に先輩ナースや指導者ならどう考えどう行動するかについての助言もある。さらには自己学習のための課題と回答例までついている。

 1つひとつにエビデンスがあり知識を確かめさせるという懇切丁寧さであり,長年にわたり臨床と研究をリンケージしたガイドブックを生み出してきた川島みどり氏の監修にうなずくばかりである。

◆知識と臨床を統合し復習するために

 本書でイラストとマンガを描いている横谷順子氏とは縁合って交流があるのだが,彼女は,たびたび臨床看護の現実の取材にもとづいたマンガを描いている。今回も,1つひとつの描画から,世界に誇る日本の漫画文化を支える漫画家の実力を感じとらずにはいられない。これなら,まだほとんどヒヤリ・ハットを経験したことのない学生ばかりでなく,就職を間近に控えた学生,日々びくびくしながら現場に臨む新人看護師にとって,看護技術を,多彩な病態をもち多様な治療・処置を受けている患者への具体的な臨床場面に引きつけて,統合し復習する最高のガイドブックになるだろう。

 ただし,本書を低学年の看護学生が用いる場合には,患者の病態や治療と看護技術をまだうまく統合できないことをふまえて,それを補うための解説が別に必要であろう。そこが,従来の基礎教育における看護技術書と異なる優れた特徴であるとともに,弱点といえるかもしれない。

 本書の構成は,日頃の臨床実習で学生自身が問題意識や関心をもった事象を取り上げて,その事象と関連する既存の知識と結びつけ,看護学の実践力を向上させていくという,帰納的な学習の実例ともいえる。ヒヤリ・ハットに限らず,このような構成をもつ実習のための自己学習ガイドブックもあればよいのにと思う。

 だからこそ,学生や新人の気づきを大事にして指導するための実力をつける必要のある臨床指導者に各1冊,自分なりに事故防止を心がけて看護技術を復習する責務がある新人看護師に各1冊は必要だと思う本である。

(『看護管理』2009年1月号掲載)
こんな本が欲しかった!
書評者: 林 千冬 (神戸市看護大学副学長)
本書は,看護技術教育の第一人者である川島みどり氏らが,学生1500余名を対象に実施した調査から得られたヒヤリ・ハット体験の分析をもとに,技術項目別にヒヤリ・ハットの内容やその防止策を解説したものである。学生の安全な技術・技能の習得を目的に編まれたテキストであるが,ヒヤリ・ハットすなわち失敗に学ぶという観点から展開されているために,単なるノウハウ本ではなく,学生のリスク感受性やリスク認知能力そのものの育成に大いに役立つものとなっている。

ページを開けば一目瞭然,本書の特徴は,記述の大部分に漫画家・横谷順子氏の漫画が駆使されている点にある。漫画だからといって“幼稚”だなどと思うなかれ。漫画表現の大きな利点は,ヒヤリ・ハットの複雑な発生状況が視覚的に捉えられ,多角的かつ総合的な見方・考え方が促される点にある。ヒヤリ・ハットという深刻な事例も,温かみのある漫画描写ならば,読む側の学生の心理的負担が多少なりとも軽減されると思われる。これらを可能にした,豊かで正確な横谷氏の表現力に心からの謝意を表すると同時に,やや大げさだが日本文化が誇る漫画の力を,大胆に採用した著者らと編集者の革新性に拍手を送りたい。

章立ては,総論と各論というシンプルな二部構成である。各論では,代表的な「よくある事例」にもとづき解決の方向性が説明され,「課題」となる別の事例を題材に正しい対応と誤った対応の両方が紹介される。さらに,ヒヤリ・ハット発生時の受け止め方や対処方法も具体的に解説されている。

加えて,ヒヤリ・ハットに至る学生の心理にも十分な配慮が尽くされている。とかく萎縮してしまいがちな学生の心理を汲み取り,「できません そのひとことが 言えなくて」というイラスト(p.10)を提示しつつ,教員や指導者とのコミュニケーションの重要性を繰り返しアドバイスしている点。また,「もし……してしまったら」の最後に必ず「患者さんには心からお詫びの気持ちを伝えましょう」と述べられている点は,学生の責任感・倫理観を養うとともに,後悔や罪悪感に苛まれる学生への心のケア対策としても重要な配慮であろう。

本書に示された事例は,看護職者なら誰でも一度は経験したことがあるだろう。評者自身,かつての自分の姿が蘇り,時に赤面しながら読み進めた。と同時に,こうした経験を真正面から捉え,後輩たちに同じ思いをさせずにすむような指導や対策に,これまで十分生かせてきたとはいえない苦い事実も思い知らされた。教育関係者にとって本書は,学生のヒヤリ・ハットをとおして,いかに教育内容と実習環境の充実を図るべきかを,具体的に教えてくれる有効な指標ともなるのである。本書が,多くの方々に活用されることを願ってやまない。

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